69.風前の灯(ともしび)
ギルド会館最上階10階、ギルド長室にて拷問を受ける漁民。土下座を強いられ、体力1は風前の灯となる中、後ろの扉が開き、中に一瞬冷たい風が吹き込む。
「あっ、マリンちゃん!」
「こらジャンヌ、王女様ですよ・・もうこの子ったら」
ジャンヌがサンダース様のお膝の上で、パパをよしよししているのを中断。ひょいと下に飛び降りると、部屋に入ってきたアクア王女に近づく。アクア王女に続いて、青い髪のエルフ、サラ先生とキグナス将軍が続く。ジャンヌがアクア王女に飛びつく。
「マリンちゃ~ん(ぎゅぎゅ)」
「ジャンヌ・・ゆらすでない・・ふらふらするのじゃ・・(ゆらゆら)」
「ルナ様の妹君、アクア王女から離れて下さい」
「え~、は~い」
「ん?そこにいるのは聖女ルナ様の近衛兵では無いか・・なぜ土下座を・・」
「いちろう・・なぜそこにねておるのじゃ?おもてをあげよ」
「アクア様、この漁民の生命は尽きかけております。もはや立ちあがる体力は残されておりません」
「ちょっと早く言ってよ!イチロウ君、大丈夫なの?」
「エリス・・僕・・なんか・・体が・・」
「大変ですルナ様!イチロウ君、土下座しすぎて死んじゃいます!」
「スズキ様、死んではなりません!」
「おい、スズキ!立てないのか?」
「クラウド・・僕が死んだら・・」
「俺より先に逝くんじゃない!今すぐ医者を・・あなたは・・」
(ぽわー・・)突然扉に入ってきたエルフの男が、漁民の体に両手を当てる。両手から、赤い温かい光が発せられ、漁民の体を赤い光が包み込む。
「え~かなり危険な状態です・・すぐに治療室へ・・」
「おいエリス、お前も手伝え!」
「イチロウ君、しっかり!生きて!」
「・・・さら、いちろうはしぬのか?」
「・・・弱い」
意識が・・遠のく・・。
クラウドとエリスに抱えられ、漁民が部屋を後にする。
(回想)「一郎・・あのさ一郎?」
「・・・えっ、う、うん。なんだマミか、どうしたマミ?」
「ごめん・・私、ボタン間違っちゃって・・」
「え・・・」
「『冒険の書その1』・・ごめん、私・・・消しちゃった」
「それだけは、それだけは勘弁してくれ、マミ!!」
「誰がマミよ!!」
「(ガバッ!)はっ!」
知ってる天井・・ここ、ギルド会館の治療室。15年前から、1階のこのギルド会館の治療室だけは変わらない・・。
ベッドに寝ていたらしい、体を起こすと、先ほどまで最上階に集まっていた全員がここに集まっており、加えてミューラと、ミューラのお兄さんである副ギルド長のセバスさんがそばにいた。ミューラが心配そうにこちらを見て話はじめる。
「またわたくしの名前を・・スズキ様は・・」
「ううーー変態!」
「大丈夫スズキ君、平気?何があったの?」
「ミューラ・・もう話したくありません・・」
「え~サンダース様、あまりスズキ君をいじめないように。先ほどのギルド長室の床に空いた穴、あなたの『電撃パンチ』でヒビが入ったガラスも、お給料からちゃんと差し引かせていただきますぞ」
「セバス・・そんな殺生な・・」
「『ベネチア』の王女が謁見されているというのに・・まったく」
「スズキ君、セバス兄さんの高等スキル『黄泉がえり』、間に合って良かった」
「『黄泉がえり』!?それって・・」
「死の淵にある死者一歩手前の人を現世に戻す、兄さんしか使えない『火属性』最上位魔法よ」
「・・もうあの世へ送っていただいて結構です・・」
「そんな暗くならないの、あなたらしくないでしょ?」
「え~申し訳ございませんなキグナス将軍、アクア王女にまでこんな治療室にお越しいただいて」
「聖女ルナ様の近衛兵を放ってはおけんじゃろう。セバスも相変わらずのようじゃな」
「え~うちは変わらず、サンダース様が大暴れで、まったくもって仕事が増える一方です」
「キグナス!このわしに何の用じゃ?」
「兄者、相変わらず暴れておるようじゃの」
「ええ!?」
「お父様に、お兄様がいらっしゃったのですか?」
「ルナ、そうでは無い」
「ははは、聖女ルナ様。サンダース兄者はわしらの師匠の一番弟子、わしが2番弟子じゃから、実の兄弟ではないのですぞ」
「わしのルナに気安く話しかけるで無いキグナス!」
「お父様こそお黙りなさい!お口が乱暴です、ジャンヌがマネするではありませんか」
