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第四話 出現! 終末の獣!!

 そこらにいるミミズは何を食べるのか知っているかね?

 そう、土だ。その中の有機物や微生物などを消化し、余った土を糞として出す。一般的には土を食って土を出すのがミミズという生き物だといえる。

 それを踏まえた上で質問しよう。

 落ち葉だけを入れた虫かごの中に、ミミズを一匹入れたらどうなると思う?

 死ぬ。正解だ。

 食料である土が無いのだから当然といえる。

 さて、この条件を大規模にして、数十万匹で実験をした者がいた。まぁ私のことだが。

 結果はどうなったと思う?

 何と、数匹だけ生き残ったのだよ。

 その数匹は、『落ち葉』をそのまま食料とすることに成功していた。

 これは奄美大島などの沖縄にのみ生息する固有種、『ヤンバルオオフトミミズ』などの極一部の種にしか見られない特徴だ。

 ……何? 既にそういう種がいるのなら『適応』するものがわずかにいてもおかしくない?

 馬鹿を言ってはいけない。

 ヤンバルオオフトミミズの『落ち葉を食料にする』という特徴は、葉が堅く腐りにくい照葉樹が多く、食料が慢性的に少ない土地で生き抜くために、何千世代と少しずつ『進化』を重ねた結果なのだ。

 それを、実験で生き残ったミミズはわずか数十日で得た。そう考えると、どれだけ大変なことが起こったかわかるだろう?

 言わば『一世代での超進化』。

 この実験だけではない。嗅覚による狩りが出来る奄美オオウナギ……生殖能力を有すゴマフグ、ショウサイフグの交雑種……ほとんど世代を重ねずに、前例の無かった進化を遂げた例というのは、自然界の中にも実際に存在する。

 わかるかね? 生物というものは極ストレス下……例えば死……の環境にさらされると、考えられぬような変貌を短期で遂げるものが、極稀に現れるのだよ。



第四話 出現! 終末のけだもの!!


 ほのかに赤く染まった逆立つ髪。

 空間を割るように断続的に周囲を走る赤き稲妻。

 発せられる凄まじい気迫。

 正に怒人。怒りが具現化したような男。


 久瀬総理はクレーターに向かって興奮に叫ぶ。


「さぁ! お前の力を見せてみろ!」


 応じるように、怒人……大牙が一歩踏み出した。


 消え……


 頬に凄まじい衝撃が加わり、久瀬総理の視界が歪む。

大牙が一歩踏み出した後、消えたと錯覚するほどのスピードで自分の真横まで移動し、無防備な横っ面をぶん殴った。

 そう理解できたのは、殴られた衝撃で吹き飛び、首相官邸残骸の壁へとめり込んだ後であった。



 久瀬を吹っ飛ばした大牙は拳を開き、力を確かめるように握り直した。赤い小さな稲妻が拳の周囲に浮かび、明滅しながら消えていく。


 勝てる。


 漲る確信。


「ぬおぉぉぉぉッ!」


 瓦礫を吹き飛ばし、久瀬が雄叫びを上げた。震える大気。上半身が脈動し、体格が一回り大きくなった。


「まだだ、まだ私は死んでないぞぉッ!」


 久瀬が言い終わる前に、大牙はその懐へと飛び込む。

 合わせるように放たれる久瀬の拳。

 大牙は腕を鋭く振るう。

 パン、と音を立てて、久瀬の右前腕が消失した。

 ほぼ同時、大牙の拳が久瀬の腹筋へとめり込む。

 ごぼ、と大量の血を吐き、久瀬は膝をついた。見下ろす大牙。

 あっけない決着。

 沈黙が続く。

 先に口を開いたのは、久瀬だった。


「どうした。なぜ殺さん」

「……気に食わねぇな」


 赤き稲妻を纏う大牙は眉間に皺を寄せ、凄まじい形相で久瀬を睨みつけている。


「今のテメェにあるのは怒りでも憎しみでも恐怖でもねぇ。安堵と満足感だけだ」

「他者の感情すら見抜けるようになったか……流石だな」


 久瀬の言う通り、今の大牙は近くの者の感情を感じ取ることが出来る。突如芽生えた力ではあるが、不思議と混乱や困惑は無かった。


「気に食わねぇんだよ。この国を地獄にしておいて、勝手に満足して死ぬなんてよ。納得できねぇって俺に流れる怒りが叫ぶんだよ。テメェは何を考えてやがる! 狙いは一体なんだってんだ!?」

