表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/301

88.緊急家族会議

 エルミタージュ学院2時間目、ミューラ先生の『火属性とわたし』の講義が開始される。なにやら1列目の真ん中で、ルナとエリスがギルドカードのメモ機能を使ってやり取りをしている、どうせ良からぬ事を相談しているのだろう。


 たしかアイリスと最後に食事したのって・・あのお(いも)トラブルの時以来かな。エルミタージュの受験の日だったし、あれが食事と言えるのか微妙なところ・・ああ、なんか分かったかも。

 あの日ちゃんと食事出来なかったから、その代わりに今日お誘いされた、あの頑固者(がんこもの)のあの子の考えそうな事だ。


「・・・はい、そこのぼーっとしているスズキ君!」

「へ?」


(あはははは)ぼーっとしていると、突然のミューラ先生からのご指名タイム、学院生から笑いが起こる。


「ぼーっとしないの!『火のクリスタル』のある国の名前は?」

「・・・『熱海(あたみ)』です」


(あはははは)教室大爆笑。


「も~いつもいつもそればっかり!スズキ君、困ったらとりあえずそれ言っとけば良いとか思ってるんでしょ!そこに立ってなさい!(びしっ!)」

「はい」


「・・・アイリス様、お願いします」

「ふふふ、はいミューラ先生。『マドリード』です」

「さすがアイリス様。はいみんな、ここテストに出ます!」


(ぱちぱちぱち)教室で拍手が起こり、全員がテストの答えをメモしている。そんな(たい)した問題でも無いだろうと、2問連続で間違って立たされている自分が心の中で激しくツッコむ。

 傷ついた足がさらに損傷していく、もはや考える気力が残されていない。時間だけが過ぎていく。


「・・・はい、では2時間目の授業終了です。みんな、お疲れ様」


(ぐたっ)足がもう限界・・はっ、こんな時は・・マドリード(さん)の薬草の出番・・(むしゃむしゃ)。


「・・・最低」

「(むしゃむしゃ)ん?なんすか?」


「・・口の中の物、ちゃんと飲み込んでからしゃべってもらえる?」

「(ごくん)・・・失礼します」


「ちょっと、なに逃げようとしてんのよ?」

「ちょっとジャンヌ、お口」

「は~い」


「次の授業に行くに決まってますよ。今度はエリスまでなんです?」

「私があなたを説得しに来たの。お2人のお母様、相当(そうとう)今日のお食事会、楽しみにされてるみたいよイチロウ君」

「・・・エリス、もう行くしかない感じ?」

「そうね」

「どこに行けば良い?」


「ちょっとあんた、なんでエリスさんの言う事は聞くのよ!」

「聖女の話は信用できないからですよ」

「なんですって!」

「ちょっとジャンヌはお黙りなさい!スズキ様、その発言はわたくしも聞き捨てなりません」

「ルナ様も興奮しないで下さい、3時間目の授業始まっちゃいますから。ここは私に任せて下さい」


「・・エリスにお任せするのです」

「はいはい、そうして下さい。それでねイチロウ君、特に行く場所、決めてないんだって」

「えっ、なんですそれ?」

殿方(とのがた)が決めて欲しいって」

「・・それって、僕が誘ってるテイなんですか?」

「聖女のお母様が、旦那(だんな)がいるのにお誘いできるわけないでしょ?」

「もっともなご意見・・ますます不自然でしょエリス?」


「そう!私もそう思う、なんであんたを誘うわけよ?ルナ様といけば良いじゃない」

「やっぱりそうですよね・・。僕、ちょっと今日会って、本人に言っておきますよ」

「お母様と一緒に行っていただけるのですかスズキ様?」

「どこに行くのよあんた?」


「場所は・・ギルド会館前の宿屋の食堂で」

「ちょっとあんた!なんで宿屋で食事すんのよ!」


「誤解しないで下さいよ。僕、このオルレアンで食事できる場所、そこしか知らないんですから」

「この前あんたが馬小屋で寝てた宿屋でしょ?」

「そうそう、そこです」

「・・・最低」


「はいはい、ジャンヌ様、もうそれで良いじゃないですか。どうせギルド会館近いから、終わったらすぐクエスト行って、借金の返済したいんでしょイチロウ君?」

「さすがエリス、僕の事を一番分かってるのはやっぱりエリスだね」

「はいはい、()めても何も出ないわよ。ルナ様、王宮の近衛兵(このえへい)に声をかけといて下さい、宿屋周辺を立ち入り禁止でお願いします」


「分かりましたエリス、お母様には指一本触れさせません」

「ジャンヌもお母様をお守りするよ!」

「皆さん・・一体アイリスを何から守るつもりですか?」


「あなたからに決まってるでしょ?(3人)」


3人が席から離れて教室の1列目に戻って行く。お母様の元に帰って事態を報告する姉妹、お母様は何やら喜ばれているご様子。


マドリード産の薬草で足が歩けるまでに回復。間接的に講師であるエルフ姉妹先生たちからの波状(はじょう)攻撃からなんとか2時間しのぎ切った。

もはや体力1が吹き飛びかねない、急ぎ3時間目恒例(こうれい)の師匠の元へ急いで逃げ込む事にする。教室を脱出、いつもの煙突小屋に行くと、小屋の前でちょうどガイア師匠と出くわした。


