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26 イエスに近い者

 誰よりも早く、ベルナデットは目を覚ました。ささやかな期待を持って向かい側のベッドを見るが、やはりイエスの姿はそこにはなかった。


 結局、翌日の昼前にまでなってもイエスは帰ってこなかった。エレツとのことがあるため、そこまで心配してやる必要はない、という意見は分かる。しかし、胸騒ぎがした。イエスが何かトラブルに巻き込まれている、そんな気がしてならなかった。


「おや、どうされました? 騎士様」


 昼食が終わった頃、一行の中でひとり顔色が優れないベルナデットに、店主は声をかける。


「イエスが帰ってこないのですよ? もしかすれば、さらわれてしまっているのかも……」

「ハハハ、まさかそのようなことはありませんよ。第一、先ほど買い出しに行った際にイエス様の後ろ姿を見ました。きっと何かなさっているのでしょう」

「……そう、ですか」


 ベルナデットは釈然としないまま答えた。昨日のサンの発言といい、イエスは町の中にいることは確かなのだろう。それならば心配はいらない。しかし、そう思いきれない自分がベルナデットの心のどこかにいた。


「それよりも、昨日お話した『反乱軍』の頭領が町に戻ったらしいです」

「あぁ、そうですか」

「イエス様がご多忙なようでしたら、弟子の皆さまがお会いになってはいかがでしょうかかね?」

「いえ、それはちょっと……」

「まぁまぁ、あちらも会ってみたいと言っておりましたし」

「それに、私は一応騎士なので反乱軍の方と会うのは良くないんじゃないでしょうか」

「良いじゃないか」


 ベルナデットの座る長椅子の後ろから、エレツの声が聞こえた。エレツは既に出かけの準備を済ませていた。


「イエスは『種族や立場は関係ない』と言った。僕とサンのような他種族、そして君のような騎士が彼らと会うのは教えを実践する良い機会じゃないか」

「私は別に弟子という訳では……」

「店主、反乱軍のところに案内してほしい」


 エレツは勝手に店主に返答する。


「良いお返事をいただけてなによりです! さぁ、ご案内しましょう!」

「ちょっと!?」


 ベルナデットたち三人は、店主に導かれるままに町の外れへと向かわされた。話によると、反乱軍たちは見知った者にしか見えない建物をアジトにしているため、付き添いがなければ初対面の者は入ることおろか探し当てることもできないとのことであった。


 町の北側の空き地の多い地帯を進み、店主が「そろそろ着きます」と言った頃、ベルナデットはふと向かいの路地が目に入った。なんてことは無い、単に誰かがいたように見えたからであった。

「イエス?」


 ベルナデットが見たのは、今まで行方知れずであったイエスであった。どうやらイエスはこちらに気付いていないのか、そのまま路地に入ろうとする。追いかけるか、一瞬そう考えたベルナデットだったが、こうして自由に出歩いている姿に安堵しそれ以上何かしようという気持ちにはなれなかった。

「どうかしたかい?」


 エレツが呆けているベルナデットにに気付く。


「いや、そこにイエスがいたので」

「ん? どこにもいないようだけど」


 エレツはベルナデットの指さす方角を見るが、そこにはイエスどころか人間の影一つもなかった。ベルナデットも再び路地のあたりを見るが、確かに彼の姿はなかった。


「あれ、もう行ってしまったんですかね……」

「さて、着きましたよ。皆さま」


 ベルナデットの不審を隠すように、店主はある空き地の前で足を止めた。しかし、彼が何かを握って引くそぶりを見せると、何もなかったはずの空間から部屋が現われる。


 店主が何のためらいもなくそこに入るのを見て、ベルナデットたちも足を踏み入れた。



「わー! ほんとにおうちなんだー!」


 サンはそう言ってアジトの中ではしゃぐ。しかし、ベルナデットにもその気持ちは分かった。確かにこのような奇妙なものは中々見れたものではない。つい先ほどまで気配もなかったというのに、しっかりと部屋の中には家具や装備品があり、それらに触れることさえもできる。


 そして何より、部屋の中には数十人の兵士たちがひしめきあっていた。その誰もが生傷の絶えない歴戦の猛者のような風貌であったが、なぜかプレッシャーを感じることはなかった。


「こんにちは! あなた方が『神の子』さんとお弟子さんですか!?」


 反乱軍の中の一人、中央のソファーに行儀良く座っている女が言った。魔族らしい濃い桃色の髪をピッチリ綺麗にそろえた、一〇代くらいに見えるまだ若い少女であった。


「あぁ、そうだよ、グルーシャさん。だけどイエスさまは今日来られないみたいでね」

「忙しいのでしたら仕方が無いですね!」


 グルーシャ、そう呼ばれた女は明朗快活に店主に返答した。兵士たちを代表して答えている辺り、彼女がこの集団のリーダーなのだろう。ベルナデットはそう思った。


「貴女が反乱軍の頭頂の?」

「はい! 私がこの軍の頭領をやらせてもらってます、グルーシャです!」


 グルーシャは深々と頭を下げる。その様子を見て、彼女に悪い印象を抱ける者はこの場にはいなかった。


「貴女たちがお弟子さんですか?」

「えぇ……、まぁ。そうですね」


 ベルナデットはとっさにそう答えた。今、周りには反王国の戦士が数十人近くいる。別のところでもある程度の数が控えていることであろう。こんな場で自分の素性をさらすのは危険だ。ベルナデットはそう考えた。


