73.父と母の敵(かたき)
『火炎竜』に乗り、火力動力炉『テムジン』すなわち『火のクリスタル』を目指す。大きな黒い黒煙が2つ立ち上る場所近くに差し掛かると、地上では『マドリード』の兵士たちと、機械仕掛けのゴブリン魔導兵たちとの戦闘が繰り広げられていた。
「乱戦ね・・『ファイヤーブレス』は使えない・・」
「ミューラ様、あそこ!」
「『火のクリスタル』が!?」
火力動力炉『テムジン』の外壁がすでに吹き飛んでおり、ゴブリンの大軍の中に『火のクリスタル』を抱えて外に出ようとする機械仕掛けの体に眼帯をしている黒装束の影が動いていた。
その黒装束に気づいた瞬間、一瞬黒い光が光ったかと思うと、『火炎竜』の右の翼で爆発が発生する。
「(バァァァーーン!!)ギギィギャーー!!」
「キャー!!」
「みんな!地上に降りるからつかまって!」
『火炎竜』が被弾した右の翼をたらし、左の翼だけバサバサとはばたかせながら、徐々に高度を下げていく。
機械仕掛けのゴブリン魔導兵が包囲する『テムジン』の敷地内に不時着。地上に降り立つや全員が地上に降りる。『火炎竜』は頭を地面にのたれかけ、ぐったりした様子、かなり危険な状態だ。
「グゥルルル・・・」
「ありがとう、頑張ってくれて・・許さない!」
「だいじん・・」
「おお!これはこれは王女様、はーはっはっは。この諸刃の姿を2度見て生きていたものは、この世であなた様が初めてですぞ」
『ベネチア』で会った事のある黒装束の諸刃と言っていた機械仕掛けの体に眼帯、黒装束を着た影がいた。
右腕の機械の腕で、右肩に『火のクリスタル』と思われる大きな結晶石を抱えていた。『火のクリスタル』は深紅の光を、大きな結晶石の下半分から輝かせているものの、上半分は『水のクリスタル』が黒炎を浴びた時と同じように、すでに漆黒の黒い色にじわじわと結晶石の下へと浸食が広がっていた。
「アクア様に向かって、その口を閉じよ!!(しゅ!)」
サラが開口一番、腰の脇に刺していた短剣で諸刃に飛び掛かる。
「はい残念!(バシッ!!)」
「キャーー!!(ズサーー!!)」
「さら!」
「サラ先生!!」
諸刃は左手の機械の腕で、飛び掛かったサラを振り払う。サラが地面に叩き付けられる。
「ううっ・・」
「さら・・しっかりするのじゃ・・」
「おお、こわ。アクア様、家来の教育がなっておりませんぞ?」
「さら・・」
アクア王女が涙を流し、横たわるサラを両手でさするように手を置く。
「アクア様、しょせんあなたはお飾り王女、そこで指をくわえて『火のクリスタル』が闇に染まるのを、そこでおとなしく眺めているのです、そしてお父様お母様の元へ!ぎゃははははは」
「さら・・さら・・わらわは・・うぐっ」
諸刃が高笑いをする中、諸刃が太陽の影となっていた地面の影の部分から、突然影が横に大きく広がり、地面の影から黒装束の影が3つ出現する。
「なんなんだ、あいつら!?」
「遊ぶな諸刃」
「よう奈落、遅かったな。それが『土のクリスタル』か?」
「『土のクリスタル』ですって!?」
ゴブリンの魔導兵に囲まれる中、さらに黒装束の出現。すでに『テムジン』から出てきた諸刃は、右肩に半分闇に染まりつつある『火のクリスタル』、そして奈落と呼ばれる影の隣にいた黒装束があらわれる。
大きな黒い結晶石を抱え、『土のクリスタル』と呼ばれるその黒い結晶石のわずかに一番下の部分だけが、かろうじて光輝いていた。
「『土のクリスタル』、まだ抵抗するか」
「こっちもなかなかしぶといぜ奈落」
「じき消耗する」
「おおこわ」
「あなたたち、そのクリスタルをどうするつもり!」
「エルフごときが、われらに口を聞く・・」
「エルフが何だっていうの!妹をこんなにして、アクア様も侮辱して、絶対、絶対に、許さないんだから!!」
(ピカッ!!)
突然、『火のクリスタル』のまだ闇に染まっていない下半分が深紅の赤に光り輝く。
「奈落。まずいぞ、覚醒する!」
(キラキラ・・・)
「最後のあがきを・・ふ、ふはははは。すでに闇に染まる『火のクリスタル』、いずれ『闇のクリスタル』としてこの地を闇に覆つくす」
「この地を!?」
「闇にですって!?」
「刹那、円華。お前たちは先に戻って『雷』を攻めろ」
「諸刃、なにを考えている?」
「刹那、お前は黙ってろ!こいつらは俺の獲物だって言ってるんだよ!ぎゃはははは」
「諸刃!」
「さてさて、お仕事の時間・・『闇の千里眼』!ちっ、また『水の鎧』か。まあ他は大したこと無さそうだし、あの光のガキは最後にゆっくり・・ひゃーはははは」
「刹那、この子の好きにさせてあげましょう。『闇の召還』!」
円華と呼ばれる黒装束の影が『闇の召還』とつぶやくなり、ただでさえ包囲していた機械仕掛けのゴブリン魔導兵の大軍が、あたりを埋め尽くさんばかりの数に膨れ上がり包囲され、完全に逃げ場を失う。
「お土産よ諸刃、ほどほどにね」
「ああ円華、かあ・・じゃなかった、本当いい女だなお前は!」
「あらいい子、ちゃんと帰ってきなさい(しゅん!)」
「ちっ、諸刃、しくじるなよ!(しゅん!)」
(ばきっ!)
突然奈落と呼ばれる『土のクリスタル』と呼ばれた黒い大きな結晶石を持っていた影が、わずかに光り輝いていた結晶石の下を砕き、漆黒に染まったクリスタルを片手で持ち上げる。
「これだけ『闇のクリスタル』が育てば十分・・ふはっ、ふはははははは」
「随分機嫌いいじゃねえか奈落?」
「この『闇のクリスタル』と、お前の持つ『闇のクリスタル』が揃えば、いよいよ皇帝陛下復活の儀式に入る。わしは先にこれを持ち帰る、諸刃、遅れるなよ(しゅん!)」
「待ちやがれ!!」
「おおっと、お前たち(ばん!!どさっ!!)」
諸刃と呼ばれる黒装束の機械仕掛けの影が、闇に半分染まった『火のクリスタル』を地面に突き刺す。
「さあ、楽しいパーティーの始まりだ!!ギャーハハハハハ」