「・・・はい(しょぼん)」
「ははは、聖女ルナ様はしっかりされておる。とても兄者の娘とは思えん立派な聖女様よ」
「じいや、はなしを・・」
「は、はは!申し訳ございませんアクア王女。時は一刻を争います。ルナ様、今一度、クリスタルの危機をお救い下さい」
「クリスタルの危機!?」
「わらわのはなしをきくのじゃ、みなのもの」
「ははっ(全員)」
「『水のクリスタル』が、『火のクリスタル』にききがせまっておるといっておるのじゃ」
「『火のクリスタル』!?」
「そういえば・・」
「どうしたのスズキ君?」
「ミューラ。『ベネチア』で、諸刃って黒装束が、最後に捨てゼリフで、「次は火と土を攻める」って言ってて・・」
「私もそれを一緒に聞きました」
「エリスも?わたくしはなにも・・」
「ルナ様は、『上位昇進』で『アルテミス』になられていたので・・」
「たしかに・・あの時のわたくしは・・記憶があいまいで・・」
「じゃあ、闇が『火のクリスタル』に迫ってるって事?」
「でも、どうしてアクア王女だけ啓示を?しかもここ、『風のクリスタル』のあるオルレアンですよ?」
「『水のクリスタル』には、ちちとははがねむっておるのじゃ。わらわはどこのちにおろうとも、ちちとははのこえがきこえるのじゃ」
「アクア様・・」
「さら、よいのじゃ。ちちとははが、わらわにかたりかけておる。『火のクリスタル』をまもってほしいと」
「アクアちゃん。私が行って、守ってきてあげる!」
「ジャンヌ・・」
「聖女ルナ様の妹君、聖女ジャンヌ様。ここに我らが来たのは他でもない。この後、すぐにシャルル=ドゴール女王陛下に謁見し、『ベネチア』の同盟国、オルレアンへ正式に援軍を要請したい」
「だったら私が・・」
「聖女ジャンヌ、聞きなさい」
「サラ先生・・」
「『火のクリスタル』のある『マドリード』と『ベネチア』は同盟関係。でもオルレアンとは国交が無い」
「それが何?助けに行くんだから、国交なんて無くったって」
「『マドリード』に『転移結晶』を使って行けるのは『ベネチア』だけ。属性無くば、そもそもゲートを通れない」
「どういう意味?」
「落ち着かれよ聖女ジャンヌ。選ばれた者のみ、一度『転移結晶』により我が『ベネチア』に入国していただく。『マドリード』との同盟協定は『水のクリスタル』の加護を持つ『水属性』、すわなち想定は『ベネチア』の民。そして『火のクリスタル』の加護を持つ『火属性』、すなわち想定は自国民の『マドリード』の民にのみ、『転移結晶』の通過権利が与えられておる」
「ええ!?私どっちも持って無い!そんな条件、なんとかしてよ!」
「落ち着きなさいジャンヌ」
「え~ん、ルナお姉ちゃん~」
「はいはい、よしよし。アクア様の助けになりたかったんですよね、お姉ちゃんには分かっていますよ」
「ひどいよ~、この前も『ベネチア』行けなくて、ジャンヌだけ、のけ者にして、ひどいよ~」
「ジャンヌ・・ありがとうなのじゃ・・そのきもちだけでわらわはじゅうぶんじゃ」
「アクアちゃん・・」
「ルナのたすけがほしいのじゃ・・ときはいっこくをあらそう」
「私も行くわ」
「ミューラ・・」
「『火属性』の俺も行くぜミューラ!エリス、『水属性』のお前もついて来い」
「もちろんよパパ。アクア様、ジャンヌ様、『月の雫』のエリスが、ルナ様の親衛隊としてみんなをしっかり守ってみせます」
「え~サラ、お前も行くのですね。アクア王女を守り、無事にこのオルレアンの地に戻すのです、良いですね?」
「お兄ちゃん・・」
「ミューラ、こちらへ」
「えっ、なにセバス兄さん・・」
セバスは首にかけていた化石のような笛を外すと、ミューラの首におもむろにかける。
「セバス兄さん・・これって・・」
「お兄ちゃん、ズルい・・」
「ちょっとサラ・・」
「お兄ちゃん・・私にそれ頂戴って・・私お兄ちゃんに言った」
「え~サラ、お前のその何でも欲しがる癖、いい加減に直しなさい」
「ぶ~」
「ちょっとサラ、セバス兄さんに向かってなによその態度は」
「え~ごねてるだけです、まったく、恥ずかしい・・ミューラ」
「はい兄さん」
「『火のクリスタル』のある『マドリード』ならば、必ずやこの『火炎竜』が役に立つはず。お前とサラの力で、みんなを守るのです。エルフの誇りにかけて、良いですね?」
