64.水の楽園
1時間目のミューラ先生の最後の授業が終了、単位を認定する卒業試験だった。
このオルレアンにコピー機が無いのか、テスト用紙はミューラが手書きで問題と解答用紙を全員分用意していた。生徒の数はこの1時間目だけでゆうに100人以上超えている。
2時間目の学院生も含めると、一体何人の生徒が参加しているのか分からない、本当に人気があるようだ。
問題は3問しか無く、答えは『火属性』『ベネチア』『マドリード』の3問だった。
全問正解で無事単位認定、聖女ジャンヌ様を今これから神として崇める事にする。
試験は5分程度で終わったが、ミューラは教室の壇上で授業中に全員分採点していた、貴族のためにやらなければいけないらしいが、全部1人で問題配って回収して採点して・・生徒じゃなかったら手伝ってやりたかったよ。
1時間目が終了し、教室を出るミューラに、青い短い髪のエルフが近づく。
「姉さん・・」
「サラ・・」
「姉さんの授業・・人気あるのね」
「うるさいわね・・サラには関係ないでしょ」
「アクア様も・・姉さんの生徒も・・全部私のもの」
「あなた、また私のものを全部取ろうとして。やめなさいって、いつも言ってるでしょ?」
「セバス兄さんも・・姉さんの男も・・全部私のもの」
「・・そんな人いません。兄さんはあげます、どうぞご自由に」
「・・嘘。姉さんは嘘が下手」
「だから男なんていないって・・」
「あ!ミューラ先生、ちょうど良かった~」
「スズキ君!?どした?」
「・・・あの時の漁民・・」
「ミューラ先生、トイレ行ったら水が流れなくなったんですよ、どうすれば良いですかね?」
「あ・・はは・・」
「・・・不潔」
2人と別れ、ミューラ先生に水の結晶の乗った機械を左から叩くと直ると言われ、試しに叩くちゃんと流れ、事なきをえた。さっきミューラと一緒にいたのは、『ベネチア』でアクア王女の隣にいたエルフ、ミューラの妹さんってセントルイス学院長が紹介してたな。トイレから出るとジョンが待っていた。
「ようイチロウ、テストどうだった?」
「ああ、なんとか合格、危なかったよ」
「ちゃんと答えメモしといたろ?」
「メモが間違ってるに直前で気づいてさ」
「それあぶないじゃないか?大丈夫だったのか?」
「ああ、エリスたちと話してて、ジャンヌ様が気づいてくれてさ」
「おお、そうか。よかったなイチロウ」
「本当だよ、神だよ彼女」
「昨日のクリスマスパーティーなんでいなかったんだよ?さっきもお前ら4人だけギリギリに入ってきてたし」
「昨日はクエスト行ってたから」
「クエスト!?なんでパーティー来ないんだよ?」
「借金で首が回らないからだよ」
「借金!?」
昨日大衆浴場『ウインダム』でのクエストの話をしながら、教室を移動する2人。
「へ~『ウインダム』にそんな『コーヒー牛乳』なんて今あるんだな、今度行ってみるか」
「ああ、寄ってみてよ、ガイア先生のお母様が受付してるぜ。そういえばジョン、2時間目どうする?お前もガイア先生とこ行くか?」
「お前・・この後の2・3時間目の連続授業、まさか行かないつもりか?」
「なんだよ、その連続って」
「朝の全学院集会で見たろ?『ベネチア』で会った、あのミューラ先生の妹さん」
「ああ、あの髪の青くて短い方のエルフさん?」
「そうそう。新しく来たサラ先生、さっそくやってくれるんだよ、水の授業!」
「水の授業?」
ジョンについて行き、エルミタージュの施設内を歩いて移動する。他の学院生の流れも、ほとんどがこちらと同じ方向へ向かっている。一体なんの授業なんだ?
