76.第3章最終話 火はまた灯る(ともる)
『マドリード』での決戦は終わった。オルレアンからの一行、傷は魔法や薬草によって直るものの、身体の疲労、そして心の傷が魔法で癒える事は無い。
『マドリード』王宮にある『転移結晶』を使い、一度水の国『ベネチア』への帰還を果たす。赤く輝くゲートをくぐると、水の国『ベネチア』ではキグナス将軍が迎えてくれる。
「アクア様!オルレアンの諸君、よくぞ役目を果たしてくれた、礼を言うぞ」
『ベネチア』サイドに、今回の『マドリード』への闇の襲撃の件は伝わっている様子。この分なら、オルレアンへも『水のクリスタルの使徒』と『火のクリスタルの使徒』による闇の襲撃撃退の一報も伝わっているだろう。
「じいや、『火のクリスタル』が、『水のクリスタル』とおなじく、いずれやみにそまる」
「なんですと!」
「もはやゆうよはない、オルレアンにつかいをだすのじゃ。サムこくおうもじきにくる」
「サム7世が!?・・もしや・・『3国同盟』ですな?」
「うむ」
「『3国同盟』ですって!?」
「250年ぶりの話、もう歴史の教科書でしか私、知らない」
エリスが驚く。現代の日本でも存在する国同士の同盟関係。敵対していた国同士が、共通の闇の襲撃からの脅威によって、今ふたたび、1つになろうとしているらしい。
『ベネチア』でアクア王女、キグナス将軍がしばらく話をする。サラ先生も傷が治ってはいるものの、諸刃の攻撃を受けた事で立つのがやっとの状態。アクア王女との話を終えたキグナス将軍が声をかける。
「サラ、よくぞ役目を果たした。そなたの身、まだアクア王女がご成長されるまで大事にするのだ、よいな」
「・・ありがとうございます」
サラ先生は『ベネチア』の兵士に付き添われ、この場を離れていく。
「さあ、オルレアンの戦士たちよ、凱旋するのだ!ゲートの向こうでは、オルレアンの民が待っているぞ!」
「さあ、凱旋だとよ。いくぞスズキ」
「悪いクラウド、ずっとおんぶだったね」
「やっぱりお前は役に立つぜ」
「パパはいまいちだったけどね」
「うるさいぞエリス。なあスズキ、これからもエリスを頼んだぞ」
「こんなだけど、3分だけなら任せといて」
「イチロウ君は頼りになるわよ、ねえルナ様」
「もちろんなのです」
「随分扱いが違うじゃねえかよ、やっぱりお前ら・・」
「だから違うって!(2人)」
オルレアンへの水色に輝くゲートをくぐると、オルレアンの兵士たちの大歓声が待っていた。
「ルナ様のお帰りだー!!」
「『火のクリスタル』を守り抜いたぞ!!」
(えい・えい・おー!!)
状況は悪化している、『水のクリスタル』も『火のクリスタル』も大きく傷ついた。
同時に伝わっているであろう、『土のクリスタル』が闇に染まり、奈落と呼ばれる黒装束によって持って行かれてしまう。ミューラの首には、『火のクリスタルのかけら』のペンダントが赤く光る。
聖女ルナの手のひらに、大地の胎動が温かく、わずかに波紋が伝わる、輝く『土のクリスタルのかけら』が握られていた。
「ルナお姉様!(だっ!)」
「ジャンヌ、ただいま戻りました(ぎゅぎゅ~)」
2人の姉妹が抱き合うと、兵士たちからさらに盛大な拍手と歓声がこだまする。
しばらくすると、兵士の群衆が2つに割れ、近衛兵に従われたシャルル=ドゴール女王陛下が歩み寄ってくる。オルレアン王宮の『転移結晶』があるほこらの前で、あたりにいた全員がひざまずく。
「(ざっ)女王陛下!」
「苦しゅうない、ルナ、大儀であった」
「ありがたきお言葉、女王陛下」
「ミューラよ、前へ」
「はは!」
「『水のクリスタル』の使徒となった聖女ルナに続き、『火のクリスタル』の使徒となったそなたの報告は受けておる。この度の闇の襲撃撃退、そなたと聖女ルナの功績、このオルレアンの誇りである」
「ありがたきお言葉です、女王陛下」
「我はこれより『ベネチア』、『マドリード』との『3国同盟』の準備に入る。『土のクリスタル』無き今、残るは『雷のクリスタル』そして『光のクリスタル』が狙われるは必然。我が『風のクリスタル』、再度の襲撃は時間の問題。そなたらに安息の時間は無い、心して構えよ、よいな」
「はは!(2人)」
「ここにいる全員が我の希望じゃ、くれぐれもその命、大事にせよ、無駄死はゆるさんぞ、よいな!」
「はは!!(全員)」
女王陛下が『ベネチア』への青く輝くゲートをくぐっていく。あの先には、アクア王女とキグナス将軍が待っている事だろう。先ほど『マドリード』からサム国王も到着すると言っていた、トップ会談がある事は間違いなさそうだ。
「ルナお姉様、ジャンヌ、女王陛下をお守りしてきます」
「頼みましたよジャンヌ。『ナイト』として、その役目を果たしてくるのです」
「はい、行ってまいります!」
なんだ、ちゃんと話せるじゃないか。いつもの無茶苦茶な暴言などどこにも無い、真面目な聖女様をするジャンヌを始めてみた気がする、いつもちゃんとして欲しいもの・・。
