59.クリスマスパーティー
オルレアンに夜のとばりが降りる。冬の訪れの無いオルレアン、街中がクリスマスのイルミネーション一色に染まる。3つの棟からなるギルド会館のタワーが光る。
街の中心部、どこからでも見えるお城は色とりどりの結晶石にライトアップされ、大衆浴場『ウインダム』はエメラルドグリーンにライトアップされていた。
夜の王宮 クリスマスパーティーが開かれる会場では、ドレスアップしたエリスとタキシードを着たジョンの姿があった。
「ちょっとジョン、さっきジャンヌ様に何プレゼントしてたの?すごく嬉しそうだったじゃない」
「そうなんだよエリス。あんなに喜んでもらえるとは思ってなくてよ。イチロウの言った通り、西門の守りはかなり薄かったぜ」
「イチロウ君となんだって?」
「ああ、いや、なんでも無いって・・はは」
「イチロウ君を今日誘ったんじゃないの?」
「ああ、3時間目の授業終わって言おうと思ってたら、あいつどっか行っちまってよ。てっきりエリスが誘ってくれてたと思って」
「私も誘おうと思ってたんだけど、なんだが今日1日タイミング逃しちゃって。ずっとルナ様やジャンヌ様と一緒にいたし・・あっ、あれガイア先生のご夫婦じゃない?」
「あ、本当だ。ガイア先生、こんばんわ」
「おお、小僧の友達じゃったかのう」
「え?僕たち、スズキと同じ親衛隊のメンバーです。ガイア先生ご存じでしたか?」
「かっかっか、サンダースから『月の雫』の報告は受け取るわい。『ベネチア』ではルナ様をお守りしたそうじゃのう~関心関心、かっかっか」
「あんた!さっさと行くわよ」
「分かっとる分かっとる」
「・・ガイア先生、最後によろしいですか?スズキ君、どこにいるか知りませんか?」
「ああ、小僧なら『ウインダム』でクエストして・・」
「あんた!」
「分かっとるわい・・すまんな小僧ら、わしは・・」
「ああ、すいませんガイア先生・・って、行っちゃったよ」
「あの戦士の奥様、凄い恐妻家ね」
「ルナ様が大きくなったらあんなになるなんて、俺にはとても信じられないぜ」
「あんたは大きくなったらガイア先生みたいになりそうね」
「なんだよエリス!それどういう意味だ?」
「まあ、それはいいとして、イチロウ君・・こんな時間までクエストなんて、一体なにしてんのかしら・・」
王宮内ではクリスマスのパーティーが引き続き盛大に催され続ける。会場内で、2人のひときわ綺麗なドレスを身にまとう姉妹が登場すると、会場内に歓声が沸く。
王宮が華やかなパーティーが開かれる一方、大衆浴場『ウインダム』から王宮へ向かう1人の男の姿があった。両手には大きな布袋を1つずつ抱えていた。
「はあ・・疲れた・・大分遅くなったな。今日の用が済んだら、宿に泊まって早く寝よ・・ん?」
王宮へ向かう大通りに、1組の親子の姿が目に入る。服装は布の服、足元を見てもとても身分が高いとは言えない父親と小さな息子の2人組のようだ。
「お父さん・・銅貨1枚で、なにか買えるかな・・」
「すまんな、今日はそれしか無くてな。何か買えるものを探そう、お前だけで良いから、何か食べられるものを・・」
「あのすいません。僕、漁民なんですけど、食べ物をお探しですか?」
クリスマスの夜、華やかな大通りの通りを歩く2人の姿に目が止まり、思わず声をかけてしまった。
「おお、漁民様。なにかお売りいただけますせんか?わたくしども・・銅貨1枚しかありませんが・・」
「ええ、もちろんです。ええっと・・まあ、いっか。はい、これ『たい焼き』っていう甘いあんこの入った魚です。事情があって1つしか売れませんが、銅貨1枚でいかがです?」
「おお、ゆずっていただけますか!」
「はい、もちろんです」
「お前、銅貨を」
「はい、お兄ちゃん!」
「はい、まいどありがとうございます。まだ温かいんで、2つに割って冷まして食べて下さい。あ、僕、帰ったらちゃんと歯を磨くんだぞ、虫歯という闇がお口をたべちゃうぞ~」
「え~こわいよ~」
「はは、ありがとうございます漁民様。では良いクリスマスを」
「ええ、そちらこそ。良いクリスマスを・・」
今日の昼間、エルミタージュからギルド会館に向かう途中のショートカットした脇道でも、何人か同じような親子にすれ違った。
