75.エルフの過去
黒装束の影の1つ、諸刃との決戦が終わった。ゴブリン魔導兵はすべて『女神アルテミス』として天使化したルナの『光の螺旋』によって魔石となって地面に転がる。
諸刃は跡形もなく消え去り、火力動力炉『テムジン』の円錐形の建物の外壁は吹き飛び、施設の奥まで丸見えの状態になるまで損傷していた。
オルレアンの一行の消耗激しく、『火炎竜』は翼を被弾し、息も絶え絶えの状況。ミューラの妹、エルフのサラは諸刃の一撃で未だ地面から起き上がれない。
クラウド家の親子、クラウドとエリスは限界まで諸刃の攻撃から全員を守ってくれ、皆満身創痍の状況で地面に座り込む。
まもなく『二重上位昇進』が切れる3分が経過するであろう、天使化したルナと竜神化したミューラが・・・『水の鎧』を装備するこちらに向かって・・突然、地面に片膝をつけ、ひざまずいてくる。
「2人とも、なにやってんの!?」
「無能よ」
「無能?たしかに僕は無能だけど、いきなりなに言ってんだよミューラ!?」
「無能、我らが主・・」
「ルナ様まで無能って・・主って・・・一体なんの事・・・」
「(しゅぅぅぅ・・・)・・はっ、ス、スズキ様?」
3分が経過し、天使化していたルナが元の神官姿に戻っていく。続いてミューラも、『竜装ドラグーン』の法衣が光のチリとなって消えていく。
「(しゅぅぅぅ・・・)ス、スズキ君・・私、『竜神』に・・なんで・・・」
「ミューラ・・その首のペンダント・・ルナの『水のクリスタルのペンダント』と同じ形・・でも、赤い・・」
「これ・・もしかして・・私・・」
「ミューラ様が・・『火のクリスタル』の使徒だったのですね・・」
「ルナ様・・私が、『火のクリスタル』の使徒?」
しばらくその場で茫然としていると、ゴブリン魔導兵と戦闘をしていたと思われる『マドリード』の兵士たちが駆けつける。その中で、ひときわ大きな体に赤い鎧を身にまとった兵士が声をかけてくる。
「オルレアンの戦士よ、よくぞ『火のクリスタル』を闇より守ってくれた。礼を言うぞ」
兵士たちの中で、回復魔法が使える者が何人か混じっていたようで、サラ先生の治癒、クラウド、そしてエリスにも兵士がついて治癒してもらう。
漁民の前にも兵士が現れ、マスクを上げて顔を合わせるなり、緑の葉っぱを差し出される。
「さあ、食え」
「よろこんで・・(むしゃむしゃ)か、から!」
「当たり前だろ、残さず食べろ!」
「はい・・(むしゃむしゃ)」
なぜか自分だけ薬草・・この薬草・・『マドリード』産の薬草も、とても苦くて自然の味がたっぷりする。
『ベネチア』産の薬草よりも、パンチが効いてピリリと辛く、情熱的な味がする。1しかない体力が徐々に回復していく・・ような気がする。
「(ぽわぁぁぁ・・)よし、俺はもう大丈夫だ」
「(むしゃむしゃ)大丈夫なのクラウド?」
「ああ、『炎の盾』のおかげだぜ。そっちはどうだエリス?」
「(ぽわぁぁぁ・・)ええ、大丈夫よパパ。ありがとうございます、とても助かりました。」
「皆様はこれより、『マドリード』王宮へとご案内致します。『ベネチア』王国、第一王女アクア=マリン様!」
「わらわになにようじゃ?」
「『マドリード』王国、サム国王が謁見を申し出ておられます」
「・・よかろう、ゆるす」
「はは!残りの皆様と、『火炎竜』様は我々にお任せ下さい!(びしっ!)」
兵士たちの集団が、『火炎竜』を荷台に移し、口に何やら薬草のようなものをふくませている。翼に包帯を巻く兵士に向かって、『火炎竜』が声をあげる。
「ギギャァァーー!!」
「うわーー!」
「こら、め!いい子にしなさい『火炎竜』!」
「グルグルグル・・・」
ミューラがいい子にするよう『火炎竜』に言いつけると、素直に兵士に荷台へと移され、馬車が到着するや、荷車に乗せられどこかへ運ばれて行く。
同時に到着した馬車と荷車に、上半分が損傷しつつも、白い竜がグルグル巻きに刻まれた『火のクリスタル』も、兵士たちによって荷車に乗せられ、火力動力炉『テムジン』の施設内へと運ばれて行く。アクア王女がこちらに声をかけてくる。
「イチロウ・・ルナ・・ありがとうなのじゃ・・『火のクリスタル』を・・『水のクリスタル』も・・そなたたちのおかげなのじゃ・・」
「アクア様・・お体は大丈夫ですか?」
「わらわはへいきなのじゃ・・ルナ・・」
「アクア様・・」
「わらわのちちうえと、ははうえのかたき・・ありがとう・・わらわは、ルナがだいすきじゃ・・」
「アクア様、もったいないお言葉ありがとうございます・・ルナは・・アクア様のお父様とお母様のために、これからも祈りを捧げます」
「たのむぞルナ。『水のクリスタル』はわらわのちちうえ、ははうえのたましいがやどっておる」
「ご両親の・・魂?」
「『水のクリスタル』に、みずぞくせいのすべてのししゃはかえっていくのじゃ。わらわは、ちちうえとははうえが、『水のクリスタル』にかえっておると、しんじておるのじゃ・・」
アクア王女の話で、なぜ『ベネチア』で『水のクリスタル』が自身のすべてと言っていたのか理解した。
死者は2度と戻っては来ない、そう思う事で納得して生きていける。信じてさえいれば、それが本当なのだから。
『マドリード』の王宮へ案内されるオルレアンからの一行。火力動力炉『テムジン』から、迎えの馬車が到着、一路王宮を目指す。馬車の窓から、街の外を眺めていると、歯車が動き出す「ガチャ!ガチャ!」といった大きな音が聞こえてくる。
(ガチャガチャガチャ!)
