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34 王都で迎えられる

「フム、城下が騒がしいようだが」


 エドワルド王は執務をこなしながら、エドワルド王は窓の外を眺めていた。ここ数日、町が沸き立っている。祭りの時期でもないはずなのに、人々は何かに喜び、唄っているのだ。


「はっ、王よ。おそらく、このことかと」


 エドワルド王のそばで控えていた従者が、一枚の新聞を差し出す。それを手に取り、見出しを見たエドワルド王は一瞬目を見開いた。


「そうか。奴が来るというのか」

「如何いたしますか」

「そう慌てるな。直ちに何かをするわけではない」


 エドワルド王は従者を制する。


「……だが、奴をこれ以上好きにさせるつもりは毛頭無い。それを心がけておけ」


 エドワルド王はそう言って、乱暴に新聞を机にたたきつけた。


 その新聞の見出しには一言、『救世主来たれり!』そう書かれていた。


__________

______

___



「もうそろそろか……?」

「もう来てもおかしくないはずだぞ!」

「そもそも、本当に来るのか?」


 マキミリア王国王都の門前で、多くの人々がにわかに沸き立っていた。数は数百をくだらない。その誰もが同じ目的のために来ていた。


 時間が立つごとに民衆の数が集まり、城門の前でひしめき合ううほどにまで賑わいのボルテージは高まっている。


「おい、来たっ! あの先頭で馬に乗っているのが救世主(キリスト)だっ!」


 民衆の中の一人の男が叫ぶ。


 皆が門の方を見ると、数十人にも及ぶ行列が通過しようとしていた。その先頭にいる黒髪で褐色の筋肉質な男に、民衆の注目が集まる。


 その男は馬に乗り、周囲の人々に手を振りながら道を闊歩している。その神々しくも暖かい姿に、多くの民衆は感動と興奮を覚えていた。


 人混みは門から凡てが見えなくなるほど長く連なり、彼らの行く道を指し示していた。


「よぉ! 俺はナザレのイエス! 天の(オヤジ)に代わって、オメェらに福音を届きに来た者だ!」


 イエスは道の果てまで聞こえるほどの声を借り上げる。


 その言葉に町中は歓声をあげ、イエスの訪問を喜んだ。当然ながら、彼らの目当てはやはりイエスであった。人々に無償で食事を与え、治療をして人々を救う救世主、そして種族の垣根を越えた教えを世に広げ、エドワルド王の体制に刃向かう反骨の士。そんな男は一体どんな顔をしているのか。民衆の、期待と希望の籠もったまなざしがイエスに集まる。


「キリスト様っ!」


 列が半分程まで入った頃、イエスの前に突然一組の母子が飛び出てきた。イエスの馬が止まる。

 

 母が抱えている娘は目が見えていないのか、両目があらぬ方向を向いていた。


「お引き留めして申し訳ありません! どうか、どうか娘に奇跡を!」

「待ってください。そんないきなり……」

「良いじゃねぇか。ベル」


 イエスはベルナデットの手を借りて馬から下りると、娘の目を両手で包む。


「俺を見な」


 イエスが娘にそう言うと、彼女の目はイエスを向き始めた。


「お母さん……。まぶしいよ」

「あぁ……っ!ありがとうございます!」


 母親はイエスに跪き、感謝する。


 それをイエスは立たせ、娘と手をつながせた。


「安心しな。オメェらの罪は赦された」


 二人に、イエスの屈託のない笑顔が向けられた。


「こ、これが『奇跡』っ!? 盲人を治せる魔法なんて聞いたことがねぇ!」

「それに、本当に誰にでも治療を行ってくれるのか……!」

「さすが四つの種族をまとめた『神の子』だ!」


 一層歓声は大きくなり、周囲の窓にひびが入るほどになっていた。それをイエスはぶっきらぼうに手を振り、馬の鞍に腰掛けた。


「イエス。まずは先に連絡を取っていた酒場に行くはずでしょうが」


 ベルナデットはうんざりとした様子で頭を抱えた。全く、この男は予定踊りにことを進める気など毛頭無いのだろう。せっかくすぐにかくまえるように手はずを整えていたというのに。


