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今日も幼馴染がおれを陥落させようとしてくる件について

作者: 原っぱ将軍

 6月半ば、梅雨の時期とは世間一般的に言われているが、普通に30℃近い気温と日差しの暴力が日常を脅かしている今日、俺、小原悠木はその暴力的暑さに殴られ目を覚ました。

 

 俺は県内でもザ・普通と名高い公立高校に通う高校二年生で、この高校に進学を決めた最たる理由は


 「家から一番近い学校」


 だったからである。


 中学三年時の担任教師、家族などの周りの人達には、


 「小原の学力なら県内でも学力トップクラスの高校を薦めれるのだが・・・」

 「悠木は顔はともかく学力あるんだから、もっと頭良いとこにすればいいのに」

 「ゆーきはすぐ楽な方を選ぶ、でもそんな自堕落的なゆーきもばっちこい」


 と一部、というかほとんどから散々に言わたりしたが、特にやりたいこともない俺は、親にも迷惑がかからず、通学も楽というのが最たる魅力だったため今の高校を受験し、無事合格、現在無事平穏な高校生活を謳歌している・・・はずだった。


 そう、


 「はずだった」


 のである。


 いつもの朝食の時間が迫っている中、まだ自室からでない俺にしびれをきらしたのか、叫ぶような声が部屋に響き渡ってきた。


 「悠木!あんたそろそろ起きなさいよー!」


 毎日聞き慣れた母さんの声である。寝起きがあんまりよろしくない俺は、母さんのこの声が第二のアラーム音として有効活用されていた。

 

 そして、


 「みずきちゃんもう来てるわよー」

 「うげぇ・・・。またアイツきたのかよ」


 この母さんの発言に気が重くなり、結果的に目が冴えてしまった。


 そう、俺の平穏学校生活を脅かしてくる「アイツ」の存在が、俺の悩みの種となっているのだ。


 「学校サボってこのまま二度寝してしまおうかな・・・」という誘惑に襲われたが、なんとか気を振り絞って、ベッドから母と朝食が待つリビングへと向かった。





 「おはよう悠木。ほら、さっさと朝ごはん食べちゃいなさい」


 階段をおり、朝食の待つリビングへ到着した俺は、母さんにおはようと返し、いつもの席にかけ朝食を眺めた。


 本日の朝食は、ご飯に味噌汁、固めと半熟が7:3くらいの塩梅で絶妙な調節で焼かれた目玉焼きにカリカリに焼いたベーコンとレタス、プチトマトなどが彩り良く添えられたサラダと、比較的洋風な朝食のラインナップであった。

 

 うちの母さんはかなりの料理好きで、和風、洋風、中華なんでもござれな腕前をしている。

家族で共有しているパソコンで世間では毎日のように使われる某無料動画閲覧サイトの検索履歴には


 「チャーハン 中華鍋 煽り方」


 とかなりクセの強い検索履歴が残っていたくらいである。


 その動画をみたであろう母さんの、


 「五徳と火力が足りないわ・・・。お父さんのボーナスが入ったら相談ね」


 という不穏な発言に我が小原家大黒柱の父さんが震えあがったのは言うまでもない。



 「おはようゆーき。今日もお寝坊さん」


 そして、俺とは向かい合わせの席に、何故か当たり前のように我が家の朝食を食べている、我が校の制服を可憐に着こなした少女が話しかけてきた。


 背中まで伸ばした長い絹のような黒髪長髪、ぱっちりしているがどこか眠たげ、それでも濁りなく透き通った瞳、身長150cm(自称)と比較的低身長ながらもほっそりとした、それでいて女性としての柔らかさもしっかりと感じさせる調律のとれたスタイル、新雪をも想像させる汚れを知らない白い肌、美少女という言葉の定義みたいな容姿をしているのが、この美少女、姫宮みずきである。


 「みずきちゃん、いつも朝から悪いわねー」

 「いえお義母さん、これも幼馴染としての当然のつとめ」

 「あらあら・・・、お義母さんなんて、まあまあ」


 ・・・ちょっと待て!


