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プロローグ

 町が燃えていた。

 町の中央の道は火から逃げる人々あふれていた。それらを縫うように、相棒の白馬を火元の建物へ走らせる。多分俺が探してる女の子はそのあたりにいるから。


 そもそも、この火事は本来のシナリオとは違う。本来は一人の女の子を森の中で暗殺するというだけのものだったはず。しかし、予定とは違う動きを女の子がしたために、その子は町で襲われることになったのだ。でも、普通一人の女の子のためだけに町一つを燃やすか?

 しかし現に町に火がついているのだ、せめてその女の子だけは助けないと。

 そうしないと、物語は最悪の結末を迎える。

 相棒が俺を心配するように小さく鳴いた。この馬と俺は一心同体。俺の焦りが伝わったのだろう。俺は相棒を落ち着かせるために、首のあたりを撫でてやる。

 

 前を見る、倒壊して燃えている建物が道をふさいでいた。これはおそらく、自然とそうなった物ではない。目的の女の子を逃がさないため、そして助けを来させない為にそうしたのだろう。

 しかし、俺と相棒には関係ない。俺が何も指示をしなくとも相棒は当たり前のようにその燃えている障害を飛び越えていった。そして軽々着地する。

 着地した先には同い年くらいの女の子と、その子に剣を向けている人影があった。

 相棒がその人影を文字通り蹴散らして、女の子の前に止まった。俺は馬の上から女の子に手を差し出す。

 

「助けに来ましたよ。お嬢様」


 シナリオ通りのセリフを言った。

 女の子は目を見開いていて驚きを露わにした。


「……翔?」


 俺の名前を呟く女の子。その顔が星明りに照らされた。短く切りそろえられたボブカット。その艶やかな黒色と、同じ色の瞳。俺が探していた女の子とは違うが、昔から知っている顔だ。


「香織?」

  

 俺は確かめるように幼馴染の名前を口に出した。




 目が覚めたのは午後7時。

 最愛の曜日である土曜日を、12時間の惰眠に費やしたことへの後悔が身体を起すの億劫にする。

 だけどもう一度寝られる気はしないので、ゆっくりと身体を起して洗面台へ向かった。

 鏡に映る自分の姿を確認した。生気のこもっていない目。その下にはクマがあり、到底華の高校二年生とは思えない。しかし、短く切りそろえられた黒髪はサラサラで寝ぐせの一つもなく、そこだけは完璧だった。何年も手入れを怠らなかった成果だ。肌、特に目元なんかほんの一週間手入れをサボって不規則な生活を送っただけで崩壊するのに、髪だけはしばらく持ってくれている。

 顔に水をぶっかけて、拭くだけの洗顔を終えてリビングへ向かう。

 すでに食卓には夕飯の準備が殆ど終わっており、兄と妹が既にテーブルについていた。


「おねーちゃん遅い」


 二つ下の妹、詩織の小言を聞き流して、自分の席に座った。

 どこかに出かけていたのだろうか、完全に外行の服装で、肩まである黒髪もハーフアップにしてまとめてある。

 さすがは中学生、元気だわ。休日ぐらい家でゆっくりしてればいいのに。


「ぐっすり眠れた?」


 三つ上の兄が優しくそう聞いて来る。絶対違う遺伝子を持っているだろと、言いたくなるような超美形。金髪だけど、清潔感のある長髪は私以上にさらさらしていて、おまけにいつも穏やかな完璧超人。

 早く結婚でもして出てけばいいのに、って本気で思う。

 こっちも無視して、ふと思った。誰がこの食事を準備しているのか。土曜日のこの時間、両親は二人でデートをするのがお決まりだ。だから、兄弟内で準備をするのだけど、兄も妹も机についていて、食事を用意した感じはない。

 私はキッチンを覗き込んだ。


「あ、おはよう。香織にもこんな怠惰な日があるんだね」


 キッチンの奥から幼馴染の松戸翔がお皿をもって出てきた。高校に入ってから染めた茶色の髪は既に様になっていて、小さい頃から変わらずにる右目の涙ほくろはひそかな私のお気に入り。

