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70.炎のゲート

 午前中の体育館の裏、そしてギルド長室における長時間の土下座により、脚力1の足の耐久力は限界を迎え、危うく黄泉の世界へ船出するところだった漁民。赤い馬か青い馬の騎乗を迫られ、結局どちらを選ぶ事も出来ず、旧友クラウドにおんぶされる漁民。


「すまないクラウド・・」

「お前は小っちゃいし平気だぜ」


 大人の男に成長したクラウドの背中はたくましい。クラウドが手に持っていた【炎の盾】は、現在エリスが抱えて持ってくれる。


「おいエリス、それ大事に頼むな」

「このへこんでる(たて)?」

「ううっ・・」


「クラウド。ガイア師匠(ししょう)に頼んでみるから。師匠の『高等精錬(こうとうせいれん)』スキルがあれば、この盾直るよ、絶対」

「本当かスズキ!!『マドリード』から戻ったらすぐに頼む」

「ちょっとパパ、私とこの盾とどっちが大事なわけ?」

「エリス・・そう言うなって」


「今日のお風呂はキャンセルかしらね・・」

「もちろんエリスに決まってるだろ!俺はお前さえ居てくれたらそれだけで・・」

「この前食事に誘ったら、盾を(みが)きたいとか言ってたの誰でしたっけ?」

「あれは違うんだって」


 娘とパパがもめている、足が死んでいなければこの場から早く消えてしまいたい。ギルド会館1階の治療室を出て、王宮を目指してそれぞれ馬車に乗り込む。

 聖女号が白く輝き先行して発車、アクア王女とキグナス将軍、サラ先生を聖女2人と共に乗せる。自分はクラウド家の馬車にふたたび乗り込み、一路オルレアン王宮を目指す。クラウド号の中でエリスに声をかける。


「エリス。そういえばジョンはどうする?」

「2時間目にイチロウ君置いて、逃げ出したでしょあいつ!」

「ああ、そうだった・・」

「あんなやつ知りません」

「エリス、ジョンって、あのジェフ家の息子の事か?」

「ええ、昨日話したでしょパパ?同じ『月の雫(つきのしずく)』のメンバーだって」

「いいのか連れて行かなくて?」

「イチロウ君が居てくれたら、私はそれで十分です、あとはいりません」

「そうなのか・・おいスズキ、やっぱりお前ら付き合ってんのか?」


「誰がこいつと!(2人)」


 雑談をしながら、馬車は王宮に到着。お城の内部まで入り、王宮兵士たちに案内される。


「王宮師団、クラウド伯爵に敬礼!(びしっ!)」

「クラウドって、けっこう偉いの?」

「もちろんだぜ、もちろん」

「名ばかり伯爵(はくしゃく)よ、名ばかり」

「エリス、パパは偉いんだぞ?」

「そんな自信過剰(じしんかじょう)だから、お母様が愛想(あいそ)をつかしたんです」


「まだギリ、離縁してないんだから、お前からも言ってくれって」

「戻ってきたところで旦那がこれじゃあ、お母様が可哀(かわい)そうです。まずこの盾捨てて、お母様に誠意を見せたらどうでしょうね」

「それはシャルル6世様にもらった大事な家宝なんだよ」

「盾とお母様とどっちが大事なのパパ?」


 王宮内を移動する中、クラウドにおんぶされつつ親子喧嘩をひたすら聞く羽目になる。同じパパとして、娘の話は耳が痛いところ、クラウドの気持ち、分からんでも無い。


「ねえエリス」

「なにイチロウ君」

「クラウドも、本当はエリスやお母様を一番に思ってるって、絶対」

「なっ、エリス。さすがスズキ、俺の事を分かってる」

「ふ~ん、イチロウ君はパパの肩をもつのね」

「クラウドはいいやつなんだよ。ほら、今だってそうだろ?」

「イチロウ君は、パパと私、どっちの味方なの?」


「それはもちろんエリスに決まってるだろ?僕たち『月の雫』のメンバーなんだから」

「なんだよスズキ、俺を裏切るのか?」

「イチロウ君の足が治ったらパパはもう用済みです。先にオルレアンに戻って盾でも磨いてて下さい」

「なんで俺だけのけ者にするんだエリス、やっぱりお前ら付き合ってんだろ!」


「だから違うって!(2人)」


 しばらく歩くと、王宮内の見た事のある場所にたどり着く。ここは・・『ベネチア』に『転移結晶』で移動した、ほこらのような白い建物がある場所。すでに先行していたアクア様とキグナス将軍、サラ先生、ルナ、ジャンヌ。

