92.婚約発表
朝、馬小屋の中に朝日が射し込み目を覚ます。
「(ちゅんちゅん・・)ひひ~ん」
「おはようペガサス」
「ぶるるっ」
ペガサスもおはようと言ってくれているようだ。干し草のベッドを整え、食堂へ向かう。
「おはようございます旦那様」
「おはようございます」
馬小屋とはいえ、この宿が提供している正式な寝床、馬扱いではなく一応ヒューマン扱いしてくれる、営業スマイルが心地よい。昨日まさにこの場所で三聖女の襲撃を受けた。
これからエルミタージュに登校する。昨日の今日、爆発物のたぐいには細心の注意が必要、地雷は絶対に踏まない。海上自衛隊、爆発物処理班、エルミタージュ担当スズキ少尉。
腰の布袋に薬草が満載されている事を確認。昨日ギルドを出る前に、無人薬草販売機にてマドリード産を大量に購入。竜王クラスのボス三体を同時に相手にする、これでも足りないくらいだ。
手早く食事を済ませ、面の割れている宿を早く脱出する。
「旦那様、まだ7時ですよ?もうご出発ですか?」
「万一聖女がここにきたら、僕は漁に出たと伝えて下さい」
「かしこまりました、大漁だと良いですね」
「もちろんです、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ旦那様」
宿屋を脱出、急ぎ馬臭を洗い流すべく大衆浴場『ウインダム』へ向かう。ガイア先生のお母様にご挨拶、服を洗い、今日は『レモン牛乳』を飲んで一路エルミタージュを目指す。早足で大通りを歩く、大通りを通る馬車には見向きもしない。エルミタージュ正門に到着する。
「(あ、お母様いました!)」
(だっ!)ダッシュ!
「(ああ!逃げるな!)」
正門から講堂前まで全力疾走、背中の方で天使の声など聞こえない、私は耳が遠い。
講堂前に到着、講堂前の掲示板を確認、この掲示板もデジタル表示、今日の参加可能授業一覧が一目で分かる。
どうやら昨日の『ヘルヘイム』帝国の宣戦布告の影響で、今日は2時間目で授業は打ち切りらしい。単位は減るが出席日数はカウントされる、卒業単位は未だチェックしていないが、漁民の私にも優しいシステム。
「お母様は1時間目の授業、サラ先生の授業にします」
「かしこまりました、ガイア先生の授業に向かいます」
「だから来いって言ってるの!こっち見なさい!」
「ああ、ジャンヌ様、ごきげんよう・・」
「何よその薄い反応」
「そうだぞ貴公、我が許嫁、聖女ジャンヌ様に無礼であるぞ」
「ハート様ったら。まだ恥ずかしいんだからね」
「許嫁・・ご婚約されたんですね・・。ルナ様も・・」
「わたくしはまだ・・」
「その通り。このジャック=ハート、許嫁として、親衛隊として、ルナ様の御身を生涯をかけてお守り致しますぞ」
「ジャック様。わたくしはまだ・・」
「お姉ちゃんは押しに弱いから、先に日程決めちゃえば流されちゃうわよジャック様」
「おお、さすが妹君のジャンヌ様。誰よりもルナ様の事をご存じですな」
「ちょっと、ジャンヌはお黙りなさい!」
「は~い」
「・・あの、僕もうガイア先生とこ行くんで・・」
「(2人)あなたはこっち!」
聖女姉妹2人とイナズマブラザーズに連行され、サラ先生の授業へ参加する事になる。大きな教室に入るとすでに満員。1列目の真ん中だけ席が空いており、すでにお母様が座られていらっしゃる。顔は合わせないよう、下を向かれているご様子、これは脱出のチャンス。
「これはもう入れませんね、では僕はガイア先生の授業へ」
「いつものとこ空いてるから座んなさいよ」
「ええ!?」
確かに、一番上の一番窓側の端の席の方で、ジョン君が手を振っている。まさに飼いならされた犬のごとく、こいつらとグルなのは間違いない。
