表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第一話 急襲! 首相官邸!!

 ??年前。

 コスタリカ。ジャングルの奥地。


「見つけた! 遂に見つけたぞ!!」


 怒声にも似た歓喜の叫びがジャングルに響き渡る。木陰から目も覚めるような美しい緑と赤の鳥が驚きに飛び出し、長い尾をたなびかせ上空へと羽ばたいていった。ケツァールという『世界で一番美しい』とされる鳥だ。

 しかし、声の主……探検服に身を包んだ初老の成人男性。顔は明らかに東洋人であった……はその美しさに見向きもせず、狂ったように叫び続ける。

 男がいるのはジャングルに埋没するようにあった古代のピラミッド型遺跡頂上。外壁という外壁は蔓状植物が無惨に浸食し崩れ果てているにも関わらず、何故か男がいる一画だけはまるで今建造したかのように新しく見える。


 『何か』に守られていたのか。それとも、そこにある『何か』を時さえ恐れたか。


 男は『何か』へとボロボロになった手を震わせながら伸ばす。


「全ては地からくるとするマヤ! 異質なる『天空の祭壇』! 何故生贄が帝国に隆盛をもたらす!? これだ、これこそが答え!!」


 周りに誰もいないにも関わらず、男は力説を止めない。血走った目に宿すは狂喜の光。

 『何か』が持ち上げられる。『何か』とは拳大の石。不可思議に赤く発光する石であった。

 男は赤き石を天へとかかげる。


「すべての祈りがここに! 大いなる『マヤ・ストーン』よ!!!!」


 途端、タガが外れたように遺跡が崩れ出す。しかし……


「ハハハハハハ!! ハーッハッハッハッハッ!!!」


 狂った男は意に介さず、笑い続けるだけであった。



【第一話 急襲! 首相官邸!!】


 多数のモニターを前に座る黒スーツ姿の一人の男。頭は髪の一本さえ無く、綺麗に剃りあげられた坊主頭であった。

 真面目そうなその男は目を皿のようにして全てのモニターを一心不乱に何度も確認している。すると、突如肩を叩かれた。振り向りた先には同じく黒スーツ姿で坊主頭の男がいる。肩を叩いた方は少し太っていた。


「交代だぜ」


 太った男が言うと、緊張の糸が切れたのか、真面目男は盛大なため息をついた。

 太った男があざけるように笑う。


「根詰めすぎっての」

「いえ、あの方に万が一のことがあっては……」

「おいおい。本気か? もう一回教えてやるから、こっちこい」

「あ、でも監視が」


 ここはとある施設の地下にある監視ルームだ。そこで監視から離れるなどもっての外。

 真面目男は非難の眼差しを相手へと向けたが、太った男は我関せずとばかりに真面目男の腕を掴んで立ち上がらせた。


「いいから来い」


 二人は移動すると、モニターから少し離れたところに設置されたテーブルに向き合って座る。テーブルの中央にはステンレスの灰皿が置かれているが、中に吸い殻は一つも無い。

 太った男は天井を指さした。


「本来、『ここ』にゃ監視なんて必要ねぇ。俺達はただの飾りだ。初めにそう教えただろ」

「ですが先輩」

「まずだなぁ」


 真面目男の言葉を無視するように太った男は続ける。


「この官邸は触れれば即死の超高電圧大電流防護壁で守られている。侵入するなら唯一出入り可能な正門からしかねぇ」

「エイリアンなら」

「厚さ1mの鋼板が仕込まれた壁はかの『オメガ』でも破れんよ」


 太った男はスナック菓子を懐から取り出すと、袋の口をビッと開いた。


「そして、正門は拳銃を携帯した古今東西の屈強な腕自慢(元格闘技チャンピオン)共が守りを固めてる。普通の人間ならその時点でお手上げだ」



 同時刻。官邸正門。


「ば、けもの……」


 黒スーツ姿の屈強な男が膝から崩れ落ち、倒れる。もう動く様子は無い。

 周囲にも同じように倒れている男達。腕や足があらぬ方向へと曲がっているものもいる。

 この場で立っているものは、たった一人。



 太った男はスナック菓子をボリボリと食べながら話す。


「例え正門をくぐれたとしても、中庭じゃ自動小銃アサルトライフル機関銃マシンガンで自衛隊がお出迎え。対エイリアン用ライフル『トッカン』を装備した装甲車もあるって話だ」



