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65.聖女の盾

 2・3時間目の授業が終了。エルミタージュの学院生たちが、着替えを済ませて温水プールのある施設から出てくる。制服姿の男女、修道服を着た女性に交じり、布の服を着た漁民が女の子に肩を持たれながら足を引きずり施設からフラフラしながら出てくる。


「イチロウ君、しっかり、生きて・・」

「エリスさん・・僕の事は放っておいて下さい・・うぐっ・・」

「わたしたち『月の雫(つきのしずく)』でしょ?仲間を放っておけないわよ、まったく・・」


 3時間目の時間中、自らの罪を断罪され、水着の聖女に頭をひれ伏し続け、もはや体は限界に達っしている。腹の虫がおさまらないジャンヌを連れて、先にルナ様が妹を連れ出してくれる。

 ようやく体育館の裏から脱出、長き拷問から解放された。アクア様は耳栓をされ、目に手を当てられたままエルフのサラ先生に連れられてどこかへ消えてしまった。

 残されたエリスが、『月の雫』のよしみでフラフラの自分の体を支えてくれる。同じ親衛隊のジョンの姿はどこにも見当たらない。


 エルミタージュの敷地にあるベンチまで来て座らせてくれる・・体力1が消えかかる、今にも聖女の光のお仕置(おしおき)によって天に()されようとしている漁民。


「さっきからずっと聞いてたけど、イチロウ君が悪いと思います」

「・・・反省しております」

「ジャンヌ様も気になされてるの。あんなにストレートにいじわる言ったら、女の子は誰だって怒ります」

「は・・はい」

「分かればよろしい」


 ベンチに座るエリスと漁民。エルミタージュに、心地の良い風が吹いている。


「ねえイチロウ君、やっと2人でお話できるし、ちょっといいかな?」

「ええ。今、僕立って歩けませんので、話だけなら・・」

「はいはい。昨日ね、パパにイチロウ君の話したらさ、すっごく驚いてて、ぜひ会いたいって聞かなくて」

「パパ?エリスさんのって・・そういえばクラウドでしたね」

「私の事はエリスって呼んでイチロウ君。あなた、パパの命の恩人みたいだし」


「ああ、エリス・・恩人なのは僕の方ですよ。自分の危険も(かえ)りみないで、農民の僕に優しくしてくれて・・ライン=ハルトとの決闘の前に、僕なんかのために主人に逆らって、僕を助けようとしてくれた恩人です」

「へ~そんな話、私聞いてないな~」

「あ、僕、余計な事言っちゃいましたね」

「いいのいいの、他には無いの?」

「え~、ちょっと誘導尋問(じんもん)しないで下さいよ」

「いいじゃない、もったいぶらなくて。それならさ、今日この後うちに来ない?」

「えっ、エリス、クラウドと同居してるの!?」

「当たり前でしょ、私のパパなんだから」


「そうか・・はは、すいません。15年経ってましたね今は・・石化してたんで、体も若いままですし、僕にとっては昨日の事のような気がして・・エリスがクラウドの娘なんて、まるでピンときませんから・・」


「それならなおさら!パパ今日は非番だから、私が帰るの家で待ってるのよ」

「そうなんですね・・今頃何してるのかなクラウド。ちょっと気になってきたので、お言葉に甘えても良いですか?」

「いいよ、もちろん。私、男の子家に連れていくの初めてかも」

「どこかの火属性のエルフみたいな事言わないで下さいよ」

「それってミューラ先生の事?大事な人って言われてるし、もしかしてあなたたち怪しい関係なの~」

「ノーコメントでお願いします。僕が想像しただけで、『感知』スキルで先生がすぐに飛んでくるんで」

「なにそれ?」


 エリスとベンチで雑談している間に、消えかかっていた体力1が、ほぼ完調に近い体力1まで回復した。立ちあがると動けそうだ、足元の石ころには気を付けて歩こう。


「そういえばイチロウ君、『ベネチア』行く前に豪快(ごうかい)にこけてたよね」

「ううっ・・古傷(ふるきず)をえぐらないでもらえませんか?」

「あはは、でも良かったね。『水の(よろい)』装備してなかったら、イチロウ君、あのまま死んじゃってたんだもんね」

「言われてみれば・・本当ですよ!僕の物語、あそこで終わってたじゃないですか!」

「あはは、本当、ルナ様ったら、どうしてこんなのが気になるのかしらね」

「ルナ様がなんですか?」

「いやいや、こっちの話、気にしないで。あははは」


 エルミタージュの敷地内を歩き、講堂前まで行くと馬車が1台止まっていた。光り輝く聖女様号とまではいかないまでも、立派な馬に運転手の使用人までついている。クラウド家って、けっこう金持ちなのかな。


「はい、乗ってイチロウ君」

「ええ!?僕、漁民ですよ?」

「今さら身分なんて関係ないでしょ?私が怒る前に、ほら、さっさと乗る!」

「はい。宜しくお願いします」


 馬車に乗るのはオルレアンに来て2度目か・・たしか受験の日にライン=ハルトの馬車に乗ったような。馬車の中はフカフカのソファーが標準装備されているのか、馬車が石畳を通る振動でお尻が痛くならないし振動も軽減される。電車に乗っている程度の揺れしか感じない。貴族の子はいつもこんな馬車を使って通学してるんだな。馬車の中で向かい合ってエリスと話をする。


