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86.前前世

 日曜日の夕方、王宮の正門から歩いてギルド会館を目指す。数日クエストをさぼってしまったが、このボロボロの体では働くこともままならない。

 ギルド会館前の宿屋に直行する前に、ただ1つだけ、ギルド会館でお礼を言っておきたい人・・じゃなくてエルフがいた。ギルド会館に到着、1階の1番受付窓口へ向かう。


「あ、スズキ君!生きてたんだね!」

「ええサリーさん・・生きていたスズキですけど・・なにか・・」


 サリーさんの中で完全に死んでしまったヒューマンとなっていたようだ。

 とりあえず否定しつつ、要件をすぐに伝えようとするが、ミューラにそっくりのマシンガントークで、なかなか本題に切り出せない。


「はい、スズキ君のギルドカードとスキルカード。あとマドリード産の薬草も・・いっぱい入ってる、たくさんだね!」

「ああ、サリーさんが持っててくれたんですね。薬草はこの前『テムジン』守ってくれてありがとうって、マドリードの兵士に帰り(ぎわ)たくさんもらったんですよ、実家が薬草農家らしくて」


「そんなのんきな事言ってる場合じゃ無かったでしょあなた?スズキ君が指名手配になって、廃棄される寸前だったのを私が隠し持ってたの!」

「それはどうも。あ、薬草少し入りませんか?マドリード産、ベネチア産に比べてピリリとからくて刺激的な味なんですよ」

「うん、いらない」

「ですよね」


 あの竜王や魔王を退治しに行った勇者一行が、やたらどこの村でも売ってて、やたら薬草買い込んでたのを馬鹿にしていたあの頃の自分、あれは大いなる誤解(ごかい)

 魔法があるからいいじゃんとか思っているそこのあなた、いるいる、いるんですよこれ。聖女に叩かれたり、授業で立たされたりして、体力1が吹き飛びかけるその前に、マドリード(でぃー!)!ワシのマークの・・。


「・・でねでね~」

「・・ああ、ちょっとサリーさん・・僕、セバスさんに会いたいんですけど・・」

「ああ、副ギルド長ならちょうどいらっしゃるわよ、聞いてみるからちょっと待ってて・・(ぴこぴこ)」


 何やら1番窓口のサリーさんが、結晶石のタブレットを起動させて、その画面に向かって話かけている。もうスマホだなこれ・・。


「はい、1番窓口のサリーです・・えっ?今お忙しい・・誰ってスズキ君・・えっ・・大丈夫になった?・・はいはい、では5階へ・・は~い」

「サリーさん、よく分かりませんでしたが、忙しそうなら今度でも大丈夫ですよ。お仕事の邪魔はしたくないので」


「うん、なんか突然(ひま)になったらしいよ、5階!応接室に来てだって」

「誤解ですか?帰った方が良いって事なんですよね?」

「だから5階だって5階!」

「分かりました分かりました、誤解ですね、帰りますってサリーさん」

「さっさと5階行けっつってんだろ!」

「へ?ああ、5階・・はいはい、5階ですね5階」

「本当魚脳みそなんだからスズキ君は、まったく!」


 5階を誤解と勘違いしてしまった、オルレアン(かい)の歩く漁民。急ぎエレベーターもどきに乗って、5階応接室へ向かう。


「(とんとん)失礼します」

「(え~入りなさい)」

「はい(ぎぎぃ)」


 応接室に入る。窓側のサッシは天井近くまでガラス張り、15年前のギルド会館からは想像もできない綺麗な応接室。相当儲かってるな、オルレアン連合ギルド。


「え~なんとか一命(いちめい)はとりとめたようですね~」

「毎度毎度すいませんセバスさん、今回も奇跡の生還を果たせました、警察24時でしたよ僕。とにかくお礼が言いたくて、本当にありがとうございました」


「え~礼を言うのはいつもこちらの方なのですよ。『マドリード』の『テムジン』に続いて、今度は聖女アイリス様を復活させるとは・・いやはや、君は私もギルド長も見込んだとおりの冒険者、いや、それ以上の活躍ぶり」

