61.忠告
(ちゅんちゅん)オルレアンに朝が来る。干し草のベッドに包まれ、馬小屋で朝を迎える1人の漁民。
早朝、まだ人の行き来が少ない大通りを、ひときわ輝く馬車が通る。ギルド会館へ到着した馬車は、しばらくするとすぐに動き出し、ギルド会館前にある宿屋の前でふたたび止まる。
中から姿をあらわす2人の女の子、制服姿をしたエルミタージュの生徒2人が受付のお姉さんへ声をかける。
「聖女様!このような場所へいかがなされましたか!?」
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、こちらに~」
馬小屋に近づく聖女2人。
「(ひひ~ん)」
「(ぶるる)」
「ねえルナお姉様・・こんなところにヒューマンなんているのかな?」
「そうですね・・お馬様はおられるようですが・・」
朝日が差し込む馬小屋に、恐る恐る足を踏み入れる2人の聖女。彼女たちは、衝撃の光景を目撃する。
「ああ!」
「いた!!」
「・・・ん?」
大きな声がして目を覚ます。うっすらと目を開ける、朝日がまぶしい。
段々と目が慣れてくると、制服姿の女の子の姿が2人・・。
「あ・・」
「ああ・・」
「・・最低」
「こんなにお金に困ってらっしゃったなんて・・(青ざめるルナ)」
「・・なんですかルナ様、僕を笑いに来たんですか?」
「違います!」
「ねえお姉ちゃん、やっぱり帰ろうよ~」
「ジャンヌ!昨日のお礼、言いに来たんではありませんか!」
「うん・・そうだけど・・」
「えっ、お礼って?」
「・・あのね」
「・・うん」
「・・そのね」
「うん」
「・・昨日のお魚、美味しかったよ・・」
「・・そ、そう・・それは、どうも・・」
「お姉ちゃん~」
「はいはい、よく言えました。いい子ですよジャンヌ」
「・・でも、あんた」
「ん?なに?」
「なんで1個なの?なんで私の分だけなの?」
「ああ、ルナ様のも合わせて2つ作ってたんですけど、王宮行く途中で1つ売ったんですよ」
「なんでよ!」
「クリスマスなのに、銅貨1枚しか無い親子がいて、子供がお腹を空かせてたんです」
「・・それで1つお譲りになられたんですね」
「いえ、銅貨1枚で売りましたよ」
「なんで?あげれば良かったんじゃないの?」
「そのようなご事情があられたのでしたら、わたくしたちの分は結構でしたのに・・」
「それは偽善ですよ」
「なんでよ!」
「『たい焼き』を親子にタダでゆずってたら、あの親子はまた僕の顔を見るたびにお願いするようになりますよ。銅貨を稼ごうとしなくなります、僕みたいなダメヒューマンになりますよ」
「あんただって偽善じゃないのよ」
「ちょっとジャンヌ、言い過ぎです」
「まあ偽善かも知れませんね。僕から言わせれば、お二人の方もちょっとおかしいんじゃないですか?」
「なんでよ!」
「わたくしたちがなにか?」
「昨日、大衆浴場『ウインダム』で地下のボイラー室の作業員に話を聞いたんです。この前日曜日に、サンダース様から強制的にクエストがあって、大聖堂のお手伝いをさせられたって」
「あ・・」
「それはお姉ちゃん悪くないもん。大聖堂に礼拝は人が大勢くるんだもん」
「礼拝も大事でしょうが、おかげで冒険者でもあるボイラー室の作業員が半分になっちゃって、残った他の作業員は1日帰れなかったそうですよ。いつもいつも急に呼び出しくるそうですし、サイダースさんの呼び出しで、突然残業させられる作業員と家族の身にもなって下さいよ」
「お姉ちゃんは悪くないの!」
「ジャンヌ・・」
「帰れなかった作業員、その日奥さんとの結婚記念日だったそうですよ・・別に責めるつもりはないですけど、ただ・・礼拝だって、あらかじめ予定されてるなら、もっと早く言えって言いたいんですよ」
「パパを悪く言わないでよ!」
「ジャンヌ、わたくし、そのような事になっていたなんて、いままで・・知らなくて・・」
「お姉ちゃん、こいつ嘘ついてるの!本気にしないでよ!」
「ジャンヌ、イチロウ様はそのようなお方ではありません」
「も~こいつの肩を持って、お姉ちゃんも『ベネチア』行ってからちょっとおかしい!こいつと何かあったでしょ!」
「ジャンヌ、そのような事を言わないで」
「お前もちょっとは、そのワガママ直した方がいいぞ」
「なによあんた!私に文句あるって言うの?」
「ああ、おおありだよ。散々サンダースさんにおねだりして、この近くの洋服店の服、全部買占めたんだってな」
「あ・・」
「そうなのジャンヌ?」
「だって・・パパが買ってくれるって言ったから・・」
「お前が買い占めたせいで、店の品は無くなるし、隣の店は値段を上げたって昨日作業員から聞いたんだよ。孤児院に慰問がなんだとか、ナイトがなんだって聞いてきたけど、やってる事お子様で全然でたらめじゃないか。そりゃ、あなたたちみたいな聖女が2人もいたら、クリスマスに銅貨1枚でさまよう親子にも出くわすはずですよ」
「あんた・・黙って聞いてりゃ偉そうに!あんた私たちに説教してるつもり?」
「ちょっとジャンヌ、声が大きい・・」
(ざわざわ)「何だ何だ?」
「・・・ルナ様」
「・・はい」
「こんな馬小屋で聖女様が男と会ってたら、悪いうわさが広まります。馬の慰問にでも来たと言って、早くエルミタージュへ向かって下さい」
「ちょっとお姉ちゃん、まだ私、こいつに・・」
「駄目よジャンヌ!あなたも外の声が聞こえるでしょ?申し訳ありませんでした、突然押しかけたりして」
「謝らないでよお姉ちゃん!」
「すいません、生意気言って・・昨日話を聞いて、少し・・腹がたったんです・・」
(ざわざわ)「聖女様の馬車が止まってるぞ!」
「行きますよジャンヌ!もう、ここにいてはいけません」
「うん、分かった・・こいつ・・」
「行きますよ!」
「はい」
2人が馬小屋の外へ出ていく、聖女2人がいた事で、朝から外では大きな歓声が沸いていた。
街の人たちから慕われる聖女様、オルレアンを闇から救った英雄の姿には、自分の目にはどうしても映らなかった。人生経験の無さがあるからなのか、こっちは40歳手前、あっちはただの15歳の子供。
街から慕われるほどのふるまいが出来ていない事に腹を立てて、散々言いたい事を言ってしまった。
これは完全に嫌われてしまったばかりか、後でどんな仕打ちを受けるか分からない・・女性から嫌われる天才だな自分は。
体が馬の匂いで臭く感じる。宿の人には我慢してもらって、食事が終わったら『ウインダム』に寄ってからエルミタージュへ向かう事にしよう。
馬小屋を出て通りの方を確認すると、そこに聖女様が乗っていた馬車の姿は見えなかった。




