94.選抜試験
ジャック=ハートとライン=ハートの兄弟が、自らが双子聖女姉妹の許嫁である事を高らかに宣言した後、ミューラ先生が明日の選抜試験の説明をはじめる。
「みんな聞いて頂戴。調査をしている冒険者の情報では、『ヘルヘイム』帝国の『トロント』侵攻作戦の準備は着々と進んでいるようなの」
「『トロント』侵攻作戦!?」
「非道な!」
「はい静かに。今日から2日後、すべての冒険者に対して、オルレアン連合ギルドから『緊急招集』が発令されます」
「『緊急招集』だってよ!」
「そこで、セントルイス学院長の指示により、明日全学院生にクエストが与えられます。もちろん単位もちゃんと出るから安心して頂戴」
「クエストだってよ」
「単位もらえるって、何するんだ?」
「はいはい、静かに。今日の帰りに、掲示板に各クエストの指示が出ています。主に3つのクエストに分かれます。戦闘職の皆さんには闘技場『コロッセオ』においてトーナメント形式の模擬戦を行ってもらいます。順位に応じて報酬も多くなるから、腕に自信のある生徒は積極的に参加して頂戴」
「おおー!」
「俺は出るぞ!」
「続いて高いスキルを持つ技術職の皆さん。武器や防具整備などの技術力を競う技術力コンテストを開きます」
「私はこれだわ!」
「ミューラ先生の1/18フィギュアで勝負するぜ!」
「最後に、先に言った2つのどれにも当てはまらないスキルのみんなは、フリーブースを闘技場前に設置するので、日頃の学習の成果をそこでアピールして下さい。商人をしている家系のみんなは物販も認めらます」
「稼ぎ時だ!」
「早速帰って準備しよう、うちの専売特許で一稼ぎさせてもらおう」
フリーブース・・つまりフリーマーケット、借金返済の大チャンス。
「みんなも気づいていると思うけど、明日の各クエストは選抜試験も兼ねています。2日後に迫る『ヘルヘイム』の侵攻に対して、オルレアン連合ギルドによる『トロント』防衛作戦が立案される予定よ。ギルド長の指示で皆さんの技量に応じた適材適所の配置が予定されます。でも怖がらないで、私たちにはここにおられる三聖女様がついています。大船に乗ったつもりで戦い抜きましょう」
「おおーー!」
「聖女様が3人もいらっしゃるから絶対に安全だわ!」
「最後に、みんながやる気が出る情報よ。『ベネチア』の王立学院『アカデミア』、『トロント』の王立学院『ケンブリッジ』、『ヘルヘイム』帝国の侵攻前に『マドリード』へ亡命していた王立学院『ハーバード』、今は先日の襲撃で大打撃を受けた『マドリード』の正式な王立学院として機能してるこの3学院も加わって、初の4大王立学院による選抜試験となる予定よ。オルレアンの代表として、全学院生の奮起を期待します」
「おおーー!!」
「負けてられないぜ!」
「さっそく掲示板見に行こうぜ!」
ミューラ先生が授業終了を宣言する。学院生は一斉に教室を飛び出して、明日行われる『トロント』防衛戦の選抜試験を兼ねた各クエストに意欲を燃やしているようだ。
ミューラ先生の授業は大人数の大所帯。窓際の一番奥に座っている自分が他の学院生が退室するのを待っていると、自分の座る席まで歩いて近づいてきた。
「やっほ~、元気?」
「三聖女の連日の襲撃で、身も心もボロボロですよ」
「仲良くやってるみたいね、大変よろしい」
「なにがよろしいですか。昨日もアイリスママ大暴れですよ」
「食事会だったんでしょ?どうだったアイリス様?」
「僕の前世の妻は自分だとか変な事言い出して、冗談言うなよって言ったら怒り出して」
「あちゃ~そう返しちゃったか~」
「なにがあちゃ~ですか、もう手が付けられませんよあの子。怒りぷんぷん丸ですよ」
「それにしても今日はおとなしく帰って行っちゃったわね三聖女様たち」
「ああ、今日はパパと食事しろって昨日ガツンと言ってやったんですよ。この後4人で食事に行くんじゃないですか?」
「なるほどね、それも大変よろしい」
「そうですよ、毎日そうすれば良いんです。ミューラからも、ちゃんと言っておいて下さいよ」
「スズキ君は、ルナ様とジャンヌ様のご婚約の件は聞いてたの?」
「突然知りましたけど」
「2人からは?」
「特になにも」
「昨日はそのお話してたんじゃないの?」
「2人が一口食事食べた途端に凄く美味しいって騒ぎだして、婚約のコの字も出ませんでしたよ」
「そうなのね~何かしら君には話すと思ってたんだけど」
「サプライズは入りませんよ。身を固めれば少しは2人も落ち着くんじゃないですかね?」
「なによサプライズって?ルナ様はまだ乗り気じゃ無いようだし、ジャンヌ様が二つ返事で承諾されたのはアイリス様も不自然に思ってたし」
「聖女様の恋話は僕には関係無い話ですよ」
「スズキ君は何とも思わないの?」
「そりゃあ僕の生まれた国でも姉やは15で嫁に行きって古い時代にはありますけど、最近じゃあ初婚は男女とも30歳が一般的ですから・・やたら早いとは思いますよ」
「聖女様は『光属性』なの。将来の世代へつないでいただくのも、生まれてきた時からのお二人の定めなのよ」
