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ゴージャス♨三助 愛の女三助編 C

作者: コーヒー牛乳

そんなある夜、万蔵夫妻がバターの様に溶け合い、喋喋喃喃としていると万蔵が

「うっ」と声を上げ、それきり動きを止めた。

 それと同時にトラが心臓を押さえ、

「がおー」とトラの吠え越えのような苦悶の声を上げた。

「おい、お前、どうした」

「し、し、心臓が、がおー」

「わ、わ、わしは腰があ」

二人は睦んだまま動けなくなってしまった。

 たまたま万蔵が枕元に置いていた携帯電話で救急車を呼んでいなかったら、どうなっていたのだろう。

 幸い二人とも無事で、はだか湯の以前の日常が戻ってきた。

二人のやり取りは「おい」「ハイ」に戻り、トラは心臓の持病持ちとなったため情熱の炎を燃やすことができなくなった。

 万蔵は腰を痛め、四股踏み運動が出来なくなり、腰をいたわりながら番台をよぼよぼと登るようになった。

 不思議な事に老眼鏡は以前の様にずり下がり、白髪頭の手入れもおろそかになった。

 万蔵とトラ、二人は思った。

「寄る年波には勝てないのう」と。


 常連客が女三助こと絆サクラに何ぞ囁いている。

「ああ気持ちいい、今日はあかすりやってくんな」

「はあい」

 サクラは屈託なく返事した。

風呂井三助が心配そうに言った。

「お客さん、この子はそんなサービスはしませんですぜ」

 絆サクラはアカスリの何かを知ってか知らずか答えた。

「でも、三太郎さんはいつもやってるんでしょ、私は三太郎さんのこと何でも知りたいの」

 三太郎が脱衣所におっとり刀で現れた。

 「絆さん、また来てるの、何回も言うけど、ここは君の来る場所じゃあない」

 ため息交じりに三太郎は諫めた。

 そうであろう、絆サクラは、女三助の前に、恋人だからだ。

 当然ながら三太郎は恋人を独占したいのだ、

「だってー」

 絆サクラは恋人に甘える声で答えた。

「三太郎さんのこと何でも知りたいから」

 三太郎は恋人として絆サクラを独占したい、絆サクラは三太郎の全てをしり、独占したい。

 お互いを独占したいのに、求めていることはボタンを掛け違えている二人なのだった。

「だってー絆さん、来年受験でしょ」

 何とか絆に三助をやめさせたい三太郎だった。

 三太郎の父、三助がもじもじしている。

「えーと、そのう、ほんとにあかすりやる?」

「はい」

 サクラはこっくりとうなずいた。

客は待ちくたびれて、湯船につかっていた。

「あ、あ、アカスリですと」

 三太郎は驚いた。自分の恋人に他人の奇妙な果実を触らせるわけにはいかん。

「サ、サクラさん、そんなに三助のこと知りたいの」

 頬をピンク色に染めて、サクラはゆっくりとうなずいた。

 しかたがない。

「じゃあ、サクラさん僕の体で練習してみて」

 これが三太郎が恋人に他人の奇妙な果実を触らせない最終防衛ラインであった。

 「ありがとう、三太郎さん」

 絆サクラは一点の曇りもなく、」目を輝かせた。

 三太郎は洗い場のタイルの上にうつぶせに横たわった。

「そこのヘチマたわしで、レモン石鹸を泡立てて、そうそう、右腕から始めるんだ」

「んしょ、んしょ」

 絆サクラは産まれて初めて手にするヘチマたわしで、三太郎の体をこすった。

「そう、そう、うまいよ」

 二人はたわいない会話を交わした。三太郎の将来のこと、絆サクラの受験の事とか。

 その姿は睦みあう恋人同士だった。

 三太郎は股間にタオルをかけ、仰向けになった。

「よいしょ、よいしょ」

絆はけなげに三太郎の体をヘチマたわしでこすった。

 やがてヘチマたわしを握る手が、三太郎のヘチマにかかるその瞬間、受験の事を話したせいか三太郎の脳裏に湯あたり普通高校日本史教師の姿が浮かんだ。

「はだか先生」

 日本史の授業中、はだか先生は生徒たちに古事記の授業をしていた。

「えーお前たち、日本最古の神、イザナギ、イザナミからなぜ蛭子は産まれたか」

「それは国産みの時、女神であるイザナミが先にイザナギにこえをかけたからといわれている」

「その後、常に男神であるイザナギからイザナミに声をかけるようになり、大八島を生み出すことになる」

「ええー、女が先に声をかけてはだめなの」

 クラスの女生徒から声が上がった。

 絆サクラもうんうんとうなずいていたのを、三太郎は覚えていた。

 そのとき三太郎の若さが爆発し、奇妙な果実にかぶせられていたタオルがぴょこんと吹き飛んだ。

「あっ、やだー」

 掌で顔を覆う絆サクラであったが例によって隙間から大事な場所をきちんと見ていた。

「じゃあ、こんどはさんたろうさんから、こえをかけてね」

というと、絆サクラは洗い場を出て行った。

 洗い場に女盛りが始まったばかりの女の香りを残して。

「はだか先生のやつ、余計なことを」

と歯噛みする三太郎であった。

 ここがはだか湯でなければ、自分が三助修行などしていなければ、初体験の機会だったのに。

 父三助、万蔵ともども男として、今の三太郎にかける声はなかった。

 三太郎はよろよろと立ち上がり、丸首シャツとステテコを着た。

 そして洗い場の片隅に置かれていたデッキブラシを取り上げてため息交じりに寄り掛かった。

 しょぼくれた三太郎になり代わって、デッキブラシの柄はかっちかちであった。


                    了

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