「それを聞いたところで、後悔するだけだ」

「いいから答えろ!」


 語気を荒げる大牙に、久瀬は顔を上げる。


「……ふ、遅かれ早かれか。よかろう」


 その表情は穏やかであった。


「結論から言う。全ては……『君という存在を生み出す』ためにやったことだ」

「俺を、生み出すため……だと?」


 大牙は驚愕に目を見開く。

 嘘をつくな、と叫びたかった。だが、出来なかった。

 なぜなら、目の前の男は真実を語っていると、どうしようもなくわかってしまうから……



 地球外生命体が敵性であると発表されたのは8年前。NASAの情報が初出だ。

 だが、それよりも遥かに昔から各国の政府は極秘にエイリアンとの戦いを行っていた。

 7日前に発表された『終末の日』も、遡れば50年以上前には分かっていたのだ。

 『終末の日』を超えるため、各国は心血を注いで兵器の開発に没頭した。

 筆頭は地球外生命体が残した『未確認飛行物体』の技術を解析し、それを応用した兵器……『オメガ』もその一つ……だ。

 ただ、日本は『敵対勢力に与えられた技術の先には未来無し』との考えの元、独自の路線での研究を平行して行うことになる。


 魂の力の具現化。我々は『超念力ちょうねんりょく』と呼ぶ。


 研究は進み、施術による人工での能力発現が可能となった。私の力が、正にそれだ。

だが、足りなかった。

 『終末の日』を超えるためには、これでは足りなかったのだ。

 人の手で作り出すことの出来た『まがい物』では、たかが知れていたのだ。

 だから、私は『選択』した。

 日本を疑似的な『終末』状態に置いて、それを覆す力を持った人間の出現を待とう、と。

 『極ストレス下における一世代での超進化』。それに期待した。

 『まがい物』ではなく『本物』の進化を遂げた人間。

 そう。私は『本物が現れること』に賭けたのだ。『日本国民全ての命』を勝手に、な。

 そして、私はその賭けに勝った。

 だから、私はもう、全ての役目を終えている。

 君が私を超えた時に全て、な。



 話を聞いた大牙は自身の顔を手で覆い、一歩、二歩と後ろによろめく。


「おい、待て、じゃあ、それじゃあ」


 自分の足元が崩れるような感覚。


「この惨状は……何千万という犠牲者は……唯は……あの子は……」


 大牙は立っていられなくなり、遂に膝をついてしまう。


「俺の、せいで……?」

「結果的にはそうなる。たまたま君であった、というだけだが」

「嘘だ……そんな、なんで……」


 がっくりと項垂れる大牙。震える拳を振り上げ、地面に振り下ろす。

 一度。二度三度四度。

 拳は血まみれになっている。久瀬を圧倒した破壊力は見る影もない。

 大牙は歯を食いしばり、久瀬を睨みつけた。ただ、瞳からは既に怒りは消え失せ、捨てられた子犬のように縋りつく、憐れな必死さが残るだけだ。


「まだだ……! まだ、全部じゃねぇ!」

「『終末』、か」

「そうだ! 何故そこまでして俺が必要だった!? 今日、一体何が起きる!?」


 久瀬は空を見上げしばし考え込んでから、口を開いた。


「それは私の口から説明するより、自分の目で見た方が早い」


 そう言いながら左手をスラックスのポケットに入れる。

 すると、大きな音を立てて首相官邸を覆っていた高い壁が下がり始め、やがてはすっかり地面へと収納された。

 様子を怪訝に見ていた大牙がハッとする。


「まさか!」


 久瀬はゆっくりと頷いた。


「時間だ」


 瞬間、大地が大きく揺れ、おぞましい雄叫びが天地に響き渡った。



 港区。廃ビル群が立ち並ぶ廃オフィス街。

 かつては日本の中心であった街。今では経済活動の停止に伴い、人通りは無くなり、無用の長物となった建物群がガランとあるだけだ。

 所々からぼそぼそと感情の無いか細い声が聞こえてくる。行き場を失い廃ビルに棲みついた人々が救世の祈りを捧げているのだろうか。


 突如、区全体が大きく揺れた。


 次に、一部の廃ビルが続々と傾いてゆく。地震による倒壊だろうか?

 否。

 ビル群は『ある場所』を中心に波が広がるように外向きに倒壊している。

 東京タワー東……元区役所施設の辺り……平地であるはずのそこが、地殻変動が起きたかの如く、異様にアスファルトが盛り上がり、山のようになっていた。

 ……なっていた、ではない。

 今なおアスファルトは盛り上がり続けている。

 遂には限界に達したか、アスファルトの山が巨大な悲鳴を上げながら頂点から割れ、大地が十字に裂けた。


 象を何十倍にもしたような巨大な足だった。

 頭に巨大な黒曜石のナイフのような角が突き出ていた。

 四対の黄色い目がギョロギョロと周囲を乱雑に見回した。

 振り下ろされた二又に別れた尾は倒壊しているビルを粉砕した。


 大地からでた異物は冒涜的な産声を上げた。



 自分の目に映るあまりにも破滅的な光景に、大牙は恐れおののいた。


「な、なんだよ、ありゃぁ……」


 信じられぬ。数km先だというのに、存在感を放つ圧倒的巨体。体高だけでも3、40mはありそうだ。全長というなら100mに届くかもしれない。

 今までエイリアンは何十と潰してきた。

 今ならば、何百のエイリアンだろうが物の数ではなかろう。

 だが、あの、『アレ』は、次元が違う。

 大牙の額から冷や汗が噴き出た。


「なんだよ、あのサイの化け物はッ!?」

「犀というのは不適だ」


 ただ、同じ光景を見ているはずの久瀬は顔色一つ変えていない。

 まるで、この光景は日常の一部、とでも言わんばかりだ。


「あれは外なる世界より来たもの。地球上のどの生物にも属さず、類するものもない。敢えて名をつけるのであれば」


 久瀬は目を閉じた。


「『終末のけだもの』とでも言うべきか」


【出現! 終末のけだもの!! 終わり】

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