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80.土の鼓動(こどう)

 2時間目が終了するや大教室から逃走を図るも、出口付近でジョンが脱落。ジョンが教室の出口を(ふさ)いでくれたおかげでどうにか逃走に成功。

 黒いハンターの追っ手を振り切り、3時間目ガイア師匠の煙突小屋へ逃げ込む。


「はぁはぁ・・ガイア師匠。ハンターは来てませんよね・・」

「そんなもんおらんの~」

「そうですか、それは良かった」


 煙突小屋にはガイア師匠しかいない、ここは安全らしい。


「あっ、そういえばガイア師匠。クラウドって知ってます?アイリスやラインハルトと15年前一緒にいた」

「おお、知っとるぞ」

「この前サンダース様の『電撃パンチ』で、『炎の盾』がへこんじゃったんですよ。師匠の『高等精錬』で直せませんかね?」

「かっかっか。お安い御用じゃわいて」

「ありがとうございます。今度お願いします」


「相変わらず仲間(おも)いじゃのう~小僧」

「仲間ならさっき見捨ててきました」

「なんじゃそりゃ?」


 先ほどジョン君がハンターに捕まった。彼がどこへ収監(しゅうかん)されたのか知る(よし)もない。

 私を逃がすためにわざわざ出口を塞ぐ(ふさぐ)とは、男爵(だんしゃく)イモにしては上出来(じょうでき)の働き、まさに肉壁。

 その身を(てい)して主君を守る、君こそルナ様親衛隊にふさわしい人材だ。


「ん?呼んだか小僧?」

「えっ、なにがです?」

「そっちじゃないよとか言っとらんかったか?」

「はは、師匠。今この小屋の中、僕以外誰もいませんよ。そっちじゃないよとか、まるで啓示みたいな事を・・・」


「(がちゃ!)失礼します・・」

「おお、お前さん」

「ルナ様!?なんでここに・・」


「『水のクリスタルのかけら』が、あっちでもこっちでも無いと・・着いた先がこちらだったものでして・・」

「その手に持ってるの・・」

「ほう・・聖女ルナ様。そちらのお手にある物・・『土のクリスタル』様じゃて(ピカッ!!)うぉぉぉーー!!」

「師匠!!」

「ガイア様!」


(ピカァァァァ・・)亜麻色(あまいろ)の輝く光にガイア師匠が包まれ、光が次第に消えていく。

 ガイア師匠の首から、亜麻色の輝きがまだ残る先ほどまでルナが手に持っていた『土のクリスタルのかけら』がペンダントとなってぶら下がっていた。


「ほおぉ・・またわし、選ばれたんかのぉ」

「師匠、やっぱりそれって!」

「ガイア様が、『土のクリスタル』の使徒なのですね」


「そうみたいじゃの。聖女ルナ様、お前さんがこれを運んでくれたんかの?」

「ルナ様・・それって、あの奈落(ならく)が砕いた『土のクリスタル』が闇に染まる前の抵抗してたって、かけらですよね?」

「はい・・なぜかは分かりませんが、わたくしの手に、気づいた時には握られておりまして・・」


「かっかっか。『水のクリスタル』の使徒から導かれるとは、わしも30年ぶりに暴れてみようかいの」

「ガイア師匠が暴れる・・どうやって?」

「かっかっか。わしを誰だと思っとる小僧?」

「ただのおじさんだと思ってましたが?」

「こらスズキ様!ガイア様になんという事を」


「かっかっか、言うの~小僧。こりゃ3時間目はお説教の時間じゃわいて」

「3時間目・・あっ!僕、逃げてたんですよ師匠!」

「そうですよスズキ様!勝手に2時間目が終わって飛び出して。わたくしを置いていかないでもらえませんか?」

「ルナ様が来たら、もれなくあのイナズマブラザーズが付いて来ちゃうじゃないですか?」

「それは誰の事を言っておられるのですか?」

「えっ、えっと・・あはは。ハート兄弟の事ですよ。僕がお払い箱になったんで、新しい・・ルナ様・・親衛隊の・・」


「ううっ・・(うるうる)」

「何で泣くんですかルナ様・・」


「・・わしはちょっと、(まき)を取ってくるでの」

「師匠。『土のクリスタル』の使徒の話を・・」

「『水のクリスタル』の使徒が泣いとるぞ(ぽんっ)」

「はい・・」


(がちゃ・・)ガイア師匠が自分の肩を一度叩くと、小屋の外へ出ていく。


「ルナ様・・」

「(うるうる)ううっ・・様は・・ダメって・・」

「え?えっと、えっと・・あっ、ああ、ル、ルナ!」

「・・なにか?」


「あの、その・・ジョ、ジョンさ、今頃・・どうなって・・」

「・・知りません」


「ええ!?えっと、えっと・・なんで、こんなところに・・」

「・・それも知りません」


「・・怒ってる?」

「知りません!」


「・・僕が・・親衛隊・・脱退しても良いって言った・・から?」

「・・・そうです」


「うっ・・ご・・ごめん。そんなつもりは・・」

「スズキ様は、最初からわたくしの親衛隊など嫌だったのではありませんか?」


「それは違うよ!エリスもジョンも、僕も・・あなたを守る事が、大事な事だと思って・・今でも・・そう思ってます」

「・・嘘です」


「本当ですよ!」

「じゃあ、証拠を見せて下さいな」

「証拠って・・マミみたいな事言わないで下さいよ」


「誰がマミですか!いつもいつもわたしの顔を見てはその名前を言って!」

「ごめん」


