68.姉妹喧嘩
ギルド会館10階、最上階、ギルド長室。ギルドカードはまだ確認していないが、館内放送から呼び出しがあった事から察するに、当然こちらの居場所はすべて筒抜け。ギルド長室に入ると、目の前には鬼の形相のサンダース様がこちらを睨みつけ、近くに聖女2人の姿もあった。
「小僧・・覚悟は出来ておろうな」
「へ?」
「イチロウ君!いいから謝って!」
「今さら許さんぞ小僧!『ライトニングボルト』!!」
サンダースの体から発していた黄色いオーラが、一瞬で雷の電撃に変わる。
「まずいぞ、下がれエリス。スキル、『ビックシールド』!!(バン!)」
クラウドが前面に出て『炎の盾』をサンダースに向かって身構える。『ビックシールド』と声を発すると、赤い盾から深紅の光が発光し、大盾からさらに一回り大きいサイズの赤い光の大盾が出現、こちら側3人を守るよう地面にがっしり差し込まれる。
「必殺!!」
必殺!?死ぬ。
「『電撃パンチ』!!(ブンカウィッシュ!!)」
(バァァァーーン!!ぷしゅーー・・)ギルド長室内に一瞬白い煙が立ち込め、やがて晴れると、大盾に右ストレートを打ち込むサンダースの姿が見えてくる。前面に出て守ってくれたクラウドの背中が頼もしい・・てか、この大盾構えてなかったら、一瞬でダニノミ花粉と共に分解されていた。
「ああ!俺の『炎の盾』がへこんじまった!!」
クラウドが大盾のサンダースが拳を打ち込んだ位置を確認すると、『炎の盾』に拳の大きさのえくぼが出来てしまっていた。
「ほう、さすがは『炎の盾』・・素晴らしいスキル・・さすがは王宮師団筆頭、クラウド卿ですな・・どうなされたクラウド卿?」
「お、俺の相棒が・・ううう」
「なに泣いてんのよパパ、盾くらいどうでもいいでしょ?」
「毎日磨いてきた、俺の・・俺の相棒が・・ううう」
クラウドがうずくまり、愛車の盾にへこみのえくぼが出来てしまい涙を流している。
「私とその盾と、どっちが大事なのパパ?」
「クラウド・・」
「パパはほっといて、早く話すすめてイチロウ君。いきなり殴りかかってきて、ちょっと失礼じゃないんですかサンダース様?」
「ほう、クラウド卿の娘・・。なるほど、このわしに向かって肝が据わっておるわい」
「ちょっとお父様、エリスのお父上様に向かっていきなり殴りかかるとは・・ルナはお父様の事・・嫌いになりますよ」
(嫌いになりますよ 嫌いになりますよ 嫌いになりますよ)
「・・ル、ルナ・・わ、わしは・・わしは・・」
「ちょっとパパ、ジャンヌも叩いちゃダメって言ったよ」
「ジャ、ジャンヌ・・す、すまん・・」
「め!」
サンダースパパから発せられていた『ライトニングボルト』の雷のオーラは一瞬で消え去り、娘2人から嫌いになりますよ宣告によって一気に消沈してしまった。
「ジャンヌ・・」
「あいつ・・ううーー」
「ジャンヌ・・あなたもスズキ様、叩いちゃダメですからね」
「ううーー」
野獣が今にもこちらに襲い掛かろうと鬼の形相をしてこちらを睨みつけている。
エリスが『水の鎧』のマスクを上げ、顔が見えるようになると、ルナがエリスに気づいたらしくこっち側に寄ってくる。
「(すすっ)エリス?」
「ちょっとルナ様、サンダース様、何にあんなに怒ってるんです?」
「その、あの・・スズキ様が・・」
「ほらやっぱり、スズキ君の失言でしょ?」
「僕の何の失言です?馬小屋で会ってた事です・・(むぐぐっ)」
「声が大きい!馬鹿でしょ君、ここでそれしゃべったら、また『電撃パンチ』来るわよ!」
「はぁはぁ・・じゃあレディースソムリエの件で・・(むぐぐっ)」
「違いますスズキ様!と言いますか、ジャンヌはまだそれ、すっごく怒ってるんですよ、分かってらっしゃいますか!」
「ううーー」
「ぷはぁ・・口を塞がないで下さいよルナ様、僕、死んじゃいますから」
「ああ、ごめんなさい・・」
「小僧・・」
「ひゃ、ひゃい(びくっ!)」
「貴様のせいで、ジャンヌが服を欲しく無いなどと言いだしたでは無いか・・」
「えっ、ええ!?そ、そっち?」
「・・あのねあのね、パパ。ジャンヌ、お洋服我慢する・・欲しい分だけ、買って欲しいの・・」
「ジャ、ジャンヌ・・ル、ルナ・・お前も・・来年分の礼拝スケジュール表まで出してきおって、これでは、一体いつお前をお膝に座らせる事が出来るのだ?」
「お父様・・ルナは・・ルナは・・」
「どうしたのだルナ?」
「ルナは・・お父様のお膝に座るのが、もう・・恥ずかしくて嫌なのです!」
(恥ずかしくて嫌なのです 恥ずかしくて嫌なのです 恥ずかしくて嫌なのです)
「ル・・ルナ・・」
「あっ、言っちゃった。パパ、パパ」
「ジャ、ジャンヌ・・ううっ」
「よしよし。パパ、ルナお姉様ね、本当はパパのお膝が大好きなの」
「そうなのかジャンヌ・・」
「そうだよ。でもねでもね、お姉ちゃんもう思春期でしょ?パパは好きなんだけどね、お膝の上は恥ずかしくなっちゃったんだよきっと」
「そ、そうかそうか・・」
「ジャンヌはなにを言って・・(青ざめるルナ)」
「ジャンヌはパパのお膝が大好きだよ」
「ううっ・・ジャンヌ・・うううっ」
「・・あの、僕もう、おいとまさせていただいても、よろしいでしょうか・・」
「小僧!!貴様はそこになおっておれ!!」
「は、ははーー!!」
すぐに土下座、男の誠意を見せる。
「ちょっとお父様、あんまり漁民様をいじめないで下さい」
「お姉ちゃんこそ、そいつの肩もって。そいつとパパとどっちが大事なの?」
「ジャンヌは言い過ぎです、少しお黙りなさい」
「は~い」
「お父様の前では、いつもいつも甘えん坊さんなんですから・・」
姉妹喧嘩が始まった、今のうちに・・。
「ちょっとあんた!何逃げようとしてんよの、そこになおりなさい!!」
「は、ははーー!!」
(がちゃ)ふたたび土下座の体勢に入ると、土下座の後ろから扉が開く音が聞こえる。