一度施設を出て、前方にある建物の入口に入る。男子と女子に別れており、すぐに脱衣所と自由に選べるよう水着が用意されていた。
「おいジョン、まさか2・3時間目の授業って・・」
「そうだよ、決まってるだろ?」
「騎馬戦か?」
「そんなわけあるかよ、水泳だよ水泳、温水プールでなんで騎馬戦なんだよ?」
「そうだな・・ってことはあれか?」
「当たり前だろ?さっさと俺たちも着替えようぜ」
「おう」
適当に水着に着替え、水の結晶のシャワーで体を洗って出口に向かうと、エルミタージュ敷地内にとても広いプールが広がっていた。
外から鉄の柵で覆われ、敷地内には『風の神殿』や森も広がるとても大きな敷地。まさかプールまで用意されているとは・・1年中『風のクリスタル』の加護で気候が安定しているオルレアン、2時間目とはいえ水着に着替えても心地よい風と太陽の中、プールで泳げれば最高に気持ちがいいだろう・・普通のヒューマンは。
広いプールに、一番前でラジオ体操を指導でもするようなちょっと高くなった台が置かれており、その台の上で青い短い髪のエルフ・・サラという名の教師が生徒に向かって拡声器のような結晶石を持って話を始める。
「みんな・・授業はじめるわよ」
「はい先生!!」
「先生の水着、凄く素敵!」
さっそくミューラ妹の親衛隊や信者が増えているようだ、察するに、ここのプールで2・3時間目を楽しく泳いでいれば単位がもらえるのだろう・・このオルレアンを滅ぼしに来たのかあのエルフは?しばらくすると、サラ先生の乗っていた台の方へ、水色の水着を着た女性兵士に付き添われ、ひときわ幼い女の子が近寄ってきた。
「キャー」
「王女マリン様よ!可愛い!」
この授業だけでゆうに2・300人くらいの生徒が集まってる、なんて人気とこのプールの広さ。ビーチバレーに流れるプールらしきものが見える、日本の流れるプールにでも来た気分だ。さらにしばらくすると、マリン王女に熱狂していた歓声の声がまた変わる。
「ルナ様よ!素敵!」
「ジャンヌ様も!お二人ともとても素敵ね」
聖女2人がどうやらこの授業に交じっているようだ。なるべく関わらないようにしないと・・嫌な予感しかしない。ふたたびサラ先生が拡声器らしき結晶石で話を始める。
「ここにいる学院生のみなさん・・この時点で・・単位を認定します・・」
「おおーー!!」
「先生素敵!」
『ベネチア』の『アカデミア』とかいうとこの、お坊ちゃま学生たちのレベルが判明。
きっと全員、私と同じ程度の知能指数しか無いはず。『ベネチア』でたい焼きが売れに売れた理由も判明、どうやら生まれる国を間違えたようだ。
このオルレアンでは最初に来た時からウソつき呼ばわり、農民から始まり、いまだ銀等級の漁民、昨日の寝床は馬小屋の干し草ベッド、借金は金貨685枚。
『ベネチア』なら、たい焼きスキル1つで一晩で金貨100枚以上、『水属性』の私は『ベネチア』こそ相応しい人材。
サラ先生は授業開始と終了を同時に宣言し、ギルドカードを確認すると本当に単位が認定されていた。上っていた台から降りると、水着を着た王女アクア様のそばに寄る。
「さら・・わらわはおよげんぞ」
「わたくしがお手を取ります。王女様ともあろうお方が、泳ぎができなくてはなりません。わたくしが指導致します、さあ、お手を・・」
「たのむぞサラ」
王女アクアの様子を見ていたが、完全にエルフのサラの言いなりになってる、大丈夫か『ベネチア』?これまでの話で、今のベネチアではアクア様の両親、王様と王妃がすでに他界し、実質この子が『ベネチア』のトップ。
しゃべり方は王族そのもので関心するが、この幼女が最高意思決定機関となると、サラの素性は知らないが『ベネチア』が心配になってくる。王女アクア様とサラがプールに向かおうとしているところ、水着姿のルナ様、ジャンヌ様、エリスの3人が近寄って話かけていた。
「ごきげんようアクア様、ルナです、覚えてらっしゃいますか?」
「ルナ・・いっしょにあそぶ・・やくそくした」
「まあ、覚えていただけてましたか?うれしいです」
「・・ルナが2人・・」
「まあ、ふふ。違いますアクア様、こちらはわたくしの妹、マミフレナ=アイリス=ダルクが娘、マミフレナ=ジャンヌ=ダルクです」
「・・ジャンヌです、王女様」
「・・ジャンヌ・・ルナ・・いっしょにあそぶ」
「まあ」
「可愛い!ねえ、アクア・・ちゃん、一緒に遊ぼう!」
「ちょっとジャンヌ、王女様なのですよ!そのような口の聞き方があります」
「ジャンヌ・・すき・・いっしょにあそぶ」
「あっち行こうよアクアちゃん。エリスさんもお姉ちゃんも早く!」
