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21 荒れた町を目指す

「よぉし! 今日も多くの奴らに福音を届けられたな!」

「そうだね。それに、最近は多くのエルフ族と獣人族が一緒になって話に入るようになった。これはすごい進歩だよ」

「あァ、姿形なんて神の前では関係ねぇんだ。それが広まってきているようで嬉しいぜ」

「フフフ、イエスが喜んでくれて僕も嬉しいよ……」

「分かってきてんじゃねぇか、エレツ。その気持ちを他の人にも持ってやれよ」

「うんっ! がんばるよ」

「んもー! エレツ君イエスに近づきすぎー! サンも隣行きたいー!」

「ごめんね、サンちゃん。でもソールの元にいてあげるのが優しさというものだよ」

「……のう、エレツ殿、何故そなたも儂の屋敷におるのだ?」


 ソールは気まずそうに、食事しながらの談笑にいそしむ二人に声をかけた。それは思い悩み、考え抜いた末の一声であった。


イエスの左隣にぴっとりと座っているエレツは、ほんの一瞬顔を険しくした。


 今は昼下がり、屋敷で皆が昼食を取っている頃であった。エレツとの一件から数週間、イエスはソールの屋敷を中心に布教を続けていた。獣人族の里、エルフの森は勿論、時には山を下り、近くの人間の村にも行くようになっていた。その甲斐あってイエスの支持者は日に日に増え、そして彼の弟子は種族問わずに交流を活発にするようになった。


 それは素晴らしい。イエスという男を心から認めているソールにとって、彼の弟子が増えることはまことに喜ばしいことであった。


 だが、なぜかエルフ族の代表、エレツがイエスと行動を共にするようになったのだ。それも布教に参加するだけではない。今のように昼食に同席するまでに、である。


「それは僕がイエスの一番弟子だからだよ。ソール」

「……それは理由になっておらぬわ」

「すまない。もし邪魔だったら帰ろうか」

「いや、二種族の友好を考えれば良いことである故、邪魔ではないのだが……」

「それなら良かった! うんうん、これから僕たちはかつての軋轢を超えていかなければならないからね」

「うぅむ、しかし今日でもう五日連続、いささか……」

「ソール、僕は謝りたいんだ。今まで無礼な振る舞いをして嘲ってしまった獣人族に、少しでも償いをしたいと思っていたんだよ。……そのチャンスを与えてくれて、ありがとう!」


エレツは話を横切り、そう笑いかける。


おかげでソールは、獣人族とエルフ族の一座建立という壮大なテーマよりももっと切実な『人の家でべたつくな』という問題について話す機会を奪われてしまった。


 深く感銘を受け、エレツはイエスの弟子になった。それだけの説明では納得できない程にエレツとイエスの距離は近い。ついこの前それをイエスに言ったことがあったが、まるで意図が分かっているようではなかった。


 男から狙われているぞ。ソールのその忠告は、古代イスラエル人のイエスにとってはあまりにも荒唐無稽すぎたのだった。


「イエス、今日もお疲れ様でした」

「おう、ベル。オメェも毎回着いてきてくれてありがとな」


 イエスはもう反対側に座るベルナデットに返事する。


「いえ、これも騎士の勤めですから」

「勤めとあれば、イエスを逮捕することもあるのかな?」

 エレツは嫌みったらしく目を細め、ベルナデットに言う。

「ありもしない話は止めてください、エレツさん」

「フン、どうだか。悪いけど王国側の人間は信用できないね」

「何をいいますか!」

「おっと! もしかしたら間者かもしれないというというのにしゃべりすぎたよ!」

「ちっ、ちがいます!」

「おい! オメェら止めろ! 昼飯中にケンカすんじゃねぇ!」 


 イエスは両隣のふたりに裏拳をかまし、一喝する。エレツとベルナデットはじんじんと痛む額に手を当て、ようやく口を閉じた。


「エレツ、ここにいる奴らはみんな隣人(ダチ)だ。間違ってもそんなこと言うんじゃねぇ」

「すまない……。僕が未熟だった」

「俺に言っても仕方ねぇだろうが。ベルに言え」

「ベルナデット、……疑って申し訳なかった」


 エレツは神妙に目を閉じ、ベルナデットに陳謝した。


 以前のエレツを知っているソールはその様を見て、深く感心した。あの高慢なエレツが心から申し訳なさそうにしている。以前は謝る際も頭すら下げなかった彼が、大きく変わったものだ。


