98.毘沙門天(びしゃもんてん)
啓示との戦いが終わり、黒い怪しいカードを、日ごろ他のカードと一緒に金貨や銀貨をしまっている謎の布袋にしまい腰に下げる。戦いに疲れて、すぐにクエストに向かう気がしない。
今頃王宮では『円卓騎士』会談が行われている頃だろう。きっと自分を最前線に放り出す話し合いをしているに違いない。
『ベネチア』に国外逃亡したところで、追っ手をかけられるのは目に見えている。腐っても銀等級冒険者、ここは正攻法で生き残る方法を考えなければ・・神となったガイア師匠に作ってもらった『アリゾナプライム』も結構だが、今は生き残る事を最優先に考えないと。遊んでいると死ぬ・・そ、そうだ、スキルカード。
いつぶりだろうか、スキルカードの技術ツリーから最後にスキルを取ったのが、たしかガイア師匠との授業で『採掘』と『精錬』を取ったのが最後だったような。
スキルポイントもいくらあるのか、まったく把握していない。ミューラの言う通り、墓場まで持って行く前に使っておこう。黄色いスキルカードを取り、まずポイントをチェックする。
「(ぴこっ)・・・い、15151ポイント!?」
いつの間にこんなに・・レベルは・・1のまま・・。ステータス・・体力1・・腕力2(漁民・『水属性』補正+1)・・はは、ゴブリン1匹、自分自身でまとも倒したことすら無かった。こんなゴミステータスで、よく今まで激戦を戦い抜いてこれたもんだ・・戦っても無いけど。
しかしおかしい、スキルポイントってどうやったら増えたんだっけ?思い起こせば、スキルポイントは自分自身がクエストをこなす以外に取得できる条件として判明しているのが1つ、クエストで同じパーティーを組んで行動を共にしている間。2つ目は・・結婚した嫁さんが稼いでくれてる分・・ガイア師匠の奥さんがたしか戦士だったよな。師匠はエルミタージュで薪割りしてる間、モンスターを倒している嫁さんのポイントがたまり続けていると言っていた。
・・たしか前回確認した時、スキルポイント、『6850』ポイントじゃなかったっけ?『風の神殿』で石化している間も溜まり続けていたし、石化が解けてから・・やたら増えてる・・。こんなに大量にモンスターを駆逐できるのは、オルレアンでは聖女がもっとも怪しい。
一緒にクエストここまでこなしてきたような・・やっぱりマミがあの3人に紛れ込んでるのか・・双子は婚約しちゃったし・・もうどうでもいいか。
「(しゅ・・しゅ)」
スキルポイントが爆発的に増えている原因が分からず、無意識にスキルの技術ツリーが表示されているビジョンをスライドさせていると・・画面が切り替わる。
「(しゅ・・)ん・・なんだこれ!?」
『筆記』『精錬』など、派生先が表示されている画面とは別の画面に切り替わる事を偶然発見してしまう。画面の背景色が白く輝く。
「び・・『毘沙門天』?」
白く輝くビジョン、黄色いスキルカードから輝きが放たれていた。『毘沙門天』と表示されたスキルと思われる説明書きを確認する。
「獲得必要スキルポイント・・15000!?ほぼ全額ボッシュート!?」
スキルカードにこんな裏画面が存在するなんて知らなかった、調べた事も無かったけど。こんなカード毎日チェックしてたらハゲちゃうよ、若くないんだし。しかも無いな・・ほぼ全額ポイント使うのは、他のやつに・・おっ?この『千里眼』って良いんじゃない?7500スキルポイント、これさえあればなんでも・・。
「(すっ)」
(そっちじゃないよ・・)
「えっ?またお前か・・本当お前センス無いよな~」
・・(201号室前 廊下掃除中の宿の職員)
「どう?何て言ってんの?なんかお風呂がなんとかって」
「のぞき見計画してるみたいよ、この人」
「まじ!?うそ、ヤバくない?」
「ギルドに通報しとこうよ」
(201号室 スキル物色中の漁民)
「・・さっき見た『毘沙門天』ね~・・なんか親父の実家に変な掛け軸あったけど、確かあれと同じ文字だな」
日本ひきこもり協会が毎年やってる三途の河ドラマ、昔親父と一緒に新潟の実家で見てたな・・。
そうそう、実家が新潟県上越市だから『上杉謙信』って超有名な戦国武将、新潟県民なら全員『謙信公』の家来の末えいとか言ってたっけ。
