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55.野獣

「ううー」


「な?」

「なんでしょう、野獣(やじゅう)のような声が・・」


 ガイア師匠のいる小屋で3時間目の授業時間にお昼寝(ひるね)に来ていた漁民。

 ふと目を覚ますと、そこにはルナの姿があった。アイリスの署名状(しょめいじょう)をめぐる言い争いが終わりかけた頃、小屋の中の奥の方から、野獣(やじゅう)迫る(せまる)音が聞こえる。


「ルナ、ここにいたら危険だ。外にガイア先生がいるはず、合流しよう」

「かしこまりました」


(聖女ルナと漁民を監視していたドワーフとエルフ)


「あっガイア様!2人が飛び出してきます!」


(バン!)


「あ、ガイア師匠、ミューラ!」


「ううー」


「なんじゃ?」

「なに、あの声・・」


 部屋の薄暗い奥の方で、うごめく影が近づいてくる。


「みんな!やっぱり部屋に何かいるよ、早く逃げよう!」


「ううー」


「まずいわね、ルナ様をお守りしないと・・みんな、こっち!」


 ミューラが先導(せんどう)し『風の神殿』がある方向の森へ逃げる4人、あそこには近くに防御要塞もあるはず。兵士もたくさんいる、きっと安全に違いない。森の中に逃げ込むと、野獣の声に変化が・・。


「ううー・・イ・チ・ロ・ウーー」

「え?」

「なに?スズキ君を追ってるの?」

「なんで僕を!?」


「ううー・・ス・ズ・キー」

「ほら、やっぱり!」

「小僧、お前なにをやりおった?」


「はっ、まさか・・ち、違うんですサンダース様!」

「サンダース?たしかに声は似とるの~」

「娘さんには一切手を出していません!可愛い(かわいい)なとか、全然思ってませんから!本当です!」

「全然思っていないのですか!?」

「あ、いや、その・・」


「ううーー」


「違うみたいよスズキ君。みんなこっち!」


 4人でふたたび森の中を駆け出す、しばらくミューラを先導に走っていると、白い石畳の通りに出る。見えてきた、『風の神殿』近くにある防御要塞だ。


「はぁはぁ・・ここまで来れば・・」

「そうね・・あっ!」

「黒い影が近づいてくるのです・・」


 聖女ルナが指を指して今来た森の方を指差す。森の奥から、小さな黒い影が姿を現してくる。


「・・ジャンヌ様?」

「どうしましたジャンヌ?」

「ルナお姉様・・3時間目も一緒に授業受けようって言ったのに・・突然いなくなっちゃって・・今まで・・どこにいたの?」

「あ、その・・ちょっと・・」

「ねえ、ルナお姉様・・」

「なあにジャンヌ?」


「ちょっとそいつ、()してもらって良い?」


「え?ああ、スズキ様?もちろんなのです・・」


「ちょっとルナ様。なに勝手に差し出して・・」

「ちょっとあんた・・ツラ()しな」

「かしこまりました」


 制服姿の野獣(やじゅう)と漁民。森の奥へ連行され消えていく。


「ちょっと、良いんですかルナ様?スズキ君体力1しかないんですよ、弱いんですよ?石につまづいただけで死んじゃいますよ?」

「ああ・・そうでした・・(青ざめるルナ)」

「まるでわしの嫁さんみたいじゃったの~つらいの~小僧~」

「なに自分のご家庭みたいな事おっしゃられてるんですかガイア様、もうあっち大分行っちゃいましたから、早く追いかけますよ。『感知』スキルで、スズキ君の生命(いのち)が消えかかってますから、早くしないと・・」


「ジャンヌを止めないと・・」

「行きますよルナ様」

「はい」

「こわいの~」


 連行された漁民と野獣。


「あんたねーー!ちょっとそこになおりなさい!!」

「ははーー」


 とっさに反応。すぐに土下座して、男の誠意(せいい)を見せる。


「あんた!私に無断でルナ姉と2人っきりになってたでしょ!!」

「わたくしはそのような事は・・」

「しらばっくれるなーー!この私の()が、ふし(あな)と言うのかーー!!」

「も、申し訳ございませぬーー」


 全部バレてる。制服姿のジャンヌ・・土下座しつつ、怒って無いか表情を確認したい・・ので・・ちらっ。


「貴様ーー!!今何を見ようとしたーー!!」

「ははーー!!め、めっそうもござりませぬーー!!」


「・・パパに言うわよ」


「お代官様!!それだけは!!それだけは何とぞご勘弁(かんべん)をーー!!」


(草の茂みから監視する6つの眼)