 「おい、同じ言葉のはずなのに何故か不穏なニュアンスを感じたぞ?」

 「ん。それは気のせいじゃない。事実」


 平然と妄言かましてくるみずきとは世間一般でいう「幼馴染」という関係で、家がお隣、両親同士もかなり仲が良いという「ラノベかよっ!!」とベタ中のベタなツッコミを入れたくなる環境によって成り立った間柄である


 俺からしたら「腐れ縁」なだけだと認識しているが、一方のみずきはそうではないらしく、


 「同じ産湯に浸かった仲、お背中流す」


 と言って風呂場に突入してきたり、


 「同じ産着に包まった仲、だから一緒に寝るべき?」


 と言って朝起きたら横にいることも一度や二度ではない。


 そもそもみずきとは誕生日も生まれた病院も違うのに同じ産湯に浸かるわけないだろ!

と声を大にして言いたい(というか何度も言ってる)が、何故か本人が頑なに譲らないため、もう放置している。


 というように、何故かみずきはこの関係性に運命的なものを感じているのかは分からないが、運命の相手=俺となっていて好いているらしい。

 こんな美少女と俺が釣り合うわけないだろとは思うが、そもそも16年間ほとんどの時間を共有しているといっても過言ではないので、もはや兄妹という認識の方が強いのだが…


 と今の関係性とかつての理不尽な突入事件に思いを馳せている中、みずきはおもむろにベーコンを箸で掴み、それをこちらに近付けてきた。


 「あーん」

 「…」

 「あーん」

 「…」

 「あーん」

 「わかった!食べるから頬にベーコン押し付けないで!熱ッ!!」


 という理不尽なやり取りを経て、みずきが掲げたベーコンを渋々パクリと食べる。


 みずきの満足そうな顔と、それを見た母さんの「あらあら、朝から見せつけてくれちゃって」という嬉しそうな発言に頭を痛めながら朝の時間は過ぎていくのであった。




 「おはよう悠木。今日も奥さんと中睦まじく登校かな?」


 「うるせぇ…。これ以上疲れさせるな…」


 「ハハハ、無理。だっておもしろいんだもん」


 その後もみずきのあーん攻勢が続く中、なんとか朝食を食べ終え、みずきと一緒に登校し我が2-Bに到着した。


 みずきはお隣の2-Aに在籍しており、一年時はクラスが一緒だったが、今年度より別々のクラスになった。

 …みずきは違うクラスになったことにかなりのショックを受けていたが、俺としては心労の軽減に繋がっており、思わずみずきの目の前でガッツポーズをしてしまったのは余談である。


 そして、教室に到着して開口一発目から性格悪そうな言葉を吐いてきたのは、昨年から同じクラスの神代司である。


 神代は爽やかイケメン……の仮面を張り付けた性格ねじ曲がり男である。


 というのも昨年同じクラスになったのが出会いだったのだが、その時はどこか周りに合わしたというか、遠慮しているというか、とにかく愛想笑いが板についた男だった。


 ある日、隣の席になった際、


「小原君、これから隣の席だけどよろしくね!」


 と爽やかイケメン純度100%フェイスで握手を求められてきたが、その当時も朝からのみずき攻勢?で疲れ果てていた俺は思わず


 「愛想笑いお疲れさん。無理して話かけてこなくていいからほっといてくれ」


 とぶっきらぼうに返してしまった。


 神代は怒るかと思いきや目を丸くしたあと何故か大爆笑、その後から先ほどのようにかなりフランクになって絡んでくるようになってしまったのだ。


 それ以降、何かと一緒に行動することが多くなり、気付けばお互いに気の遣わなくていい関係になるもんだから不思議なこともあるものである。


 「学校一の美少女と名高いみずきさんの一途な愛を独り占めして羨ましい限りだね」

 「猪みたいな女だよホントに」

 「あーあ、そんなこと言っちゃっていいの?・・・よし」


 カチッ『猪みたいな女だよホントに』」


 カチッ『猪みたいな女だよホントに』」


 ………


 「…B定食2回でどうだ?」

 「A定食1回追加で」


 「…はぁ、なんで朝からこんな疲れなきゃならないのか…」


 「大人気のみずきさんから好かれるってことはそういうことなんだよね」


 何が「そうことなんだよね」だコイツ、腹立つ…

 そもそも日常会話録音とかどんな環境で育てばその行動に至るの?