「分かりました」
「え~サンダース様、オルレアンの防衛が一時的に手薄になりますが・・」
「それなら兄者とわしがおれば問題無かろう」
「キグナス将軍が?」
「じいや・・アクアは・・『水のクリスタル』がわらわも『マドリード』へいくようにいっておるのじゃ」
「アクア様、このサラが、あなた様を命をかけてお守り致します。よろしいですねキグナス将軍」
「無論・・アクア様の身、お前に託す。わしはオルレアンとともに『水のクリスタル』への再襲撃にも備えねばならん。『水のクリスタル』はアクア様のその身と同義、なんとしても守り抜かねばならん。頼んだぞサラ、わしの代わりに、その使命を果たすのじゃ」
「御意」
「キグナス、お前は1人で『ベネチア』にでも帰っておれ。このオルレアン、わしとジャンヌでどうとでもなるわいて」
「そうだよパパ、オルレアンにいる『光属性』の私とパパがいれば、『風のクリスタル』には指一本触れさせないよ」
「ジャンヌ・・頼もしいですね」
「だからお願い、ルナお姉様」
「ジャンヌ・・」
「アクア様と『火のクリスタル』を守って、お願い」
「ええジャンヌ、もちろんですとも。あなたと私は、いついかなる時でも2人で1つです。あなたが出来ない事は、私がやりとげましょう」
「お姉ちゃんがいない間は、このオルレアンは私が守る。私、このオルレアンの『ナイト』だもん」
「いちろう、おまえもくるのじゃ」
「へ?」
「ちょっとあんた、ここまでの話聞いてたの!いつもいつも授業中もぼんやりして、寝てたんじゃないでしょうね!」
「なんでお前いつもこっち監視してるんだよ!それに・・感動のところ悪いんですけど、すでに足も動きませんし、漁民の僕が『マドリード』行ったところで、どうする事もできませんよ」
「やっぱりあんたは魚脳みそでしょ!漁民の『水属性』だから行ってこいって言ってるの!ルナお姉様をしっかり守ってこいって言ってるのよ!」
「ええ!?僕が行ったところで、何の役にも・・」
「え~スズキ君」
「え?あ、はい・・」
セバスさんが、ベッドに体だけ起こしているこちらに近づいてきて耳元でささやく。
「ミューラもサラも仲が悪い。この旅は、間違いなく危険が伴う。頼りは君だけです。妹を、どうか、守ってやって欲しい」
「セバスさんにそこまで言われたら・・・あまり期待しないで下さい・・でも・・3分だけなら・・絶対守れる自信はあります」
「え~それで結構、それ以上は望みません」
「兄さん、スズキ君と何はなしてるの?」
「え~なんでもありません。しかし『黄泉がえり』でようやく生きている状態のこの子をどうやって運ぶか・・」
「スズキ君、行ってくれるのね」
「こんな漁民でもよろしければ・・でも僕・・」
「はいはい、分かってます。はいスズキ君」
「ええ!?(全員)」
「ちょっとミューラ先生!それやめてってお願いした」
「スズキ君、足の状態は?どうせダメなんでしょ?」
「脚力も1の僕に何を今さら、さっきまでそこの野獣にずっと土下座させられて、ジンジン足がしびれて一歩も歩けませんよ」
「誰が野獣よ!」
「ちょっとスズキ君挑発しない!」
「ううーー」
「私が・・」
「ええ!?(全員)」
「嘘でしょサラ!?」
ミューラがおんぶしてくれる体勢になるや激怒したジャンヌの後、ベッドのそばにサラ先生が近づき、腰をかがめておんぶしてくれる体勢になる。
「こんな子1人どうって事無い・・早く、こっちに乗って」
「嘘でしょスズキ君、こっちに乗るに決まってるわよね?」
「えっ、えっと、えっと・・」
「あんた、自分の足でさっさと歩きなさいよ!どっちに乗っても処刑するからね!」
「ちょっとジャンヌはお黙りなさい、スズキ様は歩けないんです、脚力1なんです。誰のせいでこうなったと思っているのですか」
「ううーー」
どうする、赤い馬か、青い馬か・・。
「小僧!貴様、わしの娘の前でそんな姿をさらしおって、やはり生かしてはおけんぞ!」
「まあ待て兄者!肉壁程度には役に立つ。おい聖女ルナ様の近衛兵!『ベネチア』の架け橋になるのでは無かったのか?早く決めんと屍として『マドリード』へ送り届けるぞ!」
迷っていると段々周りの声が厳しくなっていく一方。このオルレアンの緑の世間という風は、やっぱり厳しすぎる。




