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24 魔族の女に会う

「ところで……、魔族ってのはアイツみたいなやつのことか?」


 イエスの指さす先には、一人の若い女がいた。その女は一人ぽつりと壁に寄りかかり、水を飲んでいる。


 しかし、イエスの興味を引いたのはそこではなかった。彼女の様相が、人間とは大きく異なるものであったのである。彼女の肌は人間のそれとは異なり、怪しい薄紫色がなじんでいた。頭には羊のよう曲がったな角が生えており、ウェーブがかった桃色の長髪から見え隠れしている。


 そして何より、イエスは彼女から発せられている異様な力の気配を察知していた。エレツたちエルフ族と似ているが、それよりも力強く、そしてまがまがしくもある。彼女には『魔』の族、という仰々しい名称に劣っていない雰囲気がある。


 イエスはそう思わずにはいられなかった。


「ただもんじゃあねぇな、アイツは」

「そりゃあそうさ、魔族はどの種族よりも強い魔力を持ち、肉体も頑丈だ。……だが、イエス様のような『奇跡』の力を持たない私たちでも、彼らの強さは知っているさ」

「そうか。じゃあ話してくるぜ」


 イエスは立ち上がり、彼女の方へ歩き出そうとする。すると、店主はイエスの肩を引いて止めた。


「ま、待て、イエス様。あの女とは関わらない方が良い」

「あ? さっき『会ってみたら良いだろう』って言ったのはオメェだろうが」

「いや、あの女は違うんだ」


 店主の男は言葉を続ける。


「……魔族ではあるようなんだが、まったく口も聞かないでいつも家に引き籠もっている変な女さ。反乱軍の仲間でもないみたいだし……」

「『逆らわない者は敵ではない』だ。関係ねぇな」


 イエスは彼からの制止を無視し、彼女の元へ近づく。はじめはその目的が自分だと感づいていなかった

その女も、イエスが隣に座り込んだところでようやく気付いた。

「よぉ、俺の話聞きに来てくれたのか?」


 イエスは片膝を立て、女の方を向く。


「……」


 しかし女は答えず、真正面を向いていた。


「あっ、もしかして違ったか? そうだったらすまねぇな」

「……そんな訳、ないでしょう?」


 女はイエスの問いを無視することができず、重い口を開いた。


「そうかァ! そいつァ嬉しいなァ! この町に来た甲斐があったってもんだぜ!」

「……貴方、本当に神の子? そうは見えないけれど」


 女は怪訝な目をイエスに向けた。今、自分の目の前にいる男が、種族関係なく多くの支持者を持っている『救世主(キリスト)』とだとは信じがたかったのだ。話し方もひどう乱暴で、庶民と一緒に地面に座り込んで盛り上がる。そんなのは一見すれば、ただの不良中年の様ではないか。