「いつもいつも謝ってばっかり!」

「ごめん・・」


「そんなにわたくしの事が嫌いでしたら、もうどこへなりと行けばよいのです!」


(ばたっ!!)聖女ルナが煙突小屋を飛び出して行った。


「(がちゃ)どした小僧?聖女様、泣いておったぞ?」

「はは・・師匠。どうも僕、また女の子泣かせちゃったみたいで・・・」


「・・まるで初めてじゃないような言い方じゃの?」

「ええ・・飛び出して行ったのは・・これで・・2度目です」


「・・追いかけんでええのか?」

「・・もう戻っては来ませんよ」

「そうでもないぞ小僧」

「えっ・・」

「ほっといたら、もう2度と、戻ってこんのんじゃないのかのう~」

「あっ!」


 マミ・・この前マンション飛び出してから、あきらめてほっといたら・・2度と、戻ってこなくて・・次に会った時には・・離婚届、叩き付けられて・・。


「師匠。僕、また、失敗するところでした!」

「どおれ、わしも若いのを導いてやろうかの、かっかっか」

「ありがとうございます師匠!助けて下さい!」

「まず会ったらすぐに土下座せい小僧」

「もちろん、分かってますって」


(ばん!)聖女ルナを追いかけるため、煙突小屋の扉を勢いよく開ける。目の前に、長い耳のエルフ、鉢合(はちあ)わせとなる。


「スズキ君!」

「ミューラ、なんでここに?」

「分かんない。この『火のクリスタルのかけら』のペンダントが、あっちでもないそっちでもないって・・ここに着いて」

「さっきのルナ様と同じ事を・・そうだ、ルナ様!追いかけないと!」


「えっ、ルナ様ならさっき『風の神殿』の方へ走って行ってたわよ。追いかけようと思ったら、『火のクリスタルのかけら』がそっちじゃないって・・」

「分かりました。啓示は今はいいので、先にルナ様を!」

「もう、よく分かんないけどルナ様を追いかければいいのね?ガイア様、どういう状況ですか?」

「青春爆発じゃよ、かっかっか」

「ちょっとガイア様、それじゃあ全然分かんないですって」


 ミューラ、そしてガイア師匠を連れて先に先導して走り出す。

 もうマミの時と、同じ(あやま)ちを繰り返すわけにはいかない。『風の神殿』の方向へ向かって走り出す。白い石畳の通りに出る。


「スズキ君、『感知』スキルがどうしてだかルナ様を捉えられない。こんな事は一度も無かったのに・・どっちに行く?」


 レンジャーのミューラでも分からない・・どんなスキルもやっぱり水物、頼ってばかりはいられない。

 こうなったら勘が頼り、どっちだ、どっちにルナは走っていった?右か、左か?と、とりあえず講堂へ戻る右の方へ・・。


(そっちじゃないよ・・)


「啓示・・ひ、左!」

「スズキ君も啓示?どうして?『水属性』のあなたが・・『水のクリスタル』の使徒はルナ様だけなのよ?『風のクリスタル』だって・・」

「ここは小僧についていくぞい」


「はいガイア様・・って、なんでガイア様の首に『土のクリスタルのかけら』のペンダント付いてるんですか!?」

「そういう事じゃぞい。これはお前さんだけのもんじゃ無かろうて、ほれ、今はいいから走るぞい」

「はい!」


 左の道は『風の神殿』の方向。こっちの方向へは、まず『風の神殿』を守る防御要塞があるはず。白い石畳沿いに走り、防御要塞へ到着する。入口にいる、顔見知りの兵士に敬礼する。


「お疲れ様です!(びしっ!)」

「銀等級様に敬礼!(びしっ!)」


「あの、聖女様が通りませんでしたか?お姉ちゃんの方です」

「はは!先に妹君の聖女ジャンヌ様とエリス様、『トロント』から参られたハーツご兄弟の4人が通過。つい先ほど聖女ルナ様も走って『風の神殿』へ向かわれました」

「ええ!?なんで4人も・・ありがとうございます!」


 聖女姉妹にあの雷兄弟まで・・しかもなんでさっき啓示が聞こえたんだ?疑問が尽きない中、『風の神殿』に到着すると、入口前の段差がある階段に・・聖女ルナが1人体育座りをしてうずくまっていた。下を向いて、こちらには気づいていない。


「ああっ、ルナ様(ぎゅ!)きゃ!ガイア様・・」

「ここは小僧に任せんかい、ほれ、小僧」

「分かりました(ごくりっ)」


 あんなに泣きじゃくって、もう薬草だけでは済まないだろうが、腹を決めて誠意を見せよう。静かに歩きながら・・息を整え・・ルナの前に近づく。


「(かつ かつ かつ・・)ルナ・・」

「(ぐすっ)・・スズキ様。どうしてここが・・・どうして・・ここに・・」


「・・ルナが心配だったからに決まってる」

「・・別に(ぐすっ)・・心配いただかなくて結構です!(だっ!)」


「待つんだルナ!」

「(ざっ・・)なんですか!」


「頼む、話を聞いてくれ!」

「もうあなたの事など知りませんって言いました!」

「お願いだから行かないでくれルナ。僕に、僕にもう一度だけ、謝らせてくれ!」


(ピカァ!!)


 『風の神殿』全体が一瞬輝き、エメラルドグリーンの発光が爆発する。


「(キャーー!!)」


「え?」

「あの声・・ジャンヌとエリスの声!」


 『風の神殿』内部から、ジャンヌとエリスの叫び声がする。


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