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第七話 死闘! 東京大決戦!!

「……これ以上は……これはあまりにも非人道的な……」

悩んでいるのか。ならば、その悩みの種を取ってやろう。

「お前達」

今日はこれを出しに来たのだ

「『辞表』……?」

おおよ。我等閣僚47名! 只今を以て内閣を辞職致す!

「どうして、一体何を」

そして、マヤ機関の制御たる『脳管ブレイン・ユニット』への異動を要望す!

「なっ、言っている意味が、自分達が何を言っているのか、分かっているのか!?」

当然。総理たる君が命を賭けているのだ。我々が続かんでどうする。

「もう人間として生きられんぞ……いや、生きていると言っていいのかも……それでも……お前達は、仲間に……友に死ねと、私に言えというのか……?」

そうだ。久瀬よ。君は優しすぎる。この混迷の未来を切り開くのは、一見非情とすら思える強き意志だけ。君にはそれが足りないのだ。この非常時。手駒の命に情けなど掛ける必要はない。

「うっ……うぐっ……」

今は、それでいい。だが、今後君に涙を流すことは許されん。君は我々47人の命を背負って生きていくのだからな。だから進め、久瀬よ。自分の信じた道を。


 久瀬。自身が御子となれなかった時、この言葉が呪いとなって君を壊してしまったのだな。だから、我々だけは肯定してやらなきゃならん。その狂気は必要なものであった、と。



第七話 死闘! 東京大決戦!!


「グオォォォ!!」


 終末の獣は顔面の修復もそこそこに、いななきと共に首を振るい、自身の額に生える黒曜石のナイフの如き巨大な角を振り回す。

 マガツシュラは大きく飛びのくが、角はいとも容易く胸部装甲を抉り取っていった。


<正面から戦うのは得策ではないぞ>

「そうみてぇだな、なら!」


 マガツシュラ内部、大牙はトツカノツルギを掲げ『太陽』へと念を送る。

 巨人の紫の瞳が輝き、驚異的な運動性能で終末の獣の背後へと走り込んだ。


「機動力で上回る!」

<避けよ! 小童!>

「何ッ!?」


 しかし、その動きは再生を終えた四対の目によって捉えられていた。マガツシュラの移動先を狙い澄まし、巨獣が二又に分かれた尾を槍の如く伸ばしてきていたのだ。

 マガツシュラは身をよじり、間一髪で尾の槍を躱す。今度は脇腹の装甲が抉られた。一つ、二つと後方へジャンプし、巨人は巨獣との距離を取った。


「前も後ろも駄目ってか」

<遠距離攻撃に切り替えよ!>

「わぁってらぁ!」


 統一人格に言われるまでもない、とばかりに大牙はぶっきらぼうに答えて剣を肩で担ぐようにして構える。刀身の赤き輝きが一際強くなった。

 その時、終末の獣が砕き散らした瓦礫が渦巻き、マガツシュラの背後に一つの形象を作り上げていく。

出来上がったのは、直径20mを超えようかという巨大なる法輪。


焼断しょうだんしろ、『荼毘だびの輪』!」


 マガツシュラが法輪のスポーク部分を掴むと、外輪から炎が噴出する。

 いや、炎ではない。刃。超念の刃なり。


「死ぃねぇぇぇ!!!」


 大牙の咆哮と共に、マガツシュラは腕を振るった。

 投げられた法輪は超高速回転し、丸鋸まるのこの様相で敵へと一直線に飛んでいく。


「グォォォ!!」


 迎撃せんと二又の尾を振るう終末の獣。超念刃纏う『荼毘の輪』は尾を難なく斬り飛ばす。が、飛行軌道がずれ、本体にはかすりもせずに後逸してしまう。

 大牙はニヤリと笑みを浮かべた。


 あなどるな、超念の力!


 突き出した左手で印を結ぶ。人差し指と中指だけ立て、残りは折りたたむ恰好。

 すると、後逸したはずの『荼毘の輪』が、急旋回。


「もらったぁッ!」


 再度、終末の獣へと襲い掛かった。

 獣の尾の断面はブクブクと泡立ち今にも再生せんとしている。驚異的な再生能力と言えるが、流石に間髪入れずに飛来してきた法輪の防御には間に合わない。


 だが。


 戦場に響く、硬い岩盤を削るかのような切削音。

 本来ならば、終末の獣の横っ腹を切り裂き、内臓をぐちゃぐちゃにかき回す致命の一撃のはずだった。にも関わらず、法輪の一撃は獣の黒光りする皮膚の表層で止められてしまっていた。やがて回転が止まり、『荼毘の輪』は砕け散る。大牙は驚愕した。


