5・再会と世界
町から少し離れた草原で、星空のもと翔とふたりきりになった。
「ロマンチック……」
「今頃君の護衛とメイドさんは香織のことを血眼で流してるだろうね」
「ムードを壊すこと言わないで」
でも、翔の言う通りでふたりを安心させるためにもすぐに戻る必要があるのは事実。
しかし、翔とまだ二人でいたい気持ちの方が上だ。どうにか理屈をこねくり回して一緒にいる時間を増やそう。
「それに、こんな暗い中で移動したら危ないでしょ。残党だっているかもしれないんだし。ここで少し隠れてた方が安全安全」
「一理あるような、ないような。まあふたりで話したいこともあったし。ちょうどいいや」
胸が高鳴った。こんなロマンチックな場所で男女が話すことなんて一つしかないよね。
はあ、こんな最高の告白をされる人なんて世界広しと言えど私だけなんじゃないかな。
「いいよ。何でも話して」
「おう。それでこの世界についてどれくらい知ってる?」
……まあ。うん、そうだよね。状況が状況だもんね。うん。何を期待してたんだろ。男はそこまで恋愛に興味ないって聞くし、この状況でもロマンチックだなんて思ってくれないのかな。
「あーえっと。ついさっきまでこの世界をただの夢だと思ってたんだけど、違うんだよね」
「ああ、違う」
「これは推測に過ぎないんだけど、たぶんゲームの世界に来ちゃったんだと今は思ってる」
「え? あ、そこまで分かってるのか。んじゃ、そのゲームのタイトルも?」
「うん」
私が頷くと、翔は頭を抱え込んで、呻くように呟いた。
「ああ、なんであの時タイトルを言ってしまったんだ」
正直何のことを言っているのかわからなかったので、無視して話を続ける。
「翔もタイトルを知ってるの?」
「お、おう。そりゃあな」
私も頭を抱え込んだ。いや、待って、キャレンシー・ジャンヌはR18指定の乙女ゲームだ。R18ができる人間を乙女と言っていいのか怪しいがそんなことはどうでもいい。
問題は何で翔がキャレンシー・ジャンヌを知っているのかということだ。このゲームをプレイしている所は誰にも見られていないはず。いや、唯一、妹は私が最近ゲームにはまっていることを知っているようだったが、それでもタイトルまでは知らないはず。
こうなったら翔が別のゲームと勘違いしていることに賭けるしかない。
「ちなみにこのゲームのタイトルって教えてくれる?」
「い、いやそっちこそ、俺に教えてほしいな。もしかしたら別のゲームと勘違いしている可能性もあるし」
「……分かった。こうなったらいっせーのせで言おうか」
「分かった。いっせーのせ!」
二人のあいだに沈黙が訪れる。
「おいこら。何で言わない」
「香織だってなにも行っていないじゃん」
翔をにらみつけると向こうも睨み返して来る。
「はあ。分かった。言う。今度こそ言う。翔が何も言わなくても私は言う」
「おう。そうだったらおれも言うしかないな。いっせーの」
またしても訪れたのは沈黙。そして、にらみ合う。
「分かった。これじゃあ埒があかないから俺から言わせてくれ」
「ごめんこっちこそふざけすぎた。多分ふざけていい状況じゃないよね」
そして私たちはそらに向かって口を開いた。
「この世界は俺がやっていたゲーム、ブレイブ・ラバーズの世界だ」
「この世界はね。私がやってた、キャレンシー・ジャンヌってゲームの……」
聞き間違いかな。翔と顔を合わせた。
「……なんて?」
「キャレンシー・ジャンヌ。翔は?」
「ブレイブリー・ラヴァーズ」
「えっと。うん、あの。先にそっちの説明を求む」
「分かった」
そういうと翔は抵抗することなく、ゲームと何でそう思ったのかの説明を始めた。
曰く、そのゲームはRPGで途中でいろんなキャラを仲間にして最終的には世界を救う物語らしい。キャラには好感度があって、それをあげていくことでR18 シーンも見ることができるということも、語ってくれた。私もそのR18 展開のあるキャラで、森の中で盗賊から助けると仲間にできるらしい。
一か月前にこの世界に来てから、固有名詞の名前やら地図やら展開やらがゲームと同じだったからそう結論付けたらしい。
「うん。私のキャレンシー・ジャンヌは乙女ゲームでそのえっと、そっちが言ってくれたから言うけどちょっと大人向けなシーンもある奴。大体はそっちのと一緒かな。森の中で助けてくれた隣国の王子も攻略対象だった」
そこまで言うとふたりして黙り込んだ。情報量が多かったからそれらを整理する時間が欲しい。
ゲーム世界に来てしまったのはまだわかる。いや、分からないけど、もうここで頭がパンクしそうだけど、あくまで仮定として、ゲーム世界に来てしまったとして。それで、もとになったゲームが二つあるってどういうこと? でもこれまで起きたことは殆どがキャレンシー・ジャンヌで起きたことだ。でも翔は違うゲームがもとになっているという。
あー、もう頭こんがらがってきたっぁ!
「なあ、そのゲームを作ってる会社って湯葉ソフトだったりしない?」
「え、ああ、うん。そう湯葉ソフト」
「作ったところが同じなら。同じ世界を共有しているとかないか?」
「天才か」
よし、もし二つのゲームが同じ世界を共有していたとして。でもその二つのゲームの展開はおそらく別のものだと思うから。
「そしたら、この先の展開はどうなるの?」
「分からない。そっちではどうなるんだ?」
「隣国の王子様ルートはまだやってないから分からないけど、ほかのルートだと大体幸せになってはいハッピーみたいな」
「そっか。こっちのゲームだと、隣国の公爵令嬢はここで俺の仲間にならないと、どこかしらで殺される」
そっかー。なるほど。私はどこかで殺されるのかぁ。
「……は?」
読んでいただきありがとうございます。水雪です。
今日はもう一話投稿予定です。
それを投稿すると、もう書き溜めがなくなります。
怖いです。
それでは次回もよろしくお願いします。