あの心の友は最も信用できない、すぐに敵側に寝返るに違いない。
(き~んこ~んか~んこ~ん)
そうは言っても授業が始まってしまったので、仕方なく駆け足で一番上の席へ向かう。
「(がらがらがら)・・授業を始めます」
サラ先生がいつもの冷たい感じで授業開始宣言。
「・・では皆さん、単位を認定します」
「おおーー!!」
「さすがサラ先生!!」
サラ先生大人気、この授業は激熱、着席する間も無く単位が認定されてしまった。あとはゆっくり時間が過ぎるのを待つばかり。
「やあジョン君、単位おめでとう」
「お前もだろ銀等級。ところでよ、そこの・・」
「ん?」
指定されたいつも座っている端の席、机の上に白い紙に包まれた手紙が置かれていた。
「ジョン君のかい?」
「それ、昨日言ってたデスレターだろ?」
「ああ・・これを読んだら最後、天使が舞い降りて心臓を止めに来る・・ジョン君のだろ?」
「俺なわけ無いだろ!座ったらここにもう置かれてたんだよ、絶対ヤバいやつだろそれ?」
「そうだよジョン君、君が開けなさい、さあ」
「開けるわけないだろ!俺を巻き込むなって・・ところで昨日はどうだったんだ?呼び出し受けたんだろ?」
「聖女から激しい拷問を受けた」
「拷問って・・どんなだ?いつものやつか?」
「いつものやつに加えて、お母様が大暴れ。さらに会ってたのサンダースパパにバレて呼び出しをくらい、夜までギルド会館だよジョン君」
「マジかよ、ギルド長にだろ?お前よく生きてたな」
「そうなんだよ、聞いてくれよジョン君」
「まあいいから、それも見とかないとヤバいんじゃないか?」
「ううっ・・思い出させるなよ、この爆発物を」
「爆発するのかそれ?」
「開けた瞬間ドカンだジョン君、地下の迷宮には金貨の出てくるブロックが浮いているかも知れない。イナズマブラザーズを一緒に連れて行こう」
「意味分かんないから、どうせ見たく無いだけなんだろ?さっさと開けろって、どの道見ないとさらにひどい目に合うんだろ?」
「ジョン君、君はいつからキノコ王国の手先になってしまったのかね?」
「俺はずっとルナ様親衛隊だよ、どこにあんだよそんな王国。どうせそれ、聖女の書いた手紙なんだろ?」
「分からんぞジョン君、私へのファンレターかも知れんぞ」
「デスレターなんだろどうせ?」
「そのとおり」
ジョンに催促され、ようやく手紙の封を開ける決意を固める。
(ぺりっ・・)
《いいかげん気づきなさいよ》
・・なんだこれ?
《あんたの事、分かってるのよ》
・・ん?
《美馬より》
な!?・・み、美馬・・だと・・。
(ばっ!)とっさに1列目の三聖女を確認する、一番上の席からでは、後ろ姿しか分からない。
「おいどうした銀等級?どうだった、何て書いてあった?」
(ぷるぷる)
「銀等級・・そんなヤバい内容だったのか?手、震えてるぞ・・」
「・・す、すまんジョン君・・気分が・・悪い・・」
「おい銀等級!や、薬草!(ごそごそ)ほれっ!食っとけ!(ガバっ!)」
「(むぐぐっ)・・(ごくりっ)は!・・はぁーはぁー・・」
「戻ってきたか?どうだったんだ、何て書いてあった?」
「・・とても言えない(ぷるぷる)」
「そんなヤバいやつだったのか?」
「・・悪いジョン君」
「良いって言わなくて。言いたくなったら、その時言ってくれ、な?」
「ああ、そうさせてもらう。ありがとうジョン君」
美馬だと・・。これは・・この名前は・・。1列目の三聖女に目をやる、お母さんのアイリスを挟むように、右にルナ、左にジャンヌが座り、三聖女は、楽しそうに3人で会話をしていた。




