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3・幼馴染の男の子でした。

 鼻を衝く焦げた匂い。目を開けると、現実の自分の部屋ではなく、夢の中で最後にいた宿屋の一室だった。

 隣を見ればキャシーが乙女にあるまじき格好で鼻息を立てている。

 ヒヤリと嫌な汗が身体を伝った。どうしても嫌な予感がする。


「カオリお嬢様むにゃみゃ……臭いぃー」


 隣で呑気に寝言を言っているキャシー。少しイラっとしたので、桶に入っていた水をぶっかけてやった。寝る前に体をふくために使ったやつだ。


「ひゃっ!? 冷たい!」

「キャシーなんか嫌な予感がするおきて!」


 キャシーは寝ぼけているのか、主人に対する小言を吐きながら身体を起した。

 さらにイラついた私は乱暴にキャシーの身体を蹴り飛ばして、目を覚まさせる。


「な、なにするんですか、お嬢様!」

「寝ぼけてないで! たぶん放火! 逃げるよ!」


 まだボケーっとしているキャシーの手を取って廊下に出た、しかし同時に炎が行く手を挟んだ。慌ててドアをしめて、窓に走った。


「飛び降りるよ!」

「へ!? は、はい」


 腐っても流石は公爵家のメイド。先に窓から飛び降りて下の安全を確認してくれた。


「大丈夫です! そんなに高くありません! 安心して飛び降りてください」

「もとからそのつもりだよ!」


 そう叫んで、二階の窓から飛び降りた。

 しかし、それで問題は解決しなかった。町全体が既に燃え、住民が我先にと街の外へ避難している。私たちもそれに続いて街の外へと走知りだした。


「お嬢様危ない!」

 

 キャシーの差し迫った声と同時に身体に強い衝撃が走り、軽々吹き飛ばされた。


「いたた……」


 尻もちをついた私の下腹部にキャシーの頭があった。私が男の子だったら、背徳感に浸る構図だけど、あいにく私は女だ。少し後ろに下がると、支えを失ったキャシーの頭が地面にぶつかった。


「いったぁ!」


 キャシーのうめき声が聞こえたが無視して辺りを見渡す。先ほど私たちがいたところに燃えた建物が崩れてきていた。後ろを見るが同じように建物が崩れており、私たちは四方を燃えた炎に囲まれていた。


「おー。いたいた。悪いね嬢ちゃん。あんたを殺しに来たよ」


 みすぼらしい格好をした、いかにも山賊の格好をした男がこちらに近づいて来る。ゲーム内で私たちを襲った山賊と同じセリフだ。


「私には護衛がいたはずなんだけど?」

「ああ、そいつはその瓦礫の下にいるんじゃねえか? けーけっけっけ」

 

 男が下卑た目をこちらに向ける。こんな奴のことなんて信じないけど、本当に瓦礫の下にいるなら早く助けないと手遅れになってしまう。


「そう。でも残念ね。私はこれでも魔法学院の主席よ? 消し炭にしてあげる」


 ゲームではパール殿にいうセリフを、引用した。

 炎で男を包み込むようにイメージをした。それだけで魔法は完成する。


「あれ?」

「お嬢様?」


 あれれ? 発動しない。「魔法なんてイメージするだけで発動するものよ」まぎれもない主人公の、私のセリフだ。それにどうせ夢なんだからちょっと違くても発動位してもいいじゃない。


「けけけ、怖気づいて魔法が使えないのか。そうかそうか、ざまあないな!」


 男は走りだすと同時に懐からナイフを取り出してこちらに投擲した。

 ナイフが私の太ももを軽く掠り、じわりじわりと、鈍い痛みが広がっていく。i痛いって、痛覚? 夢のなかで? 瞬時に嫌な想像が頭の中をめぐり、混乱して目が回った。視界も歪んで、震える足は身体を支え得ることができなくなり、その場にへたりこんだ。声は出ない。

 こちらに向かってくる男と目が合った。にやついた顔が私を絶望させる。しかし、一人の背中が私から男を隠した。


「私は戦闘なんてできませんけど、お嬢様が魔法を使われるまでの時間稼ぎぐらいさせてもらいますよ」


 何よりもきゃしーが心強く思えたが、私が魔法を使わない限りキャシーはきっと痛い目どころではすまない。でも一度恐怖にひるんでしまった頭は魔法をイメージできない。

 なにもできずにいると既に男がキャシーに肉薄して、剣を振りかぶった。

 キャシーが殺される。そう思って私は目をつむった。

 ガッコン。目の前で何かが落ちた音がした。それに続くように鈍い音が何度が響いた後、ドスンと何かが倒れた音がした。

 恐る恐る目を開けると、先ほどの男は既に知に伏せ、キャシーが格闘術っぽい構えで立っていた。


「公爵家のメイドがただのメイドなわけないですよね」


 そういうとキャシーは倒れた男を蹴り飛ばした。男は無抵抗に転がっていった。

 

「大丈夫でしたか」


 キャシーは振り向いて、私に剣先を向けて落ちている剣を拾った。

 同時に白い馬がキャシーの後ろの瓦礫を跳び越えてきた。

 空をかけるその馬は周りの炎に照らされて神々しい色に染まった。その馬の上に乗っている人は顔こそ見えなかったが、高そうな服を着ているように見えた。

 そして、私のメイドを吹き飛ばしてから私の前に止まった。


「助けに来ましたよ。お嬢様」


 白い馬に乗った男が私に手を差し出す。

 予想外の出来事にフリーズしていた頭がやっとの思いで動き出したの感じる。

 男の顔を見る。よく知っている顔だ。自然とそいつの名前が口からこぼれた。


「……翔?」

「香織?」


 ……私のメイドを蹴散らした白馬の王子様は幼馴染の男の子でした。


ども、水雪です。


白馬の王子様はいつの時代も女の子の夢と信じています。


次回もよろしくお願いします。



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