78.親衛隊の資格
1時間目の授業が終了し、サラ先生が教室を後にする。教室の1列目の方では、ハート兄弟が引き続き聖女姉妹とエリスの近くにおり、その周りを女性陣が囲む。2時間目はジョンと一緒に、引き続きこの教室で行われるミューラ先生の授業に備える。朝講堂前でエリスから教えてもらったテストの答えを、今になってようやく、ギルドカードのメモ機能に記録しておく。
「(めもめも)・・・『マダガスカル』っと・・」
「全然違う、馬鹿でしょあんた、『マドリード』よ」
「ああ、ありがとうございます・・って!ジャンヌ、ここ来るなって」
「せっかく教えてあげてるのに、その態度はなによ!」
「ジャンヌ様、この者は?」
「赤の他人です」
「誰が他人よ!」
「ちょっとジャンヌ、お口」
「ううーー・・はい」
「そんなに邪険にされなくてもよろしいのではありませんかスズキ様?」
「すいませんルナ様・・あっ!そういえば、ありがとうございました」
「何がですか?」
「あ、その・・ギルド長に、便宜を図ってもらったようで・・」
「ああ・・それはその・・わたくしはなにも・・」
「嬉しかったです。助かってます、凄く」
「助けていただいているのは、いつもわたくしの方で」
「ちょっとルナお姉様、なにこんなのと良い感じになってるのよ?」
「ジャンヌはお黙りなさい!」
「は~い」
「ルナ様、この者は何者ですか?」
「通りすがりの仮面ライダーです」
「なんですかそれは、もうっ、スズキ様はいつもいつも。このお方はわたくしの・・その・・」
「大事な人ですよねルナ様」
「そうなので・・って、違います!エリスもふざけないで下さい!」
「はいはい、ごめんなさいねハート様。この子とわたし、ルナ様の親衛隊をしてる『月の雫』のメンバーなんです。こっちが残りの・・」
「残りってなんだよエリス・・俺は『月の雫』の一番槍、槍使いのジョンだぜ!」
「昨日の『マドリード』攻防戦で真っ先に逃げ出したのがこのジョン君、それでこっちが」
「なんだよエリス。そんな説明無いだろ!」
「昨日いなかったでしょあなた?パパと私が頑張ったの、よろしい?」
「・・はい」
「いい子ね。それでこっちが、ルナ様の秘蔵っ子で、このエルミタージュを15年も浪人してる85期生のスズキイチロウ君です」
「ついでに借金が金貨500枚も付け足しといて下さい」
「なっ・・」
「金貨500枚・・貴公、賭け事でもしたのか?」
「大体そんな感じです、主に仔馬の養育費ですね。あと身の丈に合わない家も買っちゃいまして、毎月金貨10枚ずつ借金が膨れ上がっていくんですよ」
「・・最低」
「こんな2人がルナ様の親衛隊などと・・聞き捨てなりません!ルナ様!」
「はい、ジャック様」
「エリス様も『月の雫』のメンバーなのですか?」
「そうです、ハート様とお呼びした方がよろしいですか?」
「はい、兄のジャックが長男です。次男で下の私はハートとお呼び下さい」
「ハートよ、上も下も無いと、いつも言っておるでは無いか?」
「そうはいきませんぞジャック兄さん。兄さんこそハート家の跡取りにして、オルレアンの聖女、ルナ様の親衛隊にふさわしい男。しかし私も・・ジャンヌ様!」
「はい」
「どうかこのわたくしライン=ハートを、あなた様の親衛隊にしていただきたい!」
「もちろんです。よろしくお願いします(びびっ)」
「はは、ありがたき幸せ・・それに引き換え、そこの2人!」
「へ?」
「なんだよハート・・」
「お前たちだらしない2人が、聖女ジャンヌ様の姉君にして、『水のクリスタル』の使徒であらせられる聖女ルナ様の親衛隊などと聞き捨てんならん。親衛隊とは、兄ジャック=ハートのような、気高き稲妻の騎士こそふさわしい」
「僕もそう思います」
「ちょっとスズキ様、勝手に親衛隊増やさないで下さい!」
「ルナ様、ルナ様の親衛隊『月の雫』に、このハート家長男、稲妻のジャック=ハートを加えていただきたい」
「ええ・・その・・あの・・」
「どうされますルナ様?」
「優柔不断なルナお姉ちゃんがすぐに決められるわけないでしょ~」
「ジャンヌはお黙りなさい!」
