想う
「莉愛さん……ッ!!」
「ん……!?」
突然、襲い掛かられて押し倒され、開きかけた唇を塞がれた。キスされたのだとすぐに気付いたけど、別に嫌とも何とも思わなかった。ただ、そんな自分に少し驚いただけ。
ソファに仰向けに倒されたまま抵抗しないでいると、その後も貴由は何度も何度も口付けして来た。キスの上手い下手なんて私には解んないけど、ちょっと息苦しいくらいで痛くはない。
「……………ッッ!!!」
「す、すんません…!」
今の無し。訂正。馬鹿貴由。調子に乗って、がっつき過ぎ。
どこか非現実的な展開に思考が追い付かず放置していたら、貴由の勢いが良すぎて互いの歯がぶつかり、私はツーンとした痛みに顔をしかめることとなった。
おかげで暴走してた貴由が我に返り、慌てて私の上から飛び退いたのだけれど。
その時すでに彼は、私の部屋着の前ボタンを全部開いて、裸の乳房をやお腹を露わにしてしまっていた。いつの間に。ていうか、ここしばらくで培った、私に対する介助の経験値がモノを言ったのかも知れない。にしてもちょっと手際良すぎだけど。
「俺、あの……そんなつもりじゃ」
「別に良いよ。キスくらい」
琢磨と子供の頃から挨拶の度にキスしてたから。とは内心密かに思ったりしたが、何となくそれを言っては駄目な気がして、この時私はあえて黙ったまま口にしなかった。理由は解んないけど、たぶん、正解。
「でも次やったら、保留した件は反故にするから」
「す……すんません」
ジロリと睨み付けて身を起こした私は、何でもない振りを装って前ボタンを留めた。でも、実を言うと内心動揺していて、ボタンを留める指先が少し震えていた。貴由には気付かれていないと、思うけど。
「制服、乾いたら今日は帰って」
「………はい。帰ります」
なんとなく居たたまれなくて、私はリビングに貴由を1人残してベッドルームへ入った。そうして内側から掛けたこともない鍵を掛け、朝起きた状態で乱れたままのベッドの上に身を投げる。
「………ビックリした」
思わず本音が漏れた。無意識に触れられた唇へ手を当てる。まさか貴由がこんな行動に出るだなんて。いや、そもそも彼が私のことを、あんな風に思っていただなんて、私は今の今まで、まったくこれっぽっちも気付かなかった。
「私、アイツのこと……」
どう思ってるんだろ。どうしたいと…どうなりたいと、思ってるんだろう。
改めて今日の事態を思い返して、我ながら不思議に感じてるんだけど、貴由からの告白(というか、あれって求婚だよね??)を、私は、いったいどうする気でいたんだろう。
ついつい考えるのが面倒になって、彼からの求婚(だよね?)を『保留』ってことにして先延ばしにしたけど、即断らなかったってことは、受けるかどうか悩んでるってこと?
「頭ん中、ぐちゃぐちゃだ」
うう。訳わかんない。頭痛い。なんか胸が苦しい。
ドアの向こうで貴由が部屋を出て行く気配と、オートロックの鍵が掛かる音を耳にしながら、私は、ひたすら悶々と答えの出ない想いについて考え続けた。けど、いくら考えても、何ひとつ答えなんか出て来なくて。
ふと気付いた時には、夜の9時を回っていた。
「………風呂入って寝よ…」
前世の頃の私なら1週間くらい入らなくっても気にならなかったが、転生してからはさすがにそうもいかなかった。なにしろ私、女に生まれちゃってたし。『面倒だから入らない』という我儘を、琢磨が許してくれなかったから。
けど、お風呂の気持ち良さが少し解って来たし、なんとなく習慣づいてしまったので、今ではだいたいほぼ毎日入るようになっていた。
琢磨は『今の世では当たり前!!』と言うけど、そんなもんなんだろうか?と今でも思うことはある。だって、疲れて面倒な時は、誰だって入らないよね??まして女は男と違って生理だってある訳だし。まあ、他の女にそんなこと聞いたことないから、たぶん、だけど。
「はあ………」
素っ裸になって湯船に浸かった私は、改めて自分の身体をマジマジと見直した。
うーん…我ながらオッパイ大きい。私がそうなるよう望んだ訳じゃないが、正直、重いんだよね。コレ。めっちゃ肩凝る。歩くたび揺れるし。
それと、今まであんまり気にしたことなかったけど、男からしたらコレってどうなんだろう。魅力的だったりするのかな。前世の頃から関心なかった私には、それもイマイチ良く解んないんだけど。
「貴由も………ッ!?」
名を口にした途端、顔が急激に熱くなった。
えっ、え、なんで??どうして??
意味不明な己の反応。その原因を何かと考えた私は、それによって唐突に甦ってきた光景に、ますます顔が熱くなってきてしまった。
「ん、ん、貴由…ソコ、くすぐったい」
「もう少し我慢して下さい。綺麗にしますから」
全裸になって貴由と一緒に風呂へ入って、身体の隅々まで洗って貰っていた自分。泡の付いた小さなスポンジで彼は、いつも丁寧に私の身体を綺麗にしてくれていた。手足や背中、胴体はもちろんのこと、おっぱいや足の間の割れ目まで、何もかも全部。
「―――――――ッッ」
そうだ。私、貴由に、あんなこと。
生肌を触らせたばかりか、オッパイや、あ、アソコまで。
「……………ッッッッ!!!!!!!」
今の今まで全然なんとも思ってなかったことが、急激に恥ずかしく思えてきた。まるで今になって私の中の『女の子』が、長い眠りから目を覚ましたと言わんばかりに。
ううん。そうじゃない。
気が付いた。思い出したんだ。
15年ぶりに再会した彼が、あまりにも懐かしくて。あんまりにも『昔』のまま過ぎて。うっかり忘れていたことを思い出した。
貴由は男で、
今の私は、女だってことを。




