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始まりの日(修正済み、内容変更なし)

悪役補正のかかった主人公が好きなんです。

似たような作品があれば、読みたいです……!


すみません、二話の内容まで入れてました。修正済みです(22.05.29)

ご指摘ありがとうございます。助かりました(-_-;)

「おはようございます、お嬢様。本日の紅茶はローズマリーティでごさいます」


 淡々と仕事をこなしていく。

 俺はリヒト・ホールというお嬢様専属になる予定の見習い執事。今年で12歳になる。


「おはようございます。リヒトは今日もお早いですね」


 彼女が俺の仕えるお嬢様。エーファ・ベイリー様だ。彼女も俺と同い年で12歳。明るい夜空のような髪は胸元まであり、今はおろされている。そして彼女の瞳は黄色。その明るく澄んでいる様は夜空に浮かぶ星のように綺麗である。

 彼女が微笑みを浮かべれば、その笑みに魅了されないものはいないとさえ言われているほどに、エーファ様は眉目秀麗だ。それだけでなく優しさもある。頭脳も明晰で、もうすぐ入学予定の学校で学ぶことはもうないとまで噂されるほどでいらっしゃる。

 見目麗しく、聡明でいらっしゃるお嬢様の家の執事になったのはかれこれ一年と半年ほど前である。


 肌寒い日であった。夏も終わり、冬に向かっていく時季であり、皆一様に冬支度の準備に勤しむ季節。日も暮れ、皆は家に帰るところなのだろう。目の前を人が忙しなく行き交っている。

 俺はというと浮浪児だったので、冬支度ができるほどの貯えもなく、ただ街の縁石に座っているだけだった。この街の浮浪児は俺と妹と後は数人だけ。妹は隣で俺の服の裾を掴んで座している。その他の者たちは、暇なので森の方に散策にでも行っているのであろう。

 この街のものは皆、優しくこんな俺にも食べ物をたまにだが分けてくれる。使わなくなったものがあれば譲ってくれる。俺たち浮浪児を街の皆で育てているという表現が妥当なようだ。孤児院というものがないので仕方がないが、俺はこの生活に満足はしていないものの不自由はあまりしていなかった。

 不意に妹が袖をくいっと引く。妹はディアナと言い、いつも服を引っ張る癖は俺を呼ぶときに発動される。今回も声をかける前に袖を引かれ、何ともなしに視線を向けると話し始める。


「お兄ちゃん、ゆーおばさんが手招きしてるよ」

「あぁ、行ってこい」

 興味が持てなかったので、視線を正面に戻す。ディアには悪いが一人で行ってもらおうと返事をしたのだが、ディアは俺の裾を掴む手を離さない。

 横目でディアの方を見ると、ディアは恐る恐るといった感じで窺い見るように口を開く。

「……お兄ちゃんも一緒に行こう」

「何故?」


 ただ単純に思っただけだ。何故俺も行かなければならないのか。関心がなかったらそれまでという性格をしている俺は、ディアでさえ血縁関係でなければこうして会話していない。

 他の浮浪児からは薄情者と言われるが、だからなんだというのが正直な感想である。


「お兄ちゃんと一緒に行きたいから……」


 桃色の瞳を揺らしながらディアは答える。

 普通ならそんな風に訴えるディアを可愛いと愛おしいと思うのだろうが、生憎俺にそんな感情はないようだ。何とも思わない。だが俺とて鬼ではない。一般的な兄妹は妹に甘いらしいので、ここは折れて付いて行くことにした。


「そうか。わかった」

「あ、ありがとう。お兄ちゃん」


 不安そうな表情から一転して安堵と喜びがにじみ出ている。今にも飛び跳ねそうだ。

 飛び跳ねれば、鬱陶しくなって俺の気が変わるかもしれないことを知っているディアは決して飛んだりはしないが。

 ディアの言う、ゆーおばさんとは俺たちがたむろしている広場の近くに住んでいる女性で、ユーリという名だからゆーおばさんだそうだ。結婚して離れて暮らす息子夫婦に会えなくて寂しさを俺たちの世話で解消している人だ。いつも何かしらのお菓子ないし食事をくれる。

 俺はむやみやたらと構われるのが嫌だから、家の前で待つ。

 ユーリは子供好きらしく、よく俺たちの前に現れる。そして施しをしていく。それ自体に文句はないし、俺とて感謝がないわけでもない。だがしかし、前に一度、顔を触れられてからは二度と近づかないと決めた。

 あの時はディアが袖をつかんでいたから近くにいただけなのだが、それだけでも懐いた判定になるようで、俺のあまり動かない表情筋が心配だからと唐突に何の許可もなく俺の頬を持ち上げたのだ。

 虫唾が走った。

 他人に触れられることがこの上なく嫌。ディアも例外ではない。だから彼女は俺の服を掴むのだ。俺が極端に嫌がることを知っているから。俺に触れる機会があっても許可を取ることを先ずする。

 油断していたとはいえ、あの日は全身の毛が逆立ったようにも感じられた。真っ先に手を叩き落としたが、それでもこの気持ち悪さは軽減されなかった。


「あぁ……嫌なこと思い出した。最悪だ」


 思い出すだけで悪寒が走る。

 吹っ切れようと頭を振る。ため息もついてしまう。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 いつの間に戻っていたのか、頭を上げた眼前にディアが立っていた。手にはパイを持っている。

 その視線に気づいたのか、ディアはパイを掲げるようにして話す。


「あ、これはねミートパイだって。一人じゃ食べきれないからって」

「そうか。よかったな」


 俺が他人行儀になってしまうのはデフォルトなので、ディアも気にせず話を続ける。俺も悪いと思ったことは一度もないので改善するつもりもない。


「うん。お兄ちゃんも戻ったら食べようね」


 無言を肯定にとらえたようで、皿を大事そうに両手で抱え直すと来た道を戻っていく。

 俺もそれに付いて行く。

 何もない日常はそのまま終わるかに思えた。

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