 そして今回はサンダース様、セバスさんにミューラもいる、合流する。全員集まったところで、『転移結晶』のあるほこらに近づいてくる、兵士に囲まれた集団の先頭に、女王陛下の姿があった。


「みな、大儀(たいぎ)じゃ」

「はは!(ざっ!)」


 その場にいた全員が片膝(かたひざ)を芝生の地につけ、頭をシャルル=ドゴール女王陛下に向かって下げていた。アクア王女がキグナス将軍に付き添われて、シャルル7世の前に歩みを進める。


「『ベネチア』おうこく、だいいちおうじょ、アクア=マリンにございます。じょうおうへいかにおかれましては、ごきげんうるわしゅう・・」

「アクア王女、時は一刻(いっこく)を争う、大儀じゃ、おもてを上げよ」

「ははっ」


「女王陛下、『ベネチア』王国将軍のキグナスでございます。15年ぶりにございます」

「ふむ、キグナス。幼少の頃は、そなたに世話になっておるな、覚えておるぞ、じいや」

「ははっ、ありがたき幸せ」


「ふむ・・・キグナスよ、『ベネチア』側のゲートの状況は?」

「ははっ、アクア様に代わり発言致します。よろしいですかなアクア様?」

「じいや、たのむ」


「ははっ。すでに『マドリード』へのゲートは開かれ、同盟協定に従い、『水属性』『火属性』兵士の受け入れ準備は整っております」


「先ほど『ベネチア』からの使者から、正式にわがオルレアン王国への援軍要請の件、わらわも聞いておる。しかしキグナス、我がオルレアンも先日の闇の襲撃があったばかり。そなたの『ベネチア』も相当な被害が出ておる事はわらわも知るところよ。いかに『火のクリスタル』に危険が迫っておるとはいえ、大規模に兵は動かせぬぞ」


「はは!もちろん心得ております・・そこで・・」


(ちらっ)げげっ・・こっちめちゃめちゃガン見してるよあの老兵。もうこのメンバーしか動かせないのは、使者や大臣クラスで話はついてたって事か・・。

 このやりとりも、国同士、大人と大人のお約束。


「聖女ルナ、ここへ」

「はい、女王陛下」


 聖女ルナがシャルル7世の前にひざまずく。


「またそなたを頼らねばなりませぬ。力無きわらわを、どうか許してたもれ」

「もったいないお言葉、このわたくしのすべてをかけて、必ずや『火のクリスタル』に迫る闇を払ってまいります」

「聖女ジャンヌ、我がオルレアンの『ナイト』よ、ここへ」

「はい、女王陛下」


 聖女ルナの隣に並び、ジャンヌもひざまずく。


「光の『ナイト』よ、これよりのち、この『転移結晶』から離れる事は許さん。このゲート開くあいだ、聖女ルナが帰るまで、我がオルレアンへの侵入者を排除せよ!万一『水のクリスタル』に危機がせまるならば、このゲートをそなたもくぐり『水の神殿』を防衛せよ!」


「はい、女王陛下の仰せのままに」


 以前と違い、すでに『ベネチア』とは国交が再締結されている。『マドリード』の『火のクリスタル』を援軍として守りに行くという事は、一時的に『ベネチア』を介して、この『オルレアン』も『転移結晶』のゲートを通じて繋がってしまう。

 それはこちらが『マドリード』へ行けるように、『マドリード』から『ベネチア』そしてオルレアンへ侵攻できるのと同義。ただでさえ戦力を分散させられている、このスキを狙った、下手をすれば敵の罠かも知れない。


 聖女ジャンヌは、姉の聖女ルナが『マドリード』へ『火のクリスタル』の防衛に行っている間、このオルレアンの『風のクリスタル』、そして『ベネチア』の『水のクリスタル』を2つ防衛するという責務を女王陛下から与えられた。