「なっ」

<見よ! アヤツの頭を! 角がいつの間にやら引っ込んでおるわ!>

「角を取り込んで体を硬質化させたってのかよ!?」

<意外と芸達者な奴よのぉ>

「チッ関心してる場合か!」


 どうする? あの硬質化した皮膚には超念刃すら通じない。もっと、もっと強い武器が必要だ。

 焦る大牙に追い打ちをかけるように、統一人格が騒ぎ出した。


<小童! まずいぞ! 変態しておる!>

「何を……嘘だろ……」


 統一人格が何を騒いでいるか、最初は分からなかった。だが、すぐに大牙にも分かるほどの目に見える変化があった。

 角があった部分から、終末の獣の顔が縦に裂けたのだ。そして、その裂け目から巨大エイリアンの上半身がぞるりと現れた。


 なんと醜悪な人馬ケンタウロスであろうか。


 まるでキリストのように歪な両腕を広げた終末の人馬は、マガツシュラに向けて突進を始めた。



「なんという化け物だ……!」


 久瀬総理が巨大モニターを歯がゆそうに見守る。

 モニターでは肉体強度とリーチで圧倒する終末の人馬が、マガツシュラを攻め立てている。マガツシュラは攻撃を避けるのに手いっぱいで、反撃の糸口すら掴めていない。


 日本の全てを捧げて、この終末すら超えられぬというのか。

 ならば何を、これ以上何を捧げればいい。


 久瀬総理が左拳を握りしめる。

 拳の隙間から、血が滴り落ちた。


「……まだ、あるではないか」


 久瀬総理は顔を上げ、隣で口をあんぐりと開けてモニターに見入る力道に声をかける。


「ありったけのドローン兵器を出せ。あの者を援護する」

「で、ですが、あの程度の兵器では」

「いいから出せ!!」

「は、ハッ!」


 気迫に押された力道は慌てて敬礼をすると、全力で基地の奥へと走って行った。



 終末の人馬の上背はマガツシュラを圧倒的に上回っていた。必然、攻撃は全て上から降り注ぐように振るわれる。威力たるや凄まじく、歪な長い腕を振り回す度に大地が抉れ、巨大な瓦礫が軽々と宙に舞った。その様子は子供が竹箒たけぼうきを振り回して落ち葉を無邪気に散らすのにも似ている。


<小童! 逃げているだけではどうにもならんぞ!>

「うっせぇ!」


 小うるさい統一人格を適当にあしらいながら、終末の人馬による苛烈な攻撃を躱すことに大牙は集中する。力もリーチの差も絶望的、近寄ることも困難。唯一少しばかり勝るは運動性能か。正に防戦一方。

このままではいずれやられる。

 大牙の額に汗が浮かぶ。

 武器だ、武器がいる……

 だが、周囲にあるのは瓦礫ばかり。『荼毘の輪』を超えるものは簡単には作り出せそうにない。それに、瓦礫からでは硬質化皮膚に通用するものが出来るかどうか……

 負けるのか。俺が負ければ……


 脳裏に浮かぶ、壊滅した港区の光景。


 瞬間、閃く。


「……『アレ』なら」

<反撃手段を見つけたか!>

「あぁ、ただ……」


 マガツシュラは屈んで終末の人馬の攻撃を紙一重で躱す。


「逃がしてくれりゃ、だ!」


 相手の猛攻を掻い潜って、『あそこ』までいければ。だが、それを許してくれるような相手ではない。

 大牙が歯噛みした時。


 終末の人馬の横っ面で、小規模な爆発が起きた。



 爆弾を抱えたドローン兵器が次々と終末の人馬に向けて突っ込んでいく。

 まるで、クラッカーのように頼りない爆発が次々と人馬の顔周辺で巻き起こる。

 少しでも気が引ければ御の字というものだが、やはりというべきか、終末の人馬はまるで気にも留めずに攻撃を続けている。

 久瀬総理はドローン群の一見意味の無い攻撃を無表情で見下ろしていた。

 見下ろす?

 そう。今、彼がいるのは基地内部ではない。

 空。

 空にいるのだ。

 終末の人馬の上空を飛ぶドローンの一つ。その上に久瀬総理は仁王立ちしていた。

 総理はカッと目を見開くと、ドローン上からダイブする。

 パラシュートなど装着していない久瀬総理は終末の人馬の頭上を自由落下。


 幸運にも拾ったこの命! 燃やし尽くすは今!!


