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10 腰を折る者は高められる

「ええっと、確かこの通りの……、あぁ、あった」


 辺りが夕焼けに染まる頃、ベルナデットはイエスに呼ばれ酒場に来ていた。仕事があったため予定の時間より遅れてしまったが、彼はたいして気にしないだろう。


 ベルナデットは入り口の前に立ち止まる。今はまだ入り口の前であるのにかかわらず、ここからでも中の賑わいが分かる。それは一〇〇人二〇〇人など者の数ではないだろう。


 彼の話によると、たしか獣人と町の住民で宴会を開いているとのことだった。しかし、にわかには信じがたい話だ。数年前に王国軍が獣人族を平定して以来、人間と獣人族、二種族の関係は最悪だ。その二種族が集まるなど、無謀にも聞こえる。イエスはこの世界のことを知らない上、あのお人好しだ。だからこのような危険な催しを開こうと思えるのだ。


「殺される!」


 その時、扉の向こうから声が聞こえた。ベルナデットは焦った。イエスの声だ。イエスの命が危ない。


 場合によっては仲裁の役を買わねばならない。ベルナデットは意を決して酒場の扉を開ける。


「そう思った時になぁ、ちょうど言い訳が思いついた訳よ! 『神殿は父の家なのだから、そこにいるのは当たり前だ』ってな!」

「ガハハハ! 迷子の言い訳にしては仰々しすぎるわ!」

「さすがイエス様も、親は怖いようですな」

「ハハハ!」

「……へ?」


 ベルナデットはあっけにとられ、呆然とする。そこには一切の修羅場がなかったからだ。


 酒場では獣人も人間も関係なく入り交じり、気持ちよく酒を呑んでいた。その中心にはイエスと奴隷商の長、そして獣人族の長が歓談している。随分と酒が入っているようで、三人の机には酒の瓶が大量に積まれていた。


 険悪なムードはどこにもなく、ベルナデットは自らの思いは杞憂であったことを切実に思い知らされる。


「おっ! 遅かったな、ベルナデット!」


 イエスはベルナデットに気付くと手を振って迎える。


「仕事がありましたので……」

「まぁ、こっちこいよ」


 ベルナデットはイエスに手を引かれ、隣の席に座らされる。周囲から視線が集まり、どこか気まずく感じた。それもそうだ。この席に参加している者の半分はつい数日前に殺し合いをした獣人族、そしてもう半分近くは日陰者の貧民たちであった。場違いさを感じるのは仕方の無いことであった。


「その方、騎士か」

「! はい。ベルナデットと申します」


 ソールの問いに、ベルナデットは答える。


「此度の件は申し訳なかった。怪我人も多く出たことであろう」

「……えぇ、そうですね」

「騎士で死人はでなかったんだろ? なら良いじゃねぇか」


 イエスは口を挟む、


「それはそうですが、そういう問題では……」

「そうであるぞ、キリストよ。皆がそなたのような侠気のある者ではないのだ」


 ソールは苦笑しながらそう言った。


 何気ない一言だ。何も気にするところはない。しかし。ベルナデットはこの言葉が引っかかってしまった。それは小骨が喉に刺さるかのように。


「イエス。私、宴会が終わるまで残っていますね」

「あぁ、そうしたら良いぜ!」

「えぇ、獣人の方々が酔って暴動を起こさないか見張らなければいけませんので」


 ベルナデットは表情を変えることなくそう言った。


 町を襲撃しておきながら大した責めも負わず、その上良い人になろうとしたソールにずるさを感じていたのだ。仮にも大勢の仲間が命の危険に晒されたというのに、必ずしも許す方が正しいわけではないだろう。軽くチクリ、と一言言ってやった、それくらいのつもりであった。


「貴様、今何と申した」


 しかし、ソールはその程度のつもりにはしなかった。


 彼の持っていたグラスはにぎりつぶされ、粉々に砕ける。


「我々獣人族が酒の席とはいえ、招かれた立場で乱痴気騒ぎを起こす恥知らずとでもお思いか!」


 ソールはまさに敵を見る目でベルナデットを睨みつける。


 その威圧に押され、ベルナデットは心臓をバクバクと鳴らせられる。周囲もその異常に気付き、思わず押し黙ってしまった。


「しかしそもそもにして、無理な話であろう。騎士共が束になってかかってきても儂に傷一つ付けられなかったというのに、小娘一人に何ができようか」

「そ、その騎士の国に従属させられているのはどこですか」

「ほう。そこまで死にたいのであれば今終わらせてやろうぞ」


 ソールは瓶を持って立ち上がる。このままでは乱闘になる、誰か止めなくては。その場の誰もがそう考えた。だが、獣人族最強の男をどうやって止められようか。仮に、場の全員が飛びかかっても敵いはしないだろう。聴衆たちは恐怖で二の足を踏んでいた。


 息苦しい雰囲気が場を支配する。


「でもオメェ、娘が反抗期だって泣いてたじゃねぇか!」

「は!?」


 ベルナデットは耳を疑った。彼は今までの話を聞いていなかったのか。イエスはソールの背をバシバシと叩き、煽るように言った。


「さ、さような話は関係なかろう!」

「それにさっきは娘の成長に泣いてたしよぉ……、ちょっと親馬鹿すぎるんじゃねぇか? なぁ」

「左様ですね、一人娘が可愛くて仕方の無いのでしょう」


 ラムザは同調しそう答える。


「ラムザ殿! 儂は決してそのようなことは……」

「イエス~~! おかわりのお酒持ってきたよ!」


 タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど厨房から戻ってきたサンがイエスの元に来る。その手には瓶が隙間無く詰められた盆がある。


「今何の話してたの?」

「オメェの親父がオメェのこと好きすぎるって話だ」

「イエスはサンのこと、好き?」


 サンはお盆で口元を隠し、恥ずかしげに聞く。


「勿論、愛してるぜ」

「サンもイエスのこと大好き!」

「わ、儂のことは?」

「パパ? うーん、普通!」


 ソールは椅子からずっこけ、地面に頭をぶつける。その滑稽さに周囲からは笑みがこぼれ、場の緊張感すっかりゆるんでしまった。サンはどういうことか分からず、とりあえずニコニコと笑っていた。


 救われた。ベルナデットはそう痛感した。もしあのまま話が続いていたら自分は殺されていたかもしれない。特別な任務を受けたその当日に酒場で殴り殺されたとなれば末代に残る恥だ。言い訳のしようも無い。ベルナデットは背もたれに全身を預けた。


 ベルナデットは自分が何か言うことで雰囲気が悪くなることを恐れ、イエスには目で感謝を訴えたのみに控えた。


「どうやらこの国の種族間の対立は根深いみてぇだな。ベルナデット」


 イエスは足を組み直し、呆れた様子で問いかける。


「……はい。お恥ずかしいことに」

「こういう雰囲気があるのは、別にこの街だけに限ったことじゃねぇよな?」

「えぇ、それはそうですが」

「よーし、分かった。オメェら聞け!」


 イエスは立ち上がり、テーブルの上に立って住民たちを見回すと、宣言した。


「俺はこれから、神の言葉を授ける旅に出る!」


【お願い】


もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけるとありがたいです!


そうすることでこの小説は多くの方に読まれるようになり、最終的にローマ教皇の元に届いて国際問題になります!


バチカンと日本のガチ喧嘩が見たいと思った方は、どうかよろしくお願いします!

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