アクア王女の手を取りジャンヌがプールに入っていく様子を見ているジョンと漁民。
「どうしたジョン、お前の一番槍、突撃は西門に変更するのか?」
「おう・・どうしようイチロウ、なんか俺、分からなくなってきた・・」
「いいぞジョン君、しっかり迷って。西門の守りはどうだった?クリスマスプレゼント、用意したのでは無かったのか?」
「そうなんだよイチロウ。昨日のクリスマスプレゼント2つ用意してたのに、結局東門に届けるのが怖くて渡せなくてよ・・西門に届けたら、予想外に喜んでくれて・・なんか、俺・・」
「はは、いいぞジョン君。見たまえ、あの笑顔を」
「ああ、最高だな・・」
「しかしジョン君、このレディースソムリエの私には、真実の眼でどんなものでも見通してしまう」
「真実の眼?それなんだよ先生」
「お姉ちゃんの方は本物だ、君の見込んだ通り素晴らしい成長ぶり。エリスの方はもはや表現し切れん、君も見てのとおり大変に素晴らしい」
「妹の方も立派だろ?」
「ジョン君、君の眼はふし穴かね?」
「え!?先生、違うと言うのですかあれが?」
「そうだぞジョン君、アクア様は幼過ぎるゆえ評価が難しいが、妹のあれはかなり盛っておる。大衆の眼は誤魔化せても、このレディースソムリエの私の眼は誤魔化せんよ」
「あ・・あ・・(青ざめるジョン)」
「無駄な抵抗もいいところだ、ああまでして見栄を張るなど、冗談は口だけに(つんつん)ん?」
「あ・・あ・・(つんつん)ひっ!」
「ふふふ」
振り返ると、水着姿の笑顔の聖女が微笑んでいた。
「ジャンヌ様、ごきげんよう」
「2人とも、ちょっとあっち行こっか」
「かしこまりました(2人)」
(体育館の裏?)
「あんたたち!よくもこの私を愚弄してくれたわね!そこになおりなさい!!」
「は、ははーー!!」
「ジョンとか言ったわね、あんたもこの私を馬鹿にするつもり?」
「いいえ!滅相もございません。わたくし、『月の雫』の一番槍、ジャンヌ様のその笑顔を崇拝致しております」
「ふ~ん・・あんた、昨日クリスマスプレゼントくれたわよね・・昨日のあんたに免じて、今日のところは許してあげる」
「ははーー!ありがたき幸せ、ではわたくしめはこれにて」
「あっ、ジョン!お前、心の友だろ!俺を裏切るつもりか!?」
「すまんイチロウ、俺、まだ死にたくないんだ(ばっ!)」
(聖女と漁民を見守る8つの眼)
「さら・・まえがみえんのじゃ・・」
「見てはなりませんアクア様、不潔な光景です」
「みたいのじゃ、さら・・」
「いいんですかルナ様?ジョンが先に逃げちゃいましたよ?イチロウ君死んじゃいますよ?」
「エリス・・わたくしにも何が起こっているのかさっぱり・・さっきまで仲直りしてたのに・・どうして・・」
(聖女と漁民)
「漁民!あんたはそこになおってなさい!」
「はっ、ははーー!!」
土下座して男の誠意を見せる。
「さあ、懺悔なさい!自分の罪を数えなさい!」
「失礼ながら聖女様、漁民のわたくしめ、聖女様を怒らせるような事はなにも・・」
「レディースソムリエのあんたの眼には、私が偽物だって言ってたじゃないのよ!」
バレてる。
「そのような事は漁民の戯言でございまして・・」
「しらばっくれるんじゃないわよーー!!」
「は、ははーー!!」
(監視する8つの眼)
「さら・・ソムリエとはなんじゃ?」
「聞いてはなりませんアクア様、お耳が汚れてしまいます(しゅしゅ)」
「まえがみえん、みみもきこえんのじゃ、さら・・」
「ルナ様、どうせあの馬鹿2人の事ですから、ジャンヌ様を怒らせるような事言ってたんですよ」
「もう、ジャンヌったら・・どうしていつもいつも、あの方の前ではこんなに口が悪くなるのでしょうか・・」
(聖女と漁民)
まだジャンヌが怒ってるのか・・顔が気になる。
「しかし、ジャンヌ様・・・(上をちらっ)」
「貴様ーー!!今どこを見ようとしたーー!!」
「め、滅相もござりませぬーー!」
「・・パパに言うわよ」
「そ!それだけは!!なにとぞ、それだけはご勘弁をーー!!」
(監視する8つの眼)
「さら・・いまどうなっておるのじゃ?・・いちろうはいきておるのか?」
「まもなく息絶えます」
「・・きこえんのじゃ、さら」
「ちょっとルナ様。イチロウ君、死にかかってるみたいですよ?」
「わたくしも怖くて近寄れないのです。エリス、あなたがお願いします。親衛隊はいつだって頼って良いって、おっしゃっていただけましたよね?」
「私も怖くて出ていけませんから、こんな時だけ私に頼らないで下さいよルナ様!」
漁民の命の炎が消えかかる。




