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4・魔法

「だ、大丈夫ですか!?」


 翔はつき飛ばしたのが私のメイドであることを知ると、顔を真っ青にして駆け寄った。真っ白なズボンの汚れを気にせず膝をついて息や脈拍を確認している。そして服がびしょびしょに濡れていることに気が付くと、すぐさま自分の青い小奇麗で装飾華美なジャケットをキャシーにかけた。

 そして、手のひらを彼女の胸元にかざして……いや、もう触っていないか? 確かにキャシーの胸はかなりある方だけど、だからって。

 しかしすぐに変な目的ではないことが分かった。翔の手元が光りだすと、キャシーの全身も同じ色に鈍く光った。


「回復魔法覚えといて正解だったな」

「魔法!? 魔法が使えるの?」

「そりゃあね」


 私だって、ここに来るまでの魔法が使えるかどうか馬車の中でこっそり試したが、まったくうまくいかなかった。なのに何で翔はつかるのよ。ずるいじゃん。


「う、うう」


 キャシーが小さくうめき声をあげて目を開いた。キャシーの目に先に移ったのは顔を覗き込んでいた翔の方だ。


「お、じょうさ、ま? じゃない?」

「あなた方を助けに来ました。逃げますよ!」


 そうだ、逃げないと。このままでは三人とも焼死なんていう最悪の結末を迎えかねない。

 ……何か一つ忘れていない?


「あ、待って」


 忘れているものを思い出したと同時に私は翔を呼び止めていた。


「なに!」

「私の護衛さんがあの瓦礫の下にいる」


 翔は何も言わずに私が指さした瓦礫を掘り起こした。

 私もそれを手伝う。瓦礫は見た目ほどの重さがなく不思議に思ったが、頭より手を動かして護衛さんを救い出した。


「ありがとな、嬢ちゃんと、どこぞの王子様」


 護衛さんはかすり傷が目立っていたものの、それ以上の怪我は無いようで、翔が差し出した手を取って、ぴょいっと立ち上がった。


「よく、この瓦礫の下にいて無事でしたね」

「ああ、軽量化魔法は十八番なもんでね」

「もしかして、私の馬に強化魔法をかけてくださったのも?」

「ああ、味方かどうか分からなかったが、賭けに負けたこと無くてな。まあ、賭け事なんてしたこともないんだが。ガハハハッ」


 護衛さんと話す翔は、王子の姿が似合っていて、まるで別人のように思えた。


「いや、話してないで早く脱出しないと!」

「んじゃあ、お嬢ちゃんはこの人と一緒に脱出してくれ。メイドは俺が持っていこう」

「分かりました。お願いします」


 へっ!? 翔が私の身体を抱き上げて馬に乗せた。


「俺の体に捕まってろよ」


 馬の上はわざと振り下ろそうとしているのではないのかと思うほど、揺れて無意識に翔の身体に抱きついた。思い切って目を開けて辺りを見る。そこには既に炎に包まれた街並みがあった。


「ッ!……」

「気にすんな。悪いのはお前を狙った奴だ」

「……うん。ねえ、これ魔法でどうにかならないの?」

「俺にはそんな魔力も火やら水やらに対する適正もまだない」


 適正と魔力なら私にある。

 だから私ならできるかもと一瞬思ったが、すぐに頭を振る。

 キャレンシー・ジャンヌの主人公である私は、作中でもとびぬけた魔力量を持ち、火を操る魔法を得意としていた。まあ、でも私が子の体を操っているのだから、その魔法は使えないのだけどね。

 でも使い方が分かればもしかしたら。


「ねえ、魔法ってどうやって使うの?」

「そりゃ、魔力を身体に流して、そこにイメージを乗せればできるだろ」

「って言われても分からないよ」


 ふと、私の身体の周りをあたたか空気が包んだ。見ると、私と翔の身体が微かな光をまとっている。いつの間にか馬も足を止めていた。


「いいか? これが魔力だ。後はここにイメージを乗せる。できるか?」


 っていわれても、どうイメージすればいいのかなんてさっぱり分からない。イメージを乗せるってどういうことよ。

 そう私がぐずぐずしている内に日はさらに燃え広がり、逃げ遅れた人を呑み込もうとしている。


 しかし、逃げている住民たちが、それを包み込もうとしている炎が、静止した。

 

『ねぇ。魔法っていうのは精霊が人々の願いを叶えることなんだ。何をしてほしいかを教えてくれれば対価次第で私たちはその願いをかなえるよ』


 私の目前に手のひらサイズの女の子が現れた。ぷかぷかと浮いているそれは明らかに身体が透けている。何なら輪郭すらとらえることができないくらい曖昧な存在だった。

 ねえ。と翔に話しかけ用としても身体は動かず、声もでない。まるですべての時が止まった中で自分だけが意思を持っているような感覚。


『嬢ちゃんが持っている魔力に願いを込めて空にばらまいてごらん。そしたら、精霊たちが答えてくれるはずだよ』


 手のひらサイズの女の子(自称精霊)がそう言い残してふわりと消えていった。同時に世界の時間も元通り動き出した。


 対価という単語は私の中に自然と入ってきた。

 魔力は対価。だからこの文章の意味も抵抗なく理解することができた。


「行ける気がする」


 一言そういうと、私の身体をまとっている魔力を一旦自分の中に押し込んだ。そしてそれを空に向かってぶちまける。

 イメージしたのは大量のお金。魔法を実現させるには対価が必要ならそれはきっとお金だ。そうお金はすべての願いをかなえてくれるものだから。

 空に舞って行く魔力がお金に見えた。そのお金は町中にひろがり、町全体を包み込む様に広がっていき。ぱっと一瞬で消えたかと思うと町中の火も消え去った。


「できたぁ!」

「……やるなぁ。香織」


 町から火が消えると、なにも見えないほど真っ暗になった。感じるのは幼馴染の背中のぬくもりだけ。

 私は高ぶる気持ちを落ち着かせるために翔にそっと抱きついた。

 真っ暗なこの世界には私と翔しかいないように思えた。だから私が何をしようとそれを知るのは翔だけだ。

 私はできる限り長く翔の背中を堪能した。


 読んでいただきありがとうございます。水雪です!


 裏設定というか、作中で書けなかったことなんですが、香織の父親は銀行員です。なので香織はお金に関しては様々な考え方を持っています。

 お金っていいですよね。


ではまた次回。

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