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66.旧友

 エリスの家、すなわちクラウドパパの屋敷(やしき)の玄関で、生命の危機にさらされる漁民。


(ざくっーー!!)仰向け(あおむけ)に倒れ、顔のほんのちょっと右に剣が地面に突き刺さる。


「ひーー」

「ちょっとパパ、落ち着いて!パパの同級生だったスズキ君よ!スズキイチロウ君!!」


「えっ・・ああ!!お前、スズキじゃないか!」

「く・・クラウド!!」


 一時屋敷の玄関前で騒然(そうぜん)となったが、15年前のクラウドとうりふたつの大人の男が、自分を抱え起こして屋敷の中に案内してくれた。

 そのまま食堂らしき大きな部屋に、縦に長い机、向い会って5列10人に両脇にさらに2人座れる机。一番窓側の脇にクラウドが座り、その角の席に向かい会ってエリスと漁民が座り食事を始める。


ご馳走(ごちそう)になります・・」

「遠慮すんなってスズキ!そういや名前聞いてなかったよな俺、あははは」

「ええ!?名前も知らずにずっとしゃべってたの?」

「そういえばクラウド、僕の事「お前」「お前」って言って名乗ってなかったよね」

「あきれた・・その程度の関係だったなんて・・毎日毎日、王立図書館通って、イチロウ君の石化を解く方法探しに行ってたんだよ~」

「こらエリス、お前は黙りなさい」

「はいはい」


「はは、仲が良いんですね2人は」

「誰がよ?」

「こら、またそんな口の聞き方をして。クラウド家の跡取りなんだぞお前は」

「はいはい、分かってるわよパパ」

「えっ、エリスって一人娘なの?」

「そうなの。パパもいっつもさっきみたいな調子でしょ?お母様、離縁(りえん)してどっか行っちゃったし」


「それを言うなってエリス。お前だけはどこにも行かないでくれよ」

「はいはい、もう~本当(なさ)けないパパなんだから」

「はは・・じゃあエリスも、僕や聖女様と同じなんだね」

「えっ、イチロウ君もお母様いなかったの?」

「そうだったのかスズキ?」


「え、ええ。僕の方は小さい頃、天国に行っちゃいまして・・はは」

「ごめんなさい・・不謹慎(ふきんしん)だったわ・・」

「良いんだよエリス。アイリスがいなくなった2人の方が、もっと可哀そうだと思うし。ほ、ほら。僕ら立派なパパがいるだろ?聖女様のパパもかなりの親馬鹿だし、僕も(いま)だに親父に甘えてるし・・はは」

「そうね・・パパは、子供には選べないもんね・・ねえ、パパ」


「どういう意味だエリス」

「はいはい、今日はお風呂でパパのお背中流して差し上げましょうかね~」

「本当かエリス!」

「どうしよっかな~」

「おお、エリス。さあこれも食べなさい、さあ!」


「・・僕、そろそろ、おいとまさせていただきますね」

「ちょっと待てってスズキ。『ベネチア』で、アイリス様の『署名状』があったんだって?」

「あっ、それ聞いてました?」

「私がパパに言ったの」

「15年前、お前が石化されてた時・・俺、助けに行ってやれなくて・・すまなかった!」

「ちょっとクラウド!」


 いきなり席を立つなり、大人になったクラウドが自分の目の前で土下座を始めた。


「パパ!」

「アイリスの、聖女様の(たて)は俺だってのに・・その役目を、俺は、お前に、身代わりにさせちまって・・ずっと、ずっとずっと、申し訳なく思ってて・・ううっ」


「やめろってクラウド、お前あの時、肋骨(ろっこつ)折れてただろ?森で元々ゴブリンチャンピオンからアイリスの身代わりに(たて)になって骨折れてたのはお前の方じゃないか。あそこは僕が『風の神殿』に行くしか無かったんだよ」


