81.虹色の輝き
『風の神殿』前にいたルナ、ミューラ、ガイア師匠と自分が『風の神殿』内部へ走り込む。『風のクリスタル』のある部屋までたどり着き、エメラルドグリーンの波紋が広がる扉を開ける。
「(ばん!)なんだあれは!」
「『風のクリスタル』の隣に・・白い輝き、白い光の波紋・・あれって、『光のクリスタル』がどうしてここに!?」
『風のクリスタル』が台座でクルクルと回るすぐ隣に、宙に浮かぶ光輝く波紋を広げる『光のクリスタル』の姿があった。
部屋の中ではジャンヌとエリス、そしてハート兄弟の4人がおり、驚いた表情で全員が『光のクリスタル』を眺めていた。次の瞬間、『光のクリスタル』から閃光が発せられる!
(ピカッ!)
「え!?」
「皆さんのペンダントが!」
聖女ルナが首から下げていた『水のクリスタルのかけら』、ミューラの『火のクリスタルのかけら』、ガイアの『土のクリスタルのかけら』、それぞれのペンダントが、各々虹色に共鳴しながら光輝くと同時に、台座にある『風のクリスタル』本体の結晶石も、エメラルドグリーンの強い輝きを放つ。
「みんなペンダント光ってる!ジャンヌもそれ欲しい!」
「ジャンヌはお黙りなさい!(ピカッ!)きゃあ!」
火・水・土・風・光のクリスタルの光が共鳴し、虹色に輝いた時、『光のクリスタル』に虹色の輝きが集まると・・輝きが地面に降り・・光が小さくなると同時に・・一体の・・石像が姿を現した。
「これって・・スズキ君!」
「ミューラ・・間違いない・・この石像・・アイリス」
「嘘でしょあんた!この石像がお母様だって言うの?」
「そりゃあ似てるだけかも知れないけど・・僕も石化してたし・・この前この『風の神殿』で見たばかりのアイリスだよ、この石像・・」
「ジャンヌ様、この石像があなた様のお母様なのですか?」
「ハート様・・そうみたいだけど・・分かんない!」
「ジャンヌ、エリスもなんで、あなたたちはどうしてここに?」
「ルナ様。ジャンヌ様が『風のクリスタル』の啓示が聞こえるっておっしゃられたものですので、ハーツ家の2人と一緒に『風の神殿』まで来たんです」
「お姉ちゃんの方こそ今までどこにいたの!2時間目が終わってから、ずっと4人で探してたんだよ!」
「それは・・」
「ミューラ先生やガイア先生と一緒に、僕らも啓示が聞こえて『風の神殿』に向かってたんです、ねえルナ様」
「えっ、ええ、そ、そうなのです・・」
「だったら私と一緒に来れば良かったでしょお姉ちゃん」
「今はそのような事を言っている場合では無いのです。この石像が本当にお母様だとしたら・・」
「ルナ様、少し落ち着きましょう。所在不明だった『光のクリスタル』までこのオルレアンに出現するなんて、250年生きてきましたが、『光のクリスタル』が発見されたなんて話、『マドリード』や『トロント』からの情報でも一切聞いた事がありません、ましてやこのオルレアンでも・・。『光のクリスタル』の存在は、元々神話の世界の話です」
「かっかっか。その神話の世界が今、わしらの目の前で輝いておるのエルフよ。ドワーフのわしも『土のクリスタル』こそ見た事はあるが、『光のクリスタル』なんぞ初めて見るわい。こりゃ長生きするもんじゃわい、かーっかっか」
「ガイア様、笑い事ではありません。そうですね・・まずは防御要塞の兵士に連絡を取りましょう。王宮とギルドへ報告を、アイリス様の発見の報も皆に伝えないと」
「アイリス・・『ベネチア』で彼女の書いた『署名状』が発見されてます。どうしてオルレアンに帰国してたって分からなかったんですか?」
「スズキ君、15年前、アイリス様がオルレアンに戻られたゲートの記録は残ってないわ」
「え!?戻って無いって・・じゃあ、なんで今ここに彼女の石像があるんです?」
「みんな落ち着きましょう、分からない事が多すぎる。まずは誰か兵士へ知らせを」
