90.幼き皇帝陛下
「つ、つ、疲れた~(バタっ!)」
「大丈夫なのスズキ君?」
「サリーさん・・限界です・・」
「聖女様3人と食事会なんて。スズキ君、さすが銀等級だね」
「なにが銀等級ですか・・あれじゃあ食事会じゃなくて、接待ですよ接待。お母さん大暴れですよ」
食事会という名の三聖女の拷問がようやく終了、一体今何時なんだ?かなりの時間拘束されたのは間違いない。
ギルド会館1階フロアの待合室にある長椅子に倒れ込む銀等級冒険者の漁民、時計を見る余力も残っていない。
「お母さんとお食事でお疲れのところお悪いんだけど、すぐに10階のギルド長室に向かって欲しいの」
「ご、誤解ですよねそれ・・」
「また人の話聞いてない!10階だよ、10階!!」
「は・・ははー・・」
天国へのエレベーターに乗って、一路ギルド会館最上階10階、サンダースパパのところへ向かう。
「(とんとん)・・失礼します・・」
「(小僧か?入れ)」
「はい・・(ぎぎぃ・・)」
力無く扉を開ける。この10階のギルド長室のサッシは前面ガラス張りになっている、ここからギルド前宿屋は当然丸見え、自分の嫁が漁民と食事に行ったところも当然丸見え。
「・・アイリス様と食事をされたのか小僧?」
「・・はい」
バレてる。
「・・小僧」
「・・はい」
「アイリス様をお救いしてくれて・・ありがとう銀等級よ」
「・・え?」
「なんだ小僧?」
「いや、その・・怒らないんですか?」
「なにをだ?」
「だって、サンダース様の奥さんと食事に行ったんですよ僕?」
「なにを言っている小僧?アイリス様がわしの嫁など、冗談もたいがいにせんか・・」
「えっ、え?だって、聖女2人のパパでしょ、サンダース様?」
「たしかにそうだが、それがどうした?」
「どうしたじゃないですよ!?ルナ様とジャンヌ様のパパって事は、サンダース様は・・」
「あの2人をアイリス様より引き取り、15年間育てたのは確かにわしだ」
「育てた・・」
「(ぎぎぃ・・)え~サンダース様、よろしいですかな?」
「セバスか・・いらんおせっかいを」
「セバスさん・・どうしてここに・・」
「え~アイリス様に信頼されている君には、伝えておきたい事実があります」
「・・それって、さっきサンダース様があの聖女2人の育ての親って事ですか?」
「なんと・・口より先に手が出るあなた様が、ちゃんとお伝えできたのですね」
「いらん事を言うなセバス、わしも親としての自覚はあるのだぞ」
「アイリスから引き取ったって・・ひどいじゃないですか・・」
「なんだと小僧?」
「だってそうでしょ?お母さんがいないのって、悲しいんですよ、すごく悲しいんですよ」
「え~スズキ君の言いたい事はごもっとも。しかし勘違いしないでもらいたいのは、『ベネチア』へ15年前アイリス様が旅立つ際、すでに闇の影の存在にアイリス様は気づかれていたのです」
「え?気づいてたんなら・・なおさら・・なんで『ベネチア』なんかに・・」
「分からんのか小僧!」
「ひっ!叩かないで下さいよ」
「え~サンダース様、あまり興奮されないように・・まったく、やはりここに来て正解でしたな・・スズキ君、子を想う親の気持ちは、若き母親とて皆同じなのですぞ」
「子を想うって・・まさか・・」
「闇の影の存在が近づいている事を知った聖女アイリス様は、『光のクリスタル』を探すための旅に出る事を決意された。その目的は2つ、小僧!お前の石化を解くため、そしてもう1つは・・」
「ルナとジャンヌを・・闇から・・守るため?」
「そうだ小僧、いかに『光属性』を持つとはいえ、小さき赤子に何ができる?」