「そうだ。俺ァ(オヤジ)から天と地の一切の権限を授かった『救世主(キリスト)』さ」

「そもそも、貴方の言う『神』は本当に存在するのかしら?」

「するぜ」


 イエスはためらいもなく言った。


「それを証明することはできるの?」


 彼女がそう言うと、イエスは目を細め、石のように沈黙した。そして、その数瞬後、イエスは自信満々な笑みを浮かべ、女に言う。


「俺が『いる』と言ってんだぜ。それで充分だろ?」

「何ですって?」

「俺たちを見守ってくれて、愛してくれる。そんな(オヤジ)がいてくれる。俺がそう言っているんだ。それ以上の理由(ワケ)なんざいらねぇ」

「……分からないわね」


 女は下唇を噛んだ。


「何がわかんねぇって言うんだ?」

「なぜ、貴方はそんな神を伝道するの? そんな優しい神を……」

「だって、その方が良いじゃねぇか」

「それが分からないのよ!」


 女は感情を露わにし、声を荒げた。


「貴方の力があれば、人々を支配することもできるでしょうに……」

「くだらねぇ。俺ァ支配者になんてなりたくないね」

「なら! なぜ貴方はこんなことをするというのよ!」

(キョーダイ)助けるのに理屈(かんがえ)なんているかよ」

「……っ!」


 女は何か言いたげにはしていたが、ついぞ言葉を返すことはなかった。彼女はイエスの瞳を見る。ダークブラウンの瞳は静かに輝き、自分を見つめ返している。


 その目には驕りや昂ぶりがなく、そして何より嘘がなかった。女は心なしか、何かこみ上げてくる感覚を覚えていた。


「……このままではラチがあかないわ」


 女は数瞬の末、口を開ける。

「ここじゃ落ち着いて議論できないわ。私の家に来てくれるかしら」

「いいぜ。オメェの心に(オヤジ)福音(リリック)が刻まれるまで、やってやろうじゃねぇか!」


 イエスは首が引っ張られるほど口角をつり上げ、女の目前まで顔を迫らせる。思えば、説教に反論されたのは久々のことであった。ここ最近は福音を素直に受け入れる者が多く、実にすんなりと伝道が行われていたのだが、かつてパリサイ派と激しい論争をし繰り広げてきたイエスにとってそれはいささか物足りないものであった。高い壁ほど越えたくなる、イエスはそんな男であった。


 イエスは、この挑発に思わず精神の高揚を覚える。


「それなら私も同行しますが、よろしいですね? イエス」


 ふと、横から声がかかる。イエスが振り向くと、ベルナデット自分のそばに立っていた。イエスの動きを察知し、駆けつけてきたのだ。


「そうだな、オメェにもついてきて……」

「駄目よ」


 イエスの言葉を遮るように、女は強い口調で言った。


「何故ですか? 私がいても問題は無いと思いますが」

「私はこの男にだけに用があるの。貴女はお呼びじゃないわ」

「しかし!」

「それに、騎士にうろちょろされると迷惑なのよ。何に言いがかりをつけられるか分かった物じゃないわ」


 女はギラリと鋭い視線をベルナデットに浴びせる。


 彼女の言うことは、ある意味でもっともであった。仮にもこの町は反乱軍の占領地、王国の騎士が入ってくるのもイヤなのだろう。まして、イエスと話そうというのに見張りを付けられたのでは議論もしづらいというのは分からない話ではない。下手のことを言ってその場で逮捕されると言うこともあり得るのだから。


 無論、ベルナデットは毛ほどもそうしようとは考えていなかったのだが。


 ベルナデットは文句の一つも言ってやりたかったが、あえて飲み込み、言葉は返さなかった。


「まっ、気にするな。ベル。別に殺し合いしに行くわけじゃねぇからよ」

「……では、宿で待っていますので」


 ベルナデットは心配げな面持ちでイエスに言った。一応、この町の住民はイエスを歓迎しているし、殺されることはないだろう。むしろ、騎士である自分が出しゃばっていてはイエスの邪魔になってしまう。


「決まりね。では行きましょう」


 女は立ち上がり、イエスを連れて町の広場から離れた。


 ベルナデットは通りの外れに向かう二人の背中を、見えなくなるまで見送った。


__________

______

___



「おいおい、結構歩くな」

「フフフ、もう少しよ。もう少し」


 イエスは女に連れられ、町の奥深くまで足を進めていた。中央からはすっかりと外れ、人気の無い道を歩く。


「しかし、こんな広かったかな。この町はよォ……」


 しばらくした後、イエスは違和感を抱くようになった。町の様子がおかしい。一〇〇〇人程度しか住んでいないはずのジェレバが異様に広く感じる。既にかれこれ数十分は歩いている気がするのに、一向に到着しない。別に、曲がり道をずっと回っているわけではない。むしろ、さっきから一本の直線を歩いているのだ。なのにこんなにも時間がかかっている。


「待てよ? 何もねぇのにこんな長ぇ道があるわけ……」


 イエスがそう思い始めた、その瞬間であった。


 突然、イエスは強烈な眠気に襲われた。


「ど……、どうなってやがる。意識が……」

「大丈夫?」

「起きて……られねぇ……」


 ついにイエスは意識を失い、その場に倒れ込もうとする。


「ようやく落ちたわね。……随分時間がかかったわぁ」 


 女はそれを受け止め、彼を背負うと一つの家に入った。



【お願い】


もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!


そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!


バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!

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