8・二人目の王子様
魔法都市デュアルズ・ナイズは王都アレブネイクから5キロほどの所にあり、とにかく魔法について研究するのが大好きな都市だ。
魔法学院はその研究施設の一つで、若者に魔法を教えることで知見を集めると同時に未来の魔法従事者を育成するのが目的。
「遂につきましたね」
キャシーは学院の寮につくなり地べたにへたりこんだ。
主人の前で情けないと思うが、昨日のことを思うと仕方ないとも思う。何せ熟睡中を冷水で叩き起こされたと思ったら、突然知らない男と戦って、そのあと馬に轢かれて生死の狭間をさまよったのだから。そして町の火が消えた後は私を探して一晩中走り回っていたらしい。すぐに戻らなくてごめんね。
「キャシーにもっと優しくするべきなのかな」
私は誰にも聞こえない声で呟いた。ゲーム中ではキャシーはずっとか弱い女の子だった。だから私を裏切るイベントがあるにもかかわらずそこまで脅威を感じない。しかし、敵の刺客を一瞬で葬る実力があると知った今、すこしキャシーについて考える必要があると思うのだ。
「そうですよ! 最近のお嬢様はちょっと私について乱暴過ぎます!」
どうやらキャシーは地獄耳だったようだ。
ふんすー、と鼻息を荒くしながら、座ったままで抗議したが、そこで体力が尽きたのか、床に倒れこんだ。
キャシーを見下ろす。やっぱ、考えなくていいや。そう思った。
わたしはキャシーをベットに寝させてあげてから、外に出かけた。情報収集だ。
魔法都市内にある魔法学院の寮を出てから真っ直ぐ進む。しばらくすると、いろんなお店が並び始めた。魔法具屋さんや、普通の服屋さんパン屋さん何かもある。ゲーム内で何度か来るところだ。
お店が並ぶコーナーを進んでいると、川が見えてきた。結構水量の多い川で、川の先は住宅街になっている。
私は川にかかっている橋を渡し始めた。真ん中らへんでふと橋の下を覗き込んだ。
落ちたら死にそう。
そう無意識に考えるくらいの高さがある橋だった。勿論落ちないように塀があるが胸元ほどの高さなので乗り越えようと思ったら簡単に乗り越えられる。
ふと、さっき来た道を見る。来たときはまばらに人がいたが、今は誰もいない。
住宅街の方にも今は誰もいない。
塀から少し乗り上げて下を覗いてみた。ものすごい高いというわけではないのだが、意外と水量は少なく、落ちたら水のクッションなしに底石に激突すると思う。
ここから飛び降りれば、元の世界に戻れるのかな。
一瞬そう考えてしまった。勿論そんなことはないのは分かっている。可能性はゼロではないのかも知れないけど、ばかばかしい賭けだ。
しかし、一度飛び降りることが脳裏をよぎると、それを援護するような考えが頭の中をよぎっていく。
私がここで死んでもこの世界は何も変わらないだろうし。
それに、この世界にとって私は異物だ。この世界に異物は私しいないように思えた。
そんな中で一人生きていこうだなんてバカげてる。
そんなの無理に決まってるじゃん。
もういい。
体が軽くなる。
異物の命が、この体から浮遊して、飛んでいくような感じがした。
それはとてもしっくりくる状態で、しっくりしすぎるくらいだった。
今だ。
この世界に私をひっかけておいてくれるものは何もない。
よし。
異物はない方がいい。間違いない。
今、身体をもっと前に出して、乗り出して、滑り落ちてしまえ。
行け。
ふわりと身体が宙に浮く。
目をつむって、衝撃に備えた。不思議と怖くない。
でも、いつまでたってもその衝撃はこなかった。
代わりにふわりと自分の身体を包み込まれた気がした。
「大丈夫?」
目を開けると、金髪を肩まで伸ばした、イケメンの顔があった。
どうやら、私は落ちたところを助けられたらしい。
ふとさっきまで自分がしていたことを思い出した。
私、死のうとしてたんだ。
そう理解した瞬間、全身を強烈な寒気が襲った。
しかし、それを超えるほどの暖かさに包まれた。私を助けてくれた人だ。
もう一度その顔をよく見る。
それはまぎれもなくゲームの攻略対象の一人。
自分の国の王子、マルコス・アイラティスだった。
ども、水雪です。
ちょっと前に初めてブックマークがつきました。
この作品を楽しみにしてくれている方がいると思うと嬉しくてうれしくて。
この後の仕事も頑張れそうです。
うひゃひゃひゃ。土曜日も日曜日も仕事です。
でも頑張れそうです。うひゃひゃひゃひゃ
ではまた次回