「僕が闇の黒装束なら・・この世界に1人しかいない『光属性』を使えるアイリスから潰します」
「そうだ!アイリス様は、15年前その力のすべてを使われて闇からこのオルレアンを、幼い双子を守られたのだ」
「でも『ベネチア』の使者が処刑されたって・・」
「その件はわしも先ほどアイリス様と話しておった。あれは不幸な出来事であった・・」
「そうなんですか・・だからさっきギルド会館に寄ってたのか・・」
「え~スズキ君、君は先ほどまでそうした話を聖女3人としていたのでは無いのですか?」
「いえ、まったく、全然・・。宿屋の謎ソースが美味しいって、くだらない話で3人で盛り上がってましたよ」
「小僧!貴様はいつもいつも何をやっとるか!」
「僕のせいじゃありませんよ!アイリスがずっと笑いっぱなしで、そんなシリアスな話に全然なってませんでしたよ」
(ビービービー)ギルドカードから警報音が鳴る。
「何事だセバス!この音は第1級ギルド長権限の緊急音声!わしは『緊急招集』など出してはおらんぞ!」
「え~ごもっとも・・(ぴこぴこ)・・ギルドカードの結晶石に埋められております緊急回線に、何者かが侵入しているようですな・・」
「このわしの縄張りで割り込んでくる者など・・(ビュン!)何奴!?」
「(ビュン!)うわ!?僕のギルドカードが勝手に!?」
近くにいたセバスさんのギルドカードも勝手に起動し、ギルドカードがタブレットサイズにビジョンが展開され、黒装束を着た影がビジョンに映し出されていた。黒装束に顔がフードで隠された影が、一方的に話はじめる。
「(冒険者諸君、我々は『ヘルヘイム』帝国・・)」
「『ヘルヘイム』帝国だと!?」
「忌まわしき名を軽々しく・・」
「セバスさん、『ヘルヘイム』帝国って一体・・」
(見よ、この『闇のクリスタル』の輝きを、『タルタロス』様のお導き、今ここに、皇帝陛下『ハーデス』様、復活の儀式を執り行う)
「サンダース様。このクリスタル・・下が欠けてる・・この前『マドリード』の『テムジン』で見た、『土のクリスタル』ですよ!?」
「なるほど・・こやつのいる場所は『アリゾナ』・・今はもう跡形も無かろうなセバス」
「え~そうですなサンダース様。30年前と同じく、またしても皇帝『ハーデス』、それに『闇のクリスタル』に『タルタロス』ときましたか・・いやはや、また仕事が増えそうですな・・」
「『ハーデス』って一体・・(ぴかっ!)うわっ!!」
「(皇帝陛下、万歳!!)・・」
「・・(我が名は『ハーデス』、『ヘルヘイム』帝国皇帝にして、『闇のクリスタルの使徒』『タルタロス』である)」
「『闇のクリスタル』の使徒!?こいつどう見ても僕くらいの歳のヒューマン・・」
「え~どう見ますかサンダース様?」
「小僧の活躍で『水のクリスタル』と『火のクリスタル』防衛に成功した。30年前と違い、『ハーデス』も完全体では無いようじゃが・・さすがこの威圧感・・若いとはいえ『タルタロス』よな」
「え~ごもっとも。あなた様の洞察力、30年前から少しも衰えてはおりませんな」
「無論だセバス、まだ娘が2人、15だぞ?まだまだ若いもんには負けはせんわい」
「え~お孫様の顔を見られるまでは、ぜひ頑張っていただきたい」
「すいません・・全然事態が分からないんですが・・」
「え~君は15年石化して時が止まっていましたねスズキ君」
「はい・・」
「30年前、『ヘルヘイム』帝国は『闇のクリスタル』を擁し、各大陸への宣戦を布告」
「宣戦布告・・それじゃあ、世界大戦じゃないですか・・」
「その時、皇帝『ハーデス』を封じ、『闇のクリスタル』の神、『タルタロス』を封印したのが・・」
