93.親子水入らず
一時間目の授業、サラ先生が講義をしているが、内容がまるで頭に入ってこない。美馬・・・マミの旧姓。先日セバスさんから異世界への転生・転移の可能性について話を受けた。
この手紙には、わざわざ「美馬」と書いてある。一体誰が、どうやってマミの旧姓を言い当てられようか。自分も忘れかけてたマミの旧姓、本人からの手紙と考えた方が自然。
教室の一列目を再度確認する・・考えたくないが、あのマミにうりふたつの若い顔、あの三聖女が間違いなく・・怪しい。
まず一人目の聖女、最初からもうこの子がマミだと信じて疑わなかったアイリス。
彼女の顔を見るたびにマミの事を思い出さずにはいられなかった。
しかし昨日の食事会で疑念が生じた。あの子・・ちょっと、あれなんだよな・・。
マミはとにかく賢い女性、あの何でも知らないふりをして聞いてくるあの行動すら計算されたものであるなら、やはり彼女がこの手紙を書いた可能性が高い・・。
しかし二人目の聖女、長女のルナ、これまた可能性のある一人。
水の国『ベネチア』で共に行動して彼女の人となりを知り、最近では無意識にマミとつぶやかせるほどの親近感を感じる。
親衛隊離脱を叱られ、お母さんにそっくりの頑固者だが、妹よりも冷静な判断、大人びた表情やしっかりした考え方と態度、同じ40歳手前の大人な考え方をしていたマミに一番近い気がする。
この手紙、もしかして彼女が書いた可能性が・・。
そして三人目の野獣・・もとい聖女ジャンヌ、以外に彼女はダークホース。
子供っぽさ満載のムカつく女、毎回会うたびに彼女とは喧嘩になる。
怒った顔がマミにそっくり、逆に結婚生活をしている中での生活感を最も感じさせるのが彼女・・ただマミが子供っぽかっただけかも知れないが、以外に彼女が手紙を書いていた可能性も・・。
誰かがマミだった場合、他の二聖女の謎の行動や言動がまったく不可解なものになる。
いくら頭で考えても、この3人とも全員手紙を書いた聖女なのか疑わしくなってくる。あるいは、この3人以外の誰かが?エリスやミューラなのか?
「それでは、本日の授業を終了します・・。それと・・」
考えがまとまらない中、サラ先生が何やら話を始める。
「明日授業はありません」
「ええ~」
「出席日数は?」
「静かに・・今詳細を詰めてます。2時間目の授業終了後に、明日の選抜試験について詳細を発表します」
「選抜試験!?」
「(がやがや)なんだそれ!?」
なにやら明日の授業終わりは『選抜試験』なるものがあるらしい、私には関係の無い話と信じたい。
(き~んこ~んか~んこ~ん)
「じゃあな銀等級。俺、この後別の授業行くからよ」
「待つんだジョン君。出口をすでに塞がれている、聖女が襲ってくる、私を守るんだ」
「悪い。明日またな!(だっ!)」
「あっ、待てよジョン!」
「ちょっと待ちなさいよあんた」
「ぐっ・・なんでしょうかジャンヌ様・・」
「用があるからこっち来たんでしょ?」
「許嫁はどちらへ?」
「ハート様はお母様の護衛中よ」
「誰から護衛されてるんですか?」
「あんたからよ」
「それでは失礼します」
「だから待ってって言ってるでしょ!」
「こらジャンヌ、お口」
「ううー・・は~い」
「スズキ様、昨日はお食事大変美味しかったです、ご一緒させていただきありがとうございました」
「ジャンヌも!凄く美味しかったから今日また行くの!」
「ええ!?僕の定宿に寄らないで下さいよ・・」
「本当にお味が・・美味しかったので、お父様とお母様を今日はお誘いしていまして」
「今日は2人とも・・サンダース様とお母様と一緒に?」
「そうよ・・ありがと」
「もうっ、ジャンヌったら。この子、4人で食事が出来るの、昨日から本当に楽しみにしてるんですよ」
「ちょっとお姉ちゃん、それ内緒って私言った!」
「あ、あら・・ごめんなさいジャンヌ」
「でも良かったですね。ようやくアイリスも分かってくれたみたいで、女王陛下よりも先にお父様と4人で食事にいけば良いんですよ」
「あんた・・お父様は・・私たちの本当のお父様じゃあ・・」
