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7.覚めない夢

 ギルド会館から右手の路地を進んだ先にある宿屋に到着した。看板にベッドの絵が彫り込まれている、間違いなさそうだ。


 宿屋に入ると左手に受付、1階の奥の方では食事をする人の姿が見られる、どうやら宿から出なくても食事にありつけそうだ。受付のお姉さんと目が合う。


「いらっしゃいませ・・・あの、ご宿泊・・・で宜しいです?」

「もちろん。あっ、お金もあります、ほら」


 ギルド会館で引き出しておいた銀貨を何枚か見せる。


「あっ、さようでございましたか、これは失礼致しました」


 やはり体が小さいからか、服がみすぼらしいからか、お客さんだと思ってもらえてないな。


「1日銀貨1枚、お食事だけなら銅貨3枚。今連泊をご予約いただくと、2泊で銀貨2枚、お食事はサービスとなります」

「じゃあそれでお願いします」


 条件が良いのか悪いのか分からないので、とりあえず今の金銭感覚で銀貨を2枚支払う。2泊3日食事付きで2千円なら、たまに利用してるホテルより安いものだ。


「はい、お部屋は2階の201号室になります。お食事は1階でいつでもご利用になれます、こちらのチケットを係りの者にお渡し下さい」


 元妻より優しい受付のお姉さんから鍵を受け取る、「いってらっしゃいませ」の業務対応が心地良い。2階に向かう階段に向かう。

 

 受付のお姉さんによると、お風呂は個室に無く、ここらの人は近くの大衆浴場でお風呂に入るらしい。後で行ってみるかな。


 部屋に入る、ベッドが2つ、ツインの個室でトイレ付。1泊1000円にしては広い部屋、当たりかどうかは食事次第と言ったところか。


 鍵を閉めて部屋を後にする、1階に降りるとさっきまで食事をしていたグループはいなくなっていた。


「お1人ですか?ご家族の方は?」

「いえ、1人です。お願いします」

「はい」


 どうやら未成年が1人で食事をするのは不自然のようだ、まあ仕方ない。体が(ちぢ)んだ原因は分からないが、この夢が覚めようが、覚めまいが、これから先1人である事に変わりない。今頃あいつ、野菜ジュース買って帰らないって怒ってるだろうな・・いや、トラックに引かれて泣いてくれてる?


「お待たせしました~」


 出来たてのディナーセットが運ばれてきた。メインはデミグラス風ハンバーグにエビフライ、パンが2つにサラダとスープ。まるでファミレスにでもいる気分だな。


「いただきま~す」


 1人で合唱(がっしょう)、1人で食事。自宅マンションでもしばらく、こんな事を続けてる。元嫁の『マミ』がいた頃は、まだ3人で食事をしてたな、普通に・・普通って何だろうな。


 ハンバーグをフォークで1口の大きさに分けて口に運ぶ。味は・・・しない。なぜ?塩っけをまるで感じない。思わず近くにいた係りの人に声をかける。


「あの、すいません」

「はい、なんでしょう」

「その、味がしなくて。お金は出すので、何か塩かソースをもらえませんか?」


 係りの人にお願いすると、小皿に塩とガラスの容器に入ったソースらしきものを用意してくれた。お代は「いりません」と言われ断られた。


 小皿の方の砂糖か塩らしきものを指につけてなめてみる、さすがに何か味が・・しない。嘘だろ・・・。


 とりあえずお腹は空いていたので、口に流し込む。


 すべてを食べ終え、冷静に考えてみる。味がしない理由、考えられる可能性は2つ、1つはやはりこれが夢だと言う事。


「あの~お口に合いませんでしたか?」

「あ、いえ。とっても美味しかったです。ソースを頂いて美味しさがさらに増しましたよ、あはは」

「ありがとうございます」


 係りの人の笑顔がまぶしい、未来ある若き係りの人に優しい嘘をつき、食事を終えて2階の部屋を目指す。


 味を感じなかった事にショックを受け、外に出るのも億劫(おっくう)なのでそのまま寝る事にする。元明日は朝から開いているという大衆浴場に行く事にしよう。体の痛みも感じない・・気がする。疲れも・・感じない。におい、味・・・。


 段々と眠たくなってくる、睡魔(すいま)は等しくやってくるようだ。味がしない2つ目の理由、味がしない・・味がしない・・・やはり・・・更年期障害(こうねんきしょうがい)・・なのか・・。




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