「クリスタルの使徒たち・・つまり・・サンダース様やセバス様!?」
「え~やはり詰めが甘かった・・」
「ぬかせセバスよ、お前の『火炎竜』、肝心な時に役にたたんわいて」
「え~あの子はあの子なりに頑張ったのですぞ?その分、弟の『水青竜』がよく頑張ってくれました」
「兄弟竜じゃ、当然働いてもらわんとな」
「え~あなたのように鍛えられたものばかりでは無いのですぞ、まったく、いつもいつも無茶をされて・・」
「30年前の封印が不完全だった?」
「・・そうだな小僧、そして・・」
「え~この『ハーデス』は若すぎる・・敵も復活を焦ったようですな」
「今回は『土のクリスタル』が狙われたか・・ねらいは『グランドキャニオン』かセバス?」
「『グランドキャニオン』って、『転移結晶』が唯一採れるって場所ですよね?」
「ほぉ・・少しはエルミタージュで学んでいるようだな小僧」
「え~ゲートを破壊してしまえば、『アリゾナ』とのルートは遮断できますが・・『転移結晶』でつなげられては・・『アリゾナ』・・今は『ヘルヘイム』と呼ぶべきか・・無数のゴブリン魔導兵が各国になだれ込んで来ましょうぞ」
「やつらめ・・30年前の力押しから、此度はなかなか頭を使いよるわ」
「それじゃあ、あの『マドリード』で見たゴブリン魔導兵とか、闇のオーラを発していたゴブリンチャンピオンが・・攻めてくる・・攻めて来れる?」
「(3国同盟などと子供だましを・・笑わせる)」
「何をぬかすか、貴様だって子供だろうに!」
「え~落ち着いて下されサンダース様。向こうには声は届いておりませんぞ」
「ぬかせセバス、まったくもって不愉快。このわしが『ヘルヘイム』など踏みつぶしてくれようぞ」
「さすがサンダース様」
「ぬかせ小僧!貴様も、アイリス様はおろか、わしの娘に指一本でも触れてみろ!その体、一片のチリも残さず粉砕してくれるぞ、よいな!!」
「ひっ!分かってますって・・」
「え~サンダース様、落ち着きなさい。何か『ハーデス』が言っておりますぞ」
「(3国同盟と『トロント』の代表に告げる、最後通告だ。我が『ヘルヘイム』帝国に降伏せよ。今より72時間の時を与える、我に従え、我を崇めよ。従わぬ者、歯向かう者には容赦はせん)」
「72時間!?・・あるようで無い時間を・・」
「え~サンダース様」
「無論だセバス」
「えっ、なんですセバスさん?」
「分かりませんか?どうも軍師・・ブレーンが後ろに控えておりますな」
「この若き『ハーデス』にここまで入れ知恵を加えるなど・・奈落かセバス?」
「奈落ですって!?」
「え~そう見て間違いなさそうですなサンダース様。君も何度か戦闘経験があるでしょう」
「ええ、残忍で、冷酷な、最低のやつです・・お2人も経験がおありなんですね・・」
「まったく、奴はいつまでたっても仕留めきれん!」
「せ~あなた様が衰えるのを待つとばかり思っておりましたが、何やら勝算があるようですな・・分析を開始致しますぞサンダース様。今回の行動、なにやら敵も急いでいるふしを感じます。まるで・・」
「へ?なんですセバス様?」
「小僧か?」
「え~まあ・・エルフの勘ですな」
「お前の勘は良く当たる」
「またご冗談を・・あなた様のお亡くなりになられた奥様と同じ事を言わないでもらえませんか、わざとですな今の発言は」
「セバス・・お前には苦労をかける」
「え~分かっております・・スズキ君」
「え、はい・・」
「え~各国のクリスタルを次々と狙った襲撃、君も、あの『土のクリスタル』が漆黒の闇に染まるのをその眼で見ましたね?」