「そうですか! 騎士の方も弟子にいらっしゃるのですね!」

「っ!? どうしてそれを」

「え!? 見て分かりますよ!」


 その言葉を聞くと共に、ベルナデットは反射的に手で体を隠した。一応、騎士がうろついていると思われないようにローブをかぶっていたのだが、この少女には通用しなかったようだ。


「別に隠すことはありません! こうして王国の方と話せる機会に恵まれて、私は嬉しいです!」

「……嫌ではないんですか? さんざん王国の騎士に仲間を殺されたことでしょうに」


 ベルナデットがそう言いかけた瞬間、場の空気が急激にひりついた。しまった。ベルナデットは今になって自分の言ってしまったことのまずさに気付いた。周囲の兵士たちの見る目が不審から警戒に変わり、身構える者もいる。


 エレツはベルナデットを仕方なさげな目で見る。思えば、この女は度々いらないことを言ってしまうところがある。ともかく。彼らを怒らせてしまっては、イエスの伝道に支障が出る。


 エレツは誠意のある謝罪の文面を考えようとしていた。


「はいっ! だって、貴女がやったわけではないじゃないですか!」


 しかし、グルーシャは気にすることもなく満面の笑みでそう言った。それとともに場の緊張感もほぐれ、次第に笑い声を押し殺すような音がところどころから聞こえるようになった。


「そ、それはそうですけど」

「騎士だとか反乱軍とか、魔族だとか人間だとかそんなの関係ありません!」


 グルーシャは常識を語るかのようにそう言った。


 しかしその言葉に、ベルナデットたちはひどく驚いた。それが、イエスが以前に言っていたことと同じ

ものであったからだ。


「あの、イエスと会ったことがあるのですか?」


 ベルナデットは自然に思い浮かんだ質問を投げかける。


「え? イエスさんという方にはあったことはありませんよ?」

「本当ですか?」

「はい! あっ、でも町の皆さんが言うには『気が合うと思うから会った方が良い』とのことでした!」


 似ている、姿形は勿論、性別も種族も異なるが、彼女はあのイエスととても似ている。そのまっすぐに一つの者を見つめる輝く目。凡てを受け入れる器。ここにいる兵士たちも彼女の魅了にあてられてついて行っているのだろう。


 ベルナデットはそう強く実感した。


__________

______

___



「へぇ、そんな義人(おもしれー奴)なのか、そのグルーシャっていう頭領は」

「えぇ、彼女も貴方に負けず劣らずの魅力的な人よ」

「へっ、照れるぜ」


 ベルナデットたちが反乱軍のアジトにいる一方、イエスとフィーガは薄暗い部屋の中、茶飲み話に花を咲かせていた。二人はイエスの話す教えについて議論したり、フィーガの話すこの世界の面白い物事について驚きあったりしている。互いに話し上手なことがあってか、イエスの覚醒から随分経っても話の種が尽きることはなかった。


 フィーガはこの状況を楽しんでいた。しかし、一方で彼女は少しばかり、今の状況を予想外に思っていた。あれ以来、イエスはこちらに抵抗することなく、かといって拒絶することもなくくつろいでいる。てっきり出られるまで暴れ続けられることも覚悟していたフィーガは拍子抜けしていた。諦めたのか、いや、そんな根気の無い男のようにも見えなかった。


 イエスの腹の内が知りたい。フィーガはカップを置き、イエスを見た。


「ねぇ、ここから出ようとは思っていないの?」

「勿論思っているぜ」


 ケーキスタンドからお菓子を取りながら、イエスはそう言った。

「それなら、私を倒すなりするしかないわね」

「それはしねぇ」


 イエスは口の中の菓子を飲み込み、言葉を続ける。


「オメェが俺を閉じ込めたのは俺のためなんだろ? だったら、そんな良い奴をぶちのめして外に出るなんて不義(シャバい)なマネはしねぇ」

「……一応言っておくけど、味方の助けをアテにしてるとしたら無駄よ。私の魔法で、この町の住民は貴方の幻影を見ているわ。ここに閉じ込められているなんて、思いもしないでしょうね」

「どうだって良いんだ、そんなことはよ」

「……だったらどうやって出るというのかしら?」


 フィーガはわずかばかり顔をしかめ、問いかけた。


「決まってらァ。オメェが俺をここから出すんだよ」


【お願い】


もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!


そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!


バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!

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