38 イエスの処刑
「おいおい、なんでこんな集まってんだ?」
「なにやら、神の子が処刑されるらしいぞ」
「そんな方が殺されるとは、嫌な時代になっちまったな……」
その翌日、王都の処刑場にて、民衆が見守る中イエスの処刑は始まろうとしていた。聴衆にはイエスを支持する者、冷やかしで来る者が入り交じり、処刑場は異様な熱気に包まれていた。
中には涙する者もいたが、聴衆の取り押さえに気を取られて衛兵たちは気にとめていなかった。
ベルナデットは人混みに飲まれながら、彼を待っていた。
異常だ。ベルナデットはそう感じざるを得なかった。たった一人の人間の死に、これ程の人間が集まろうとしている。
「どけぃ! 罪人が通るぞ!」
衛兵のその言葉と共に、数人に囲まれてイエスが牢から出てくる。
「……っ!」
ベルナデットは愕然とした。出てきたイエスが、ひどく傷だらけだったのだ。
むち打ち、打撲、裂傷……。今にも息絶え絶えのイエスは、乱暴に引きずられながら断頭台に上がろうとしている。元々傷の治りが早いイエスがあれほどまでに弱っているのだ、おそらく酷い拷問を今まで受けていたのだろう。
見ていられない光景だ。その余りの痛々しさにベルナデットは顔を背けたい想いであった。だが、そう
することはできなかった。最後の彼の姿を、少しでも目に焼き付けておきたかった。
「ぐうぅ!?」
度々、イエスは痛みで膝をついた。そのたびに衛兵はイエスを叩き、結びつけられていたロープで起き上がらせた。イエスの血と汗のにおいが、辺りに散らばっている。
「待ってください!」
思わずベルナデットは列をかき分け、飛び入った。
「騎士殿! 一体何を……」
衛兵の一人が声をあげる。
「……この罪人は自力で処刑場に行く力が残っていません。刑の執行のため、私が肩を貸します」
「は、はっ!」
ベルナデットは衛兵の了承を聞く前にイエスの肩をかばう。彼の体は酷く冷えており、生気を感じさせなかった。今にも死にそうなこの体を処刑場まで運ばなければ張らない。ベルナデットはやるせない想い
であった。
ベルナデットとイエスは断頭台までの数十メートルを進む。たったそれだけの距離を、二人はゆっくりと歩いて行った。
「ベル。ありがとな」
ベルナデット本人以外には聞こえないようなか細い声で、イエスは言った。
「……私を、利用していたんですか?」
「ククク……すまねぇ」
イエスは無理矢理に口角を上げ、言葉を続ける。
「こうするしかなかった……。あのまま俺が生きていたら、この国は滅びていたからな。そんなの、この国の王に申し訳ねぇだろうが」
イエスの言っていることは的を射ていた。この国の反体制感情はイエスによって高まり、爆発寸前にな
っていた。獣人族、エルフ族、魔族の長からの信認を受けたイエスにとって、国をぶち壊すことは不可能ではなかった。しかし、それ以上に、民がそれを望んでいたのだ。
生きている限り、イエスが反乱軍の旗印になることは避けられない。もしそれを避けようとするのなら
ば、刑死する他なかったのかもしれない。
「……いっそ、新しい王にでもなれば良かったじゃないですか」
「滅多なこと言うな。騎士だろ?」
ベルナデットはその言葉に思わず破顔した。あさか、最後に鳴ってイエスに騎士のなんたるかを説かれるとは夢にも思わなかった。
「そうだ……笑って見送ってくれ」
「っイエス!」
「俺ァ嬉しいんだ……。こうすりゃあ、いつまでも神の信仰はこの国の民に残る。……誰ひとり傷つくこと無くな」
「貴方が傷ついているじゃないですか……! こんなにボロボロになって……!」
「あー、俺ァ良いんだよ。……救世主だからなァ」
そういって、イエスはごまかすように笑った。それが酷く痛々しく見え、ベルナデットの心中は一層騒いだ。
「では、そこに据わるが良い」
ようやくイエスが断頭台までたどり着き、処刑人の前に座らされる。
「さぁ、騎士殿は離れてください」
「……えぇ」
ベルナデットは衛兵の指示に従い、断頭台の横に控える。もう何も考えられない。いっそ早く終わってほしい
「……ナザレのイエス。最後に言い残すことはあるか?」
処刑人の男がイエスに問いかける。
イエスが何を言うのか、民衆は息を飲んでいた。イエスは乱れた息を整えた後、キリッと顔を向け、叫んだ。
「神よ、人々をお許しください。自分たちが何をしているのか、分かっていないのです……!」
人々は目を見開いて、彼の勇姿を見届けた。
自分が死ぬ寸前になっても、殺そうとする相手のことを思いやるその精神。それが観衆の峰に残ったのだった。
イエスは彼らの意志の籠もった顔を見ると安堵したような笑みを浮かべ、体を楽にする。
「やれよ」
その言葉と共に、処刑人の刃が上がる。後数秒足らずでイエスの処刑は完遂されようとしていた。
「イエス!」
しかし、一つの声によっ彼の手は止められた。
「ベル、何だよ」
「……死ぬの、怖くないんですか?」
「……あァ。そうだよ」
イエスはつっけんどんにそう答えた。その答えにベルナデットは妙にスッキリとした表情を見せたのが、イエスにとって気がかりであった。だが、もう関係ない。今から首を刎ねられようとする自分には、この世界のことは関係ないのだ。
イエスは目を閉じ、自らの死を受け入れようとする。震える体を懸命に押さえ、助けを叫びたい気持ちを抑え、処刑を待った。
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「……?」
しかし、一向に待ってもその時は来なかった。刃を下ろすだけの簡単な動作にもかわらず、数秒の時が経っても未だ行われない。
イエスは目を開ける。その時、目前には信じがたい光景が広がっていた。
「おい……、ベル、何やってんだっ!?」
ベルナデットは自らの拳を処刑人の顔面にめり込ませ、手持ちの剣を奪って立っていた。
何が起こったのか、衛兵すらもうろたえる中、ベルナデットはイエスを担ぎ言った。
「すみません。台無しにしますね」
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