「ああ・・なるほど。アイリスもライン=ハルトと許嫁だったのも、それが分かってたからって事ですか」
「そう、ルナ様とジャンヌ様ももうすぐ16歳になられるから、身を固めていただくには遅すぎるくらいだったの」
「16歳で許嫁・・この国では良い事なんでしょうね。僕の国は平均初婚年齢30歳超えて、超がつくほど少子高齢化社会になって国が滅びかけてますよ」
「なにそれ?おじいちゃんばっかりって事?」
「そうですよ、大衆浴場『ウインダム』が10個あっても足りませんよ。年金制度も崩壊して、王宮の国庫も破綻して、国も僕も借金地獄ですよ」
「子供も少ないの?」
「ええ、子供よりおじいちゃんの方が3倍多いいびつな人口ピラミッドですよ・・そういえば・・15年前に比べて、やたらエルミタージュの学院生多いですよ・・」
「ええ、そうよ。ルナ様とジャンヌ様が生まれる年に、オルレアンでベビーラッシュが起こったの」
「アイリスの双子姉妹、ロイヤルベビーでベビーラッシュですか・・どの国も変わりませんね。団塊世代が出来ないように、『トロント』防衛戦では兵士たちにしっかり活躍してもらいましょう」
「不吉な事を言わないの。その一大決戦を前にご婚約を発表して、オルレアンのみんなの士気を高めるねらいもあったんだから」
「なるほど、それで発表が急だったんですね・・でも前からこんな話あったんですか?」
「すでに15年前からよ。アイリス様のお腹にいる時から、王族側で色々話が出てたみたいね。毎日のように許嫁候補の署名状が届いて、ルナ様もジャンヌ様もうんざりされてたわ」
「さすが貴族は違いますね。僕なんか前世の妻に離婚届を叩きつけられた直後に死んだみたいですし、なぜか転生前の借金の返済も続いてますから、当分結婚は無理ですよ」
「え~なにそれ、つまんない」
「つまんなくて良いんですよ。借金で首が回らないんですよ、首が」
「どうしましょうねアイリス様」
「サンダース様と身を固めていただければハッピーエンドで終了ですよ。ルナ様とジャンヌ様の正真正銘のパパになっていただいて、親子4人末永くお幸せにで宜しいんじゃないですか?僕から今度言っときますよ」
「ちょっと。そんな事、絶対に言っちゃダメだからね!」
「はいはい、近づかなければ話す事も無いでしょうから。今度聖女が近づいたら警報音が鳴るようなカードをギルドで開発して下さいよ。借金してでも買いますよそのカード」
「はいはい、そんなものありません。ところでスズキ君、ちょっとお願いしたい事があるんだけど」
「ちょっと私についてきて~はお断りですよ」
「え~なんで分かったの~」
「耳がピンピン立ってるからですよ。バレバレなんですよ、すでに」
「ちょっとそれ言わないでよ~」
「もう誰も教室いなくなりましたから、そろそろおいとまさせていただきます。先生もテスト終わって単位認定とか仕事あるんじゃないですか?」
「今日は1問だけにしたし、採点終わってるし」
「ああ、後テスト問題1枚1枚手書きで書くのやめません?今度コピー機開発しますから」
「なによそのコピー機って?」
「ボタン1つで同じ書式の文書を何枚も複製する機械ですよ」
「えっ!そんなのあるの!?」
「機械の街って言われてるくらいですから、『マドリード』とかに無いんですか?」
「無いわよそんなの。スズキ君の前世の国ではそんな機械あるの?凄く便利!私それ欲しい!」
「はいはい、1枚1枚手書きで模写とか古事記じゃ無いんですから・・。コピー機までとはいかなくても、江戸時代にもあった粘土の板に文字を掘ってインクで1枚ずつすれば良いんですよ。新聞じゃ無くて、かわら版でしたっけ・・」
「それが欲しい!すぐ欲しい!」
「別にスキルなんて無くても作れますから。オルレアンって、こんなギルドカードなんて高等技術の塊があるのに、紙の媒体って全部手書きで模写してるんですか?」
「当たり前でしょ?サラなんて、書くのが面倒だからテストすら無いのよ?」
「ミューラ先生もそうすれば良いじゃないですか?テスト全廃しましょう、全学院生の代表としてお願いしますよ」
「それは駄目!講義だけ聞いて卒業しちゃう子も多いの。私は少しでも自分で考えて知識を身に着けて欲しいと思ってテストは続けてるんだから」
「ミューラは真面目なんですから・・はいはい、次のテストまでに問題教えて下さい、作っておきますから」
「先にテスト問題教えちゃダメでしょ!」
「どの口がそれを言いますか・・じゃあ「ここテストに出ます」って言ってから作れば良いんですね?」
「そうそう」
「はいはい・・先に作っちゃっても大して変わらない気がしますけど・・」
「お~い、お前さんたち」
「あっ、ガイア師匠!」
「ごめんなさいガイア様、すっかり話こんじゃって」
「かっかっか。セバスのやつも大分待たされて、しまいにゃあわしが迎えに来てしもうたわい」
「すいません」
「ガイア師匠、セバスさんも来てるんですか?」
「そうなのスズキ君。実はお願いって言うのは・・」
学院生が誰もいなくなった教室に、ミューラとガイア師匠と3人が集う。
どうやら外ではセバスさんが待っているらしいが、一体何の用があるんだろう?




