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5 貴族と乞食の例え

「リルに呼ばれて来たが、何だアイツは……?」

「イエスとか言う、神の使いなんだとよ」

「神~? そんなのでまかせに決まっているだろ」

「だが、リルの妹の病気を触っただけで治したらしいぞ」

「ケッ。そんなスバラシイお方が俺たちに何のようなのかねぇ……」


 数十分後、イエスの周りにはアーチ状に二十人ほどの聴衆が集まった。彼らのほとんどは、リルによって集められた、貧民街の住民であった。


 『神の子が皆に話をしたがっている』と言うリルの言葉を疑いつつも、聴衆はイエスが話しだすのを待って地面に腰掛ける。


 イエスはおおよそ集まったのを確認すると、あぐらを組み直して話し始めた。


「ハハハ、オメェらそんな固くなるなよな。話づれぇ」


 イエスは頭をかき、苦笑いする。


「俺さぁ、つい最近この国に来たんだよな。だから色々物珍しくてよ。露天市には行ってみたんだが、他に見るべきところはねぇかな?」


 聴衆は答えない。まだイエスという男を掴み切れていなかったからだ。


「あっ、そこにいるのは騎士のベルナデット、俺の隣人(ダチ)だ。良い奴だぜ。俺に食い物をくれる」

「私は貴方の飼い主じゃありません!」


 聴衆の後ろでイエスを見ていたベルナデットは高い声でつっこむ。


 聴衆たちは驚いた。神の使いを名乗る男が思ったよりフランクで、馴染みやすい俗っぽさがあったからであった。てっきり青白い顔で、聖職者という者は抑揚のない声で話すのではないのか。。