「それでアイリスがあんなになっちまって。『ベネチア』に行くって、止めたんだけど聞かなくて・・俺は結局、誰1人守れてなくて・・」

「そんなわけないよクラウド」

「え?」

「しっかり守れてるだろ、ほらっ、お前の可愛いお姫様がここにいるだろ」

「ちょっとイチロウ君・・」


「そうなのか?お前・・俺の事、(うら)んでないのか?」

「そんなわけないよ。クラウドは、農民の僕を差別しないで優しくしてくれた恩人だよ。今でもずっとそう思ってる。クラウド・・そんな勘違いして、ずっと『王立図書館』・・通っててくれたんだな・・ありがとう、本当に、最高に良いやつだな、お前は」


「もう・・なによ2人とも・・本当・・馬鹿みたいじゃない」

エリスが泣き始めたので、クラウドも土下座をやめて席に戻り、エリスにハンカチを渡して話かけている。

「ぐすっ・・パパには黙ってたんだけど、お母様、パパが自分をほったらかしにして、毎日毎日、王立図書館通うものだから、きっと自分の事、嫌いになっちゃったんだって言ってたんだよ」


「ええ!?(2人)」


「そんな理由で王立図書館通って、イチロウ君の石化を解いて謝ろうとしてたなんて、私も生まれてからずっと知りませんでした。ちょっとパパ、他にも私やお母様の知らない事いっぱい隠してるでしょ?」

「え、いや、その、あはは」

「はいはい、今日はお風呂一緒に入ってあげるから。しっかりそこで白状(はくじょう)して下さい」

「分かったエリス!全部話す、全部だよ、全部」

「・・僕、おいとまさせてもらって良いですか?そろそろ借金の返済があるんで、ギルドでクエスト行かないと行けないんで・・」

「借金だと!?いくらだスズキ?」

「この前まで借金、金貨1800枚ほどあったんですけど」


「金貨1800枚!?(2人)」


「この前なぜか銀等級(序列3位)冒険者になりまして、アイリスを助けた功績が何とかって、金貨1000枚もらって。色々あって、ようやく金貨685(牢屋へGO!)枚まで返済出来たんですよ・・まあ、先は長いんですけどね・・」

「それくらいなら、俺が全部出してやるよ」

「ちょっとパパ」


「あーダメダメ、クラウド、それやったら僕、ダメヒューマンになるから。自宅警備員に逆戻りになるんで、しっかり働いて自力で返済するよ」

「そんな事言うなって。言っちゃなんだが、俺も今では伯爵(はくしゃく)なんだぜ?」

「伯爵って・・ライン=ハルトと同じ!?(えら)くなったのかクラウド?」


「そうだよ、そこそこいい線いったんだぜ俺」

「昔はでしょ、昔は?お母様の玉の輿(こし)で」

「うるさいなエリス、そこで水を差すなって。それに離縁っていったって、まだ正式に届出出してないギリギリ一歩手前なんだよ。俺も復縁(ふくえん)しようって、今努力してるところなんだから」


「はいはい、じゃあ今日からすぐに努力して下さい。私はこの後、用事無いし、イチロウ君のクエスト手伝ってくるね」

「えっ、いいよエリス。僕1人で出来る事やってくるから」

「2人の方がずっと儲けも良いでしょ?どうせ毎日、『ウインダム』通ってるんでしょ君?」

「ううっ・・なんでそれ知ってるんだよ・・」

「ルナ様から聞いてるの、サンダース様がギルド長なんだから、何でも筒抜け(つつぬけ)なんです」


 セガール(ギルド長)め・・個人情報を駄々洩れ(だだもれ)させて・・。


「じゃあ、今日は俺も手伝ってやるぜ相棒(あいぼう)

