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1、勘違いお嬢様

 目を覚ますと、私は天蓋付きのベットに横になっていた。

 目をこすりながらベットに腰掛ける為に移動して、辺りを見渡す。


「なにがあったんだっけ」


 そこは中世のヨーロッパのお城の一室を思わせるような部屋だった。昨日のことを思い出すが、昨日はいたって普通の土曜日だった。寝る直前には自分の部屋でゲームをしていたし、遊園地かなんかのホテルっぽい所に来ていた記憶はない。

 ふと思い立って、枕もとに視線を向けた。

 そこには一冊の日記帳が置かれており、それをペラペラとめくるも、何も書かれていない。しかし、私にはこの日記帳とこの部屋に一つ心当たりがあった。それを自覚すると一瞬で頭も冴えた。今の状況を脳が真剣に考え始める。


「ま、間違いないよね。キャレンシー・ジャンヌの始まり方だ」


 昨日の深夜までやっていた乙女ゲーム、キャレンシー・ジャンヌでは、プロローグが終わるとこんな感じで物語が始まる。もし、ゲームの展開と同じなら、メイドさんが私を起しに来て、家族と一緒にご飯を食べることになるはず。


「かおりお嬢様、失礼します」


 同い年のくらいの新人メイドが部屋をノックするなりノータイムで入ってきた。

 ビンゴだ。まず間違いなくこれはキャレンシー・ジャンヌの世界。いくら寝る直前までプレイしていたとはいえ、夢の中でもゲームの世界に来てしまうとは、情けない。


「起きてらっしゃいましたか。ではお召し物を」


 一見柔和そうに見えるこのメイドさんだが、攻略対象ルート次第では敵に回り、最悪の場合わたしを殺そうとすることもあるキャラだ。既に私の敵になているかは分からないが、流石にそんな相手に着替えを任せるのは怖い。


「あ、いや、自分で着替える」

「左様ですか。お召し物はあちらにご用意しております」



 用意されていた服は長袖長ズボンの動きやすそうなシンプルなものだった。私はそれをもって部屋の隅にある鏡の前に向かった。キャレンシー・ジャンヌの主人公は黒髪ロングの大人しそうな、16歳の女の子。という設定。

 しかし鏡に写ったのは現実の私の顔。髪色は同じでも短く切りそろえたボブカットで、大人しそうというより、暗そうといったイメージ。

 うん。だれだ? 陰キャとか言ったのは。これでも垢ぬけたねって周りから言われるくらいにはなっているのだ。垢ぬけてこれって、もう向上の余地なしってか? 天井ってか?

 かぁぁぁぁぁぁぁ、ぺっ!


「かおりお嬢様? 早く着替えをなさってください」

「いたの!? あ、いや何でもないです。着替えます」


 キャシーの怪訝そうな視線を背中に浴びながら、そそくさと着替えを終えた。黒いスキニーのズボンに、白いシャツとブレザー。いい素材を使っているのか意外と伸縮性がよく動きやすい。

 シャツとブレザーには金色の刺繍があり、リディスと書かれている。主人公の家名だ。

 着替えを終えると部屋を出て、リビングへ向かう。ゲーム内ではリディス邸の廊下の描写はなかったはずだが、意外と私の想像力は豊かだったみたいだ。廊下には隙間なく絨毯が引いてあり、等間隔で謎の白い光が照明として置かれていた。


「おはよう、カオリ」

「おはようございます。カオリさん」


 リビングにつくと、両親が既にテーブルについていた。

 細い眼鏡に、細い身体。オールバックのの髪型は少し怖い。しかし30代と若手ながらも祖父の後を継いだ優秀な父親。

 茶色の髪を背中まで伸ばし、おっとりした雰囲気でなぜか娘にも丁寧な口調の母親。


「おはようございます。お父様、お母様」


 私は何とかゲーム内の主人公のセリフを頭から引っ張り出して、主人公のふりをした。

 そして、父親の対面に座る。


「カオリ。君は今日この屋敷を出て、王立魔法学院に入学する。我がリディス公爵家に恥じないよう心するのだぞ」

「あなた。そんなに言わなくても、カオリなら問題ないわ。試験にだって主席で合格したじゃない」

「むぅ。そこが心配なのだ。今年は同じ代に王家のマルコス王子や、ナロバーム公爵家のパール殿もいらっしゃる。この二人より目立つのはいささか問題だ。ふたりに因縁でも持たれたら面倒なことになる。気に入られろとは言わんが、それなりに良好な関係で学院を卒卒業してほしいものだな


 マルコス王子もパール殿もゲーム内の攻略対象になっている。どっちを選んでもはそれなりのハッピーエンドだ。因みに、もう一人攻略できるキャラの隣国の王子様がいるのだが、まだ攻略を始めていなかったので、どうなるかはわからない。

 

「カオリ。今日はやけに静かだな。緊張しているのか?」

「え? あ、はい」


 ゲームでは出てこないセリフだったので驚いて、素で返事をしてしまった。


「ははは、本当に緊張しているのだな」

「カオリさんでも緊張することがあるのですね」


 少し恥ずかしかったので、用意されていたクロワッサンをむしゃむしゃと頬張って、ふたりを意識の外に追いやる。


「まあ、緊張していようと何だろうと、予定は変わらない。この後ここを出立して学院への到着は明日の夕方だ。大した距離ではない上に王都からも近いから、治安も悪くない。緊張するほことはない」

「あなた。おそらく、カオリさんはそこに緊張しているのではなくて、ずっと公爵家の中で育ってきたから、初めて外の世界に接するということで緊張しているのよ」


 優しく微笑みかけてくれる母親。緊張している娘を慮っているのだと思う。まあ、私の頭の中はこの夢はいつ終わるのかという疑問で埋まっている。ふたりの会話なんて頭に入ってきていない。だから、どんな流れで微笑みかけてくれているのかも分からないので、適当に笑顔を貼り付けて頷いておく。

 母親と視線が交差した。あの目は多分「話聞いてた?」という疑いの目だ。まあ、聞いてないものは聞いていないので私はそっぽを向く。


「まあ、いいです。カオリ。気をつけなさい。道中なにがあるのかわからないのだから」


 母親の意味深なセリフを最後に食事は終わった。

 実際道中ではいろいろと起きるのだけど、まあ、どうにかなるか。

 その後、私は軽い気持ちで家を発った。


 ……というか本当にいつ夢から覚めるんだ?


読んでいただきありがとうございます、水雪です!


ルビの振り方覚えました! やった


次回もよろしくお願いします。

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