「このジャック=ハートが急ぎ兵士に知らせて参ります。ハートよ、お前はここで聖女様のお二人を護衛するのだ!兵士に知らせたら『キズナ』で合図する!」
「分かりました兄上!ジャンヌ様、わたくしの近くを離れないで下さい!」
「はい。ハート様・・」
「任せたぞハート!『瞬足』!」
ジャック=ハートがスキルを使って部屋を飛び出した様子。しばらくするとすぐに、ジャック=ハートを先頭に『風の神殿』の防御要塞にいた兵士たちが駆けつける。
『風のクリスタル』の隣で宙に浮いていた『光のクリスタル』の下には台座があてられる。2つのクリスタルの結晶が部屋に2つ並ぶ形となった。全員が部屋でその作業を見守っていると、部屋の外から1人の兵士が走って部屋に入ってくる。
「はぁはぁ・・敵襲!!」
「なんですって!」
「ゴブリンチャンピオンが、クリスタルの加護を突破!現在オルレアン海岸線を、街に向かって進行しております!」
「ジャック兄さんの聞いた啓示の通りだ!」
「まずいわね・・」
「それなら我らハート兄弟にお任せを!」
「ハート・・」
「ジャンヌ様!兄上、ジャック=ハートと共に、我らが稲妻の騎士の力、見せてくれましょう!この中で他に『瞬足』を使える者は?」
「ルナお姉様は私が・・きゃ!ハート様・・」
「ジャンヌ様はわたくしが、兄上!」
「きゃあ!恥ずかしいのでやめて下さい・・」
「ルナ様、しばしご辛抱を」
聖女2人は、ハーツ兄弟にお姫様抱っこされる。
「どれ、わしも行こうかの」
「師匠も『瞬足』使えるんですか!?」
「久々じゃからの~かっかっか」
「じゃあ私はスズキ君を・・」
「ちょっとミューラ先生待って!」
「でもジャンヌ様・・」
「ジャックとハートの2人がいれば良いの!ガイア先生も一緒だし。1日1回だけのそいつに、いつまでも頼りたくないの!良いよねルナお姉様?」
「・・まいりましょうジャンヌ」
「嬉しい!ルナお姉様が私のお願い聞いてくれた。お願いねハート!」
「かしこまりましたジャンヌ様」
「ルナ・・」
「・・(ぷいっ)」
「良いんですかルナ様!イチロウ君、ついてこれませんよ?」
「エリス様はミューラ様にお願いしたい。この者は足手まとい」
「そんな・・」
ジャック=ハートが『瞬足』の体勢に入ると、クリスタルの部屋に、もう1人兵士が駆け込んでくる。
「はぁはぁ・・緊急!ゴブリンチャンピオンが海岸線を突破!市街地への進行を開始しました!!」
「まずいわ、みんな行くわよ!スズキ君、必要になったら私が戻ってくるから、少しここで待ってて頂戴、良いわね?」
「ミューラ・・分かったよ」
「いい子ね。アイリス様の事、お願いね。行くわよエリス!(しゅん!)」
「では参りますぞルナ様、しっかりお捕まり下さい」
「・・・お願い致します(しゅん!)」
「ちょっとあんた。私とルナお姉様が戻ってくるまで、お母様の石像にイタズラするんじゃないわよ、いいわね!」
「そこのお前!」
「なんだよハート・・」
「クリスタルの使徒はまもなくすべて揃う」
「だったら何だよ・・」
「お前はもう用済みだ(しゅん!)」
「・・用済み」
クリスタルの部屋から、兵士も走って去っていく。『風のクリスタル』のエメラルドグリーンの波紋と、『光のクリスタル』の白い輝きの波紋が交互に広がり、部屋の中を温かく照らす。2つのクリスタルの前で、アイリスとうりふたつの石像だけが残る。
「よいしょっと・・やあアイリス・・15年ぶり」
地面に座る。アイリスの石像は、両膝を地面に付け、両手はぎゅっと握られ、顔は下を向いていた。まるで教会でお祈りでもしているかのように目は閉じられ、石像の姿になってなお、神に祈りを捧げているかのようだった。
「アイリス・・ちょっとだけ・・話そうか」
石像は動かず、何も話さない。クリスタルの波紋だけが、延々と流れていった。