 ふと一週間前に見た光景がフラッシュバックした。

 少し背の低めの女の子と一緒に歩く翔の後ろ姿。

 翔に妹はいないので、間違いなく彼女かそれに準ずるだれかだ。翌日に「好きな人いる?」という私の質問にも少し照れながら「いる」と答えた時、私の恋は終わったのだ。

 こんな怠惰な日も何も、お前のせいでここ一週間乙女げーに浸ってたんだよ、と言ってやりたい。いや、絶対言えない。


「何でお前がここに」

 

 代わりに私の口から出た言葉は、いくら傷心中とはいえ、想い人に対する言葉遣いではなかった。

 そのせいか少し困った顔を見せる翔。それを庇うように詩織が口を挟んだ。


「いやいや、今日の料理当番おねーちゃんなのになかなか起きてこなくて、って翔君にいったら、わざわざ料理を作ってくれたんだよ」

「詩織ちゃん良いよ。そのおかげで、珍しい香織を見れたんだから」


 この世で一番見せたくない相手だったけどね。口に出すのも面倒だったので目線でそれを伝える。

 翔は少しビクッとしていたが、それを隠すように平然と席に座った。

 

「なぜ私の隣に座る。そこは本来母親の場所だ」

「気まぐれ? こっちの方がおかず取りやすそうだし」


 翔から身体をのけぞらせて距離を作る。昨日の夜にシャワーを浴びてから12時間も寝ていたのだ、絶対私の臭うだろ。臭いとか思われたら死んでも良い。


「え? そんなに俺が隣は嫌?」


 別に嫌というわけじゃないんだけど、自分が臭いからなんて口が裂けても言えないし。


「お母さんの席が穢れる」


 ふう、どうにか良い訳を思いついた。翔は何も言わずに移動した。

 なんか兄妹からの視線が痛い。


「翔君ごめんね。お姉ちゃんがこんなんで」

「翔、いくらお隣さんとはいえ、よくこんなのとまだ付き合ってられるよな。辛かったら言えよ。追い出すから」


 すぐさま、兄妹のフォローが入った。いや、ここ香織んちだから。


「あはは。普段はもっと大人しいのに、今日がちょっと荒れているだけで」


 なんだその大人な対応は、これじゃあ私が子供みたいじゃないか。


「……いただきます!」


 無理やり話を変えるための言葉。これをいうと周りもおなじ言葉を復唱しなくてはならない呪いの言葉だ。呪いの効果により、三人は手を合わせて「いただきます」と声も合わせた。

 なんか翔の奴私よりのこの家になじんでない?

 これ以上会話を続けても変なぼろが出てしまいそうだったので、私はテレビをつけた。これなら、会話が発生したとしても、テレビの話題になる。私個人の話題にはならないだろう。

 テレビがついたタイミングでCMが切り替り、乙女ゲームのCMに入った。軽快な音楽にのせて、男性声優さんの甘い声が次々と流れる。


『愛してる。僕が伝えたかったのはこれだけだよ』

『約束しただろ。なにがあっても絶対に守ると』

『天下統一よりも大事な者があるって気が付いたんだ。それは君さ』


 お茶の間が微妙な雰囲気に飲まれた。だからと言ってチャンネルを変えるのも、意識しているように見えて癪に触るし、今更変えても遅い。

 しかしその微妙な雰囲気を破る為にか妹が口を開いた。


「これってお姉ちゃんが最近やってる奴?」


 ぶっふぉ、思わず口の中のものを吐き出しそうになる。やばい、翔からの視線も痛い。てか翔の方を見えない。いま、なんて思われているのだろうか。いや、そうじゃなくて否定しないと。


「違う違う。私がやってるのはこれじゃないよ」

「へー、じゃあどんなゲームしてるの?」


 翔が興味津々といった風に聞いてきた。

 私のバカ! 否定するのならもっと根本的なところから否定しなさいよ!


