39 人の子
「な、何をしている! 奴を捕まえろっ!」
人混みをかき分けて逃げるベルナデットを追いかけ、衛兵たちが声をあげる。
このままイエスを逃がすようになってしまえばこの国の司法は完全に崩壊する。それに加え、イエスを救出した反乱軍がそれを大義名分に責めてくるだろう。それだけは避けなければならない。
「おろせっ! ベル、何をしやがるっ!」
「わがままは逃げ切れてから聞きます!」
大の男一人を担いでいるにも拘わらず、ベルナデットの足取りは軽く、隙間を縫うように移動していた。それに加え、紛れ込んだイエスの支持者が知らないふりをしてそれとなく衛兵を防いでおり、足止め
の役割を果たしていた。
数十人近い衛兵の包囲網を、ベルナデットは持ち前の脚力で通り抜けていく。
「捕まえたぞっ!」
「ぐっ!」
しかし、衛兵の一人がベルナデットに追いつき、彼女の肩を掴む。まずい、今は剣を抜くことができない。抵抗をしようにもイエスが邪魔でできない。
ベルナデットが衛兵に引き寄せられかける。その時であった。
「大渦潮っ!」
水の柱が衛兵に突き刺さり、吹き飛ばされる。ベルナデットが振り向くと、見慣れた顔があった。
「エレツさん!」
「くっ! 一番弟子たる僕がイエスを助ける予定だったのに!」
エレツは水の柱を何本も体にまとわせ、衛兵の相手をしていた。
「向こうではサンとフィーガがあばれている。今のうちに逃げるんだ、ベルナデット!」
「お任せします!」
ベルナデットは見張りのない道に進み、姿をくらましていった。
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「くそっ! いい加減話しやがれ!」
「はいはい、今下ろしますよ」
ベルナデットは自分の肩の上であがきちらすイエスを易しく下ろす。処刑場からは数キロ先の路地に逃げ込み、辺りには人一人として見えない。
ベルナデットはほっと一息ついた。
「馬鹿野郎! 何でこんなことしやがった!?」
イエスはベルナデットの目前にまで迫り、けたたましく怒鳴りつける。せっかくこれで一段落すると思ったのに、余計な邪魔が入った。それに、こんなことをしてしまった以上、ベルナデットの身も危ないだろう。
正気の沙汰ではない。イエスはベルナデットを心配げな目で見た。
「だって、あんなに死にたくなさそうではなかったじゃないですか」
「あ!?」
「あんなに息も絶え絶えで、冷や汗も掻いて……。そのくせ口では調子の良いこと言って……。そんな貴
方を見ていたら、放って置けませんよ」
ベルナデットは笑みをこぼしながら言った。
あの時だ、断頭台にかけられていたのは『神の子』イエス・キリストではなかった。単なる人間の『ナザレのイエス』だった。そんなちっぽけな人間一人を見殺しにするなど、誰が許せるだろうか。
意気揚々としているベルナデットに、イエスは気を抜かれた、それと共に、イエスは実感した。
自分はもう一度処刑される気分にはなれない。もう、生きるしかない。
「ねぇ、イエス。本当はどんな気分でしたか?」
「……めちゃくちゃ、しんどかったぜ」
ベルナデットの意地悪い質問に、イエスは素直に答えた、
「だが、俺がこうなった以上、この国の内乱は激化するだろう……。俺にはそれを片付ける義務って奴がある。いいな?」
「えぇ、好きにしてください。……でも、ひとつだけ、約束してくれませんか?」
「何だ」
「死なないでくださいね!」
彼女のその言葉に、イエスは傷から血が噴き出るほど笑いあげる。
「いいぜ。予言をしてやろう」
「……近い未来、俺ァ城で王とだきあっている」
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