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8 イエスを監視する計画

「……今回の奴隷商館襲撃事件については以上の通りです」

「なるほど、ご苦労だった」


 町の騎士団駐屯所、そこの執務室でベルナデットは今回の一件の顛末を話していた。


 その向かいには、彼女の直属の上司である騎士団長のクロードが椅子に着いていた。クロードはベルナデットの話を聞き、調書を取っている。


 この国において騎士団は行政と司法を担う期間であり、その長であるクロードは実質上の町長である。 

 クロードは最高責任者として、事件の後処理と王国本部への報告を行っていたのだった。


「しかし、仮にも死人も出た大事件だというのに、首謀者すらも賠償だけで放免とはいかがなものでしょうか?」

「あの男がそうしろと言ったのだ。仕方あるまい」


 クロードはカイゼルひげの先をせわしなくいじりながら言った。今回の一件、実績豊富なクロードとい

えど悩ましく思う要因が案外に少なくなかった。


「ナザレのイエス、ですか?」

「そう。君の友達の、な」

「べっ、別に友達という訳では……」

「まぁ、それは良い。問題なのはあの男の影響力だ」


 クロードは書類の山に目を通す。そこにはメルグの町の住民たちの行動の記録が細かに記されていた。


「獣人共の襲撃から三日ばかり経ったが、奴の取り巻きは日に日に増えるばかりだ。随分と多くの住民が奴の話を聞きに訪れている」

「えぇ、そうですね」

「少なめに見積もっても二割以上の住民が奴の支持者になっているのだ。そんな奴の言うことを無碍にしてみろ。暴動になりかねん」


 クロードは椅子にかけ直し、話を続ける。


「まして奴は今回の事件の功労者だ。一層支持者は増えるだろうな……」

「まったく、嘆かわしい限りです」

「君、本当にそう思ってるか?」


 クロードは目を細めてベルナデットをにらむ。


「当然ですよ」

「しかし、君もしょっちゅうイエスのところに行っているだろう」

「それは集会で良からぬ企みをしていないか見張っているのです」

「事件当日もわざわざ端の広場まで警告しに行っていたしな。あそこにいたのは下層の市民ばかりだったというのに」

「市民であれば全員救うべきでしょう」

「食べ物も買い与えていたみたいだし……」

「それはしたくてしたのではありません!」


 ベルナデットは声を荒げる。


「ともかく、これからはイエスの動きは逐一監視しなくてはならない。ベルナデット、君にその任務を授けよう」

「私が、ですか?」

「あぁ、幸い君は奴に警戒されてない。直接話をすることもできる。うってつけだろう?」

「……承りました」

「では今日はもう結構、帰りたまえ」

「はっ。では、これで」


 ベルナデットは一礼をし、部屋を後にする。


 その背中を見送ると、クロードは姿勢を崩してくつろぐ。


 まったく、厄介な奴が現われたものだ。今のところは些細な変化に過ぎないが、いづれこのマキミリア王国の根底を変える存在になりうるかもしれない。それが良い方向になるのか、悪い方向になるのか、そんなことは知るべくもない。


 クロードはベルナデットの記録がまとめられた書類を取り出し、読む。


 王国に仕える意志も強く、仕事もマメにこなしている。まだ若いが信頼できる騎士だ。この任務もしっかりとこなしてくれることだろう。


「ミイラ取りがミイラに……、いや、考えすぎか」


 クロードは誰もいない執務室で、そうつぶやいた。


__________

______

___


「あっ、ベルナデットさん。お疲れ様です」


 ベルナデットが帰りの支度をする中、後輩の騎士が声をかけた。彼女よりも二、三際若い男の騎士だった。彼は体中を包帯でぐるぐる巻きにしており、動く度に痛そうにしていた。


 そうした者は今日だけでも一〇人以上は見かける。怪我をしたとういうのに勤務している彼らをベルナデットは立派に思う一方で、どこか釈然としなさを感じていた。


「お疲れ様です。……その怪我、随分と健闘したようですね」

「はい! ……しかし、獣人族の奴ら、まだ町に居座っているようですね」

「すぐに出て行かせるには数が多すぎますからね。数日はいてもらいましょう」


 ベルナデットのその言葉に、痛みで歪んでいた後輩の顔がさらに歪んだ。


「……私は、納得できません」

「納得、ですか」

「はい、抵抗を止めたとはいえ、同胞を傷つけた敵ですよ。奴らは!」


「……そうカリカリしない方が良いですよ」

「しかし!」

「ほら、『逆らわない者は味方だ』と言うでしょう」


 ベルナデットは指で天を指し、そう言った。


「へ?」


 後輩はベルナデットの態度に拍子抜けをし、素っ頓狂な声をあげる。しまった、無意識のうちにあの男の言葉で答えてしまった。これではクロードに『イエスのもとに行き過ぎだ』と言われても仕方の無いことではないか。ベルナデットはそれを気まずく思い、そそくさと駐屯所を出ようと立ち上がる。


「では、私はこれで……」

「はっ! ……ちなみに、この後はどう過ごされるのですか?」

「あぁ、ちょっとしたパーティに呼ばれているんです。面倒ですけどね」


 ベルナデットは右手を小さく振り、去って行った。

【お願い】

もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!

そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!

バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!

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