 ちなみにみずきは学校一の美少女として名を馳せており、告白された数も二桁は優に超えている。

 …みずきはそのすべてをばっさり切り捨てており、返事は決まって「ごめんなさい。私はゆーきに首ったけ」である。

 セリフからコイツアホだろとしか思わないが、こんな感じでモテモテ美少女みずきちゃんと一定以上の関係性である俺は、それはそれは男子生徒には恨まれているのだが、実は表立って不満をぶつけられたことがない。


 何故かというと、


 「悠木はいつもそんなに周りを威圧して疲れないの?」

 「いや、そんなつもり全くないのだが…」

 「知り合いで良かったってレベルの眼光してるのに?」

 「チンピラかよ……」


 俺こと小原悠木は、かなり目つきが悪く、かつ身長も平均よりも5cm以上は高いのも相まって周囲の人たちに畏怖されているのだ。

 

 勿論俺としては一切そんなつもりはないのだが。


 目の前で落とした財布を拾って渡した際は


 「ありがとうございま…ひえぇぇ!いくらでも中身抜いていいので殴らないでぇ…」


 と言われ土下座されたり、


 女子生徒が「ひいぃぃぃ!!お願いだから犯さないでぇ…」


 と目の前でガチ号泣されてしまったのは、俺の悪人面を証明してくれる不本意エピソードである。


 俺の方が泣きたいわっ!一緒の日直になったから挨拶しにいっただけだぞ…


 …一部ワイルドでかっこいいという声があると神代が話していたが、ここまでビビられていてそれはないだろうと一蹴してやった。


 それを聞いたみずきが


 「むむ。かみむっちゃんそれどこの女?会って話がしたい」


 と神代に執拗に噛み付いていたのは良く分からないが…

 ちなみにかみむっちゃんは神代のことである。

 みずきセンスないな・・・





 午前の授業が終わり昼休みの時間に突入した。


 「今日の数学は公式ややこしかったな…しっかり復習しないと」

 「…悠木って相変わらず見た目に反して真面目に授業受けてるよね」

 「は?何を当たり前なこと言ってんだ神代?…あと見た目に反しては余計だ」

 「本当見た目とのギャップがすごいんだから…」


 授業は真面目に受けないとダメだろ。何を当たり前なことを…

 俺は学年でも一桁の成績をキープしており、一応家から近いとこがいいというワガママで今の高校に通わせてもらっている以上、成績は良くしようと心懸けている。


 ちなみに学年の総合的な学力順位として神代は学年首位、2位はみずきである。


 なんだこの秀才どもめ。俺の周りのふざけたやつらはなんでハイスペックなの?


 「さて昼ご飯にしますか。悠木今日は?」

 「弁当だな」

 「…ちなみに誰が作ったお弁当?」

 「…うるせぇ」

 

 にやにやしながら弁当を取り出す俺を眺めている神代にイラっとしながら、桃色のかわいい包みを開けていく。


 お気付きであると思うが、みずきのお手製お弁当である。


 「恋する乙女殺法その一、好きな人の胃袋は掴んで離さない。」というどこか物騒な掟を掲げているみずきは、週に2~3回程度お弁当を作ってくれるのだ。


ちなみに料理の師匠はわが家の母で、よくキッチンで二人できゃいきゃいしている姿を見かける。

みずきの料理の腕前は母さんいわくかなりの水準らしく、母からの俺の好み情報もリークされているためかなり美味い。


着々と胃袋をみずきに浸食されている自覚はある…恋する乙女殺法恐るべし…



「私も昼食一緒にしていいかな?」



 さあ食うかと弁当容器の蓋に手を掛けたときに、愛嬌のあるかわいらしい声でこちらに近寄ってきたのは、神代と同じく一年時から同じクラスの七瀬菜々美である。


 栗色のボブヘアーにくりりとした可愛らしい瞳が特徴的な美少女で、控えめな性格ながら周りへの気配りを絶やさないという行動力もあり、見た目と相まって「天使様」の異名を持っている。