「こわいの~」

「ちょっとガイア様、なに楽しんでるんですか?スズキ君の生命(いのち)が消えかかってますから、助けにいってあげて下さい」

「だってわしも怖いんじゃもん」

「なに奥様と同じように恐れてるんですか・・もう、だらしないんだから。ルナ様・・申し訳ございませんが、ジャンヌ様を鎮めて(しずめて)いただけませんか?」


「うう・・で、でも」

「どうされました?」

「あんなジャンヌ初めて見たのです!わたくしと一緒にいる時は、一度だってあんなに乱暴じゃなかったのです!・・目に入れても痛くない子だったのに・・スズキ様が来てから、ずっとずっと様子がおかしいのです!」

「こわいの~」


(生命が消えかかる漁民と野獣)


「あんた!!さっきは言いたい放題言ってくれたわね!!」

「何の事でしょう・・」

「しらばっくれるなーー!!」

「ははーー!しかしお代官(だいかん)様、わたくしめはお代官様を怒らせるような事は何も」


西門(にしもん)などただの小娘(こむすめ)とか、さっき言ってたでしょ!!」

「え?なんですそれ?」

「あんたの脳みそは魚程度しか無いのかーー!!」

「ははーー!!」


(草むらで監視中)


「こわいの~」

「ああ・・わたくしの・・わたくしのかわいいジャンヌが・・(青ざめる)」

「ちょっと2人とも、早く止めないと、スズキ君死んじゃいますから」

「お前さんが行ってこいや」

「私も怖くていけないんです~」


(瀕死の漁民と野獣)


「はぁはぁ・・あんた、ルナ姉とかなり仲が良いようね」

「そのような事はめっそうも・・」

「・・今日ルナ姉が、あんたに魚焼いてもらったって・・嬉しそうに言ってて・・」

「えっ?ああ、魚・・そうそう、僕、農民から漁民になって、魚焼けるようになったんですよ」

「ふ~ん、ルナ姉にはあげて、私にはくれないんだ」

「そのような・・近々(ちかじか)献上(けんじょう)させていただきますゆえ」


「・・近々(ちかじか)って、いつ?」

「明日くらいには・・」

「今日この後授業終わったら、パパのとこに行くんだけど」

「ははーー!!今晩(こんばん)までには必ずや!!」

「何でこのあとすぐじゃないのよ?」

「わたくしめはこの後、クエストに行かねばならぬ身でして・・」

「なんで?私とクエストとどっちが大事なわけ?」

「その・・事情が少々複雑(ふくざつ)でして・・その・・」

「なによ、事情って?」

「わたくしめは大きな借金が2つありまするゆえ、借金の返済のため・・この後クエストへ・・」


(監視する6つの眼)


「しゃ・・借金・・・(青ざめるルナ)」


「おお、そういえば小僧、借金2つある言うとったの~」

「ガイア様もご存じなんですか?」

「面接の時、そんな事言うとったかのう~もう15年前のことじゃけ~忘れてしもうたわ~」

「借金があったなんて初耳なのです!」

「ルナ様ご存じ無かったんですか?」

「なんでミューラ先生は知っているのですか!?」

「それは・・月に金貨10枚とか、15年前会ったその日から借金に追われてましたし・・」

「つ・・月金貨10枚・・(青ざめるルナ)」


「ルナ様、スズキ君はともかく、許嫁(いいなずけ)になる男性はちゃんと身辺(しんぺん)まわり調べておいた方が良いですよ?」

「それはどういう意味なのですか・・」


許嫁(いいなずけ)になって、先に婚約発表なんかしちゃって、後から借金がありましたなんて知れたら、それこそ国中の噂話(うわさばなし)に(ビー!ビー!ビー!)え!?なんでギルドカードから警報が!」


(ビー!ビー!ビー)


「誰!」


(ばさっ!)茂みの中から飛び出す聖女ルナ。


「お姉ちゃん・・」

「ジャンヌ・・ごめんなさいジャンヌ。私だけ先にお魚をいただいてしまって、すねてたのよね」

「お姉ちゃん~」


 ルナお姉様にかけより、お姉さまから「よしよし」されるジャンヌ。


「さあみんな。丸く収まった事だし、早く小屋に戻ってスープ作りますね」

「そうじゃの~わしも腹減ってきたわい」

「ガイア様はほとんど何もしていないでは無いですか、ちゃんと手伝って下さいね」

「お~もちろんじゃて~。いくぞい小僧」

「ガイア師匠!」

「お~つらかったの~小僧~、よしよし」


 お互いに傷つき、(なぐさ)められる漁民と野獣。3時間目のガイア先生の授業が終了した。







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