「街が・・」
「白い煙があちこちで上がってる・・」
街の至るところで明かりが灯る。時間はまだ昼間、夕方にも遠いはず。有り余る電気でも使うかのように、街中にある歯車が一斉に動くや、あちこちに機械動くような音が聞こえる。
「・・『火のクリスタル』の力」
「サラ先生!」
「大丈夫なのですか?」
「ええ、ルナ様。アクア様、面目ございません」
「サラはよくやってくれた、たいぎじゃ」
「もったいないお言葉・・」
「サラ先生、『火のクリスタル』の力って?」
「この『マドリード』の生産設備、工場、機械、はては橋や水道まで、すべての動力は『テムジン』から供給されている」
「ええ!?じゃあ、あの黒装束に『火のクリスタル』あのまま盗られていたら」
「この街は死ぬ」
「『火のクリスタル』と運命共同体じゃないですか・・」
馬車がお城に入る。王宮内、を兵士に案内され、赤いカーペットがひかれた大きな廊下を歩いて行くオルレアン一行。ひときわ大きな扉が見えてくる、
「これより『マドリード』王国、サム国王の間となります。アクア王女、ご案内致します、先導をお許し願います」
「くるしゅうない」
「はは!(びしっ!)『ベネチア』王国、第一王女、アクア=マリン王女、これより!」
(ギギィーー)
大きな扉が開くと、大広間に玉座が中央に添えられ、王冠をかぶる国王らしき人の姿が見えた。部屋にはたくさんの兵士が並ぶ。
アクア王女が兵士の先導についていくと、おもむろに王冠をかぶる国王が立ちあがり・・玉座の席を開けて、そこへ逆にアクア王女が座る。そういえば、ミューラ先生の授業で言っていたのを思い出す。
水の国『ベネチア』と火の国『マドリード』の関係、属性関係で火は水に弱い、常に同盟を組んで攻められないようにしていたとか・・属国とまではいかないまでも、これが・・『ベネチア』と『マドリード』の国同士の関係なんだと感じた。
「サムこくおう、ひさしいの」
「ははーー。アクア王女、恐悦至極に存じます」
「うむ。サラ」
「はは、これより発言をお許し下さい」
「ゆるす」
「サム国王。この度の『火のクリスタル』への襲撃、備えが甘いのでは?」
「ははーー、も、申し訳ございませぬ」
「たるんでおるぞ、われら『ベネチア』とオルレアンの援軍無くば、今頃『火のクリスタル』無きものと心得よ」
「ははーー」
完全に頭が上がらない状態・・まるで・・うちの家庭みたいだな・・。その後しばらくサラ先生のお説教が続く、そこまで言わなくてもと言いたいが、国同士の話、オルレアンのヒューマンは黙っていよう。
「・・ではサム国王。『火のクリスタル』の使徒、ミューラに対し謝罪せよ」
「ははーー。ミューラ殿」
「サム国王様・・」
「200年前、我が先祖、サム3世の命により、そなたを『ベネチア』への貢ぎ物として差し出したこの『マドリード』を許して欲しい」
「貢ぎ物・・」
「ミューラ先生が?」
「アーサー王・・その事はもう・・」
「ミューラ殿。『火のクリスタル』の使徒よ。今日この日、我ら『マドリード』はそなたの力によって救われた。しかしそなたが故郷は君を200年前見放した。『ベネチア』からも迫害を受ける事は、『火属性』を持つ我らは承知の上での献上」
「良いんです国王、あなたのせいではありません、私にとっても、もう200年も前の話です。それに・・私はこんなに素敵な仲間に出会えて、オルレアンのみんなと出会えて本当に良かったと思っています」
「ミューラ殿・・どうかこの、『マドリード』を、許して欲しい」
「はい、許します」
「よいのかミューラ?」
「はいアクア王女」
「なにかのぞみはあるか?」
「望み・・『火炎竜』、あの子の治療を望みます」
「サムこくおう、ばんぜんをきせ」
「ははーー」
ミューラの過去が垣間見える。あまり表に出せない200年前の出来事、いつも明るく振舞う彼女の過去の片りんを見た気がする。
誰しも過去に傷を抱えて生きている、それを抱えて明るく振舞える彼女は、とても強く、とても・・弱く・・そう思わせる表情で、ミューラは、気丈にこちらを見て微笑んでいた。