「こわいよ~、ハート~」
「はは、このライン=ハートめの後ろにお下がり下さいジャンヌ様」
「は~い(ささっ)」
「ちょっとジャンヌ様、オルレアンの聖女様が他国の家来など勝手に作られては・・」
「わたくしめは一向にかまいませぬ!聖女様の手足となり、この身を捧げる所存です」
「まあ、ハート様・・(ほわわん)」
「ルナ様、このジャック=ハート、親衛隊加入の件やいかに?即断いただきたい、あなた様をこの手で守らせて欲しいのです!」
「ええ・・そのように申されましても・・」
「ルナお姉様は押しに弱いから、もっと攻めた方が良いわよジャック」
「おお、さすがジャンヌ様!姉上の事をよく存じておられる」
「ちょっとジャンヌ、何ですかそのお口の聞き方は!」
「あの・・親衛隊の話でしたら、1列目の席に戻られてごゆっくり・・」
「貴公ら2人は即時脱退、私1人で100人力ですぞルナ様」
「なっ・・」
「それでいきましょう」
「ちょっとスズキ様はお黙りなさい!勝手に脱退しないの!」
「あら、随分な自信ねジャック様」
「エリス様、稲妻の我が剣、試されてみますかな?」
「ぜひお相手願いたいわね」
「兄上、ご婦人に向かってそれはあまりに乱暴ですぞ」
「ご婦人なんてどこに?(ぎゅぎゅ!)痛ててて」
「(ぎゅぎゅ!)あら~どこでしょうね~」
「・・失礼ながら、ジャンヌ様親衛隊であるわたくしライン=ハートより提案したく、発言をお許し願いたいのですが、ルナ様!」
「・・どうぞ」
「我が兄、ジャック=ハートは『雷のクリスタル』の使徒でありますが」
「か・・」
「『雷のクリスタル』の使徒だって!?」
「あっ、よく見たらその首にかかってるペンダント、『雷のクリスタルのかけら』のペンダント!ジャンヌもそれ欲しいよ!」
「ジャンヌ様・・このペンダントはいかなる理由があろうとも・・われら『トロント』の王、アーサー王から託された大切なペンダント・・」
「それでしたらこのライン=ハートめにお任せあれ。ジャンヌ様にふさわしきペンダントをすぐに献上致します」
「本当ハート様!(ほわわん)」
「・・あの、そういうの、よそでやってもらえます?」
「ちょっとジャンヌはお黙りなさい!それでハート様、ご提案というのは?」
「申し訳ございません。このオルレアンにて大型のゴブリンがふたたび暴れまわるとの啓示、『雷のクリスタルのかけら』が語っておるのです」
「啓示・・」
「おいスズキ、啓示、お前聞いたか?」
「僕は『水属性』だよジョン。『雷のクリスタル』の啓示なんて聞いてないし聞こえなかったよ」
「近々このオルレアンの海岸線にて、大型のゴブリン出現の啓示でございます」
「随分と具体的ね・・どうされますルナ様?授業が終わり次第、一度ギルドに相談されてみては?」
「そのようですね・・頼まれてもらえますかハート様?」
「ははっ、もちろんでございます。そのかわり・・」
「ハート様」
「わたくしどもハート兄弟の活躍をご覧いただき、真にふさわしき親衛隊メンバーとしての資格をご判断いただきたい」
「それは・・どういう意味なのですか?」
「ハートよ、ここは私が。お前の言いたい事は分かってる」
「しかし兄上」
「ルナ様、このジャック=ハートの発言をお許し願いたい」
「どうぞジャック様・・」
「『雷のクリスタル』の啓示は私にもハートにも聞こえております、そしてハートの考えも先刻承知。我ら兄弟は、話を交わさずともお互いの考えている事、啓示すら同時に理解できるオリジナルスキル『キズナ』を有しております」
「素晴らしいスキルですね。この姉妹がお互いまったく理解出来てないのとは大違いですよ」
「あんたはちょっと黙ってなさい!あんたに私とお姉ちゃんの何が分かるってのよ!」
「知りませんよ、会ってからまだ1週間も経ってないんですから。僕たちだって、ただの知り合いも良いところですよ」
「そうよ!もう、知るもんですか、ふんっ!」
「・・しかるに。本日授業終了次第、海岸線を探索に向かわれる事を許可願いたい。そこでの我らが働きぶりをご覧いただき、そこの2人は即時脱退、わたくしの加入をご承認いただきたいのですルナ様」