「エリスの制服姿って、なんだか新鮮ですね」

「なに、そのやらしい発言。ルナ様に言っちゃうよ」

「今さらなに言われたところで、僕の評価は地に落ちてますから、これ以上落ちようがありませんよ」

「そんな事ないよ~結構、良い線いってるかもだよ」

「なんの線か知りませんが、借金の返済が僕の人生の最優先事項なんです。聖女様と毎日ハプニングはごめんですよ。ただでさえ今朝も寝起きを野獣に襲われたんですから」

「え、何それ!?私聞いてない!」


「僕がクリスマスの夜クエスト終わって、宿が満室だったんで馬小屋で寝てたんですけど・・」

「あはは、もうその時点で突っ込みどころ満載ね、ふふふふ」

「じゃあこの話はこの辺で」

「ちょっと、全然少ししか聞いてない!」

「エリスも僕を笑いたいみたいですね」

「何それ?ルナ様がなにかしたっていうの?」


「干し草の上で寝てたら、朝2人が目の前にいたんですよ。「お金に困ってるんですね」だの、散々言いたい放題言われて・・ちょっと腹がたって・・」

「なるほどね~それで朝学院で3人とも様子がおかしかったのね。なんだかんだ、仲良いじゃない3人とも」

「勝手に友達にしないで下さいよ。僕はあの2人とはなるべく距離を取りたいんですから」

「え~なんでよ。あなたルナ様親衛隊でしょ?主人と距離を取る親衛隊なんて意味ないでしょ?」


「正確には、距離を取りたいのはお父さんの方ですよ」

「あははは、なるほど。サンダース様を(おそ)れてるって事ね、あははは」

「笑い事じゃありませんよエリス。この前だって、「娘に手を出したら消す」とか言って、ギルド会館の1階の部屋の壁、僕の顔ちょい右くらいに右ストレート飛んできて死にかけましたよ」

「あははは、それ傑作(けっさく)ね」


「娘さんと馬小屋で朝会ってたなんて、僕にとっては生命の危険以外なにものでも無いですから、エリスも黙ってて下さいよ。2人とも僕が迷惑してるの全然分かってないんですから」

「なるほどね、なんとなく分かりました・・どうしましょうねルナ様」

「さっきからエリスはどっちの味方なんですか?」

「もちろんルナ様に決まってるでしょ?」

「そう言うと思いましたよ。エリスのそういうところ素敵だと思います」

「あら、口説いてるの?お姉さんどうしましょう」

「歩く借金王の僕でも良いなら、前金積んで面倒見て下さい」


「ちょっと無理かな~パパきっと怒っちゃうよ」

「当然ですよ。借金まみれの彼氏なんて、害虫以外なにものでもありませんよ」

「あはは、本当、イチロウ君おやじ臭いな~。同い年にはとても思えないわ」

「そいつはどうも」


 くだらない話をしていると、いつの間にか馬車が停車する。馬車の扉が使用人によって開かれると、オルレアンの中心部近くの大きな屋敷の前で馬車が止まっていた。

 中心部近くの王宮があるお城がここからもはっきりと見えていた。


「へ~エリスの家、金持ちなんですね」

「おやじ臭い事行ってないで、さっさと来なさい」

「かしこまりました」


 門をくぐると、お庭が広すぎて家の玄関までしばらく2人で歩く。お庭の手入れの使用人と思われるメイド服を着た若い女性が、何人か「お帰りなさいませ、お嬢様」と声を口々にかけてくる。


「凄い、秋葉みたいですね」

「なによその秋葉って?」

「ああ、気にしないで。僕の国の聖地の地名です、メイドさんで一杯の街なんです、はは」

「そんな街、あるわけないでしょ?さっさと来る!」

「かしこまりましたお嬢様」


 嘘をついているつもりは無いが、このオルレアンでは通じないようだ。玄関までたどり着くと、家の中から男の馬鹿デカい声が響き渡ってきた。


「(何!!エリスが男を連れて帰って来ただと!!すぐに処刑する、剣をここへ!!)」

「(はい旦那様!!)」


 処刑?旦那様?


「あちゃ~もうバレてる・・」


「(だんだんだんだん!!)」屋敷内の奥の方から階段を大きな音が下りるような音。


「エリス・・僕の命が危険な気がします・・」

「えっ、啓示が聞こえたの?」


「(だんだんだんだんだんだんだん!!)」屋敷内に走る音が響く。


「啓示じゃなくて、身の危険を普通に感じるんですけど・・」

「そうみたいね・・」

「僕を処刑しにここへ連れてきたんですか?ちゃんと弁護して下さいよエリスお嬢様」

「誰がお嬢様よ。きっと大丈夫。いきなり刺したりしないと思うから・・多分・・」

「『上位昇進(レベルブースト)』の準備を・・」

「それ、ここで使うの!?」


「(だんだんだんだんだんだんだん!!)」屋敷内に走る音が響く。」


「今使わないで、いつ使うんですか」

「ルナ様に聞いたけど、それ今日ジャンヌ様に使う予定なんでしょ?」

「今日またジャンヌ様に会ったら、それこそ一瞬で処刑されちゃいますよ」


(だんっ!!)玄関の扉が開くと、剣を装備し、鬼の形相(ぎょうそう)をした男の姿があった。


「はぁはぁ・・エリス・・その男は?」

「ただいまパパ・・この子・・」


「はぁはぁ・・この子が?」

「私の・・」


「はぁはぁ・・私の?」

「私の、大事な人なんです!!」


「処刑だ!!」


「馬鹿だろエリス、何考えてんだよ!!」


 ()られる。


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