 同時刻。官邸中庭。


 バラバラバラ……ドドドド……


 絶えず響く銃声。そして、悲鳴。

 だんだんと銃声も悲鳴も少なくなっていき、やがては静寂となった。



 太った男はガサガサと袋に残ったスナックかすを口へと流し込む。そして、空になった袋をくしゃっと潰して小さく丸めた。


「わかっただろ。この『首相官邸』に潜り込める奴なんざいねぇって。よしんばいたとして、だ。そんな奴相手に俺達が何をできるってんだ」

「しかし、エイリアンならば」

「だから、エイリアンが侵入したとして、俺達に何ができる」

「しかし……」


 真面目男は悔しそうに顔を歪める。太った男は肩を竦めた。


「『こんな時』だってのに、本当にお前は真面目だな。まぁ安心しろ。もう守る必要も無い機密だから教えてやる」

「機密?」

「あぁ。実はな、今日の官邸ホールにはあらゆる事態を想定して、あの『オメガ』が一体配備されている。しかも、単体運用最強の呼び声高い『モデル・不破』だ」


 ガタン! と真面目男が席を立つ。顔は驚きに満ちている。


「オメガ!? すごい!」

「エイリアンだろうが返り討ちだ」


 太った男は座ったまま得意げに頷いた。



 カァ……ン。


 まるでサヌカイトを木槌で叩いたような音が響き、待機から臨戦にモードが切り替わる。

 様々なガイド表示と一緒に一気に視界が開けた。大理石床の広大なホール。『オメガ』で暴れるには十分な広さだ。


 『オメガ』。

 十数年前より現れ出した、人類と敵対する謎の地球外生命体『エイリアン』。その存在を民間に知れ渡る前に秘密裏に処理するため生まれたパワードスーツ兵器。

 中でも自身が乗り込むのは単体での能力は最強とされる『モデル・不破』。スタン・スパイク、超振動ソード、双方向ドリルなどの近接戦闘に特化した装備が多数ある機体だ。

 事実、自分はこの機体と共に凶悪なエイリアン共を20体以上単騎で葬ってきた。世界的に見てもトップクラス、最強に恥じぬ成績。


 力道りきどうは手を握りしめ、体に力を入れる。3m近くある漆黒の巨体がモーター音を鳴らしながら一歩踏み出した。


 官邸の観音扉を蹴破り、侵入者がホールに立つ。

 力道は小さく息を飲んだ。


 この力はエイリアンに振るうためのもので、『人』に向けるものではないのだがな……


 そう、侵入者はまごうことなき『人間』の姿。ボロを纏った男であった。

 身長172.3cm、推定体重68kg、推定体脂肪率11%、肉体年齢20歳。

 オメガが対象の分析情報を表示する。


 お前が、『そう』なのか?


 『ここ』に立った男を前にしても力道の迷いは晴れぬ。わからない。わからないが……


「総理命令だ。手加減はせん」


 オメガに装備されたドリルを稼動し、勢いよく回転させる。

 瞬間、視界から男の姿が消えた。


「!?」


 ガイドマーカーが上方を指し、接近のアラートを鳴らす。


「上だと!?」


 視線を上げる。ボロをはためかせながら、直滑降してくる男と目が合う。

 底知れぬ怒りがそこにはあった。

 力道の迷いは、晴れた。



 太った男は丸めたスナック菓子の袋を放り投げる。壁際に設置されたゴミ箱に見事に入った。


「大体、お前はどうしてここにいんだ? もう5日前には『好きにしていい』って辞令が出たはずだ。こんな、『終末の日』にまで仕事する必要はねぇだろ?」

「それは……」


 真面目男は俯き、口ごもる。


「……先輩だって、そうじゃないですか」

「俺は責任者だからな。部下が残ってる限りは好きになんてできねーの」

「あの、すみません」

「あぁ、冗談だよ。謝るな。親も妻も子供もみんな先に逝っちまって、最後に一緒に居たい奴なんて俺にゃ居ねぇから。お前が居なくても、どうせここに居たさ」


 太った男の言葉に、真面目男は泣きそうな顔を見せる。


「私も、そうです。私には、もう、誰にも……だから、浄土へと向かった時に、最後まで人の役に立っていたのだと、みんなに胸を張りたくて、それで……」

「そうか……そりゃ辛いことを聞いちまったな」

「いえ、話を出来て、気が楽になりました」


 太った男はポリポリと頬を掻く。


「ま、身寄りのないもん同士で『終末』を迎えられるってのは、お互い悪いことじゃねぇな。お前が最後まで残ってくれて良かったよ。実を言うとな、割と寂しかったんだ」

「ははは。顔に似合わないこと言いますね」

「ほっとけ」


 二人はしばし笑い合うと、太った男が顔の前で手を合わせた。


「もう何が起きようと、俺達にゃ出来ることは一つ。それをしようじゃねぇか」

「そうですね。それが総理の願いですから」


 真面目男も手を合わせる。


「祈りましょう。救いがあると信じて」


 二人は目を瞑り、黙祷する。

 しばらくして、官邸内に轟音が響き渡った。



 同時刻。閣議室。

 日本と言う国の経済指針を決めるべく、最高の頭脳達が集うべき場所。

 だが、今円卓にすのはたった一人の男。


 逆ハの字の白眉と、人を射殺さんばかりの怜悧なる双眸。着ている高級スーツは鍛え上がった肉体によりはち切れそうだ。そして、頭は地下の男達と同様に髪の毛一本も残さずに剃り上げられている。

 男の名は『久瀬くぜ 明王みょうおう』。

 日本の第116代内閣総理大臣、その人である。


 各部屋に高度な防音設備が施されているにも関わらず、官邸内に響いた轟音にも久瀬総理は眉一つ動かさなかった。

 己のいる閣議室の扉が破壊され、引き千切られた巨大な鉄の腕が転がり込んできたのを見ても、だ。

 破壊された入口から男が一人入ってくる。

 ボロを纏い、ほとばしる怒りを瞳に宿した男が。

 久瀬総理は不躾な侵入者を一瞥し、口端を歪ませた。


「待っていたぞ」


 侵入者の瞳にほんの少し困惑の色が浮かぶ。

 久瀬総理は一顧だにせず続けた。


「聞くまでもないが、用件を聞こう」


 男の瞳……いや、体の全てから怒りがほとばしる。整えられていないボサボサの黒髪がぶわりと逆立った。


「用件だぁ……?」


 男は総理に指を突き付け、怒鳴るように叫んだ。


「テメェをブチ殺しにきたんだよ、このクソ野郎!!!」


【急襲! 首相官邸!! 終わり】


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