「おお、どうした小僧?」

「・・師匠。聞いて下さい・・」

「かっかっか、また何かあったかいの?」

「おお有りですよ、助けて下さいよ師匠」

「かっかっか、まあ入れ」


師匠に誘導されエルミタージュ新喜劇、煙突小屋教室へ入場。3時間目、三聖女の拷問(ごうもん)について学院生である自分がガイア先生に講義を始める。


「かっかっか」

「笑い事じゃないですよ師匠、聖女が大暴れですよ、師匠の力で止めて下さいよ」

「わしには何もできんぞ」

「サンダース様に密告(みっこく)するとか、いろいろチャネルがあるじゃないですか師匠には?」


「かっかっか、まあ、サンダースに言ったところで、アイリス様は止められんじゃろうて」

「ええ!?なんで?オルレアンって、そんなに奥さんの地位って高いんですか?旦那がいるのに他の男と食事とか、週刊誌が殺到ですよ」

「かっかっか、オルレアンじゃあ、旦那を10人抱えとる貴族の婦人もざらじゃわいて」

「僕の国では、それ、大問題ですよ。PTAが黙っちゃいませんよ」

「なんじゃ?PTAって?」


(さか)らったら最後、その国では生きていけなくなる怖い貴族の集まりの事ですよ」

「上下関係厳しそうじゃのう~」

「絶対君主制ですよ、前例世襲(ぜんれいせしゅう)封建国家(ほうけんこっか)ですよ」

「なるほどの~まるでわしの家みたいじゃわい」

「師匠の王国と一緒にしないで下さいよ」


「かっかっか、分かった分かった。まあアイリス様は国の宝じゃて、アイリス様が右と言うたら右じゃわい」

「は~・・なんでこの国の男は諦め(あきらめ)がこうも早い事か・・僕が、がつんと言ってやりますよ。こんな事、愛が無いと駄目なんです」

「かっかっか、お前さん、若いのに言いよるの~」

「僕は愛のクリスタルの使徒ですよ師匠」

「そんなクリスタルあったかいの?」


ガイア師匠とくだらない話をしていると、あっという間に3時間目が終了する。

どの道このエルミタージュの正門は1つ、街はおろか、ギルド会館へ戻るにもあの講堂前を通過する以外に手段は無い。


「ガイア師匠、青い花火か、緊急事態を知らせる発光弾(はっこうだん)とかありませんか?できれば日本製で、大型モンスターにも対応出来て、ちゃんと頼りになる仲間が来てくれるやつお願いします」

「そんなもん無いの」

「ですよね」


ガイア師匠に最後の別れを告げ、煙突小屋を後にする。もはや万策(ばんさく)尽きた、こうなったら作戦変更。

旦那がいるのに他の男と食事をするという不貞(ふてい)な聖女に、愛の戦士である自分がガツンと言ってやる。

腰の布袋に、マドリード産の薬草がたくさん入っている事を再度確認し、講堂前まで歩いて戻る。貴族のお坊ちゃま達を待つ馬車がたくさん止まっており、その中にひときわ輝く聖女号が、講堂前のど真ん中に陣取って、獲物(えもの)(とら)らえようと今か今かと待っている様子。


「あ、来た!」

「スズキ様、遅いのです!」

「えっ?アイリスは?」


「あんたがギルド会館前の宿屋なんて変な場所指定するから、護衛(ごえい)の関係で先にパパのところに行ったのよ!」

「ああ、サンダース様のいるギルド会館ですね。たしかに宿屋はすぐ目の前ですから・・そのまま4人で食事でもしてきたらどうです?」


「お母様が凄く嬉しそうにして先に行っちゃったの!」

「わたくしたちとは違う馬車で、先に行かれてしまいまして・・」

「・・まったく、娘2人をほったらかしにして、何がお母様ですか」


「スズキ様?」

「お母様と2人で食事、嬉しくないの?」


「どこがですか?2人ともおかしいって、ちゃんとお母様に言った方が良いですよ。こんなかわいい娘が2人もいるのに、15年ぶりに再会したんです、家族との食事を優先させるべきですよ。サンダース様には・・怖いので、アイリスに、僕からがつんと言っておきますから」


「スズキ様・・まるで、本当のお父様みたいです・・」

「あんたとは思えない発言ね・・」


「はいはい、僕はもうおじさんですから。じゃあ僕、歩くの遅いんで行きますね」

「ちょっとお待ちください」

「あんたも馬車に乗りなさい、今日は特別に同席(どうせき)許してあげるから」


「どういう風の吹き回しですか?ジャンヌ様が同じ馬車に乗れなんて、今日のオルレアンは暴風になりそうですね」

「いちいち一言多いのよあんたは!私とお姉ちゃんも遠巻き(とおまき)に監視するんだから、ついて行くに決まってるでしょ!」

「ちょっとジャンヌ、それは秘密にする約束でしょ」

「・・・とりあえず行きましょうか」

「は~い」


「スズキ様。ご機嫌を直して下さいまし」

「別に怒ってませんからルナ様。僕、愛のクリスタルの使徒ですから、断じて誠意ある行動を取ります、お母様には指一本触れませんので」


「スズキ様・・まるで大人の男性の発言ですね・・」

「あんたとは思えない発言ね」

「運転手の方、聖女様乗りましたんで、早く馬車を出して下さい」


 勝手に運転手に指示を出し、馬車をすみやかに発進させる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