 何か偉そうな説教をしようというものだったらシメようとまで思っていた聴衆たちは、すっかり毒気を抜かれてしまう。


「まぁ、別に気軽な気持ちで聞いてくれりゃあ良いんだ。姿勢(カッコー)も楽にしな」

「しかし、神のお使いからお話を聞くってのに、そのような態度で良いのですか?」


 前列右端の男がイエスに対して問う。


「じゃあ一つ聞く。オメェの知っている神ってのはどんな奴だ?」

「そいつは……、その、この国の王の祖先で……、俺たちを支配する奴、いやお方です」


 男は不安げに騎士のベルナデットの方を見た。この国では王への侮辱はもちろんのこと、王の祖先とされている神への侮辱も厳罰である。滅多なことは言えない。


「そうか、つまり神のことを仕事の雇い主みてぇな厳しい奴だと思ってるわけだな」


 イエスの言葉に頷く者は少なくなかった。この貧民街の住民の多くは日雇い労働者であり、雇用者の横暴が身近であるからだ。容易にイメージができた。


「だが、そうじゃねぇ。実は神ってのは、オメェらが思っている程そんなヤな奴じゃねぇぞ」

「では、神とはどんなお方なんでしょう?」

「俺らの神は俺らをいつも見守ってくれる、いつだって救ってくれる。そんな奴だ」

「私たちを、救う……」

「そうだ、オメェら、俺の言葉を聞け。神の言葉を聞き、祈りを捧げれば俺たちは天の国に行ける。そして、そこで永遠の命を得られる」


 イエスは言葉を続ける。


「俺ァオメェらを支配するためにここに来たんじゃねぇ。神に代わって、オメェらを救うために

来たんだ!」


 イエスは明朗な声でそう言った。


「嘘をつけ!」


 その時、一人の男が立ち上がってイエスを非難した。


 男の名はゲド、彼はかつて町を警備する兵士であった。しかし怪我で足を不自由にし、はたらくこともできずに物乞いをして暮らす日を送っている。


「嘘、だと?」

「どうして神が俺たちみたいな貧民街のゴミを救うってんだ! どうせ、神が救うのは貴族や聖職者だけだ! 救いだ何だって、都合の良いことを言うんじゃねぇぞ!」


 ゲドはおぼつかない足でイエスの目前まで迫り、脅しかける。


 しかし、イエスは立ち上がると、むしろさらに一歩ゲドに歩み寄り抱きしめた。


「分かるぜ……。何だかんだ言ったって、得をするのは一部の奴らだけだって思うよな」

「うっ、うるせぇ!」


 ゲドはイエスを突き飛ばそうとするが、むしろ自分が尻餅をついてしまった。


「オメェも苦労が絶えねぇな。明日の飯を食うために、偉い奴らにも、そうでもねぇ奴らにも頭を下げる(ペコペコする)毎日だ。……つれぇよな」

「……あぁ、そのとおりだ。俺のような浮浪者はそうでもしなければ生きていけないからな」


 ゲドは情けなく肩を落として言う。


「だが、そんなオメェを、オメェだからこそ神は救う。『神の国では偉ぶる者が低くされ、へりくだる者が高くされる』だ」

「そんな、俺は乞食だぜ? この国で最下層に住む……、誰もが鼻をつまむ! なのに、神が救う訳が!」

「救う!」


 イエスはひときわ大きな声を発した。


 辺りが静まり、多くの目線が彼に集まる。イエスはなるべく多くの者が話を聞きやすいように位置を変え、再び話し始める。


「……こんな話がある。『二人の人間が神に祈りを捧げた。一人はその町を治める貴族、もう一人は乞食だった。貴族は心の中で、自分は他の人のように罪を犯さず、不正もせず、また、卑しい乞食のようなものでありませんと祈った。一方で、乞食はこう祈った』……」

「『神様、こんな私をお救いださい』と」


 照らし合わせるように、ゲドとイエスは同じ言葉を言った。


「はっきり言っておくぜ、神の祝福を受けたのは乞食の方だ! どんな人間だろうと、傲慢な人間は祝福を受けられねぇ!」


 イエスは立ち上がり叫ぶ。


「俺を信じろ! 神を信じろ! 神を信じ、悔い改めれば神の国はオメェらの元に訪れる!」

「……お、おお!」

「俺たちも神の救いを受けられるのか……」

「なんだか勇気がわいてくるぜ……!」


 イエスの熱意に押され、聴衆たちの中で賛同の声が増えてくる。


「……い、イエス!」


 ゲドがイエスに再び話しかける。


「神のために、俺たちができることを教えてくれ!」

「簡単なことだぜ。例えるなら『下着を二枚持っていれば一枚もない者に分けろ。食べ物を持っている者も同じようにしろ』ってな」


 イエスは嬉しそうに言った。


「ところで、そろそろ立てよ」

「いや、そうしたいが杖がなくては……」

「信じろ。立ってみな」


 イエスの言葉を信じ、ゲドは足に力を入れる。するとどうだろう、今までまるで木の棒のように硬直し

ていた足が思い通りに動き、立ち上がることができた。立ってからも変わらず、自身の足は頼もしげに地面の上に立っていた。


 ゲドは自身に起きた出来事に一瞬あっけにとられた後、叫んだ。


「奇跡だ!」


 聴衆は立ち上がったゲドを目の当たりにし、歓声を挙げる。この現象に驚きを見せたのはゲドのみではない。この貧民街で暮らす住民は皆、ゲドの障害について知っていたからだ。長年一人で立つこともままならなかった男が何事もなく自立できている、彼らはそこに神聖な力を感じとっていた。


「このゲドという男の罪は赦された! 足が自由になったのはその印さ!」


 イエスがゲドと肩を組み、声を張り上げた。


「うおぉ! 奇跡だ!」

「俺たちの苦しみも救ってくれ! 救世主(キリスト)!」

「俺たちを貴方の弟子にしてくれー!」


 聴衆たちは歓喜の声を上げ、立ち上がる。通常は起こりえない奇跡を体験し、聴衆たちのイエスに対する崇敬の思いは頂点に達していた。


「神の国は近づいた!」


 多くの民に揉まれる中で、イエスはそう叫んだ。


 それから聴衆たちは思い思いのままにイエスの話を聞き、罪を懺悔する。それをイエスは一度として嫌な顔をせずに、相手が理解できるまで丁寧に語り続けた。


 初めは烏合の衆同然だった彼らは今、イエスの元で深く団結し、熱を帯びた集団と化した。聴衆たちはイエスの言葉を喜び、またその存在そのものに喜んだ。



「これはまずい……」


 しかしただ一人、ベルナデットだけがこの状況を憂いていた。

【お願い】

もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!

そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!

バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] イエスのイケオジキャラが新鮮で刺さります! [一言] このイエスならダン・ブラウンも聖☆おにいさんもノリノリで読んでくれそう。
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