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60.馬小屋

 王宮で届け物を渡し、ギルド会館まで戻ってくる。大通りは夜も出店を目当てに相変わらずクリスマスの客でごった返している。先ほどまでガイア師匠と『ウインダム』ボイラー室の作業員をしていた冒険者たちに、『コーヒー牛乳』『レモン牛乳』『イチゴ牛乳』の3つの(びん)を千本ずつ、合計3千本を大量生産して受付窓口横のブースにキンキンに冷やして販売したところ大盛況。


 風呂上がりの客や物珍しさで買いにきたクリスマスの家族連れの大量購入もあり、夜までには3千本すべて完売した。ただ、『ベネチア』と違い大衆浴場なので一本銅貨1枚に単価設定したため、儲けは銅貨3千枚・・金貨30枚か・・借金完済にはまだ遠い。


「なんだこれ?」


 ギルド会館の受付窓口にいくと、『クエスト終了の方』と看板のある機械が置かれていた。ギルドカードを機械が指定する場所に置くと起動、クエストの銅貨を入れるようフタが空く。


(ガチャガチャガチャガチャ)


「・・まるでATMだな」


 ガイア師匠に作ってもらったビンは3千本、3千枚の銅貨を機械が苦しそうに数えている。1階フロアは無人、ギルド会館に銅貨を数える音だけが響く。


(ちん!)


「終わった・・あっ」


 機械のタブレットビジョンにちょうど3000枚の銅貨がカウントされ表示される。手数料は「0」と表示され、さらに「クリスマスボーナス金貨5枚」と表示される。

 サリーさんからまったく説明が無かったが、どうやらクリスマスにクエストをこなす冒険者のためのプレミアムが今日だけついているようだ。借金は元々720枚、もうけのすべて、金貨30枚+プレミアム金貨5枚が借金の返済に充てられる。

 ビジョンの画面には差し引き金貨マイナス685枚と表示される。685枚・・牢屋へGO!と覚えよう。


 手持ちにいくらか金貨もある。15年ぶりに、いつもの宿屋へ向かう。宿屋に着くと、さすがに15年前とは違うお姉さんが受付にいたが、宿屋の造りは変わらず15年前のままだった。受付のお姉さんに声をかける。


「すいません、今晩空いてます?」

「申し訳ございません。ただいま満室となっておりまして・・」

「えっ、そうなんですね・・クリスマスですし、当然ですよね・・」

「近隣の宿はほとんど満室になっておりますので、他を探されてもおそらく見つからないかと・・」

「はー・・今夜は野宿か・・」


 ここに来てまさかの野宿。今朝は『ベネチア』で激しい戦闘があったばかり。朝からエルミタージュ、夜まで王宮に『ウインダム』、もう働きづめで体がヘトヘトになってるよ。


「あの~野宿されるくらいでしたら、宿の裏手に馬小屋があります。馬車用の馬の隣でもよろしければ干し草をいくらかひいてお休みいただく事もできますが・・」


「本当ですか!干し草、大好きなんです僕!」

「はい?」


 石化が15年ぶりに解けた後、さっそく入った牢屋での囚人生活で知った志向のベッド。丘の上の河童(かっぱ)、この私こと漁民には、干し草のベッドは私にこそふさわしい寝床。


「お食事付きで銀貨1枚でもよろしければ・・」

「ぜひお願いします」


 迷わず契約、受付のお姉さんからお食事券をもらう。先に食事をいただくため、受付の奥の食堂へと向かう。


「いらっしゃいませ~」


 ここも15年前と雰囲気は変わらない。テーブルの上には、いつもの『謎ソース』も置かれ、食堂は宿泊客でほとんどのテーブルが埋まっており大盛況だった。


「お待たせいたしました~」


 席についてしばらく待つと料理が運ばれてくる。今日の晩御飯はスパゲティのナポリタン、サラダとスープも付いている。朝食もついて1泊銀貨1枚、やはり宿はここに限る。


「お味はいかがですか?」

「最高です、本当美味しいですよ」

「ありがとうございます~」


 味も最高、久しぶりの『謎ソース』は今日はナポリタンなので使う機会が無さそうだ。サラダに少しかけてみる・・おっ、味変(あじへん)してなかなかいけるな。ナポリタンのボリューム満点、お腹一杯ご馳走(ごちそう)様でした。もう疲れたので食事を済まし、急ぎ馬小屋へ向かう。


「(ひひ~ん)」

「(ぶるる)」


「失礼します」


 あった、馬車用に訓練されているのか、馬たちはいい子におとなしくたたずんでおられる。臭いはご愛敬(ごあいきょう)、明日エルミタージュに行く前に『ウインダム』に寄るのは必至(ひっし)情勢(じょうせい)

 5頭入るブースに左端から4頭が並ぶ、一番右の干し草が積まれているブースが今日の私の寝床。ハンパに盛られていた干し草を綺麗に平らにならし、干し草ベッドへダイブする。・・な、なんて気持ちいいんだ・・このまま、眠りに・・つけそう・・だ・・。


 真夜中のオルレアン、宿屋の外から、クリスマスの終わりを惜しむかのように(にぎ)やかな人の声が絶えない。干し草に包まれた漁民には、もはやその声は耳には届かなかった。

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