56.不完全
3時間目の授業が終了し、ガイア先生の煙突のある小屋に戻ってお昼のスープを食べる3人とドワーフとエルフ。『ベネチア』での出来事、『クリスタルの使徒』の話、『3大天使』についての話を交える。
「じゃあルナお姉様が付けてるの、『水のクリスタルのかけら』のペンダントなんだね・・」
「そうだったのですね・・」
「・・・ずるい」
「えっ?どうしたのジャンヌ?」
「ずるい、ずるい!ルナお姉さまと同じの、ジャンヌも付けたいの!」
「まあ・・この子ったら・・」
「わたし、今日クリスマスだし、てっきりそいつがルナお姉さまにプレゼントしたんだと思って・・」
「ジャンヌ、何を言うのですか!」
「そうですよ、借金で首が回らない僕が、ペンダントなんて買う余裕無いですからね」
「・・・最低」
「はは・・それはそうと、やはりルナ様が『水属性』なので、『水のクリスタル』の使徒に選ばれた可能性が高いわけですよね?」
「そうじゃの~、わしは『土属性』じゃけい、30年前も『土のクリスタル』の使徒に選ばれとるからの~」
「30年前は『火属性』の兄さんも『火のクリスタル』の使徒に選ばれてるし・・ジャンヌ様は『光属性』と『風属性』をお持ちだから、『風のクリスタル』様から、ペンダントもらえるかも・・」
「ほ~考えてみれば聖女様じゃからの~」
「ほんと?」
「ルナ様が『水のクリスタル』の使徒に選ばれてますし、試してみる価値はありそうですね。ルナ様、ジャンヌ様、食事が終わったら『風の神殿』に行ってみましょう」
「はい!(2人)」
「スズキ君もでしょ?」
「(もぐもぐ)へ?」
「ミューラ先生、こいついらない」
「そうですよミューラ、僕、借金の返済のためにクエストに・・」
「駄目、スズキ君も来なさい。あなたも啓示が聞こえてるんでしょ?ルナ様が選ばれた時も一緒にいたんだから、あなたも何かの役に立つかもしれないわ」
「(もぐもぐ)僕が人の役に立つとは思えませんが」
「スズキ様・・」
「(もぐ)ん?なに?」
「よろしければ、ご一緒していただきたいのです・・」
「お姉ちゃん!なんでこんなの連れてくのよ?」
「スズキ様には、『ベネチア』で大変お世話になったのです。とても役に立つ方なのです」
「たまにですけどね、たまに」
「も~やっぱりそのペンダント、そいつから貰ったんでしょ!」
「違いますからジャンヌ」
「はいはい2人ともそこまでにして下さい。スズキ君は借金の返済がありますので、お急ぎ『風の神殿』へ」
散々馬鹿にされたような気がするが、行かないわけにもいかなくなったので『風の神殿』までついて行く事に。
防御要塞を抜けて、ふたたび『風の神殿』に到着。神殿の中はひんやりしており、太陽が照る外とは一線を画した特別な空間。神殿内部を進み、エメラルドグリーンの波紋が広がる部屋にたどりつく。『風のクリスタル』は、台座の上をクルクル回りながら、いつも通り温かい波紋を絶やさず光輝いていた。
「・・・何も起きないね」
「そうですね・・『水の神殿』で聞いたような啓示も聞こえません・・」
「スズキ君はどう?何か聞こえる?」
「いえ、特に何も」
「本当に?耳でも詰まってるんじゃないの?」
「野獣がさっき怒鳴ってたから、今も耳がキンキンして聞こえずらくなってますよ」
「なによあんた!私のせいだって言いたいわけ!」
「ちょっとジャンヌ、落ち着きなさい・・もう、どうしてこんなに口が悪くなって・・」
「ううーー」
「そうじゃった小僧、たしかお前さん、ルナ様に『上位昇進』かけた言うとったのう」
「ええ、そうです師匠。ルナ様なら『光属性』で闇の連中を何とかしてくれると思ったんで」
「偉いわよスズキ君、アイリス様との経験が役に立ったのね」
「はい・・そういえばその時ルナ様、『アルテミス』っていう神になって、それから『水のクリスタルのかけら』のペンダントが付いてたんです」
「じゃあ、私。こいつに『上位昇進』かけてもらえば良いの?」
「試したいのは山々だけど・・今日はスズキ君、もう無理ね」
「なんで?」
「ああ、僕、1日1回、3分しかもたないんで、あきらめて下さい」
「たったの1回!しかも3分、早すぎるよ!!すぐ終わっちゃうよ!」