 実に良く変わった。


「いえ、気にしないでください」


 一方で、ベルナデットの心境は複雑なものであった。エレツの言っていたことすべてが間違いではない。事実、イエスの行動を逐一王国へ報告しているではないか。


 ベルナデットの年相応の胸は酷く痛んだ。


「まったく、みんなこどもね! ねぇイエス!」

「あァ、案外、オメェが一番大人かもな」


 イエスとサンは互いに微笑んだ。


__________

______

___



「そろそろ、頃合いかもしれねぇな」


 昼食中、イエスはふと呟いた。


「何じゃ?」

「ソール、ここに来てもう一月は経つだろ。そろそろ別の街に移る頃合いだと思ってな」

「何を言うか!」

 ソールは声をあげた。

「もしや居づろうなったのではあるまいな。儂はそなたがいつまでも、それこそ死ぬまでここにいて良いと思っておるのじゃぞ。里の民も同じよう思うておろう」


 ソールはイエスの手を取り、語りかける。


「ククク、そんなんじゃねぇよ。ただこの地は充分に教えが行き届いたから、別の街に行こうってだけだ。……気持ちはありがてぇがな」


 イエスの言うことは一理ある。そうソールは納得した。


族長の娘であるサンとエルフ族代表であるエレツを従えたイエスは、この辺りでは絶大の信頼と権威を得ていた。そのためか、ほぼすべての住民がイエスを支持しているといっても過言ではないという状況になっていた。


「……そうか、ならば止めはせぬ」

「じゃあイエス、どこに行こっか!」


 エレツとベルナデットによって向かい側の席に座らせられていたサンは、ズイと身を乗り出して聞く。

「そうだな……。別にアテがあるわけじゃねぇんだよなぁ……」

「それなら、『ジェレバ』の町はどうかな?」


 エレツは言う。


「何を考えているんですか!? ジェレバといったら、まだ王国への反乱軍が居座っている危険地域ですよっ!」

「だからこそ、だよ」


 エレツは言葉を続ける。


「ジェレバの住民は未だ戦火に巻き込まれて苦しんでいる。彼らにこそ『神の言葉』が必要なんじゃないか?」


 エレツは額に手を着き、そう言った。


 ジェレバは王国の領土でも西の果てにある町である。ベルナデットの言う通り、そこには未だ反乱軍が残っており、マキミリア王国側は度々出兵していた。しかし反乱軍の規模は小さくなく、またその構成員の全員が豊富な魔力を持ち、人を超える力を持つ魔族であった。そのため、未だ王国は反乱軍を打倒できず、手をこまねいている。無論、町は荒れ果て、人々は苦しい生活を強いられているだろう。その点を見れば、次の目的地にふさわしいのかもしれない。


「ふぅん……」


 イエスはエレツの言葉に相づちを打つ。


「しかし、紛争地域に行くのは危なすぎます!」

「大丈夫、僕も同行するから」。

「エレツ殿、そなたが旅に出て、エルフ族の民はどうするつもりじゃ」

「大丈夫、従者たちに指示は出してるから。……それにベルナデット、どうせ君も来るんだろ?」

「くっ……。そうですけど!」

「ベルも来てくれんだったら、心配することはねぇな」


 イエスはそう言って高笑いをあげた。 


 その気になれば弟子たち全員を連れて旅をすることはできるだろう。しかし、大きな集団を作ればそこに『数の圧力』が生まれてしまう。イエスはそのことを危惧していた。


 多くの弟子を連れて説教をすれば、人々に自分の言うことを信じさせやすくなる。だが、それは単なる同調圧力であり、自分の目指す『神の権威』とは主旨が異なってしまうだろう。


「サンも行くよ! ジェレバのみんなを助けなきゃ!」

「いかんぞ、サン! おぬしは儂とここに残るのだ!」

「いやっ! 引き留めても勝手について行くもんね!」


 ソールは頭をかき乱した。サンの意志は固い。今の言葉もきっと嘘ではないだろう。それならば、最初から他の三人について行かせた方が安全であるのかもしれない。


「……お三方。サンを頼む」


 苦悩の末、ソールはイエスたちに頭を下げた。


「おーし! 決まりだ!」


 イエスは立ち上がり、腕を高く上げる。



「俺たちの次の目的地はジェレバだ!」



【お願い】


もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!


そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!


バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!



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