「え!?(2人)」

「現役の王宮師団(おうきゅうしだん)大盾(おおたて)持ちのこの(たて)の勇者が、ひ(よわ)な農民を守ってやるぜ」


「なんか女性関係()めそうなあだ名ですね」

「すでに()めてるわよ。それにパパ、イチロウ君は農民じゃ無くなって、今は『水属性』の漁民なんです」

「おお、やるなスズキ」

「農民も漁民も、ミリ単位しか変わりありませんよ」

「なんだよ、そのミリって」


 クラウド親子がどうやらクエストを手伝ってくれる運びになった。王宮師団がなんとかって言ってたが、この国の軍事組織なんてどうなっているのか、さっぱり分からない。

 これなら海上清掃クエストでは無く、今日は陸上討伐クエストにでも行けそうなメンバーだ。


「では、ぜひお願いします。僕、いまだにレベル1で体力1しか無いんで、全力で僕を守って下さい」

「そんなんでよく銀等級(序列3位)冒険者になれたな、お前」

「僕もそう思います」


 エリスに加えて、なんとエリスパパのクラウドまでクエストを手伝ってもらえる事になった。クラウドの屋敷から、ふたたび馬車にやっかいになり、3人で一路(いちろ)ギルド会館を目指す。

 馬車の中で、向かいに隣同士に座る2人の仲の良い親子、顔を見比べると、ますます2人ともそっくりだ。


「ねえクラウド」

「ははは・・ああ、どうしたスズキ?」

「クラウドと僕って、15年前も同じくらいの歳だったよね」

「ああ、俺はもうエルミタージュ入った時は16歳になってたな。オルレアンじゃあ、16歳になると成人だし、お前が石化しちまって、あの後すぐにエリスが生まれてよ」


「ええ!?もうあの時点で、クラウド結婚してたの!?」

「なんだよスズキ、普通だろ?」

「はは・・そうなんだ。いや、ごめん、僕の国では、女子は確かに16歳で結婚できるんだけど、男子は18歳にならないと結婚できない法律で・・」


「へ~18歳にもなっちゃったら、もう死んでる子も多いんじゃないの?」

「死ぬって・・そうか・・このオルレアンって、平和じゃ無いんだよね・・。早く結婚して子供作っとかないと、18年も生きてる間に死んじゃう兵士多そうだよね」

「そうだな。15年前も今と変わらないし、爵位(しゃくい)にもよるが、アイリス様もライン=ハルトの許嫁(いいなずけ)になったのが15歳で、あの事件が無かったら、次の年には結婚式がある予定だったもんな」

「結婚式!?」


「ああ、そうだぜ。まあ、ライン=ハルトも今じゃ行方不明になっちまったし、あの(やみ)の襲撃で、すべてが変わっちまったな・・。双子の聖女様、そういやお生まれになるの、やけに早かったな・・」

「そうなんだ・・15歳で許嫁(いいなずけ)って、オルレアンじゃあ結構普通だったりするの?」

「王族の娘様ともなれば、生まれた時から相手が決まってる事も多いし。まあ、私の年になれば、そういう人、決めとかないといけないし~」

「エリスも15歳?」

「女性に年齢を聞くのはマナー違反です」


「はい、すいません・・聖女様とタメでしたね・・」

「なによ、そのタメって?同じ歳って事?」

「ああ、ええ、そうです・・はは」

「すまんなスズキ、さっきはビックリして剣ぶっさしちまってよ」

「そうよパパ。ちゃんとそんな人出来たら、事前に相談するって、いつも言ってるでしょ?」


「危うくさっき死ぬところでしたよ、何考えてるんですエリスお嬢様?」

「あはは、ごめん。パパがどんな反応するかなって興味があったの。本当に処刑しようとするなんて思わなくて」

「ただでさえ聖女2人に(から)まれてるんですから、これ以上変なパパ増やさないで下さいよ」

「何だよスズキ、エリスとくっつくのか?俺はお前なら別に構わんぞ」


「誰がこいつと!(2人)」


 エリスとエリスパパ、漁民を乗せた馬車が、オルレアンと言う大海原を、ギルド会館に向かって漂流(ひょうりゅう)していく。



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