 …身体の一部分は悪魔的盛り上がりを見せているのも人気に拍車を掛けているのは余談である。


 一年時はこのメンバーにみずきを加えた4人で良くいることがほとんどだった。

 …というか友達はこいつらしかいないのだが…

 学年2トップ美少女と外面完璧イケメン君(笑)と仲が良いことで男子生徒からの嫉妬の目線が集中砲火したが、見た目の怖さがあるから直接的に何か言われたことはない。

 慣れてしまえばただ見られているだけなので構わないが…


 「どうぞどうぞ。悠木も構わないよね?」

 「当たり前だ。むしろいいのか?他の友達と食べなくて」

 「もう悠木くん!君も大事な友達なんだからっ」


 …聞こえただろうか?

 最早聖女様である。


 お金でも取れそうな聖女スマイルを無償でいただいた後、「よいしょよいしょ」と可愛らしい声で隣の机を寄せてくる七瀬に癒されていると、


 「それにみずきちゃんも来るしね」


 という発言に身体が反射的に教室の入り口を向いてしまった。

 

 「俺は今日は中庭でゆっくりご飯食べたいからじゃあな」

 「だめだよー悠木。いつもの事なんだから慣れないと」

 「そうだよ悠木くん。みずきちゃんにも逃がさないでって言われてるんだから」

 「くっ…殺せ」


 「リアルでくっころしてるのは新鮮」と七瀬さん。


 いや、七瀬意外と俗っぽいこと知ってるんだな。ギャップもあってまたそこがまた魅力的なんだろうな…

 …じゃなくて!


 にやにやして右腕を掴む神代と、何故か頬をほんのり赤く染めながら左腕の制服の裾をちょこんと掴む七瀬によって身動きが封じられていると、教室の扉がガララっと勢いよく開いた。


 「ゆーき?お昼ごはん一緒に食べよ?」


 いわずもがなモテモテ美少女みずきちゃんである。


 「みずきちゃんこっちー」という七瀬の声に反応したみずきがこちらに近づいてきたことによって逃げることが不可能なことを察した俺は、潔く席に身を降ろした。


 「ゆーき久しぶり。会いたかった」

 「いや朝一緒に登校してきただろ…」

 「4時間12分ぶりに再会したのだから久しぶりで間違ってない」

 「…背中ひやっとしたわ」


 なんで朝別れた後の時間計算してるの?