「・・なによあんた、私になんか文句でもあんの?」
「なにも・・」
「ルナお姉様、また後で」
「気を付けるのですよジャンヌ」
『水の鎧』を装備していても、こちらが考えている事が分かっているのか?なんなんだあの子は?エリスが声をかけてくる。
「はいイチロウ君、『水の鎧』外してあげる(がちゃがちゃ)」
「ありがとうエリス・・はぁ・・やっと軽くなったよ」
「はい、借りてた『水の盾』」
「いいよそれ、エリスにあげるから」
「ええ!?ダメだって」
「たい焼き焼くのに『精錬』しちゃったの僕だし、何より盾を同時に持つ腕力無いからさ。ちょっと遅いけど、クリスマスプレゼント」
「そう・・じゃあ・・ありがたく貰います」
「やれやれ、俺の前で見てらんねえぜ」
「なにが!(2人)」
「やっほー、スズキ君。やっぱり鎧装備してない方が、しっくりくるわね君は」
「農民服、それなりに気に入ってるんですよミューラ。漁民でも無職にでも合う、万能の服ですよこれ」
「今日もスズキ君に助けてもらったわ、ありがとう。こんなペンダントまでいただけましたし」
「僕はクリスタルじゃありませんからね。その『火のクリスタルのかけら』のペンダントがプレゼントされたのは、ミューラが『火のクリスタル』を守り抜いたおかげだった」
「はいはい、そういう事にしておきます。これからどうする?」
「とりあえずギルドに戻ります。よっこらしょっと・・な、なんとか歩けそうです。ここまでありがとうクラウド」
「じゃあ一度解散だな。この分なら、夜にはまた王宮で祝賀会だな」
「イチロウ君、今度はちゃんと出なさいよ」
「分かりました、パーティーあるならちゃんと出ますって」
「スズキ君、私、おぶってこうか?」
「ちょっとミューラ、僕、子供じゃないんですからね」
「子供でしょ!」
『火のクリスタル』と『水のクリスタル』が、徐々に、少しずつ闇に浸食されていく。遠からず『土のクリスタル』と共に、闇に染まる日も近づいてくるだろう。闇の襲撃に驚いた各国のトップが会談し、かつて失われていたとされた『3国同盟』が灯の火が、今また、ふたたび、灯ろうとしていた。
第3章 <3国同盟> ~完~
【第3章 登場人物】
《主人公 スズキイチロウ》『水属性』。オルレアン連合ギルド所属銀等級冒険者。『2重上位昇進』スキルで異世界を駆け抜ける。
《主人公の嫁》本作最大のミステリーにして影の主人公。
《マミフレナ=ルナ=ダルク》
『光属性』『水属性』を持つ聖女の1人。『水のクリスタル』の使徒。性格は母似、草食系、思春期。主人公の嫁にそっくり。双子姉妹の長女。
《マミフレナ=ジャンヌ=ダルク》
『光属性』『風属性』を持つ聖女の1人。性格は父似、肉食系、パパ大好き。主人公の嫁にそっくり。双子姉妹の次女。
《シャルル=ドゴール女王陛下》
オルレアン王国女王にして、シャルル7世襲名。絶対的な権力を持ちながら卓越した統治により、オルレアン全国民・兵士より絶大な信用を得ている。
《ジェフ=ジョン》
『水属性』のブロンズ冒険者にしてエルミタージュ学院100期生。ルナ様親衛隊『月の雫』のメンバー。
《クラウド=エリス》
『水属性』のブロンズ冒険者にしてエルミタージュ学院100期生。ルナ様親衛隊『月の雫』のメンバーにして、85期生クラウドの実娘。
《クラウド》
『火属性』の戦士。『炎の鎧』『炎の盾』を持つ。エルミタージュ学院85期の卒業生にして、主人公の同級生。エリスのパパ。
《ミューラ》
『火属性』のエルフ。『火のクリスタル』の使徒。王立学院エルミタージュの教師にして、オルレアン連合ギルド所属の銀等級冒険者。主人公の第1村人。心優しきエルフ。
《ガイア》
『土属性』のドワーフ。銀等級冒険者。主人公の師匠。スキル『高等精錬』の使い手。
《サンダース》
『雷属性』オルレアン連合ギルド長にして、金等級冒険者の武闘家。通称「セガール」、双子姉妹のパパ。
《セバス》
『火属性』のエルフ。オルレアン連合副ギルド長にして、ミューラの実兄。独特の話し方が特徴。
《アクア=マリン王女》
死別した両親の第一王女にして王位継承権第一順位の立場。『ベネチア』のトップ。
《キグナス将軍》
『ベネチア』王宮兵士団の将軍。アクア王女の両親にも仕えていた老兵。ダルク家の過去を知る人物。
《サラ》
『水属性』のエルフ。ミューラによく似た青色の髪のエルフ。
《サム国王》
『マドリード』王国国王。サム7世襲名。『ベネチア』とは長年の同盟関係。ある理由によりアクア王女に頭が上がらない。
《奈落》
闇の黒装束リーダー格。性格は残忍。
《諸刃》
黒装束の影の1つ。機械の体を持ち、人外な能力を発揮。
《刹那》
黒装束の影の1つ。その正体は・・。
《円華》
黒装束の影の1つ。大人の女性の艶美な声を発する謎の影。ゴブリンを瞬時に召還する謎の力を持つ。