「知ってますよ。15年も育ててもらったんでしょ?もうお父様ですよ」
「はい、わたくしもそう思います」
「ジャンヌもそう思ってるの!今そう言おうとしたの!」
「はは、それが聞けて安心しました。昨日3人で食事した価値が十分にありましたよ」
「うん・・それでお母様が・・」
「わたくしたちが喜んだのがとても嬉しかったようで、スズキ様にお礼をと」
「そうですか・・。顔を合わせないのに、娘を使ってお礼とは、本当に訳分かんないお母様ですね」
「そうなの!」
「わたくしも、そこは疑問に思っておりまして・・」
「はは、じゃあ今日は4人でその疑問を解消できるようにしっかりお話しないとですね」
「うん」
「そう致します、本当にありがとうございました」
「ところであんた、この後のミューラ先生の授業のテスト、ちゃんとメモしてるんでしょうね?」
「へ?なんですそれ?」
「あんた馬鹿でしょ!『火のクリスタル』のある国よ!」
「『ベネチア』でしたっけ?」
「『マドリード』よ、『マドリード』!この無能が!!」
(き~んこ~んか~んこ~ん)
「(がらがらがら)はい、授業始めます。すぐに試験始めるから準備して頂戴」
「お姉ちゃん、戻ろう。こんな馬鹿知らないんだから」
「スズキ様、忘れないうちにお早くメモなさって下さい」
「ラ、ラジャー・・(ぴこぴこ)」
「はいみんな、試験始めま~す」
単位取得の解答用紙が配布され、前方の黒板に試験問題が表示される。黒板には「『火のクリスタル』のある国の名前は?」と表示される、危ないところだった、天使に救われた。
無事に聖女に言われた通りメモしておいた『マドリード』を記入、これで単位は大丈夫そうだ。
ミューラ先生が試験問題を回収、また1人ですべて採点している。一番上の席から、1列目の彼女たち三聖女へ目をやる。
あの2人の姉妹、あれでいてなかなか良い姉妹なのかも知れない。1時間目の間に彼女たちが手紙を書いた犯人と疑ったが、どうも先ほどの自然なやりとりの中で「私がマミです」なんて話にはなりそうもない。となると・・やはり・・お母様・・だよな・・。
「はい、全員合格!安心したわ」
安心?
「みんな聞いて頂戴。ここにいる全員がギルドカード所持者だから、昨日の『ヘルヘイム』帝国からの宣戦布告は、みんなも承知のとおりよ」
ここにいる全員がカード持ってる・・通りで全員ハンターだったわけだな・・。どうやらこのオルレアン、王族や貴族、西洋教会関係者の方は、もれなくギルドカードが行きわたる仕組みの国家らしい。
「『ヘルヘイム』帝国になる以前の土の国『アリゾナ』との『転移結晶』は、昨日のあの後すべてのゲートが破壊されたわ」
なるほど、通行手段を遮断したわけか・・でも、『アリゾナ』には『グランドキャニオン』という『転移結晶』を採掘できる場所があるとの話。相手側からゲートをつないでくる危険性がある・・。
「雷の国『トロント』が真っ先に攻められるのは時間の問題よ。そこで・・お願いできますかお2人とも?」
「はは!我は雷の国『トロント』より参った、『雷のクリスタル』の使徒、ジャック=ハート伯爵である!」
「そして、我は雷の国『トロント』より参った、弟のライン=ハート伯爵である!」
「我ら兄弟、昨日オルレアンの聖女ルナ様、聖女ジャンヌ様とのご婚約のお許しをいただいた!」
「おおーー!!」
「キャーー!!」
「ルナ様!」
「ジャンヌ様!」
「なんという事を・・(青ざめるルナ)」
「ハート様・・恥ずかしいよ~」
2時間目の授業は婚約発表会場と化し、大盛り上がりの展開。姉のルナの方も、嫌々ながらまんざらでも無いようにも見える。アイリスママの様子は不明。
思えば日本にいたマミが、このオルレアンにいると感じ始めて、はや15年の月日が流れている。盛り上がりを見せる教室の学院生たち、聖女姉妹の婚約会見が続く。
赤の他人の婚約話、マミかも知れないとさえ感じていた二聖女姉妹の婚約・・頭がパンクしてきた。
もうマミが誰かなんて・・段々・・どうでもよくなってきた・・。