「僕にそんな事言われても知りませんよ。説明書にそう書いてあるんですから」
「たったの1回とか嘘!ちゃんと見てよ!調べてよ!」
「ちょっと掴まないで下さいよ。死んじゃいますから、僕」
「分かったから・・お願いだからちゃんと見てよ」
「あーはいはい、見るだけ見ますけど・・」
ギルドカードを取り出して、星のマークをタッチする。
「あっ、ダメですね。今朝お姉さんに使いましたから、今日一日お休みです」
「何よそれ!1日1回とか少なすぎるよ!もっと使えるようになってよ!」
「僕に言っても無理ですよ」
「ジャンヌ・・」
「ジャンヌ様、スズキ君も1日休めば使えるようになりますから。今日は休ませてあげて下さい」
「・・・はい」
「まあ、小僧の『上位昇進』を『風のクリスタル』の前で聖女様に使うだけじゃけえ、明日になったら試してみりゃええがい」
「ガイア様が『土のクリスタル』の使徒に選ばれた時はどうだったんですか?」
「ああ、あんときゃまだ『土のクリスタル』は、ただのかけらじゃったからのう~」
「かけら?」
「こんなに大きいのじゃないの?」
「かっかっか、そりゃ『風のクリスタル』も、元はかけらの集まりじゃけえの~。これをサンダースとセバスと集めるの、そりゃあ苦労したもんじゃけ~」
「30年前はクリスタル無かったって聞いてましたけど、元々かけらだったものを集めてたんですね・・」
「ガイア様、その話は・・」
「おお!そういや内緒じゃったの~、こりゃあいかんいかん、かっかっか」
「わたくしも知らないお話でしたが・・」
「ジャンヌも先生から聞いてないよ」
「・・このお話はいくら聖女様と言えど・・西洋教会・・そしてオルレアン王国の成り立ちそのものですので、いずれお分かりになる日が来ると思います」
「そのお話、今聞けないのですか?」
「・・お2人が、もう少し成長されてから受け入れていただければと思います。私と兄さん、それにガイア様も・・ずっと背負って生きておりますので・・」
『風のクリスタル』の使徒が判明する事は無かった。
30年前の過去におけるクリスタル誕生の秘密が西洋教会にある事を示唆するミューラ。かけらを集め、このオルレアンの地に『風のクリスタル』が出来た歴史は、どうやらおおやけに出来ないような秘密が隠されているのかも知れない。
『風のクリスタル』の部屋を後にし、『風の神殿』を出た3人とドワーフとエルフ。白い石畳を歩き、煙突の小屋を超え、講堂まで歩いて戻ってきた。
「あの、スズキ様」
「えっ、何ですルナ様?」
「馬車がありますので、ギルド会館までご一緒致しませんか?」
「ええ!ルナお姉様、こんなのと一緒に乗るの嫌だよ」
「ジャンヌはお黙りなさい。こちらの漁民様は『ベネチア』での命の恩人なのです。あなたが思っているようなお方ではありません」
「え~お姉ちゃん、ずっとこいつの話ばっかりして、今日パーティーなのにジャンヌの事ほったらかしにして」
「そんな事はございません」
「ああ、良いんですルナ様。お気持ちだけで結構ですから、はは」
「スズキ様・・」
「お呼びがあれば、ちゃんと親衛隊しますから。エリスもジョンもいます、『月の雫』がちゃんとかけつけますから」
「お姉ちゃん。なにその『月の雫』って?」
「ごめんなさいジャンヌ。今朝の今日でまだ何もお話ができてなくて・・」
「聞きたい聞きたい!もっと『ベネチア』のお話聞かせて欲しい!」
「はいはい、ごめんなさいスズキ様」
「大丈夫ですから。では、僕は一足先にギルド会館行きますんで。じゃあミューラ、また明日」
「スズキ君、私、試験のテスト作らないといけないから今日はごめんね。一緒にはいけないから、危険なクエストは絶対ダメだからね」
「はい、もちろんです」
「小僧、わしはサンダースに話があるけい、一緒に行くとするかの~」
「あっ、師匠もギルド会館ですか?ぜひご一緒に・・」
ガイア師匠と話を続ける。少し離れたところに待っていた馬車に乗り込む制服姿のルナとジャンヌ。
ジャンヌが先に馬車に乗ると、遅れてルナがこちらに一礼して馬車に乗り込む。ルナの胸元には、『水のクリスタルのかけら』のペンダントが光っていた。