「セバスさんにそうおっしゃっていただけるのは嬉しいですが、あのギルド長が・・そんな事はいままで一言も・・」


「え~口より先に手が出る方ですからあの人はまったく・・」

「ああ、なるほど」


 久しぶりのセバス様とのトーク。ミューラのお兄さんとは思えないほどの良識人(りょうしきじん)・・じゃなくてエルフ。


「(ばんっ!)あっ、スズキ君いた!」

「げっ!なんでミューラが・・」

「なんか私の事、やらしい事考えてたでしょ!」

「そんな事は・・ミューラの事は考えてましたよ・・さすがに早いですね」

「私の事、考えてくれてたの?」


「・・死に損なったか」

「サラ先生!」

「ちょっとサラ!あんたはいつも一言多い!しかも冷たい!」


「それは『水属性』のサダ。姉さんの男には消えてもらう」

「あのサラ先生、本人の目の前でそんな事言わないで下さいよ・・。それに僕だって『水属性』・・あっ」


「え~どうされたのですかなスズキ君?」

「あのセバスさん・・その、『黄泉がえり』をしていただいて、2日間、金、土曜日と寝てたみたいで・・その間に・・夢を・・見たんです」

「夢?」


「やらしい夢」

「ちょっとサラ!」


「はは、その・・三途の川(さんずのかわ)を魚になって泳いでまして・・」

「なに、三途の川ってスズキ君?」


「え~オルレアン(かい)と同じようなものですかな?死者が天国へ行く途中に通る海の事ですが?」

「そうそう、そんなのです。実は僕、ミューラにも話して無かったんだけど・・トラックにひかれて・・一度・・死んでて・・」

「スズキ君が死んだ!?それにトラックってなに?」


「え~『マドリード』式自走ゼンマイ機械のような物ですかな?多くの荷物を機械の荷台に乗せてたくさんの物を運べるものです」

「そうそう、そんなのです。さすがセバスさん、頭良い人って大好きですよ僕」

「え~君はもっと分かるように話をしなさい、いつもいつも周りがまったくもって理解できておりませんぞ」

「はは、すいません・・」


「姉さんの男はゴブリンゾンビ。(やみ)のモンスター」

「ちょっとサラ!そういえばスズキ君、借金がいきなりあるだの、15年前からそんな事言ってたわよね?」


「ええ・・正確には、このオルレアンの浜辺に来る前の自分と言いますか・・」

「え~『転生』・・あるいは『転移』のたぐいでしょうか・・」

「『転生』!?なんですそれセバスさん?」


「え~15年前、冒険者試験の面接の際に、あなたを最初に面接したのは私・・でよろしいですかな?」

「もちろんです。たしか・・沈没船が沈んだら何とかって質問だったような・・」

「なにそれ兄さん、私聞いてない」


「・・大分違いますが、まあ方向性は大体そんな質問でありましたかな・・。最初に会った君は、前の仕事は倉庫の商品管理だの、離縁した妻子がいるだの言ってはおりませんでしたかな?」


「スズキ君が妻子!?(青ざめるミューラ)」

「姉さんの男に隠し子発覚」


「ちょっと、どういう事なのスズキ君!」

「え~落ち着きなさいミューラ、サラも少し黙りなさい」

「はい」

「・・分かったわよ兄さん。それでスズキ君、その話本当なの?」


「ええ。ほら、金貨10枚、毎月今でも引かれてどこか知らないところに送金されてるんですけど、あれって、僕の買った家の借金と、別れた妻子の養育費なんですよ」


「借金に加えて、養育費・・(青ざめるミューラ)」

「姉さんの男に借金発覚」


「借金がある事はとっくに知ってたの!」

「・・え~ようするに、今生きているこのオルレアンの世界では妻子もおらず、君はただの少年、それはよろしいですかな?」


「セバスさん・・それは・・」

「認めたくない・・気持ちはそうですが、実際に自分の体はまだ少年で頭の理解が追いつかない・・それでよろしいですかな?」


「そう・・です・・」

「どういう事よセバス兄さん、じゃあ何?一度死んだ事も記憶してるスズキ君だから・・前世の記憶が残ってるだけって事!?」

「え~そう考えればつじつまが合いますが・・1つだけつながりが欠けておりますな~・・スズキ君、あなた・・『水属性』ですね」


「ええ、セバスさん、何を今さら・・」

(いま)だに魚脳みそ」

「ちょっとサラ先生、何ですさっきからサリーさんと同じ事を。ジャンヌも僕が魚脳みそって・・さかな・・三途の川・・泳いで・・」


「え~仮説は仮説です。あまり気にしない方が良いでしょうが、前世の記憶にしばられるあなたの事だ、それは十分に考慮(こうりょ)して生きていった方が身のためですぞ・・これは250年以上生きてきたエルフの先輩としての忠告です。このオルレアンでヒューマンとして死ぬまで生活するわけです、話し方も大分(だいぶん)おかしい、何か勘違いでもして、誰かを勘違いさせて生きていては・・」