 「ははは、相変わらずだねみずきさんは」

 「かみむっちゃんも相変わらず性格の悪さがにじみ出てる」

 「手厳しいな…そしてかみむっちゃんは止めてくれないかな?」

 「分かった、かみむっちゃん」

 「……」


 俺に対してはどこか食えない態度の神代もみずきには敵わないようで、少し胸がスカッとした。


 かみむっちゃん(笑)を一撃で葬ったみずきは、今度は七瀬の方に視線を向けた。


 「ななみんもこんにちは」

 「はい、こんにちはみずきちゃんっ」

 「お昼一緒でうれしい」

 「私もみずきちゃんとのご飯はいつも楽しみにしてるんだからっ」


 みずきが七瀬に後ろから抱きつき、それに七瀬も笑顔で応えている。


 ななみんとは七瀬のことである。菜々美からとったらしい。

 かみむっちゃんと比べると比較的普通のネーミングセンスである。


 みずきと七瀬はお互い大親友と豪語しているほど仲が良く、お互い美少女で低身長な見た目からいつも周りをほっこりさせているとかいないとか。

 …確かに和むがクラスの男子生徒達の「てぇてぇ」と拝むのを止めないのはいかがなものか…


 「ありがとう…そろそろゆーきの裾から手を離してほしい」

 「あっ…!ご、ごめんね悠木くん!」


 顔を一瞬で真っ赤に上気させた七瀬が、ぱっと俺の制服の裾から手を離した。

 しかしどこか名残惜しそうに先ほどまで掴んでいた裾を見つめている七瀬を見たみずきは、「むむ」と頬を膨らませジト目を何故かこちらに向けてくる。


 「ゆーきは相変わらず油断も隙もない」

 「なんで俺なんだよ…」

 「ワイルドでかっこいいもの好きなななみんを魅了した」

 「は?」


 「わわわ!みずきちゃん!…ゆ、悠木くんも何でもないからご飯食べよ!」


 何が起きているのかイマイチ把握できていないが、これ以上不毛なやりとりをするのも昼休みの時間が勿体ないのでさっさとみずきお手製乙女弁当をいただくとしよう。


 「相変わらずだねぇ悠木は」と神代がぼやいていたが良く分からなかったのでシカトした。





 時間は帰りのSHRも終わったころ。


 これから部活だー!と走っていく野球部の男子生徒、駅前のクレープ食べいこーよーときゃいきゃいしている女子生徒達を尻目に俺は糸が切れた人形のように机で項垂れていた。


 というのも昼休みでのみずきの密着ともいえる距離からのあーん攻勢もさることながら、何故か頬を真っ赤に染めた七瀬からも箸で掴んだ卵焼きを近付けられ「あ、あーん!」とあーん攻撃をくらったのだ。


 「この・までい・・の七瀬さん?・・が取られちゃうよ?」「か、神代君!?…よ、よし!」という神代と七瀬のやり取りが事前にあったのは確認できたが、ちゃんと聞こえなかったが何が取られてしまうと思ってあの奇行に至ったのだろうか?


 …唐揚げか?確かににんにくと生姜が効いてて美味かったが…


 一方そんなみずきと七瀬の攻防を見た男子生徒からの


 「小原許すまじ!!天誅ゅゅううああ!!!!」

 「なんで小原だけいつも・・・おれも目つきが悪くなればみずきさんと!」

 「『しねしねこうせん!!』・・・あれ『あなをほる』だっけ?」


 という怨念の混じった強烈な嫉妬の目線と


 「今日もみずきちゃん悠木君にぞっこんだよねー」

 「わ!七瀬さんも顔真っ赤にして大胆…」

 「小原君見た目かなり怖いけどさ結構、てかかなり優しいよね」

 「この前商店街で迷子の女の子と一緒にお母さん探してたよ」

 「私もみたみた!」

 「ほっぺにチュウされてタジタジになってる小原君ちょっとかわいかったかも」


 という女子生徒からの好奇の視線に晒され、もう俺のHPは0になってしまったのだ。


 その後の5、6限目の授業は何とか乗り切り今を迎えた訳なのだが…帰るにしても中々気力が湧いてこない。


 そんな中、我が2-Bに再びみずきがやってきた。

 俺を見つけると表情が変わらないが嬉しいオーラ全開になり、そのままトコトコとこちらに一直線に近づいてきた。


 「ゆーき、かえろ?」

 「…いや、おまえ今日部活は?」

 「今日はお休み」


 「そうか…」


 みずきは料理研究部というただ料理を作るだけでなく、栄養素などもしっかり計算したうえで調理をするという割とガチ目な部活に所属しており、部活動においてもその料理の腕前を磨いている。

 

「ゆーきの身体を構成する成分には私がすべて関わりたい」とみずきさん。


 …いや、いささか猟奇的では?


 「まあいいか…じゃあ帰るぞ」

 「うんっ」


 何だかんだ一緒に帰ることを了承してしまっているあたり俺も甘いのか…?


 重い身体を何とか奮いたたせ、嬉しいオーラ全開で歩くみずき共に帰路に向かった。


――悠木とみずきが去った後の教室――


 「…悠木くんいっちゃった……私も一緒に帰ってみたいなぁ…なんて」

 「今度七瀬さんも一緒に帰りたがってたって伝えようか?」

 「か、かみしろ君!?聞こえてたの!?…く、くっ・・・こ、ころせーっ…!?」

 「くっころにハマってるの七瀬さん?」





 「さむい。手をつながねば」

 「いや、今日30℃近い気温なんだが…」

 「さむい、腕を組まねば」

 「おい、グレードアップしてるぞ?」


 「えい」と気の抜ける掛け声とともにみずきが腕に抱き着いてきた。

 七瀬ほどではないがそれでも平均以上あるやわっこい感触に自身の心拍数が上がるのを感じる。


 き、気持ちを落ち着かせねば…心頭滅却…臨兵闘者皆陣烈在前…


 「ぼそぼそと何で九字護身法呟いてるの?」

 「いや、よく分かるな」


 自然と呟いてしまっていた俺も俺だが、どうして聞こえた上に正式名称知ってるの?