「えっ、それは・・」
「ルナ様、ここは一度受けましょう」
「でもエリス・・」
「殿方がここまで仰せになられているのです。即断は不要、働きぶりをしっかり確認されてからご判断いただいてからでも遅くないかと」
「おお、さすがはエリス殿、賢明なご判断」
「あら、ありがとうジャック様、やっと褒めてくれたわね」
「これは失礼致しました、このジャックめ、美しいご婦人に向かっての失態、面目次第もございませぬ」
「分かればよろしい、以外に素直ね。いいですねルナ様」
「・・はい」
「分かったわねそこの2人」
「おお・・」
「へ?」
「こっちは話すら聞いてないし・・」
「あんた、ちゃんと話聞いてたの!今日は午後からお姉ちゃんの親衛隊の選抜試験!それからあんた、それ終わるまであれ使ったら駄目だからね」
「あれってなんです?たい焼き屋なら今日は休業ですよ?」
「それは今度作ってよ!明日から土日で学校休みなんだから、今日こそ『風の神殿』一緒に行くんだから。今日はそれ使うの禁止!」
「それこそジョンに今日は使う予定ですからあきらめて下さいよ。今日はジョンをクラスアップさせて、ジェフ=ジョン=ダルクにネオ進化させる予定なんですから」
「意味わかんないよそれ!」
「そんなに『風の神殿』行きたいなら、そこのライオンハートと一緒にいけば良いじゃないですか?もう面倒なんで、さっさとこれ使っときますね、これさえ無ければ僕もう用済みでしょうし(ぴこん)」
「その銀色のカード・・貴公、まさか銀等級冒険者!」
「ちょっと待ってよ!なに出してんのよこんなところで、勝手に使わないでよ!」
「(ぎゅぎゅ)ちょ、ちょっと離して下さいよ!どこで使おうと僕の勝手でしょ?」
(き~んこ~んか~んこ~ん)
「(がらがらがら)はいみんな、授業はじめるわよ~っと、そこのあなたたち、早く席に着きなさい!」
「あっ、ミューラ先生来ちゃった」
「ルナ様、ジャンヌ様、戻りますよ」
「いったん引くぞハート」
「分かったよ兄さん」
「・・どうする銀等級?」
「ジョン君、2時間目が終了次第、後ろの出口から脱出する」
「逃走か?」
「海岸線へ行ったら最後、我々は座礁する。生きて戻る事は無いだろう」
「本当か?」
「啓示が具体的なモンスターの出現場所など特定した事は私の経験上無い、すべてあの2人の仕組んだ罠。我々を抹殺して、親衛隊の地位を我が物にしようとする、あのイナズマブラザーズの陰謀」
「なんだよそのイナズマなんとかって?」
ミューラ先生の2時間目の授業が開始される。今日の講義は『クリスタルの使徒』について。今、もっともタイムリーな話題だ。
「・・といったわけで、私もこの『火のクリスタルのかけら』のペンダントを授かり、『火のクリスタル』の使徒となりまして・・」
(ぱちぱちぱち)教室から大きな拍手が沸き起こる。
(「さすがミューラ先生!」)
(「素敵!尊敬しちゃう!」)
「ちょっとみんな静粛に・・もう。それから、みんなもご存じの通り、『水のクリスタルの使徒』に選ばれたルナ様・・」
(ぱちぱちぱち)教室から聖女ルナに向かって、ふたたび拍手が巻き起こる。
(「さすが聖女様!」)
(「やっぱりわたくしたちのルナ様ですわ!」)
「・・はい、もういいかしら?では、今日雷の国『トロント』から来た2『雷のクリスタルの使徒』の紹介を・・あっ、みんな、『トロント』メモしといて」
(かりかりかりかり)全員が一斉にギルドカードのメモ機能を起動しメモをする。鉛筆を走らせる音がギルドカードから生々しく響き渡る。
「いいかしら2人とも?」
「はい!ミューラ様!(だっ!)」
「ジャンヌ様、席を離れますゆえ、しばしのご辛抱を(だっ!)」
「は、はい(ほわわん)」
「我は『雷のクリスタル』の使徒、ジャック・・」
教室の前の方が騒がしい。今日のミューラ先生の冒頭テスト問題大解放のメモ、『トロント』は忘れないうちにすぐに記録した、先生はもはや用済み。教室の前方ではハート兄弟の雄たけびが聞こえる、こちらにとって好都合。
隣に座るジョンと作戦会議を開始する。