「はい・・この『ハーデス』ってやつの隣にある『闇のクリスタル』を・・本当は『火のクリスタル』と『水のクリスタル』も闇に染めてから復活させる予定だった?」
「さすがエルミタージュの生徒ですな」
「はは・・脳みそ魚ですけど・・」
「(72時間のちに回答無き場合、まず『トロント』への進軍を開始する)」
「と・・」
「『トロント』を先に狙うか!この薄汚いゴミ虫どもめ!」
「え~落ち着きなさいサンダース様。あなたの故郷、分かっております」
「ふん!返り討ちにしてくれるわ」
「敵もあせってるって・・これも罠じゃ?」
「え~可能性はゼロではありませんが・・」
「小僧!知らんお前に教えてやろう。雷の国『トロント』と土の国『アリゾナ』は陸続き」
「ええ!?島じゃないんですか!それじゃあ、『アリゾナ』・・『ヘルヘイム』帝国から『トロント』へは簡単に進軍できるじゃないですか!?」
「(ガチャ!!)緊急!失礼します!!」
「無礼だぞリンダ!」
「申し訳ございませんギルド長。雷の国『トロント』から、『3国同盟』への援軍要請あり!」
「え~敵の敵は味方・・今、4つの国が再び1つになる時が来ましたな・・」
「1つ足りんぞセバス?」
「え~『土のクリスタル』の使徒はすでに揃っております」
「ガイア師匠がいます!それなら、あいつらやっつけられるんですよねセバスさん?」
「小僧、お前、国の事がまるで分かっておらんな」
「分かりませんけど、仲良くしようって言ってるんでしょ『トロント』が?確かあの雷兄弟の国・・師匠の言ってた土の国の『アリゾナ』が無くなってる可能性が高いなんて・・一体何人のヒューマンやエルフが・・」
「このオルレアンにいるヒューマン以上のドワーフがいたはず・・『土のクリスタル』の加護の無い今となっては・・」
「加護が無い・・あの光のカーテンが・・無い・・それって・・」
「小僧、今は他国の心配などしている場合では無いのだぞ」
「分かってますけど・・オルレアンだけ無事なら言いわけ・・」
「え~そんな事は無いのですよ・・リンダ?」
「はい副ギルド長?」
「『トロント』の援軍要請、条件はなんと?」
「無条件に、ただ、助けて欲しいと・・」
「・・さっそく仕事に入りましょう。忙しくなりそうですなサンダース様」
「セバス、72時間後にオルレアン所属冒険者にも『緊急招集』をかける。選抜部隊の編制を王宮側に急がせろ」
「え~王宮への根回しがまだですぞ?貴族もまたしかり、出資者には逆らえませんぞ」
「まったく奴らはいつもいつも金貨金貨と・・」
「金貨が無ければ兵士も動きませんぞ」
「分かっとるわいセバス!どけ小僧!」
「は、はい!」
「それから小僧!」
「えっ?はい」
「貴様の身などどうでも良い、三聖女を守り抜け!なんとしてでもだ!よいな、銀等級!!」
「ひっ!わかりますた・・」
(ばんっ!!)ギルド長室から、勢いよくサンダース様が飛び出して行った。
「え~スズキ君、私も仕事に入りますゆえ~」
「ええ、はい、すいません・・こんな大事な時に邪魔をしてしまいまして・・」
「え~・・1つだけ言っておきます」
「はい・・なんでしょう?聖女はちょっと・・」
「・・敵は君を恐れている」
「へ?なんで僕・・なんかを?はは、聖女の間違いですよね?セバスさんも、冗談が・・うま・・い・・」
「力は正しく使いなさい。クリスタルと共にあらんことを(かつ かつ・・がちゃ)」
セバスさんとリンダさんが一緒にギルド長室を出ていく。1人だけ、部屋に残される。
「クリスタルと共に・・力は正しく・・啓示に従えって事で・・良いんですよね・・セバス・・さん・・」