このオルレアン、みんながみんな、王宮のパーティーのような貴族の上流階級に属しているわけもなく、中間層と下流の貧困層に別れているようだ・・日本と同じだな。
オルレアンの現実をクリスマスの夜に悟る。さっきの親子にもタダで『たい焼き』ゆずっても良かったが、それはあの親子のためにならない。
一度頼ると、もうそれ無しでは生活できなくなり、何度も何度も頼るようになる。そしていずれそれ無しでは生きられなくなる。人は自分で生きていく力が必要だと、5度の転職で学んだ事だ・・・失ったものがほとんどだけどね。
疲れた体、しんどいが、今日の中である約束をしていた。
それを果たすために、ギルド会館では無く、一度王宮を目指す事に決めていた。ボイラー室の作業員の人に手伝ってもらい、クエストで作った『コーヒー牛乳』『レモン牛乳』『イチゴ牛乳』はすべて完売した後、先ほどまで2つだけ、『たい焼き』が布袋に入っていたが、今1つを銅貨1枚で売ってしまった。
王宮に到着する。華やかな声が、お城の奥の方から聞こえてくる。門番さんにギルドカードを見せる。
「ははーー!!銀等級様に敬礼!(びしっ!)」
「どうも(びしっ!)」
クセで一緒に敬礼してしまう、銀等級の威厳など無い。
「あの・・ちょっとお願いがありまして・・」
門番に、チップの銀貨1枚と、大きな布袋から、1つの小さな布袋を渡してお願いをする。
(王宮内、パーティー会場)談笑をするルナ、ジャンヌ、エリス。
「エリスさんのドレス、すっごく素敵!似合ってる!」
「まあ、ありがとうジャンヌ様・・ルナ様、いかがされました?さっきからキョロキョロして」
「あの・・」
「ルナお姉様、またあの漁民探してるんでしょ~」
「ジャンヌはお黙りなさい!」
「こわいよ~」
「ルナ様、イチロウ君・・どうもクエスト行ってるらしくて」
「えっ・・そうなのですね・・」
「あいつ借金返すのに忙しいから、どうせ来ないよお姉ちゃん」
「ジャンヌったら・・あら?なにか?」
「失礼します!(びしっ!)門番で警護をしていたところ、漁民を名乗る銀等級様より、お届けの品をお預かりしております!」
「漁民!」
「銀等級・・イチロウ君ですよルナ様!」
「それを」
「はは!(びしっ!)」
「なんか臭うよそれ?触らない方が良いよお姉ちゃん」
「ジャンヌはお黙りなさい!・・まあ!これ・・」
「ジャンヌ様にって書いてますね・・『たい焼き』じゃないですか!」
「え?なになに、『たい焼き』って、お姉ちゃんが『ベネチア』で食べたって言ってた甘いお魚?」
「そうですジャンヌ。まだ温かい・・もうその漁民様は帰ってしまったのですか?」
「はは!(びしっ)ギルドへ借金の返済があるとの話で、急ぎ帰られました」
「そうですか・・ありがとうございました。もうお戻りいただいて大丈夫です」
「はは!聖女様に敬礼!(びしっ!)」
「ジャンヌ。冷めないうちにいただきなさい」
「えっ・・でも・・」
「あなたが持ってくるようにお願いしたんではありませんか?」
「うん・・本当に持ってくるなんて・・思って無かったし・・そ、それに!1つしか無いよ!気がきかない!」
「ではわたくしがいただきます」
「駄目!ジャンヌも食べたいよ!」
「はいはい、それじゃあ・・」
「あっ、お姉ちゃん!」
「はい、まず半分こです。ジャンヌ、あたまとしっぽの方と、どちらが良いかしら・・あたまの方があんこがたくさんついてます、あなたはこちらをお食べなさい」
「うん・・」
「エリス、わたくしたちも・・はい」
「さらに半分こですね、じゃあルナ様、今日の出来栄え、試してみましょう」
「はい、神に感謝致します。いただきます」
「ちょっと。ジャンヌも食べる!(もぐ)」
「・・どうですジャンヌ?」
「(モグモグ・・ごくり)美味しい!ジャンヌこれ好き!」
「まあまあ、それではわたくしたちも(もぐ)」
「(もぐ)相変わらずいい出来ですねルナ。『ベネチア』でも売れに売れましたから、イチロウ君、漁民より商人や料理人の方が似合ってるかも知れませんね」
「お姉ちゃん・・」
「なあにジャンヌ?」
「今日食べた中で・・一番美味しかったかも・・」
「あら」
「まあ」




