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6・幼馴染と妹

 ゲームの世界に転移したと言ってどれだけのものが信じてくれるのだろうか。

 実際にその状況になってみないと分からないものが大半だと思うが、俺の理解は意外と早かった。


 この世界で、最初に見たのは白い馬だった。ゲームのチュートリアルで仲間になるこの馬には強制で白兎という名前がつけられた。

 白兎を見た瞬間に、ゲーム世界に来たのではという発想が頭をよぎった。多分ゲームとかラノベとかの読みすぎだと、最初は自分でも否定していたが、時間が進むに連れてそれは正解だと確信した。

 元のゲームはブレイブリー・ラヴァーズというレベル制のRPGだ。それだけ聞くと健全なゲームに思えるかもしれないが、パッケージにはR18の文字がある。なにせ大人向けゲームの大手湯葉ソフト制作なのだ。途中で一人キャラを選んでそういった大人な展開を見ることができる。


「お兄さん。朝ですよ」


 そして、この世界に来てから一週間がたった今、目下の問題はこれだ。なぜかゲームには登場しない妹がいる。

 そして何よりこの妹最初から好感度がマックスを振り切っているのだ。

 今も俺を起越す前に、俺の服やら布団やらのにおいをかいで至福に浸っている。面倒、というよりは恐怖で気づかないふりをしている。


「おはよう、エリー」

「はい。おはようございます、お兄さん」


 ポエトリー・ウィーブ。妹のフルネームだ。腰まである長い黒髪と、黒い瞳はこの王家では先祖帰りの証であり、兄弟の中でもっとも優秀と言われている。

 実際魔力量なども主人公補正がかかった俺のレベルカンスト時と同じくらいある。化け物スペックだ。それがなによりこわい。

 


 さて、今日から俺はゲームで苦楽を共にし、うへへな夜を過ごした、かつての仲間を探しに行く予定なのだが。


「さあ、行きましょうかお兄さん」


 エリーがなぜかついてくる気満々なのだ。

 現に馬でも大丈夫なように、丈夫な長ズボンと、長袖の服を来ている。そして手には杖と太ももにナイフ。腰には短剣とがっちり戦闘にも対応している。


「……何で俺が、これから旅に出ると知っている」

「お母さまから伺いました。世界をみて、広い知見を得るのと修行の意味も兼ねているのですよね」

「ああ、そうだ。だから一人で行かせてほしい」

「駄目です! 旅先でどんな女と出会ってお兄さんを利用するか分かりません! 私はそのお目付け役です! それに家族からの許可は出ております」


 出ているのではなく、軽く脅して出させたのだろう。ここにきて一週間だが、この妹は俺のためなら、そのくらいのことはやってのけることぐらいわかる。

 

 俺が無視して支度をすると、エリーは的確にその手伝いをしてくれた。

 家族への挨拶は昨日のうちに済ましている。だから後はここを出発するだけだ。

 エリーは馬には乗れない上に、白兎は俺以外を乗せようとはしない馬だ。どのみちエリーが俺についてくることなどできない。そう自分自身を納得させて白兎のいる馬屋に向かった。そして自分の目測は間違っていたことを知る。


