第三話 衝撃! 明かされる真実!!
6年前。
首相官邸。総理執務室に設置された品の良いクラシックな黒電話が鳴る。
鳴っているのはただの電話ではない。各国首脳陣としか繋がらないエマージェンシーホットライン。
久瀬総理は受話器を取った。
「ミョーオー! お前の国は一体どうなっている!? 何故、私に助けを求めん!?」
取った途端に口早に畳み掛けてきたのは、久瀬が総理となった頃、同時期にU・S・A大統領となった盟友とも言える相手。ジョージ・バリトンであった。
「お前とは半年前に袂を分かったはずだ」
「そんなこと関係あるか! 友のピンチを助けん理由にはならん! いいか、お前は一言『助けてくれ』とだけ言えばいいのだ!」
「ありがとう、ジョージ」
久瀬は大きく息を吸い、吐いた。
「だが、無用だ」
「なぜだ!?」
「『これ』は私がした『選択』だ。手出しは無二の友でも許さん」
「ミョーオー……何を考えている……?」
「これより、この電話すら不通となる。以降、我が国は完全なる『鎖国』状態に移行すると、お前にだけは宣言しておこう」
「ミョーオー!!」
ジョージの必死の声に、久瀬は口角を上げる。
友よ。私はお前に心配される資格など、もう無いのだ。
「お前は、お前の信じる道を行け。安心しろ。世界を救う、その気持ちには何も変わりはない」
「待て! 話は終わ」
受話器が静かに置かれる。もうそれが鳴ることは、二度となかった。
第三話 衝撃! 明かされる真実!!
文字通りの重圧。上から巨大な手で押しつぶされているような圧倒的力場。
大牙は歯軋りをして、自分へと悠々歩いてくる久瀬を睨みつける。
俺だけのものじゃない? テメェが俺と同じ?
「同じであって、たまるかぁぁー!!」
咆哮と共に、大牙は自分を床に縛り付けていた重圧を跳ねのける。
同時に、両手を鉤状にして腕を広げながら目にも止まらぬ速度で久瀬へと襲い掛かった。
対する久瀬は動揺など微塵も見せず、同じく両腕を広げて大牙を迎える。
衝突
一瞬の無音の後、暴風の如き衝撃波が広がり、閣議室の床・壁に幾筋ものひび割れが走る。
暴風の中心にいるは、がっぷり手四つの超人二人。
超人の一人、久瀬は白眉をひそめた。
「お前の力はそんなものではないだろう」
「て……めぇ……!!」
もう一人の超人、大牙は怒りに震えた。
『ここ』にいる他の連中がどうなろうがもう知るか。
潰す。潰す潰す潰す! こいつだけは!!
大牙が放つ力場が膨れ上がる。力は閣議室の二人がいる場所以外の床を崩落させた。止まらない。壁。天井。首相官邸が崩壊してゆく。しかし、そんな中でも、二人の足場だけは見えない糸で固定されているかのように浮遊していた。
メキメキと音を立て、久瀬の手が潰れはじめる。大牙の力は完全に久瀬を上回っていた。
しかし。
「いいぞ、もっとだ」
久瀬は、笑っていた。
ぞくり。背中に走る悪寒。大牙は恐
「うわぁぁぁぁぁっっっ!!!!?」
大牙は組んでいた手を振り払い、拳を固める。そして、自身の心に芽生えたものを否定するように、目の前の敵をがむしゃらに連打した。
腹、頬、腕、鼻、胸。強烈無比な打撃が無秩序に、だが的確に相手の体を捉える。
激しい攻撃に久瀬の衣服は破れ、ボロボロとなり、上半身の裸体が露わとなる。
その体は、異様であった。
至る所についた手術痕。皮膚の一部は奇妙に変色。更には脇や腕には見たことも無い機械が埋め込まれ不気味に稼動している。
あまりの異形にぎょっとし、大牙の手が一瞬止まる。
その時、久瀬の右目が鈍い赤の光を放った。
*
連打が途切れた隙をついて、久瀬総理は右手を突き出す。その大きな手は大牙の頭を無造作に掴み、ミシミシと締め上げた。
苦痛の悲鳴を上げる大牙に、久瀬総理は首を傾げる。
「どうした? 殺すまでやり切らなければ駄目じゃないか……」
そのまま片腕で悠々と大牙を持ち上げていく。
「もっとも、あの程度では私は殺せんがね」
「がぁぁっ!? はっ離しやがれっ!!」
宙ぶらりんの大牙はもがきながら相手を滅茶苦茶に蹴るが、久瀬総理はビクともしない。もう総理の顔に笑みは無い。代わりにあるのは、落胆であった。
「……こんなものか? まがい物すら倒せんか? 選択の結末がこれか? 私は賭けに負けたのか?」
「てめ、なに、言って、やがる……?」
「いや、まだだ。まだ足りぬだけだッ!」
久瀬総理は感情的に叫ぶと、足場を蹴って上空へと跳び上がった。二人がいなくなった足場は脆くも崩れ去る。
「まだ、私は諦めん!!」
「!?」
総理は宙で逆さになると、大牙を掴んだままの右手を地面に向け、凄まじい速度で垂直降下を始めた。
*
超高度から地面へと直滑降していく二人。
大牙は逃れようともがくが、久瀬の手にガッチリとホールドされ無駄な足掻きに終わる。
背中に堅い……突き抜ける衝撃……胃からこみ上げる……
地面に激突したのだと、圧縮した時間の中で、ゆっくりと大牙は理解する。
直後に何もかもをグチャグチャにする轟音と衝撃で、大牙の思考は途切れた。
……
目を覚ますと、久瀬が自分を見下ろしていた。
「ばけものが……」
そんな言葉が、自然と口をついた。
久瀬は呆れたようにため息をつく。
「やはり、足りない。『終末の日』たる今日を襲撃に『選ぶ』ようでは、という不安が的中したか」
「なに……?」
「大方、君は私を『いつでも殺せる。だが、殺すと歪ながらも穏やかな生活をしていた人々を絶望させることになるのではないか。終末を前にそんなことをする権利が自分にあるのか。だから、人々に情報が伝わらない終末直前に襲撃を決行しよう』と、そんな考えでいたのだろう」
「なんの、こと」
「君の怒りはそんなものか。抑えることが出来てしまうほどの。足りぬ。全く足りぬ」
ぐわんぐわんと頭に久瀬の声が響く。何を言っているのかさっぱり理解できない。
「そういえば……私が日本を地獄にした、と君は言っていたな」
そうだ。テメェが人々から怒りを奪った……反抗の意志を、偽りの救いで騙し取ったんだ……
「それは事実であると認めるが、君の知っていることなど、私がやったことのほんの表層に過ぎん」
は?