 みずきの無駄なハイスッペクぶりに慄きつつ、柔らかい感触にどぎまぎしていると、みずきが突然足を止めた。


 「……」

 「どうした?」


 みずきは一呼吸おいて一言こう言い放った。






「私ゆーきにとって迷惑な存在じゃないかな?」











 …いや、何を急に今さら?

 みずきが急に当たり前なことを言ってきたので思わず「あほか」と頭を軽くはたいた。


 ぺしっという気の抜けた音と「あいた…ぶひぃ」という恐ろしい悲鳴を発したみずき。


 …いや「ぶひぃ」ってなんだよ!万が一みずきを調教したなんて噂されたら俺という人間の価値が奈落の底の底まで落ちるぞ!!


 「あのなみずき」

 「……」

 「いや、その物欲しそうな眼も止めてくれないか?」

 「…冗談」


 悪質すぎる!

 いや話が脱線したな…


 「迷惑?そんなの今さらだろ?今日だけでどれだけで男子生徒の嫉妬に晒されていると思ってんだ?疲れ果てたわ」

 「……」


 「家でも教室でもところ構わずあーんあーんってバカの一つ覚えみたいに・・・。時と場所ぐらいはせめて考えれないのかあほってなるだろ」

 「……」


 これまでに溜っていた鬱憤をどんどん言葉にしていく。

 俺の言葉にさすがのみずきも堪えたのか、透き通ったきれいな瞳に涙が溜っていくのが分かる。

 …言いすぎたかと心が痛くなってくるが、それでもここでガツンと言わなくてはどうしても気が済まなかった。

 おれもまだまだガキだな…


 「…でも…まあ……なんだ」

 「…??」


 意気消沈して俯いていたみずきがこちらの顔を見てくる。

 おれとみずきは身長差が30cm近くある為、みずきは必然と上を見上げる事になるのだが…


 ぐっ…上目遣いの威力高いな…じゃなくて!


 「でも…そういうまっすぐな気持ちを向けられるのも悪くないっていうか…」

 「ゆーき…」

 「逆にお淑やかなみずきも何か違うというか…なんというか…ほ、ほら!弁当もめっちゃ美味いしありがたいし…」

 「ゆーき!!!」


 みずきは勢いよく今度は正面から抱き着いてきた。

 人通り多いところなんだから止めろよ!と言おうとした瞬間すぐに離れると、2、3歩こちらに背を向けて歩いた後、クルっとこちらに振り返った。


 「ゆーき大好き」


 そう言って微笑んだみずきの顔は、夕暮れの景色とも相まって一つの芸術作品を見ているような、そんな神秘的な魅力を放っていた。


 そんなみずきの表情に見惚れてしまっていると、今度は意地の悪そうな笑顔を浮かべ一言



「絶対ゆーきをカンラクさせてやるぜ」



 …俺がみずきに首ったけになってしまうのも時間の問題なのかも知れない…





 「さ、帰ろゆーき?」

 「…あぁ」

 「お家に帰ったら、女の子からちゅうされた件について詳しく教えて?」

 「いや!それは迷子の女の子がいてだな…なんで知ってるんだよ…」


 無表情で腕にぎゅーっと強く抱き着いて腕を完全ロックしてきたみずきに、無実だと嘆きながらただただ連行されていくことしかできなかった…


 おしまい


いかがでしたでしょうか?


人生初投稿作品でしたが、書いててどんどん楽しくなってきてしまい半日で書き上げてしまいました。

当初は6000字程度に収めようかと思いましたが、気付けば9000字近くに…オソロシイ

長くてみてらんねーよってなったらごめんなさい…


気が向いたらブックマークや下からの評価をよろしくお願いします。

反応いただければ見ていただけているという最高の報酬をいただいたことになりますので、何卒よろしくお願いします!


ありがとうございました。


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