ドラマやってる年は全国から人が押し寄せて、1年限定で三途の川ドラマミュージアムなんて、おらが街にできてた。そして子供の頃、市民限定無料パスで毎日通ってた、忘れてたけど今思い出した。
『毘沙門天』・・・新潟県民限定ご当地スキル!?なんじゃそりゃ?『越後二天』・・いろいろ発動条件書いてあるけど、こんな県民限定スキル使えないよ。
この分だと、山梨県民限定で風林火山とか出てきそうな勢い。それにこんないきなり日本かぶれなスキル使ってたら、またあいつらに馬鹿にされるし・・やっぱり『千里眼』に・・。
(そっちじゃないよ・・)
「え~こっちにしとけば、たまたま見えちゃうのは問題ない・・」
(しゅ!)部屋の窓から空気が吹き込み、突然目の前に人影が現れる。
「うわ!(ぴこっ・・)ああ!?」
「何してんのあんた?」
「何してんのじゃないよジャンヌ!?間違って押しちゃっただろ!」
「なにを?」
「スキルだよスキル!15000スキルポイント・・全部使っちゃった・・」
「何に使ったのか知らないけど、凄くやらしいオーラ感じたから飛んできたんですけど」
「やらしいオーラって、まるでミューラみたいな事を・・お前。まさか・・」
「そだよ、『感知』スキル」
「嘘だろ・・それって、『レンジャー』しか使えないはず・・」
「私も昔『レンジャー』だった・・ちょっと考えれば分かるでしょ?本当馬鹿なんだから」
「・・ここにすぐに来れたのも・・」
「『瞬足』使ったから。この前おんぶしてあげたでしょ?」
「・・でも今は『レンジャー』じゃないんだよな・・」
「『戦士』の職業もマスターして、派生上位職、『聖騎士』が今の私の職業」
「・・『円卓騎士』の会談は?」
「終わった」
「やらしいオーラは分かった。『瞬足』が使えるのも知ってる。なんでここに・・」
「ふふ~ん」
(ばすっ!)突然窓から現れたジャンヌが、ベッドに足を組んで座り、両手を顎にあててニヤニヤしながらイスに座っていたこちらをのぞき込む。
「そろそろ私も限界なのよね~」
「なにがだよ・・」
「あんたも薄々気づいてるんじゃないの?アイリスお母様の気持ち」
「気持ち?聖女の考えてる事なんか、平民の僕に分かるわけないでしょ?」
「そうね・・あんたにそれが分かるなら、私も苦労しなかったし」
「・・何が言いたい?」
「犯人捜し、しないの?」
「なんの?今日は色々連れまわされたし、スキル取るので頭が一杯だったし」
「本当、単細胞ね」
「喧嘩しに来たのかジャンヌ?」
「あんたなんで、私の事、最初会った時から『マミ』って言えたのよ」
「知らないよ、他人の空似だよ」
「ルナお姉様にも『マミ』って言ってるそうね」
「言い間違い、悪かったよ許嫁もいるのに。謝れってならいくらでも謝るから」
「あんたは・・15年前・・アイリスお母様と最初に会った時から勘違いしてた・・」
「なんの話だよ・・なんで知ってる・・」
「そりゃあこれだけ似てるんですもん、今まで私とルナお姉様とでさえ、間違えてたんでしょうし」
「それは無い」
「なんでよ」
「お前は・・その・・」
「なによ」
「な、何でもないよ」
「ふ~ん、隠そうとすると顔をそむける」
「何がだよ」
「ごまかそうとすると、すぐに怒る」
「お前だってすぐに怒るだろマミ・・・あっ・・」
「ふふっ・・」
「え・・」
「ふふふ(ばっ)」
ジャンヌが座っていたベッドから立ち上がると、こちらに歩いて近づいてくる。
「手紙の犯人、捜す気になった?」
「お、おお、お母様の手紙がどうしたって言うんだよ・・」
「昨日の手紙は、昨日の手紙。今日の手紙は?」
「今日って・・なんの事だよ・・」
「現実から目を背けない」
「く・・来るな!(ばっ!)」
無意識に部屋の扉へ駆け出し、鍵を開ける。
(ばん!)
「キャ!」
「し、失礼しました旦那様!?」
(ばっ!かんかんかん!!)
「旦那様どうしてあんなに、顔真っ青だったのかしら?」
「お部屋は?誰もいないわね・・」
おかしい、おかしい、あんなの、ジャンヌじゃない!きっと黒装束が変装でもしてるに違いない、おかしいよ。