 次第に集まってくる衛兵たちにベルナデットは危機感を募らせる。

「仕方ねぇだろうが。……それにこいつらを見ろ。すげぇ信仰心(バイブス)あがってんじゃねぇか」


 イエスは鞍の上に立ち上がり、民衆を一瞥する。彼ら一人一人が救いを、そして神の愛を求めていた。これを無視して通り過ぎるなど、自分にできようがない。


 イエスは腕を上げ、叫ぶ。


「よっしゃあ! オメェら、俺の話を聞きやがれぇ!」


__________

______

___



「まったく! 昼過ぎに到着できていたんですがねぇ!」


 酒場の一室、特別にもうけられた敷井の立てられた席でベルナデットはプリプリと怒りながら夕食を食べていた。旅に出てから久々の王都の料理であったが、彼女の頬は緩まなかった。


「仕方ねぇだろ。あんだけの大人数の前で説教をしたんだぜ」


 その向かいに座っていたイエスは彼女の様子に一笑しながらフォークを果物に突き立てる。


 結局、門を通ってから拠点である酒場にたどり着くまでにおおよそ五時間もかかったのだった。本来であれば一時間かからずに着く道にここまでの時間をかけたのは、ひとえにイエスのサービス精神のせいに

あった。


 説教が終わった後も人々それぞれの悩みを聞いたり、願いを叶えてやっていれば、時間が経つのは当然のことだろう。


「まったく! 衛兵たちに捕まらなかっただけ良かったですが……」

「でも、今回の盛り上がりを見る限り、大成功と言っても良いんじゃないかしら?」


 フィーガが二人に向け言った。


「あァ、フィーガ。これもオメェの作戦のおかげだな」

「フフフ。私がやったのは宣伝と、後はパフォーマンス指導くらいのことよ」

 フィーガは言葉とは裏腹に、嬉しそうな口調で返した。

「でも、この国の『四つ種族を従え、馬に乗って王都に入る者こそがこの世界の神である』という伝承に当てはめてイエスを入らせたのは効果てきめんだったろうね」


 イエスの隣に座っていたエレツが言う。


 事実、彼女の策はどはまりし、王都はパニックと言っても差し支えないほどの熱狂で栄えていた。人々は神の光臨に沸き立ち、我を忘れてイエスに群がった。肝の据わっているイエスでなければあれほどの人の波には耐えられなかっただろう。


 ここまでの策を与え、イエスに協力したのだ。エレツは改めて、フィーガがイエスにかける情熱と決意を実感し、彼女への信頼を強くした。


「うん、僕もエルフ族の代表の立場を生かして励むとするよ」

「えぇ、それはありがたいわ。この勢いに乗れば、この町全体がキリストを神の子と認める日もそう遠くないはずよ」

「……でも、これってどうなんでしょうかね」


 ベルナデットがポツリと呟いたその言葉に、いち早く反応したのはフィーガであった。


「どういうことかしら?」

「今日の説教の途中、一部の聴衆が衛兵に捕らえられていました。……反体制的な集会に参加した罪で、です」

「それがキリストの生だって言いたいの!?」


 フィーガは激昂し、立ち上がる。その勢いで、料理の膳が辺りに散らばった。


「違います! でも、こんなに過激な方法を採っていたら、人々を危険に晒してしまうんじゃないんですか!」

「そのような考えでは、この国の悪しき体制を換えることはできないわ!」

「イエス、教えてください! 貴方は本当に、こんなことがしたいんですか!?」


 ベルナデットはイエスの目前にまで迫り、問い詰める。


「……止めな。ここまで来て、言い争いをするのは」


 イエスはどこか気落ちした声で、三人を一喝する。


「ベル。俺はただ、神の意志のままにやるだけだ」


【お願い】


もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!


そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!


バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!

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