「6年半前に突如現れたエイリアンによる都市部襲撃。ほどなく各地で同時多発的に起きた襲撃による1000万規模の大虐殺。それ以降の郊外エリアのエイリアン支配。君がどれに巻き込まれ、その力を『覚醒』させたかは知らぬ」
は?
「君に真実を教えよう。6年半前から端を発する襲撃事件の数々。それを引き起こしたエイリアン共を野に放ったのは」
は? は? は?
「私だ」
は?
今、何て言った。
視界が真っ赤に染まっていく。『あの時』と同じように。
お前がお前がお前がてめぇがテメェが! テメェがッ!!!!
唯。
「テメェがッ!! 全ての原因かぁぁッッ!!!!」
*
クレーターの中心から、赤き稲妻が迸った。
*
クレーターの淵へと着地する一人の屈強な男。久瀬総理だ。
この直径20mほどのクレーターは総理が大牙を上空から地面へと叩きつけた際に出来たもの。今、その中は赤き稲妻が渦巻いている。ほぼ再起不能であったはずの大牙から発生したこれに巻き込まれぬよう、彼は飛び退いたのである。
久瀬総理は目の前の光景を、歓喜……いや、狂気……に満ちた表情で見つめていた。
「おぉ……これこそ、怒りそのものの顕現……」
渦巻いていた稲妻がクレーターの中心へと収束してゆく。
「新たなる人類……救世の導き手!!」
久瀬総理はクレーター中央に立つ男が放つ凄まじい怒気を、万感の思いをもって受け止めた。
*
『己が身を捧げぬ者に人民続くこと無し』
第109代内閣総理大臣:田中 学人
・人工による超念力発現の研究に尽力
・自身への超念力施術後、拒否反応により死亡
第110代内閣総理大臣:月形 流
・前内閣総理大臣の研究を完成。超念力の発現に成功
・マヤ機関の試運転計画に着手。試運転時の事故により死亡
第111代内閣総理大臣:松野 秀樹
・マヤ機関運用計画を凍結
・U・S・Aとの共同研究により、対エイリアン兵器『オメガ』を完成
・野党より用途不明資金を追求され、辞任
第112代内閣総理大臣:長谷川 周
・超念力施術を受けた人間による超念兵部隊を計画
・超念力による催眠と洗脳での全国民の意思統一を計画
・上記計画の非人道さが問題視され、辞任。数日後、何者かにより殺される
第113代内閣総理大臣:後藤 玲一
・超念力に関する研究を凍結
・エイリアン対策をU・S・Aと協調方向で一本化。未確認飛行物体の技術解析に尽力
・心不全により死亡。死因は『過労』と認められる
第114代内閣総理大臣:勅使河原 宗助
・前内閣総理大臣から引き続き未確認飛行物体の技術解析に尽力
・極ストレス下における生物進化の可能性を研究
・退任から4年後、遺書のようなものを残し失踪。現在も行方不明
第115代内閣総理大臣:不破 博光
・U.S.Aの『T・O・S計画』に協力。日本への建造もU・S・A側と確約
・『オメガ』の強化モデルを考案
・病死。死因は肺ガンと思われる(末期状態であり、様々な合併症も併発していたため、直接の死因特定は困難)
第116代内閣総理大臣:久瀬 明王
・U.S.Aとの協力を一方的に破棄
・超念力に関する研究を再開。自身への施術を行う
・マヤ機関運用計画を再開。『ブレイン・ユニット』導入により運転成功
・研究に使用していたエイリアンを開放。これによる最終被害者数は6000万人以上と推定
・国外との通信と通行を一方的に遮断。実質的な『鎖国』を開始
・催眠と洗脳による全国民の意思統一を実行。『国民総坊主化計画』はその一部
【衝撃! 明かされる真実!! 終わり】