 『ナイト』として、聖女として、その責任を感じずにはいられないだろう。


「サンダースよ、そなたの2人の聖女、我がオルレアンの宝、わらわの誇りである」

「ははーー。我ら、(つね)に、クリスタルと共にあらん事を」

「そのとおりじゃサンダース。大事なそなたの子らをふたたび危険にさらす、わらわをゆるせ」


 女王陛下の威厳(いげん)があたりの空気を緊張させる。あのサンダース様も女王陛下の前ではひれ伏し、このオルレアンという国の意志は、あの女王陛下の意志そのものだと誰もが感じていた。


「ゆけ、我がオルレアンの戦士たちよ!(やみ)を打ち払い、『火のクリスタル』を守るのじゃ!」


「ははーー!!(全員)」


「ゲートを開けーー!!」


 兵士が合図して、『転移結晶』のあるほこらに向かって、兵士たちが剣を天に(なな)めにかざして一列に並び道を作る。ほこらの中ではすでに水色のゲートが開く。『ベネチア』への扉を、戦士たちがくぐるのを待っているかのように光り輝いていた。


「アクア様、このキグナスが『ベネチア』までお供致します」

「じいや、たのむぞ」


 アクア王女とキグナス将軍が最初にゲートをくぐる。


「私が先に行く・・」

「ちょっとサラ、あなたはまた勝手に・・」

「あなたは私の後ろ・・わたしが一番」

「1番も2番もありません!」


 エルフの姉妹が喧嘩(けんか)しながら兵士の道を歩いていく。


「は~まったくもって、あの妹たちときたら・・」


 兵士に交じって見送る兄のセバスさんがため息をついていた。


「ルナ~ケガだけはせんようにな~ううー」

「お父様ったら、恥ずかしい・・・ルナは行ってまいります。後をお願い致します」

「ルナお姉様!」

「ジャンヌ・・・あなたとわたしは・・」

「いつでも2人で1つ!頑張ってお姉ちゃん!」

「ふふ、あなたも・・信じてますよジャンヌ」


「行きましょうルナ様。この『月の雫』のエリスが必ずお守り致します。ルナ様のイチロウ君もいますしね」

「ちょっとエリス、なにを言っているのです、こんな時に!」

「はいはい、早く行きますよ。ささっ、こちらへ。お足元気を付けて下さい、誰かさんみたいに、ころんじゃいますよ」

「わたくしは1人でちゃんと歩けます!」


 神官姿のルナと『水の(よろい)』を装備したエリスが2人でゲートへ向かって行く。


「クラウド(きょう)よ、娘を、ルナを頼みましたぞ」

「はい、サンダース様。帰ったら『炎の盾』の修理代、しっかり払ってもらいますからね」

「そんな殺生(せっしょう)な~」

「え~サンダース様、ジャンヌ様へ(みつ)がれたお洋服代、請求書がたくさん届いておりますぞ」

「なんたる事か~」


「クラウド(きょう)、ここへ」

「ははっ!女王陛下!(どさっ)」

「痛った!クラウド、落とすなって・・ううっ・・」

「何者じゃ!?いままでどこにおったのじゃ・・」

「女王陛下、危険です、おさがり下さい!!」

「うむ。そのようじゃな・・」

「ううっ・・」


 (むね)を強打、体力1が消えかかり、女王陛下の御前(ごぜん)でもだえ苦しむ漁民。


「失礼致しました女王陛下。大丈夫かスズキ?この者は漁民でございまして・・その、足も負傷しておりまして・・」

「なんじゃと?出撃前(しゅつげきまえ)から足を負傷(ふしょう)しておるとな?」

「女王陛下の前で、なんたる無様(ぶざま)な姿を、おもてを上げよ!!」

「ううっ・・」

「申し訳ございません。ほらスズキ、さっさと行くぞ」


 クラウドの肩に片腕1本で(かつ)がれてゲートへ向かう。女王陛下に謁見(えっけん)する度に、次々と負傷していくのは、きっと気のせいに・・違いない。

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