 久瀬総理は左手を右目に突っ込み、力任せに眼球を摘出した。



 人為的な方法で手に入る『超念力』は、とても弱い。

 鉄パイプを曲げる程度がせいぜい。とても強靭なエイリアンとは戦うレベルに無い。

 だから、力を溜める。

 普段は発生する力を体に埋め込んだエネルギー変換器に溜め込み、必要な時にだけ一気に放出するのだ。


 久瀬総理が力を溜めた期間、実に八年。


 一時は『進化した人類』たる大牙さえ圧倒する超念力を発揮できたのは、このため。

 だが、一度に放出できる力は目の位置に埋め込まれている制御装置において制限されている。あまりにも度を超した出力は人の身では到底耐えられないからだ。

 ならば、制御を外せば。


 燃やし尽くすは、今。



 最初に気付いたのは統一人格であった。


<アヤツ!? 何故ここにいる!?>

「何?」


 続いて、大牙も終末の人馬の頭上にいる人影を確認した。


「野郎! 久瀬ぇぇぇ!!!」



 久瀬総理は抉り出した眼球……超念力制御装置たる義眼を握り潰して拳をつくる。

 左腕に埋め込まれた変換器が赤熱し発光。周囲の肉が焦げだした。

 しかし、そんなことはどうでもよかった。


 わかるか? 自分の無力さが分かった時の絶望が。

 わかるか? どう足掻いてもこの国を救えぬと分かった時の絶望が。

 わかるか? 『人類』ならば救えるかも知れぬと分かった時の絶望が。

 わかるまい! 汚らわしい獣の貴様には!!


 久瀬総理は加速する。


「うぉぉぉぉぉ!!!」


 咆哮と共に体が赤いオーラに包まれ、彼は赤光の矢と化す。

 見向きもしない灰色の巨大な瞳に向け、総理は拳を突き出し突っ込んでいった。


 ただの人間の、八年に渡る絶望の重み! しかと受け取れ!


 拳が瞳に突き刺さり、緑の体液を蒸発させながら久瀬総理は突き進む。

 同時に、力の反動か。その拳の先は炭化し、灰と消えていっていた。



「ギェェェェ!!」


 赤き矢に両目を貫かれた終末の人馬は悶えるように手を振り回す。完全に敵を見失っているようだ。

 だが、それも束の間のこと。数瞬後には完全に再生してしまうことだろう。

 ならば、久瀬の行動は意味の無いことだったのか。


 違う。

 この数瞬が、必要だった。


 マガツシュラは攻撃の手が緩んだと同時に、踵を返して脱兎の如く走る。

 右腕は『あるモノ』の方向へと真っすぐに伸ばされていた。


 『あるモノ』。それは……倒壊した『東京タワー』。


 東京タワーは小さく震え出す。

 震えはマガツシュラが近づくほどの異様なほど大きく早くなる。やがて、異常振動に耐えきれなくなった部分から崩れ出した。

 バラバラに崩れていく東京タワー。しかし、それは崩れ『落ちる』ではない。


 分解した東京タワーの破片はことごとく、マガツシュラへと向かって飛んでいたからだ。

 まるで、射られた千本の矢の如く。



 マガツシュラ内部。

 大牙はトツカノツルギを両手持ちで掲げ、額に青筋を浮かべていた。


 今の大牙には、終末の人馬のことも、久瀬のことも、頭に無い。

 マガツシュラのほぼ全ての制御すら、一時的に統一人格へと任せていた。

 自分がやろうとしていることに全神経を集中させる必要があったのだ。


「ノウマクサンマンダ バザラダン センダン マカロシャダ……」


 唱えしは不動明王への真言マントラ。煩悩を叩き伏せる憤怒ふんぬの仏。

 唱えるほどに大牙の体に刻まれた紋様が、見開かれた瞳が、逆立つ赤髪が、剣の刀身が、強く、強く輝いていった。



 マガツシュラの元へと集まった東京タワーの破片は、その右腕を飲み込むような形で巨大な紅白球状物体を形成していた。

 マガツシュラはもう身動きが取れず、項垂れるようにして静かに佇んでいる。


 背後からの地響き。

 傷を再生させた終末の人馬が追い付いてきたのだ。


ノウマクサンマンダ バザラダン センダン


 終末の人馬は歪な腕を振り上げる。


センダン マカロシャダ ソワタヤ


 紅白球状物質が聞いたことも無いようなおぞましい音を立てて、『しぼむ』。


ウンタラタ カンマン!


 歪な腕がまるで無防備なマガツシュラの背中を切り裂かんと振り下ろされたその時、マガツシュラの眼窩が紫色に強く輝いた。


 大気が揺れた。数瞬後、爆音が轟いた。


 人馬と巨人は相対していた。

 人馬と巨人はどちらも右腕を振るった体勢となっていた。

 人馬の歪な腕は、振るった方とは逆の向きへと折れ曲がっている。

 巨人の右腕は、小手のような赤き装甲を新たに纏っている。

 人馬の折れた腕から、緑の体液が噴き出す。

 巨人の右手には、長大な細い棍棒が握られている。


 巨人は右手の棍棒を真一文字に構えると、左手を這わせるようにして、棍棒を撫でた。

 すると、棍棒は撫でられた部分から火花を散らして『剣』の形状へと変貌していく。

 出来上がったのは紅白まだらの直剣。


 名は、『宝剣・アヅマ』。


【死闘! 東京大決戦!! 終わり】

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