「あ、えーっと。何だっけ。題名忘れちゃった」


 あははー、とお茶を濁した。私がやってる奴にはR18という文字がつきます。絶対に言えません。


「翔も昔からゲーム好きだったよね。今は何かやってるの?」


 兄が話題をそらしてくれた。ナイス。


「あーそうですね。今はRPGを少し」


 翔が少し言いにくそうなのは、万人受けする様なものでは無いということだろうか。詰めてやる。


「へー、それってどんな感じの?」

「えーっと、途中で仲間にするキャラ次第でシナリオが変わる珍しい奴だよ」

「へー。なんかギャルゲーみたいな感じなんだね」


 翔が少しギクッとしていた。

 もしかしてエッチー感じの奴かな。高校生だもんね仕方ないよね。良しもっと詰問しよう。

 しかし、私がどう責めてやろうか考えている家に妹が先に言葉を発した。


「お姉ちゃん意外とそういうゲーム詳しいんだね。ぎゃるげー? ってどんなの?」


 ああ、このままだと、無垢な女子中学生の言葉のせいで私がカウンターダメージをくらう。恐ろしき女子中学生。

 しかし、これも兄がさらりとかわしてくれた。


「恋愛要素があるシナリオゲームだよ。あんまりメジャーなジャンルじゃないから、詩織は知らないか」


 へーと興味なさそうな返事をする妹。

 この後は変な話題になることもなく、夕飯が終わった。翔はそのまま家に帰ることになった。


「おねーちゃん。翔君を送っていきなよ。もう暗いし」


 妹がまたそんなことをのたまった。


「いやいや、逆でしょ。というより、お隣なんだから送るも何もないわ」

「ついでにコンビニ行ってお菓子買ってきて。新発売のあれ」

「あれってなによ。てか、いかないから」

「あれだよ、あの、レンジで温めてから食べるアイスクリーム」

「……なにそれ気になる」


 ふと、翔と目線が合った。翔は小さく頷いてくれた。多分一緒に行ってくれるという意思表示。


「いいよ、俺もそのアイス気になるし」


 そうと決まれば話は早かった。兄の財布を奪って翔と一緒に家を出た。二人並んで夜道を歩く。既に周りは真っ暗になっていた。


「ねえ、さっき翔がやってるって言ってたゲームってもしかして大人限定の奴とか?」


 あえて感傷的な気分にならないような話題を選んだ。まあ、そういう気分になりたくないというより、ちょっとこいつの反応を楽しみたい。


「え? あ、いやなんというか……」

「別に気にしないけど、もうちょっと上手なごまかし方あるんじゃない?」

「と、突然そんなこと言われたらこんな反応になるって」

「ふーん。じゃあ、ゲームの題名教えてよ」

「……ブレイブリー・ラヴァーズ」


 

 私はその言葉をすぐさまスマホで調べた。翔はものすごい勢いでその邪魔をしてきたが、全力で躱す。ちょっと楽しかった。


「ほえー、なんかここにR18という文字があるんだけど?」

「くっ、殺せ」

「へー、でも湯葉ソフトのゲームなんだ。ここのゲームならいまやって……」


 ……あ、しまった。湯葉ソフトはR18のゲーム専門の会社。ここのゲームをやっているというのはすなわち、私もそういったゲームをやっていることがばれて。


「あー、あの翔?」


 翔のにたぁという笑顔が街灯に照らされた。


「そういえばさっき、最近はまってるゲームがあるって行ってたよね?」

「いや、それは……」

「乙女ゲーって18禁のものもたくさんあるよね?」

「くっ、殺せ」


 なんという屈辱。これではさっきと立場が逆ではないか。


「なあ、香織ごまかすの下手過ぎない?」

「おまえがいうなああ!!」


 顔を真っ赤に染めてそう叫んだ。

 



「ただいまー」


 家に帰るとすぐにシャワーを浴びて心を落ち着かせた。そして先ほど買ったアイスを手に一人自分の部屋にこもった。乙女ゲームをやって、跳ねる心を落ち着かせたい。


 何時間立っただろうか、どんなに面白いゲームでも何時間もやっていれば、次第に眠くなってくる。

 私はその睡魔に抗うことなく眠りに落ちた。


 読んでいただきありがとうございます。


 異世界は次の話から、期待していただけると嬉しいです

 毎日投稿の予定。よろしくおねがいします!


 ……少し硬いかな。

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