勧誘
俺たちは食堂で昼食を済ませつつ、歓談していた。
「エーファ様はこれからどのような学問に重きを入れるのですか?」
「私はやっぱり法学や政治学かしら……。リヒトは?」
「俺は実践ですかね……。魔法学がやりたいです。ディアに付いて行くことも視野に入れるなら、俺に足りないものは実践くらいしか浮かばなくて」
「そうね。それ以外はディアナよりは勝っているものね」
「妹に負けるような兄にはなりたくないので」
エーファ様との談笑は楽しい。きちんと目を見て話してくれるところや相槌を打ってくれるところとかが話しやすくて助かる。俺の目つきが悪いから、終始目を合わせてくれる人は限られていた。レオン様、ロアナ様、エーファ様、アークさんにノアさんくらいだった。他はどうしても途中で逸らされてしまうので、話しづらく、途中からはそこまで話さなくなっていった人も少なくなかった。だから、エーファ様と一緒のクラスというのはとても心強く、俺の悪癖の改善にも丁度よかった。
「この席使ってもいいか?」
徐に声をかけられたので、顔を上げると向かいに見知らぬ男子生徒がいた。
「ええ、勿論ですわ。お好きにお使いください」
食堂の机は大机で、一つに八人ほどは座れるだろう。その片側に隣り合うようにして俺たちは座っているのだから、当然隣二つと前四つの席は空いている。俺たちはここに来るのが早かったので何処も空いていたが、今は少しずつ席が埋まり始め、ここも例外ではなかった。
なのでエーファ様はそう言った。
「助かる。俺はリチャード・エドワード。二年生だ。見たところ君たちは一年生だろ。入学おめでとう」
「ありがとうございます。私はエーファ・ベイリー。こちらは私の専属執事である、リヒト・ホールですわ」
ただ軽くお辞儀をするのみで、彼を観察する。
リチャードといった生徒は多分攻略対象だろう。やりこんだ訳ではないので断言できないが、アニメに似たような外見と声の生徒がいたはず。
もう俺自身、誰が攻略対象かよくわかっていないんだ。イケメンは全員攻略対象という風に思いたいのは山々なのだが、この国は顔面偏差値が極端に高いのでモブらしき人もかっこいいか可愛いという、俺にとっては最悪の状況。甘んじて受け入れる外ない。
「俺のことは気軽にリチャード先輩って呼んでくれたらいいよ。というか俺がそう呼んでほしい」
「ええ、ではそう呼ばせていただきますね。私のことも気軽に読んでいただけると嬉しいですわ」
「そう? じゃあ、エーファちゃんって呼ばせてもらうよ。じゃあ君は、リヒト君って呼ばせてもらうけどいいかな?」
「あぁ、構わない」
うん、上級生でも口調は変わらないのね。
リチャード先輩もぽかんとしている。これは入学早々やらかしたかもしれない。
「……やっぱり俺、リヒトって呼びたい。いいでしょ?」
「好きなように呼べばいい」
「うん、リヒト。改めてよろしくね。君とは仲良くできそう」
なぜか気に入られてしまった。
金色の髪を揺らしながら、目を細め満面の笑みでそういわれては拒む術もない。俺はリチャード先輩に気に入られたようだ。
「リヒトとエーファちゃんはこの後することとかあるの?」
「いえ、特にはないですわ。のんびり散策でもしようかと思っていたところでしたの」
「そうなの……。二人とも部活動には興味ない? よかったら、俺の所属するところにおいでよ。歓迎するよ」
思わぬ言葉にエーファ様と顔を合わせる。
「ああ、活動は放課後だから案内もその時になるけど、今はどんなことをしているか説明できるから、聞くだけでもどう?」
「それなら、聞いてみたいですわね。ねえ、リヒト」
「ええ、俺も聞いてみたいです。お嬢様」
ふむ。エーファ様からの質問だから敬語なのか。制約みたいなのが多くて困ってしまう。今回はリチャード先輩が気にしない人だったから良かったものの、これがダメな人だったらと思うと悪寒がする。
「じゃあ、説明するよ。俺の所属している部活は、魔道具研究部。その名の通り、魔道具の研究をしているよ。他にも魔法そのものの研究も少しはしている。魔法研究部の足元にも及ばないけどね」
両手を上げ、降参のポーズでお茶目に言葉を紡いでいる。内容も聞きやすく、わかりやすい。聞き取りやすい間で、声で話してくれ、警戒心が薄れていく。
「最近は日常を便利にする魔道具の新作や改善をしている。例えば、明かりの自動点火や消灯。その他にも、無詠唱魔法の媒介を作ったりね。やっている場所は研究棟二階。案内も可能だから、来たときは俺の名前を出して。そしたら俺が懇切丁寧に説明してあげるからさ」
「助かりますわ。リヒトはどう? 興味はある?」
「魔道具か……。あまり馴染みがないから、詳しく見てみたいとは思っていました」
「興味あるってことだよね? じゃあ、放課後を楽しみにしてて。最高に楽しい時間にしてあげるからさ」
そう言い残すと同級生から声をかけられたからか、手を振りつつ離れていった。しっかり昼食も完食している。
その後、俺たちは残った昼餉を食べ終えると研究棟の下見に行き、そのまま教室に戻った。道中、エーファ様が目立って仕方なかったが、誰一人として近づいてくることはなかった。