「・・セバスさん・・僕・・とんでもない勘違いをして15年前から、すでにやっちゃってるかも知れません・・」

「もしかしてスズキ君・・アイリス様の事、ずっとあの名前で呼んでたのってまさか・・」

「ミューラ。僕、やっちゃったかも」


「あなたの前世(ぜんせ)のお嫁さんはなんて名前なの!?」

「マミです。アイリスそっくり、うりふたつ」


「あちゃ~」

「魚脳みそ」

「え~そっちは今は関係無い話ではないのですかな2人とも?」


「関係おおありですよセバスさん!やばいですよ、アイリスと前の奥さんがそっくりだったんで、僕、なんか彼女にとんでもない勘違いさせちゃってますよ絶対。どうしよミューラ、助けてよ。最後まで味方になってくれるんでしょ?」


「味方を勘違いさせちゃってるスズキ君じゃあね・・はぁ~どうしましょうねアイリス様」

「え~そっちの方はミューラに任せますゆえ・・魚ですよスズキ君、魚」


「へ?ええっと、なんでしたっけ。僕の脳みそが魚・・じゃなくて・・ええ!?もしかして、転生して一回魚になったって事です?」

「え~仮説です仮説。オルレアン(かい)をさかのぼって浜辺にたどり着き・・魚からヒューマンに転移して・・」

「・・私が最初に君を発見する・・なるほど、それで『水属性』・・」


「なに納得してるんですか2人とも!?じゃない・・エルフか・・」

「脳みそ魚のまま転移」

「サラ先生、僕の事、馬鹿にして楽しんでるでしょ?」


「そして魚は馬へ進化」

「そうそう、この前の馬小屋の干し草ベッド、牢屋(ろうや)より寝心地良いですし、同僚の馬も可愛くて・・って、違いますよ!ヒューマンですよヒューマン!勝手にダーウィンの進化論しないで下さいよ、金貨500枚の歩く借金王ですよ僕!」


「はいはい、スズキ君落ち着いて・・なんだ、前世の記憶が残ってるヒューマンなんて、250年生きてきて初めて出会いました。さすがスズキ君、だてにやらしい事考えてないわね」

「ちょっと口が過ぎるんじゃないですかミューラ?街中でスキル使いまくってるの、お兄さんにバラしますよ?」


「あっ、それ言わないって約束だったでしょ?」

「え~スキルを使ったとは一体どういう事ですかなミューラ?」

「聞かないで兄さん~」


「姉さんにマイナス100点、弱み回収、この魚、有能」

「さすがサラ先生、僕の事分かってますね~」

「え~ミューラ・・あれだけエルフの誇りの神髄(しんずい)()いてきた私の目の前でそのような醜態(しゅうたい)を」


「兄さん許して~そうそう、今度兄さんと一緒にお風呂入ろうと思ってたの私」

「ダメ、兄さんとは私が入るの。兄さんの背中は1つ、姉さんはその笛を返上(へんじょう)、私の物」

「え~私はギルドの仕事がたくさんありますゆえ~サンダース様が山のように厄介事(やっかいごと)を・・」


「良いじゃない兄さん~久々に一緒に入ろうよ~」

「その笛を置いて、姉さんはさっさと消えなさい」

「サラはうるさい!」


「・・失礼します(がちゃ)」


 エルフの3兄弟を置いて、5階の応接室を後にする。

 どうやら前世(ぜんせ)は魚だったらしい自分。信じていたマミの記憶は前前世(ぜんぜんせ)前前世(ぜんぜんせ)から僕は、君に離婚届出されちゃったよ。


 セバスさんの仮説で、『水属性』だった事と、最初にオルレアン海から浜辺に打ち上げられたところまではなぜか説得力がある話。

 どうやら三途の川を逆流して魚からヒューマンに前世の記憶を持ったまま転生?転移?したらしい・・なんてすぐに信じられるわけもない・・。


 そういえば、僕の名前・・前前世(ぜんぜんせ)から・・スズキ・・ははっ・・まさかね・・。

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