「おにーさまーこっちでーす」


 エリーが白兎にまたがってこっちに手を振っていたのだ。

 唖然として開いた口が塞がらない。

 なんで俺以外を乗せているのだ白兎、と思ったがよく見ると、白兎は少し怖がっているように見えた。表情が何時もより硬い上に、足がすこし震えている。

 この妹やりやがったな。俺はすぐさまそう思った。


「おい、エリー今すぐ離れろ」


 俺はエリーにそういってから、白兎の頭を撫でてやった。白兎はすこし安心した様子で鳴くと、大丈夫だ、と強がるようにもう一度強く鳴いて見せた。


「白兎……お前ってやつは強いのな」


 ゲームで一番長い時間を共に過ごしたのは実は白兎だ。その成長を見届けた俺はいつしか涙を浮かべていた。


「ほら、白兎だって私が乗って喜んでいるようです。さあ出発しましょう」


 そして意地でも俺といっしょに行くことをやめないエリー。俺は遂にあきらめがついた。



 エリーのおかげで旅は順調に進んだ。最初のダンジョンのボスはエリーが一撃で仕留めてくれたのだ。

 それでいて、「わたしなんかやっちゃいました?」みたいな顔をするので本当にこの妹は恐ろしい。

 しかしそれが仲間である以上こんなにありがたい存在はいない。 

 まあ、ただ、本来なら仲間になるはずのキャラのイベントのフラグを、エリーがバッタバッタと切っていくので仲間が増えないことが唯一と言っていい不満だ。



 旅も二週間が経って慣れてきたころ。いまだに仲間を増やすことができずにいた。

 そして、明後日の夜、最後のキャラが仲間になるイベントが起こる。もしここでそのイベントを無視したらおそらくそのキャラは死んでしまう上に、作中最強キャラだったので攻略には不可欠なのだ、なにがなんでも仲間にしなければならない。

 そのキャラは隣国の筆頭貴族、リディス公爵家の令嬢さんだ。

 俺はその令嬢の襲撃イベントが起こる日の朝、隣国であるアイラティス王国の王都とリディス公爵領、領都をつなぐ中継都市に来ていた。

 ここからほど近いところで彼女を襲うイベントは起きる。

 俺はエリーにばれないように、このイベントのための準備を進めていた。


「お兄さん。何を企んでいるのですか?」


 宿屋の一室。そのベットに腰掛けて、お気に入りの枕を抱きしめながら俺を見つめるエリー。俺はその瞳を睨み返した。ここはお前の部屋じゃない。お前の部屋は一つ隣だ。


「関係ないだろ。今日は早めに寝ろよ、ここで寝るのは許してやるから」

「はい。お兄さんが一緒に寝てくれるなら私はすぐに眠りにつけると思うのですが」


 おれは大きく一つため息をついた。ここでエリーを部屋に押し戻すのは骨が折れる。戦いの前に体力を使うべきじゃない。いくら序盤にしてはレベルが高いにしても、一回ダメージをくらえば痛みで動けなくなるだろうし、なによりこの世界はゲームとはすこしずれている部分がある。なにがあるのか分からないのだ。

 俺はエリーに逆らうことをせず、一緒に寝てやることにした。


 しばらくして、エリーの寝息が深く緩やかになったのを見計らい、俺は部屋を出ていった。

 そして、白兎にまたがり女の子を助けに向かった。

 これは俺にとって絶対に負けられない戦いだ。







 お兄さんが出ていった部屋の中で静かに目を開いた。

 

「ああ、翔君。あんな女のところに向かっちゃったの」


 心の底からあふれ出る憎悪に、身体が言うことを効きません。

 ああ、殺してしまいたい。

 でも、お兄さんが助けに行ってしまいました。それでは流石にあの女とて助かることでしょう。

 妬ましい。あの女はなにも知らずにお兄さんの、お兄さんの……。


 「町ごと燃やし尽くしてしまいましょうか」


 ついこぼれた自分の言葉に驚きましたが、いい案です。

 そうです。燃やしてしまいましょう。

 私は部屋を飛び出しました。

 そして、加速魔法であの女がいる町へ向かいます。

 その町は木材を基調としていたので、よく燃えてくれそうです。


 あの女が火に包まれるのを想像すると興奮が止まりません。

 ああ、早く燃やしてしまいたい。

 私は杖を町に向けて炎を放ちました。


読んでいただきありがとうございます。水雪です。


このサイトを使い始めたばっかりでよくわかっていないのですが、評価やブックマークなどがあるそうですね。

つけてくださいとは言いません。がもう一度言わせてください。

評価やブックマークがあるそうですね。


……次回もよろしくお願いします。

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